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その村人は英雄を待つ  作者: ユートヤマ
ブルファーナ王国王都
25/26

25話

 家に帰り1階の酒場へと顔を出す。時刻は3時を過ぎたあたりで、客は数えるほどしか居ない。レオポルトは、向かって右端のカウンター席へ向かう。

 カウンターの内側には母のエミーが立っており、レオポルトが席に座ると近づいて来た。


「お帰り、レオ」


「ただいま」


「王城に行ってきたんだって?」


 エミーは訊ねるように言ったが、すでにジーファスから話は聞いているため確証を得ている。

 レオポッルトが頷いて返すと、「それで、どんな用事だったの?」とエミーが返してくる。

 城でエーゲルから言われた内容は、他言無用だ。本当のことを話すわけにはいかないのだが、レオポルトは誤魔化すことが苦手だった。曖昧な返事をした彼は、言い淀みながら言葉を探す。


「ちょっとした頼み事……みたいな? そんな感じ……」


「頼み事? 城の人間が、レオに何かお願いをしてきたの?」


 レオポルトは、ゆっくりと頷く。

 エミーは、堰を切ったかのように笑い出した。


「あははっ! ただの宿屋の人間に、王城の者が何を頼もうって言うの……っ? ふふっ」


 笑いが止まらない様子であるエミーに、レオポルトは「そんなに面白い?」と問い返した。すると母は、ふぅー、と息を吐いて呼吸を整える。


「おかしいよ。だって、別に王室御用達の宿屋でもないのに、いったい何を頼むって言うの」


 レオ本人にも、とエミーはレオポルトのことを指差す。


「あんたも、王城に行った経験があるとは言え、普通は庶民が城に呼ばれることなんてないもん」


「まあ……そうだけど」


 レオポルトは、ナディーネと友人になったことは言っていなかった。そもそも、夜な夜な家を抜け出して王城に忍び込んだことを喋っていない。

 魔物に襲われた際に城で世話になっていたことは両親にも伝えられていたが、それ以上のことはない。たまたま騎士に助けられたレオポルトは、城に連れられ手当を受けた、と言うだけの話だ。

 ジーファスもエミーも、召喚状が届いたことには驚いて不思議にも思っている。ただし、ナディーネの(同時に国王陛下の)頼み事を抱え込んでいると想像はしていない。


「それで、城で何をしてきたの?」


 レオポルトの気持ちも知れず、エミーが気軽に訊ねてきた。レオポルトは、口を噤む。そんな彼の様子を見たエミーは、首を傾げた。


「レオ? 何かあったなら、何でも言ってね。嫌なことでもされた」


「それは絶対にない!」


 レオポルトは、咄嗟に声を荒げた。

 数人の客しか居ない宿屋に、レオポルトの声が響き渡る。酔い潰れて寝ている客以外の視線が、彼に突き刺さった。それも一瞬のことで、客達はすぐさま興味を無くしたように、自身のテーブルに置かれてある飲食物に視線を戻す。

 エミーは、目を見開いていた。突然の怒声に委縮したわけではなく、息子が急に大声を出したことに驚いた。


「どうしたの?」


 エミーは、様子を探るように訊く。居心地が悪くなったレオポルトは、彼女から視線を逸らした。

 ――と、そのとき、


「あぁぁぁぁぁぁぁっ‼」


 唐突な叫び声が、レオポルトの右耳を貫く。

 シャルファーだ。今まで大人しくしていたシャルファーが、何かを思い出したかのように叫んだ。レオポルトは急なことに、肩をビクッとさせた。それも一瞬で、すぐ何事もなかったかのように取り繕う。

