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その村人は英雄を待つ  作者: ユートヤマ
ブルファーナ王国王都
12/26

12話

 騎士の男は夜間に王都へと辿り着いた。すでに街門は閉まっており、男は門番をしている衛兵の許へと駆け込んだ。血相変えた……いや、最早、青ざめた男の顔を見た二人の衛兵も、さすがに放ってはおけない。しかし、彼等も国に仕える身だ。ましてや、その本職が街を守るのが役目なのだから、決して駆け込んできた男に対して警戒心を解いてはいけない。衛兵の彼等とて、同情心くらいは抱くし、男の言い分も聞く。ただ、衛兵は武器を構えていた。男は取り乱しながらも、ただ一点、「陛下に会わせてくれ」と縋りつくようにして懇願した。それ以上のことは何も言わず、しかし余裕はないように見える。二人の衛兵は男のことを知らない。よって、簡単に王都へと入れるわけにもいかないし、王への謁見に関しては完全に管轄の外だ。衛兵は「また明日、出直してきてください」と優しく言葉を掛けた。本当なら、放っておけない、と言う気持ちが二人の衛兵にはある。しかし、勝手に街に入れるわけにはいかない。そこでふと、一人の衛兵が、男が乗って来た馬に目を向けた。荷物が積まれていない。行商人や旅人は、元より野営の道具を少なからず持ち歩く。街門の閉門に間に合わなかったときは、それを使って近くで野宿をする。馬を見た衛兵が、「荷物がないぞ」と、もう一人の衛兵に呟いた。それを聞いた衛兵が、え、と驚くと、そのまま男に視線を移し、「剣を持っている」と言った。鍛冶屋もあるし、別に護身用の剣を持ち歩くことくらいは不思議じゃない。ただ男の剣は、界隈で出回るには良く出来過ぎていた。それは、素人目に見ても分かるくらいに。つい無言になってしまた二人の衛兵は、男をまじまじと見つめる。そして男が——俺は騎士だ。そう言った。慌てて一人の衛兵が、王城へと走って行った。





 一度、家に戻ったレオポルトは、自宅にあった狩猟用のナイフと背負い籠を持参して街門に来た。ナイフはキッチンナイフよりも短い刃渡りだが、獣の皮を剥いだりする分、切れ味と身幅は断然、こちらの方が鋭い。

 街門の門扉は、開け放たれている。定刻になったら開門し、また定刻になったら閉門する。その間、行商人や旅人が出入りをする。今のレオポルトのように、王都の住民が近郊に出掛けることもだろう。

 今日の街門付近は賑わっていた。元々、路傍に露店が並び、そこでは外界の品々が売り並べられている。王都の民はこぞって買いに来るが、今日に限っては兵士の方が多かった。王軍ではない。市場でジーファスが言っていた兵士だろう。ベルトを付けて背負っている盾の紋章が、国王軍のそれと違った。おそらく、どこかの貴族が王都に来たのだろう。


「何か、慌ただしくない?」


 肩に乗っかるシャルファーが呟いた。

 国の都なだけあって、いつも人の出入りは激しい。レオポルトの推測だが、今日みたいに貴族が王城を訪れる等で来る際は、麾下(きか)の兵士を護衛として伴う。しかし今、街門付近をうろついている軍の兵士はシャルファーの言う通り、どこか慌ただしい。何かを探しているような感じだ。


「確かに、な。でも、兵士さんには兵士さんの事情があるんだろ」


 言ってレオポルトは、門扉を潜ろうとして歩く。やはり、すれ違いざまの兵士には気を配る。何人かは馬を走らせて外に飛び出で行き、班分けして街中に駆けて行く者達もいた。荷馬車を引いている兵士もいる。屋根付きの荷馬車じゃないおかげで、積み荷が見えた。

 ——食料がメインだな。

 中には香草や香辛料と言った類も多く乗っていた。やはり、件の兵士達で間違いないようだ。しかし、こんなに大量に補給していくのは、些か珍しい気もする、とレオポルトは思った。王都の市場が品薄になるほどだ。勿論、軍にも運搬の量に限度はある。長期遠征になれば、なおのこと遠征先での補給が必要だろう。


