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2025年6月25日、渡辺和則は釈放された。
児童ポルノの単純所持で逮捕し、勾留期限を伸ばしに伸ばして
その間に中村真実失踪と関連してる証拠を見つけてその証拠で再逮捕
再逮捕した容疑の取り調べで更に勾留期限を伸ばして自供に追い込む。
それが中村真実失踪事件捜査チームの目論見だったがそれは完全に失敗した。
本来なら検察に送致されてから10日で起訴するかしないかを決めなければならないが
更に捜査が必要と裁判所に勾留期間の延長を要求し裁判所がそれを認めればそれは引き伸ばせる。
ただし、最長でも20日だ。
逮捕してから検察に送るまで2日、検察に着いてから勾留するか釈放するか検討するために1日
合わせて23日間、警察と検察のタッグは被疑者を拘束できる。
今回は渡辺和則が児童ポルノの単純所持を否認し、完全に黙秘を貫いた為に
勾留期間の延長申請は裁判所にあっさり認められた。
が、児童ポルノの単純所持の容疑で勾留しておける6月25日になったら勾留期間はもう伸ばせない。
起訴するかしないかを決めて、起訴するなら身柄を拘置所に送り
起訴しないなら釈放しなければならない。
検察が選んだのは『起訴猶予』だった。
児童ポルノの単純所持でしかも現行犯。犯罪事実は明らかであるが
被疑者の情状や年齢や状況や態度等を鑑みて起訴しないと検察が判断した時に起訴猶予になる。
しかし、この決定に至るまで検察内部では揉めた。
何しろ所持していた写真集は間違いなく存在しているのだから起訴しない理由は本来無い。
しかも渡辺和則は罪を否認し、取り調べにおいて黙秘を貫き、
起訴猶予の判断基準の一つである被疑者の態度、
要は反省してるかしてないかでいったら
間違いなく反省してないからだ。
しかし、この事件の責任者である主任検察官である柳沢検事だけはその写真集が西武巡査部長が持ち込んだ偽の証拠だと
西武巡査部長本人から聞いて知っていた。
中村真実失踪事件の捜査の方便としての別件逮捕という説明を聞き了解したわけだが
中村真実失踪事件との関与の証拠も得られない段階で児童ポルノ単純所持だけで裁判をするのは悪手だった。
起訴するならどこから、或いは誰から幾らで手に入れたのか?
何のために手に入れたのか?というのも犯罪構成要件において重要で
「自己の性的好奇心を満たす目的」で所持してることが大切となる。
うっかり間違ってダウンロードした、そういう本とは知らずに手に入れた
等の人を犯罪者にしないための要件だ。
渡辺和則の自宅からあの写真集以外に児童ポルノか、それに準ずるようなものがあれば
それらが重要な証拠にもなるがそれらが全く無かった。
驚くべきことに成人女性のヌードどころか水着姿の動画や画像すら無かった。
まるで家宅捜索されることを事前に知っていたかのように
パソコンのインターネット接続履歴からもセクシャルな要素が完全に排除されていた。
渡辺和則を児童ポルノの単純所持で有罪にするためには検察は
渡辺和則がどこからどうやって幾らで何のために児童ポルノを入手したのかを証明しなければならないのに
それらが全てを不明なのだ。
「もし裁判において渡辺和則についた弁護士が『件の児童ポルノ写真集は警察によって持ち込まれた偽造証拠の可能性がある』と主張した場合
我々検察はその主張を否定することがかなり難しくなる。
もし、写真集から渡辺和則の指紋が採取されてない、などとバレたら裁判で負ける可能性もある。」
柳沢検事はそう言い、嫌疑不十分による不起訴を主張した。
しかし、起訴を主張していた部下達は現物の写真集があるのに嫌疑不十分というのは
納得できない、という態度を崩さなかったので
犯罪していたのは明らかだが情状や年齢や状況や被疑者の態度を鑑みて起訴しないとする
起訴猶予ということで決着したのが渡辺和則釈放の経緯である。
警察、検察と被疑者の間に勝ち負けという対立構造があるとしたら
今回の逮捕は明らかに警察、検察側の負けだった。