 シャルファーの絶叫が、頭の中で反響する。そんなことは露知らず、叫び声を上げた当の妖精は悪びれる様子もなく続ける。


「レオ、大変よ! 城の料理を食べ損ねたわ」


 何を言うかと思えば、と返したくなる気持ちを、レオポルトは抑えた。代わりに、肩を掻く仕草に隠してシャルファーの額を突く。


「あいたっ!」


 額を強めに突かれたシャルファーは、レポルトの肩から落ちると同時に羽ばたき、その場で停空する。


「何するのよっ!」


 ここでシャルファーに反応を示したら、第三者からは空気と会話しているようにしか見えないので、それはしない。

 ――けど、おかげで少し冷静になれた気がする。

 あくまで気がするだけだが、思考が落ち着きを取り戻した。レオポルトは、きょとんとしている母としっかり目を合わせる。


「ん?」と、エミーが優しく微笑み、レオポルトは「ごめん」と切り出した。


「ちょっと詳しいことは言えないんだけど……その、嫌なことがあったとか、そんなことは本当にないんだ。だから、大丈夫」


「そう」


 と、溢したエミーは、カウンター越しからレオポルトの頭を撫でる。


「ならいいの。あなたに何事も無ければ、それでいい」


 そう最後に言ったエミーは、それ以上のことを訊いてくることはなかった。レオポルトは、深く問いただしてこない母に、胸中で感謝の言葉を述べた。

 エミーが厨房に行くのを見送ったレオポルトは、店内を見渡した。帰宅したときから、客は増えていない。これなら、自分が居なくても手は足りるだろう。そう思ったレオポルトは、酒場を出て階段を上がって行く。


「ちょ、ごはんは食べないの? レオってば!」


 お腹を空かしているシャルファーも、レオポルトの後に続いた。




 階段を使って3階まで上がったレオポルトは、自室に入る。

 彼の後を飛んでついて来るシャルファーは、ずっと「お腹空いたんだけど」と言うような言葉を口にしていた。しかし、妖精の言葉に相棒が反応することはなかった。

 レポオルトはベッドまで行くと、そのまま体を預けて仰向けに寝転がる。シャルファーは、そんな彼のことを天井近くから見下ろした。


「レオ! アタシの話、聞いてる? もうお昼を過ぎてるんだけど。お腹空いたんだけど!」


 室内に響き渡るシャルファーの怒声は、レオポルトにしか聞こえない。そのレオポルトも、妖精の叫びに反応することはなかったが、


「なあ、シャル」


 代わりと言わんばかりに、真剣みを帯びた声音で話しかける。


「何よ……?」


 シャルファーとレオポルトは、視線が合っていない。レオポルトのほうが、どこか虚空を見つめているからだ。そんな中でもシャルファーは、ずっと一緒にいる人間の言葉に傾聴する。