「やっぱり、兵士には兵士の事情があるんだな」


 独りごちりながら門を潜ったレオポルトは、そのまま街道沿いに歩いて行く。両脇には草原が広がっており、王都近辺の道は開けていた。

 ここから歩いて20分ほどの所を北上すれば、小さな森がある。そこで香草が何種類か生えている。街道から外れることとなるが、王都近辺は国王軍の活躍もあって魔物の出現率は国一番で少ない。

 街道を道なりに歩いている最中、


「ねえ、レオ。一応、アタシの魔法を使っといた方が良いんじゃない?」


「いや、別に。今は人も居ないしな。——てゆーか、さっき言えよ。せっかく、普段は見ない軍人が居たのに」


 王都に通じる街道は一つではない。最終的に3つの道が王都の門前に結集するが、その道も途中でいくつにも枝分かれしている。レオポルトが歩いている道は、城壁を右回りに回って東側に出る道だ。王都自体が大陸の東端に近く位置しているため、そもそも東に向かう者があまり居ない。王都より東は港町と、小さな町村があるくらいだ。

 人とすれ違うことも、そんなにない。


「バカね。アタシの魔法は、何も人探しの為にあるだけじゃないのよ」


「ほう?」


 説明してみろ、とレオポルトは偉そうに言った。シャルファーはむすっとして答える。


「良い? アタシの魔法を使えば、警戒することだってできるの。仮に、魔物に襲われたときなんかに、事前に情報を見とけば対策だって、逃げることだってできるでしょ? ——まあ、アンタ程度の実力じゃどの道、為す術はないか」


 嘲笑うかのように笑みを浮かべたシャルファーに、レオポルトはデコピンをくらわせようとする。が、今回は妖精の反応が速く、肩から飛び上がった。

 頭上を飛び回るシャルファーを捕まえることは叶わない。ギリギリ、レオポルトの手が届かない場所を飛んでいる。

 レオポルトは、何度か妖精を捕まえようとする。しかし伸ばした手が全て空を切り、ついに諦めた。

 頭上で勝ち誇るシャルファーに一瞥をやると、前を見て再び歩を進める。シャルファーはそのまま、追従した。


「でも、シャルが言うように、魔法を発動しといて損はないかもな。でも()つのか? 魔力」


 魔法を使う際は、『魔力』と呼ばれるものを消費する。魔法を発動する源となる、いわゆる原動力だ。それを『詠唱』する——予め魔法によって決められた文脈を述べる——ことによって、魔法が顕現する。魔力は生まれながらの量が決まっており、いくら訓練しても微量しか変化しない。それが、レオポルトが学舎で習った内容だ。

 レオポルトも、詠唱する必要性や魔法によって消費する魔力の量が違うことなど、色々と疑問を抱いた。気になって先生に訊いてみても、魔法と魔力に関することは現在も研究中とのことで、知りたければその筋の職に就くしかない、と言うことだった。よってレオポルトの学力で研究職に進む(そもそも、進む気はないのだが)こともできず、疑問は解消されないままでいる。そこまで靄が残る訳でもないので、彼も深くは考えていない。

 レオポルトの質問に対し、


「略すな!」


 そう怒鳴ったシャルファーは、続けて、魔力なら心配いらないわ、と付け加えた。


「むしろ、人間の魔力は悲しくなるくらい少……」


「大地よ。我に生を与え、我に情を与え、此処に一つの命を与えんとするならば、全霊を持ちして万物の一端を成す。されど我は妖精に非ず、故に権能を貸与し神気を宿せ」


「……ねえ、会話はしましょう」


 詠唱を終えたレオポルトは「これでよし」と呟いた。初めてこの魔法を使ったときのことは鮮明に覚えている。まるで世界が変わったような気がしたが、実際に他人の情報が見えるだけで、視界が映すものが変わったわけでもない。今もシャルファー・ブリックと言う魔法の凄さはひしひしと感じる。だが、使用するたびに新鮮味が無くなるのも事実だった。

