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なろうで『もう遅い』とかでざまぁされた者たちの楽屋裏『断罪系王子ともう遅い系勇者』

作者: 語部マサユキ

思い付きを書いたのみの第二弾、深く突っ込まずに鼻で笑ってください。

 そこは大勢の人々が集い思い思いに酒宴や談笑を楽しむ夜会の場。

 そんな喧騒の中、一人の金髪で美形な見るからに王子様と言った風体の男性が自信満々な表情で見下しつつ指を突きつけて、ある人物に言い放つ。


「貴様の数々の悪行、最早看過する事は出来ない。そしてそんな悪辣な女に国母たる王妃の座に付かせるなどもっての外!! ドリルパツキン公爵令嬢、貴様との婚約を破棄する事を宣言する!!」

「そ、そんな殿下! 私が一体何をしたと言うのです!?」

「まだとぼけるか!? 貴様が純真なアッパラピンク男爵令嬢に仕出かした狼藉の数々、私が知らないとでも思ったか!!」

「私はそんな事をしておりません! 殿下、どうかご再考を!!」

「まだ囀るか、この毒婦め! そしてこの私ハナバタケノウ王子とアッパラピンク男爵令嬢の婚約をここに宣言する!!」

「…………」

「…………」

「…………ぶ!」

「…………ぶふ!!」


 そんな珍妙なやり取りをしていた“男二人”は顔を見合せた後、耐え切れないとばかりに噴き出してしまった。


「ぶわははははは!! スゲーなこれ! アンタいっつもこんなやり取りしてんだ。大変だな~イケメン王子も!!」

「そーであろう? そしてお決まりの断罪、廃嫡から世間知らずは市井に堕とされて酒浸り。伝説の『真実の愛』を誓った女に逃げられるのが定番だからなぁ」

「うははは! やっぱ女は現実的だなぁ~金の切れ目が縁の切れ目ってか?」


 しばらく大笑いしていた男二人だったが、店員に「お客様、申し訳ありませんがいささか声が……」とやんわり注意されてペコペコと頭を下げる。

 どちらもそこそこイケメンで“赤提灯の居酒屋”には似つかわしくない異世界ファンタジーの勇者と王子様のような格好で浮きまくっているのに、そんな小市民な態度はその空間に妙に溶け込んでいた。

 王子はジョッキのハイボールを一気に煽り、酒臭い息を吐きだした。


「ま……断罪のほとんどが再起不能か死につながる君よかマシかもしれんがな」

「ど~かねぇ? まあ確かにこっちはやられる時は自分の力を過信して一瞬ってのが多いがな」


『断罪系王子』の言葉に『もう遅い系勇者』は特に否定するでもなくそう言う。

 断罪系王子の断罪は多岐に渡るが、その罪状の軽さからか刑罰が長くなるモノが多い。

 廃嫡からの軟禁、そこから時間をかけての病死に持って行くとか、本人が言っていた市井に投げ出されて落ちぶれるってのも多い。

 期間が長いのが良いか悪いか……それは本人たちにしか判断できない。

 

「今日は何人切りしたん?」

「5人だな。以前よりは少なくなったがそれでも悪役令嬢物は定番、一定の人気はあるからなぁ。むしろ最近は君の方が大活躍じゃないのかい?」

「今日は合計10人切ったぜ! 当然有能な仲間を無能と決めつけてな!!」


 一見モテ男のモテ自慢に聞こえなくも無いが、どちらも微妙にオチが付いている。

 それは自分たちがその後失墜するというオチ……“何人切り”と言った方が語呂がいいからと使っているが、実際は“自分が最後には『切られ』た”数なのだ。


「いかにカッコ悪く見苦しく、自分の非を認めず往生際が悪い姿を見せつけられる事こそ『もう遅い系勇者』の真骨頂だからな……最後も自分の力を過信して世紀末雑魚の如く泣き叫び未練がましく汚らしく、後悔しながらってのが腕の見せ所よ」

「うむ、あれは本当に感心したぞ。表情からにじみ出る『俺は悪くねぇ』の究極の自己中オーラは最高に不快で、断末魔の瞬間も欠片も可哀そうとは思わせない事に痺れた」

「へへ……アンタに褒められるとちょっとこそばゆいな。ざまぁベテランのアンタによ」


 褒められて少し照れて見せる『もう遅い系勇者』であったが、反対に『断罪系王子』の顔が少し暗くなる。


「……どうかしたんかい王子さん」

「いやそれがな……最近は悪役令嬢物が幾つも乱立したせいか、断罪の方も結構無理がある事が徐々に露呈し始めていてな」

「……と言うと?」

「何というかな……今まではなんとな~くご都合的に無視されていた現実感が露呈しだしていてな……この前『ピンク髪転生ヒロイン』とも話したが、自作自演の演目も大分無理が無いか? という主張も多くなっている」

「自作自演って、アレかい? 教科書破いたり階段から突き落としたり……」

「そうだ……喩え王子の寵愛を受けているとしてもだ。不敬罪なんぞ成立する王政国家において上位の者が下位の者に無体を働いたからと言って罪に問えるモノなのか? とか」

「あ~~それはまあ……」


 酒場の喧騒の中、王子は焼き鳥を頬張ってからジョッキが空になっているのに気が付いてお代わりを要求する。

 勇者も便乗して追加注文……今度は熱燗に切り替えるらしい。


「最近は今までぼやかされてきた“そもそも先に浮気したのは王子じゃね?”という辺りもフューチャーされだしてな……。いや正論なのは分かるし『断罪系王子わたし』のみが下がりまくるなら問題なのだが……この正論を決定づけるのは全体の設定自体に無理が生じ始める」

「全体の設定?」

 