 レオポルトのことを中空から見下ろしているシャルファーは、彼の神妙な面持ちを確認していた。


「シャル。お前が俺と一緒に居る理由は何だ?」


 はぁ? とシャルファーは声を上擦らせた。


「アンタが、アタシの魔法を必要としてくれたからでしょ。英雄とやらを探したいとか何とかで」


「うん。……それで、その目的に進捗はあると思うか?」


「そんなの、知らないわよ。だってアタシは、そもそも世界が崩壊するだなんて思ってないし」


 レオポルトは、唐突に起き上がった。目を見開いて、上に居る妖精と視線を合わせる。


「お前、俺が言ったこと信じてなかったのか?」


「ええ」と、シャルファーはレオポルトの眼前まで下降してくる。

 さも当然と言うようなシャルファーは、逆にレオポルトが何に驚いているのか不思議なようで、小さな首を傾げた。


「アタシ、何か変なこと言った?」


「いや……じゃあ何で、俺と一緒に居るんだ?」


「そんなの決まってるじゃない」


 シャルファーは、自分の眼を指さす。


「アタシ自身は信じてなくても、アタシの眼は嘘を吐かない。つまり、そう言うことよ」


「んん? どーゆーことだ?」


 ますます疑念が深まるレオポルトに「それより」と、シャルファーが話を変える。


「結局、アンタは何が言いたいわけ」


 レオポルトは、一つ頷いた。


「俺は、ナディーネに様と一緒に行くべきか?」「知らないわ」


 即答だった。

 半ば質問に被せるように、シャルファーがズバリと言葉の刃で斬り裂く。一瞬、呆気に取られたレオポルトだったが、すぐさまシャルファーのことを鋭い目つきで見る。


「ちゃんと相談に乗ってくれよ」


「アンタが隣の国に行くか行かないなんて、知らないわよ」


 ただ、とシャルファーが続けて言う。


「“王女のため”なんて考え方は捨てなさい。もしアンタの生涯で目的としていることが、英雄を探すことなら、“自分の利益”で考えれば良いじゃない。そうすれば、あの王女に頼まれたから行くとかじゃなくて、自分のための行動になるでしょう」


 レオポルトは無言で、ただただ驚いた表情をして目の前の妖精のことを見つめた。ただ見られているだけで何も言わないレオポルトに、シャルファーは眉根を寄せる。


「何よ」


「いや、何て言うか。お前って案外、まともなこと言うんだな」


「はぁ⁉ アンタ今、絶対にバカにしたでしょ!」


 ――確かに、シャルファーの言う通りかもしれない。

 レオポルトは今まで、国王陛下……エーゲルやナディーネのことを念頭に置いて、今回の頼み事を吟味していた。だが、隣国へ行くのが自分のためと考えたらどうだろう。

『世界は広い』

 脳裏をよぎるのは、シャルファーの言葉だ。

 王都の宿屋でいくら英雄を待っていたとしても、たかだが一国の(みやこ)に一件しかない宿屋だ。そんな場所に訪れる人なんて、国の人口で考えてもたかが知れている。

 そんなで、英雄は見つかるのだろうか、神様に言われた世界を救う英雄は見つかるのだろうか。


「シャルが王宮で言ってた意味、分かった気がする」


 何のこと? とシャルファーが訊く。


「王都を出れば、英雄なんて湧いて出てくる――だろ?」


 それを聞き届けたシャルファーは、ニヤリと口角を上げた。


「決まったみたいね」


 ま、とシャルファーがおどけたように続ける。


「ここで誘いを断り、一生を宿屋で燻ってるだけになってたら、アタシはレオの許を離れたけどね」


「え、何で?」


 聞き捨てならない言葉に、レオポルトが反応した。

 シャルファーは、当然とばかりに堂々と答える。


「だってそうでしょ。折角の機会を逃すようじゃ、英雄を探す気なんて無いってことでしょ? つまりアンタが言う“英雄探し”は、嘘になるわけ。……まあ、そうなったらアタシの眼も真実を見抜けなかったことだから、それはそれで……」


「ん? 最後のほう、よく聞き取れなかったんだけど」


「何でもないわよ!」


 妖精の逆切れに、レオポルトは不思議に思い首を傾げる。だが、シャルファーが怒っている理由に対して追及はしなかった。今はそれより、決意が固まったことに対する思いでいっぱいだ。

 レオポルトは勢いよく立ち上がった。


(俺がやるべきことは、英雄をみつけることだ)