 城壁の北から少し離れた場所まで来たレオポルトは、ここで街道を外れて北上した。草原の植物を踏み倒して歩くのは、気が引ける。獣道も探せばあるだろうが、客が待っている分、あまり時間を掛けるのは良くない。

 空中を飛びながらついて来るシャルファーが、地面を見下ろしながらぼそりと言う。


「この子たちも、生きてるのよね……」


 レオポルトは立ち止まって、上を見上げた。何のことか、と妖精を見る。シャルファーは物悲しそうに地面を見つめる。レオポルトも、その視線に合わせて下を向いた。

 足元には、レオポルトによって踏みつぶされている花があった。


「アタシは、植物も生きてると思う。でも、アタシの魔法は動物にしか作用しないのが、どうしても納得いかないのよね」


 レオポルトは黙した。確かに、シャルファーの魔法はその者の情報を見通すことのできる炯眼だ。レオポルトが転生する際には、英雄を探すための魔法、と神様に言われた。この現状が指し示す事実は、神は植物に世界を救うことはできないと言うことだろうか、とレオポルトは考えた。

 しばらく、と思えるほど二人を静寂が包む。実際には数秒だが、そこでレオポルトが口を開く。


「まあ、植物も生きてることに変わりはない。けど、無機的に捉えてしまうのが、俺達なだけだよ」


「アンタって、とこどきカッコつけるけど、全然だからね」


 そうかよ、と一言だけレオポルトは返した。その後、なるべく野草を踏み荒らさずに森へと歩む。

 草原に入ってから10分ほど行ったところで、森に入った。木々が繁って、木漏れ日が土壌を照らす。場所によっては開けており、勾配が激しい所もある。街道が通っていないせいで道が整備されておらず、自然に作られた土を踏みしめる分、歩き辛い。しかし、王都の水源ともなっている川が通っている。この辺は東の海に近いこともあって、川の流れは緩やかだ。川の周辺の土地も、平坦に近い。レオポルトは、草原からその川を辿って森に入った。

 川を上流に向かって辿りながら、辺りの野草を観察し、香草を摘み取っては背負い籠に入れていく。レオポルトに香草に関する知識はあまりないため、いつも料理で使っているものを摘んでいった。似て非なるものもあるかもしれないから、帰ってからジーファスに見極めてもらおう。


「にしても、草ばっかじゃない。キノコとか、その木に生っている果実とかは取らないの?」


 レオポルトの周りを飛び回っているシャルファーが、唐突に言った。


「食えるかどうか、俺には分からないからな」


 ここら辺で取れる果物は、一般に店で売られているようなものではない。人気な果実や野菜は、人工的に栽培されている。だが、この森で生っている実は王都の店でも見ない。あまり一般受けはよろしくないのだろう、とレオポルトは思った。それに、あくまでも今回は香草の採取だ。


「そうなの? こんなに美味しいのに」


 そう言って、シャルファーは素早く周囲を飛び回る。

 レオポルトは固形物を朝から何も口にしていないにもかかわらず、こうして身体を動かし続けている。最早、空腹を通り越して食欲は無くなってきた。ただ食事を取ってない分、一挙一動が気怠い。あの妖精だって、空腹で怒りをレオポルトにばら撒いていた。それなのに、いつの間にかシャルファーは機嫌が直っている。


「お前、どうして元気なんだ?」


 水が流れる方向に逆らって歩きながら、レオポルトは訊いた。


「そりゃね。もう満腹になったから」


 レオポルトは、歩む足を止めた。そして、目を細めてシャルファーを見る。それを気に留めることなく依然と元気に飛び回る妖精は、止まる気配がない。本当に息を吹き返したようだった。勝手に店の物を食べないようにしていたので、この自然に生っている——それも先程の言葉から察するに、木の実を食べたのだろう。


「お前が食えるなら、俺達にも食えそうだな。——食後30分は動かない方が良いぞー」


 レオポルトの、最大限の当て擦りだった。だが、当の妖精に全く通じている気配はない。シャルファーは、今もなお羽を休めないで飛び回る。


(こっちは朝から何も食ってないのに)


