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渡辺和則が祖父母から相続した七会村の住宅の庭から
中村真実の服と下着が掘り出された
と聞かされても渡辺和則は完全に無反応だった。
警察の取り調べは担当する刑事によってやり方が変わるものだが
怒鳴り散らしたり脅かしたりして供述を引き出す方法はあまり見られなくなった。
気の弱い被疑者だと恐怖のあまりやっていなくてもやったと供述して冤罪の原因になることもあるし
取り調べ可視化の流れでそういう取り調べしていたのがバレると
せっかく取れた自白の任意性が疑われて裁判で自白調書が証拠として採用されなくなるリスクもある。
その為に野蛮なやり方の取り調べはほとんど見られなくなった。
今では何人かの捜査員を入れ換えながら同じテーマの質問をいろんな角度から質問をして
その答えの中に矛盾がないか確認して
矛盾があれは徹底的にそこをついて真実を語らせるように持ち込んだりするのが主流だ。
取り調べで黙秘する人は実は少ない。
無実なら無実で警察にそれを理解してもらおうと必死で供述するし
有罪なら有罪で嘘をつくことで疑いを晴らすか、素直に罪を認めて刑の軽減を狙う。
取り調べに協力的な態度は罪を反省してる証拠として情状酌量されるのも理由の一つだ。
ごく稀に黙秘を選ぶ人もいるがそういう場合、取り調べ担当官はまず
犯罪容疑とは無関係な雑談から入る。
プロ野球の話や食い物の話、子供の頃の話
そういう雑談を延々と繰り返して
相手との信頼関係をまず築く。
そうして仲良くなってから事件のことを遠回しに質問して
相手の反応を注意深く見守りながら事件の話を掘り下げていく。
そうやって容疑者を堕とすのが定石だ。
しかし、渡辺和則は事件と関係の無い雑談にすら応じ無かった。
相槌すら打たないのだ。
児童ポルノの単純所持で逮捕し、取り調べした時には
埼玉県警からベテランの刑事に来てもらったこともあったがやはり一言も発しなかった。
ベテラン刑事は高校の時の痴漢事件や社会人になってからの痴漢事件について
聞きたいと言い、渡辺和則が返事をしなくてもそれらの痴漢事件について
ベテラン刑事の思うこと、分析等を渡辺和則に語り続けたが
結局渡辺和則から一言も引き出すことが出来ずに終わった。
唯一の例外は埼玉県の警察学校の講師が来たときで
その講師は渡辺和則に講義をするかのように
法廷での真実と実際の事件の真実の解離が如何にして生まれるか、
それを防ぐために何が必要かについて一方的に語った。
そしてその『講義』を締めたあとに渡辺和則に「君はこのテーマについてどう思う?」と訪ねた。
その質問に対して渡辺和則は
「とても興味深く、深い考察だと思いました。ありがとうございました。」
と答えた。
これが渡辺和則が取り調べ室で発した唯一の言葉だった。
西武警部補は児童ポルノの単純所持で逮捕した時に何度か渡辺和則の取り調べに参加したが成果は無く
運転免許証の偽造及び行使で逮捕した今回はまだ一度も取り調べに参加してなかったが
中村真実の母親が渡辺和則の家の庭で掘り起こされた服を中村真実の服だと断言した三日後
遂に渡辺和則の取り調べに参加した。
「VHSのビデカメラを見つけたよ。デシダル処理前のオリジナル動画付きでね。
渡辺君、ものは相談なんだが中村真実の行方を教えてくれないか?」