 実際はレオポルトも、この世の中に危機があるとは到底、考えられない。転生しこの方、平和な世界に現を抜かしていた。

 でも、天命を忘れたことはただの一日もない。転生者として、第一にすべきことは、英雄を見つけることだ。神から頼まれたことを全うすることだ。

 レオポルトは固い意志と共に一歩、踏み出した。


「ちょ、今度はどこ行くの?」


 最初にやるべきことは――。


「両親を説得しに」







 父と母に、隣国へ行くことを話す。無論、王城で聴いた話を全て打ち明けることは適わない。肝要なのは、レオポルトがしばらく家を留守にすることだ。

 時間帯も時間帯で、ゆっくり話ができるようになったのは、1階の酒場が閉まり、2階の宿屋の客が寝静まった後だった。

 普段ならレオポルト、そしてエミーとジーファスも就寝する時間なのだが、今日は違う。

 もう誰も居ない酒場に、3人が居る。エミーとレオポルトは正面のカウンター席に隣り合って座り、ジーファスはカウンター越しに立っていた。

 レオポルトの体はエミーのほうを向いている。正面に座る母と、視界の右側に居る父とを交互に見る。ちなみにシャルファーは、すでに部屋で熟睡している最中だ。

 夜も深いこの(じかん)、灯りは燭台で灯る蝋燭と、窓から差し込む星明りだけだ。そのため、至近に居ないと人の表情は見えない。3人は薄暗い中で集まっていた。そんな環境が、誰も喋らない状況と相まって、陰鬱な雰囲気を醸し出している。

 元々、レオポルトが「話がある」として両親はこの場に集まっている。レオポルトから切り出さなくてはならないのだが、いざ意志を話すとなると、言葉が喉に詰まって出てこない。

 もう何度、父母の間で視線を動かしたことだろう。そんなとき、ついに口を開く者が現れた。


「それで、話ってどうしたの?」


 エミーだ。優しい声色で、そっとレオポルトに訊ねる。母の声に同調するかのように、ジーファスも頷いた。

 この二人の対応に、レオポルトの緊張感も和らいだ。ふぅー、と一つ深呼吸をしたレオポルトは、エミーに視線を合わせる。そして、決意を話す。


「俺は隣国へ――シュネルツァ王国へ行こうと思う」


 唐突な宣言に、両親からの返答は無かった。二人とも、へぇ? と声に出さずとも、目を点にしていることから当惑の色が窺える。

 レオポルトは、厳秘すべき内容を隠しつつ説明を始める。


「王城で、その……あることを頼まれたんだ。内容は詳しく言えないけど」


 しどろもどろになりながら、次に発するべき言葉を探しながら続きを話す。


「結論から言うと……しばらく出掛けると言うか……」


「ちょっと待って」


 煮え切らない喋り口調に、エミーが割って入る。


「王城で頼まれた、って何を? 昼間、何があったの?」


 母の疑問はもっともだ。結果だけを口にして、肝心の過程を話していないのだから。

どうしてシュネルツァ王国に行くのか、母はもとい、いまだ口を挟まない父も納得していない筈だ。だが、レオポルトがこれ以上のことを説明することはできない。

 国の内情に触れるような内容だ。どうしても、口にできない部分もある。そしてそれが、隣国に行く理由になっている部分だ。


「レオ。やっぱり、王城で何かあったんでしょ」


 エミーは、確信したかのように訊ねた。しかし、決して詰問しているわけではない。先程より鋭い口調になっていても、我が子を思いやるような声音だ。それは、レオポルトにも十分、伝わっている。