 そう、レオポルトは内心で吐き捨てた。しかし、それ以上の追及や不平をシャルファーに言うことはできない。エミーが言っていた通り、レオポルトが朝食を摂らないのは、睡眠を優先させる彼の判断だ。朝ご飯を食べる、と言えばエミーは用意してくれるだろうし、昼食だって客が悪いと責めることはできない。

 落胆のため息を一つ吐いたレオポルトは、再び川の流れに逆らって歩き出した。

 使えそうな香草を背負い籠に入れ、また上流に向かって歩くを繰り返す。森を抜けるまでこの作業を繰り返すとは考えてないが、背負い籠がいっぱいになるまでは続けよう、とレオポルトは考えていた。

 またしばらく採取しては歩くを繰り返し、一度、背負い籠を降ろした。中身を確認すると、まだ余裕がある。レオポルトとしては、籠の縁、目いっぱいまで取りたい。籠を背負い直したレオポルトは、再び同じ方向に歩みを進めた。

 しばらくして、川が二方向に分かたれていた。正確に言えば、流れに逆らって歩いているのはレオポルトの方なので、場所としては合流地点だ。丁度、三叉路のようになっている。

 立ち止まったレオポルトは、頭上で停空しているシャルファーに訊く。


「なあ、右と左、どっちに行く?」


 聞いたシャルファーは、そうね、と少しだけ間を置くと、


「左にしましょ」


「なら、右に行こう」


「何でよ⁉」


 言ってレオポルトは、右の川を沿って進んだ。

 そこからしばらく歩いて行くと、開けた場所に出た。周囲の木々が囲うように、ポツンと池がある。レオポルトの左を流れる川の出発点になっているようだ。そして——レオポルトは目を見開いた。視線の先に男が一人、ほとりで水面を見据えながら立っていた。



名前:エゴン・フルストルム

性別:男

年齢:48歳

職業:ブルファーナ王国騎士

魔法:身体増強 シュタルカー・ヴィント(槍状の風を発生はせて飛ばす)

個人専有魔法:飆風(ひょうふう)天衣(てんい)の刃(風を纏い、突風と共に斬り裂く)

生命力:3264

魔力:985



 黒髪は最低限の長さで、決して坊主と言うわけではないが額も首も隠れていない長さだ。黒い瞳はキリっとした眼光を一層と際立たせ、厳めしい顔つきは皺によって強調されている。

 レオポルトは彼の左腰に携えている剣を見た。彼の身体が横を向いているせいで、剣の全長が良く視える。

 そして、レオポルトの視線は次第に衣服へと移った。細かな装飾までは確認できるほどの距離じゃないが、とても庶民が着ているような衣服ではない。若干、薄汚れているが高価な着衣だ。

 やはり騎士と言うだけあって佇まいも美しいと、初めて騎士を見るレオポルトは思った。シャルファー・ブリックは嘘を吐かない。あの男は騎士で間違いない。

 その騎士が、徐に自身の剣へと手を添えた。抜刀するのだろうか、とレオポルトは彼の動向を窺う。剣術の練習か、もしそうだとしたら見てみたい。

 やはり、騎士は剣を抜いた。抜いた剣を両手で持ち、胸の前で構えた。

 ——前世で良く見てた、騎士の礼儀作法的なやつか?

 切っ先を天に向け、男は何かを祈るように少しだけ首を上に傾けた——途端、シャルファーが、


「あいつを止めなさい‼ レオ‼」


 叫んだ。森中に響き渡るほどの怒声だった。

 レオポルトは、頭上を見上げる。シャルファーは、騎士を見ていた。訳が分からない。急に怒号を飛ばされ、彼を止めろと叫ばれて。レオポルトは、動けずにいた。すると、シャルファーが下を向いて、再度言う。


「早くしなさい!」


「いったい、何を……」


 そんなに切羽詰まって、と言いながら騎士に再び視線を戻す。瞬間、驚愕の情報が書いてあったことに、レオポルトは気がついた。



願望:自殺



 レオポルトは駆け出した。

 脳で考える前に身体が自然と動き、騎士の男に向かって一直線に。


「何やってるんだあ‼」


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