 タイミング良く追加で来た熱燗のお猪口を王子にも渡し、お酌をしつつ先を促す勇者。

 返杯に王子からのお酌も受けて二人同時に熱燗を煽る。


「ふ~~~、簡単に言えば小さな人間関係でヒロインが誘惑した~とかなら『魅了魔法』だの『転生チート』だので良いがな? 国家事業の婚姻関係なんぞ絡んでくると、その状況を国家が無視していたって事になる……つまり放置した側も同等に無能である必要があるワケだ。そうなると“ある意味王子も被害者だった”なんてレッテルも付きまとってくるのだ!!」


 不満気に杯をカウンターに置く王子が何を不満にしているのか……『もう遅い系勇者』は心から察する。


「なるほどな~確かに分かるわ。同情は俺らにゃ不要な評価だものな……」

「であろう? 我らは見下されてなんぼだぞ……考察系や実は味方だった設定は他の連中に任すと言うに……」


 それはどちらかと言えば特撮の怪人などの心構えであるのだが……『断罪系王子』はそんな妙なプロ意識が芽生えていて……ここ最近のやられっぷりが凄まじい『もう遅い系勇者』を尊敬しつつも羨んでいるようだった。


「ん~~~まあ、アンタの立場の難しさも分かる気はするが……こっちもこっちでさじ加減は難しいぞ?」

「……そうなのか?」

「立ち位置的には少々の成功者、自分の力を過信しつつもSランクだの魔王討伐の勇者だのに選ばれるくらいの頭や実力は必要だからよ。ちょ~どいいバカである必要があんのよ」

「丁度良い?」

「ああ、いいか? 本物の悪党やダメ人間だったら有能な仲間ってのを絶対に手放さねぇ……自分が楽に稼げる種は金で釣るなり洗脳するなり何が何でも縛り付けるもんだ」


『断罪系王子』は頷く。

 確かにそう言う輩の方が金や名声には敏感に反応する、金づるを追放とか考えるワケがない。


「追放する無能は中途半端なプライドと正義感を持ってなきゃ務まらん。それでいて自分は最強、自分は正義と自己陶酔できるくらいのアホであるという……ある程度戦えるプロとしては中々に稀有な才能だな」

「なるほど……その辺は『断罪系王子』にも通じるところでもあるな」

「普通こんなの、冒険者なんかやれば数日でお陀仏だ。しかし戦わないと自己陶酔も出来んし、何よりざまぁにゃ繋がらん……」


 綱渡りで命のやり取りを生き残り、その綱渡りを実は自分では無い追放した仲間に担ってもらっていたというのだから、実は『もう遅い系勇者』の間口は中々に狭い。

 そう言いつつもう一度熱燗を煽った『もう遅い系勇者』は溜息を吐いた。


「ま……国家単位でのレベル下げが必要なアンタにゃ負けるが……」

「いや、スマン……それぞれがそれぞれで苦悩があるのだな。どちらの方が大変とか比べるモノではないな」

「カカカ、気にすんない! ここは大いに吐き出す場なんだからよ。大いに愚痴ろうじゃねぇの」


 機嫌よくバシバシと背中を叩く『もう遅い系勇者』と『断罪系王子』の後ろ姿は、誰が見ても気の合った親友のようにしか見えない。

 似たような境遇の戦友……そんな繋がりがそこには確かにあった。


「そーいや聞き及んだか? 最近は『ラスボス魔王』がごねてるって噂。自分の出番が極端に無くなっていると」

「ああ聞いた聞いた。『主役魔王』『同盟魔王』、はては『ヒロイン魔王』に押されまくっていたのに最近は無能な『もう遅い系勇者』の登場で強大な魔王とのラストバトルが少ないってよ……」


 筋骨隆々、我こそ最強と魔王城の玉座にて待つ魔王……やられ役の最古参、大先輩であるのに最近の彼が干されているというのは何とも物悲しい……。


『もう遅い系勇者』は思い立ったように無言でスマフォを取り出してコールする。


「あ、『ラスボス魔王』さん? 今ヒマかい? 良ければ今『断罪系王子』様と一緒に飲んでんだけど、良ければ…………え? これから仕事!? あ、そうなんだワルいワルい」


 何となく暇なら誘おうかと思った矢先に断りの理由が仕事と聞いて、二人はどこかホッとした顔になった。


「いやいやそんな……また今度誘いますから……ええ頑張って下さい。 え? 断末魔の叫びではまだまだお前には負けん? ははは分かってますって……そいじゃ!」


 受信を切った『もう遅い系勇者』の『断罪系王子』は笑いかける。


「どうやらいらぬ世話だったようだな。あちらさんも忙しそうで何よりじゃないか」

「ああ……なんでも『追放された冒険者にモノローグでやられる魔王』として呼ばれたんだってさ……。今日俺が切ったヤツに……」

「…………それって向こうが『もう遅い系勇者きみ』のバーターって事に」

「さあ~~~~飲もう飲もう! いらん事考えるのは飲みが足りないからだ!! いかんよ~俺たちは常時酔ってなきゃ!」

「そ、そうだな!! 私は『真実の愛』に、君は『栄光』に常に酔っていなければいかんからな!!」


 そして夜は更けて行く…………。

 明日も元気に頭悪く断罪されるその為に…………。





宜しければ他の作品もご一読いただいて、感想評価など頂ければ泣いて喜びます!!


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[良い点] 『作者の都合』でざまあされる王子と勇者は、確かに可哀そう
[気になる点] 欲しがり妹も追加してほしい
[一言] ざまぁ系の話しを読むたびに彼らのことを思うようになりました。 彼らの頑張りがあってこそのざまぁ、なんですね。 主人、そこのお人に熱燗奢ってやって!
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