 レオポルトは、再び俯いた。口も噤む。そんな彼に、エミーは続けて言う。


「何か、話せないことがあるの……?」


 優しく、柔らかな語調で探ってくれるエミーに、レオポルトは頷いてみせた。


「そう……分からないけど、分かった」


 本来なら、しっかりと説明をするものだと、レオポルトも思っている。ただ、それでもエミーは、深くは訊いてこなかった。隣国に赴く理由を、城での出来事を追及してこない。

 本当に、ありがたい。

 落ち着いた声色で、しかし真剣みを帯びた語調で、エミーは続ける。


「でもね、レオ。隣国に行くのは反対」


 レオポルトは、不意に視線を上げた。目の前に座る母と、目線が合う。

 エミーの顔は、酷く不安に満ちていた。薄明かりの中でも、それは分かる。


「王城で何があったか分からない。王家の人間から何を頼まれたのかは知らない」


 でもね、とエミーは真剣な眼差しで訴える。


「隣国の行くのは、反対。たとえ王族が何と言おうと、それが王命だったとしても、私は反対する。――ジーファスも、そう思うでしょ」


 エミーはジーファスのほうを向き、同意を求める。ジーファスが同じ考えだと言うのを、確証を得ているような口ぶりだ。しかし、そんな母の前提は、


「……俺は、別に止めはしない」


 その一言で打ち砕かれた。

 今まで口を閉ざしていた父から放たれた言葉は、レポルトを驚愕させるには十分だ。エミーも、大きく目を見開く。二人して、同時にジーファスのほうを見やる。


「……今、何て言ったの?」


 そう訊ねるエミーの声音は震え、語気には怒りが滲んでいる。

 レオポルトも、聞き間違えではないかと、父の言葉に耳を傾ける。


「俺は、“反対しない”って言ったんだ」


 はっきりと言い放ったジーファスは、エミーと視線を合わせる。カウンター席に座っていたエミーは、ドンッ! と机を叩き、勢いよく立ち上がった。


「冗談でもそんなこと言わないで!」


 ジーファスは、全く怯むことなく受け答える。


「こんな真面目な話をしてる最中に、冗談なんか言わない」


「じゃあ、どうして……」


 と、覇気を失ったかのように溢したエミーは、再び椅子に座った。


「どうしてジーファスは、レオのことを止めないの?」


「こいつだって、大人なんだ。もう子供じゃない。全ての行動に責任がついて回る」


「だからって、危険を冒そうとする我が子を止めない理由にはならない。――この間だって、たかだか近くの森に香草を採りに行っただけで、死にかけたんだよ」


 話しながら当時の記憶を思い出したエミーは、顔を下に向けてすすり泣く。机上に、ぽたぽたと彼女の涙が零れ始めた。


「俺だって――」ジーファスは、妻の頭にそっと手を置いた。


「俺だって、レオのことが心配だ。でもな、そうして俺達が過保護になってレオを引き留めるのは、本人にとってはどうなんだ」


 ジーファスは、そのごつごつとした手で、優しくエミーの頭を撫で始める。


「今はこうして、家業を手伝ってくれてるが、果たしてそれは、レオが真に望むことなのか。俺はあいつの夢を、やりたいことを聞いたことがない」


 あ、と切り出そうとしたレオポルトは口を噤んだ。さすがに、英雄を探すことが生涯の目的とは言えない。

 そんなレオポルトの心情に気付かず、ジーファスは続ける。


「だからな……もし、シュネルツァに行くことがレオの夢に繋がるんだったら、俺は逆に、『頑張れ』って応援して、背中を押し出してやりたいよ」


 それを聞いたエミーは、レオポルトのほうに顔を向けた。


「どうなの、レオ?」


 涙目になっている母の顔に、心を痛める。だが――。


「うん、夢に繋がる。俺がやりたいことを叶えるきっかけに、きっとなる筈だ」


 英雄を探す、それがレオポルトが目標としている(絶対にやり遂げなければいけない神命)だ。ナディーネのために同行する、と言う理由もあるが、それが一番の理由ではない。

 このまま宿場で燻っているだけでは、何年の月日が流れようが英雄を見つけることはできないと感じている。だが隣国に向かう道程で、あるいは他国で、レオポルトの目標が達成できるかもしれない。

 ここブルファーナ王国の宿場は、世界のごく一部でしかない。王都を出たことがないレオポルトには、まだ実感できていないことだが、転生前の世界は確かに広かった、と彼は思っている。交通の便があっても、遠いと感じる場所、気軽に行けない場所もある。

 転生後のこの世界だって、全てが王都(ここ)で完結しているわけではない。シャルファーだって言っていた。世界は広い、と。信頼を置く相棒がそう断言するのだから、レオポルトはそれを信じる。

 もう一度、レオポルトははっきりと口にする。


「隣国へ行かせてください」


 言って彼は、深々と頭を下げた。

 対して両親の反応は、


「ああ、行ってこい」


 ジーファスは肯定し、エミーは顔を背けた。


「……私は、やっぱり反対。シュネルツァに行く理由も納得できないし、訳も分からない」


 でも、とエミーは手で涙を拭って、


「止めはしない」


 そう、優しく言った。

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