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パンドラの箱の蓋が開いたのは埼玉県県警で重苦しい会議が開かれた三日後だった。
日本から問い合わせを受けた中東の動画サイトは
「日本の警察から削除要請を受けた動画」というコメントと共に注目動画としてその動画を紹介し
幾つかの海外動画サイトがそれを転載し、それを見た日本人が日本の動画サイトに転載した。
「私の名前は中村真実と言います」
という台詞から始まる動画は転載するサイトによっては閲覧注意というタグが付けられていた。
中村真実と名乗った女性は
自分は高校生の時に同級生の男子に電車で痴漢されたと嘘を付き、その男子を退学に追い込んだこと
大学を卒業して就職した後に通勤電車で偶然同じ男子を見掛けて
再度痴漢されたと嘘をついてその男子の人生を滅茶苦茶にしたこと、
そしてその動機も語った。
高校生の時は自分は毎日6時間以上勉強していたにも関わらず
いつもその男子より成績の順位が低かったのだが
ある日その男子が別の男子と会話してるときに
勉強は1日2時間やるかやらないかだと話しているのを聞いて
自分よりも楽をしている癖に自分よりも成績がいいのは不公平だ、絶対に赦せないと思ったからだった。
社会人の時はその男子が高校中退の癖に高そうな背広を着て
同僚と思われる男性と楽しそうにその男子の妻と子供に関する話を幸せそうにしていたこと。
自分はその男子の何倍も何十倍も努力しているのに
自分が欲しくても手に入れられないものを全てその男子が手に入れているのはおかしいし
絶対に赦せないと思ったからそれをぶち壊したかった。
それらの内容の話をした後、最後に
「どんなに謝っても許されることではないので私はこれから罪を償うために死にます。
お母さん、苦労して育ててくれたのにごめんなさい、さようなら。」
と語り動画は終わる。
「さようなら」の「ら」が発音された瞬間に動画が終わるためにぶつ切りで終わったかのような動画になっていた。
そして動画全体としての印象は、動画内の女性が語っている台詞とは裏腹に
『謝罪動画ではない、謝罪動画とは思えない』というものだった。
動画の女性は真摯に反省してる人に見られる落ち着いた態度とは正反対で
視線は落ちつきなく左右上下を絶えず確認し、声は上ずり、表情は怯え
涙は反省ではなく恐怖からのものに見える。
時折、音声が消されてる場面では肩をビクリと震わせ、唇が「ごめんなさい」と言ってるかのように見える場面もある。
心理学の専門家でなくても、この人は脅迫されて言わされているんだな
と推測出来るような動画だった。
告白したことの真偽や是非は脇に置いておいて
とりあえず警察はこの女性を見つけ出して事情を聞く、もしも本当に脅迫されて言わされているのなら
今すぐ救出する必要があるのでは?
その動画を見た良識ある人々の多くはそう思った。
しかし、残念ながらこの動画が投稿さたのは実に5年前のことであった・・・