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「は?」
七瀬巡査部長は敬語を使うことすら忘れて西武警部補に聞き返した。
ポカーンとした表情の七瀬巡査部長を見て苦笑しながら西武警部補は語りだした。
「まぁ信じられないだろうし信じなくてもいいが嘘をついてるつもりはない。」
七瀬巡査部長は顔を引き締めて西武警部補の話の続きを待った。
「初めて気が付いたのは俺がまだ巡査で交番勤務していた時だ。
地下鉄サリン事件を起こした宗教団体あったろ?あれの支部が交番の近くにあってな。
その支部に出入りする信者の中に変な奴がいるのに気付いたんだ。
まだサリン事件が起きる前だから特に警戒していた訳じゃないんだけど
やっぱ近所から騒音とか異臭とかちょこちょこトラブルがあって俺が対応することが何度かあったんだ。
その時に出て来た宗教団体側の担当者の目がな・・・」
「目がどうしたんですか?」
言い難そうに黙り込んだ西武警部補に七瀬巡査部長は話の続きを促した。
「黒くなるんだよ。」信じてもらえるかどうか不安なのか西武警部補の口は重かった。
「目の全部が黒くなるんですか?」
七瀬巡査部長の問いかけは真剣で、懐疑的だったり馬鹿にしたりする様子が全く無かった。
それに勇気付けられたのか西武警部補は話を続けた。
「相手が瞬きした瞬間にな、白目が無くなって目全体が黒目になったみたいに真っ黒になる。
もう一度そいつが瞬きすると元に戻る。また瞬きすると真っ黒になる。
瞬きする度に普通の目と真っ黒の目に入れ替わるというか切り替わる。
最初は意味が分からなかった。
けど誰もそいつの目について尋ねないし気にもしてないんでひょっとしたらそう見えてるのは俺だけかも
と思って黙ってた。
そしたら暫くして地下鉄サリン事件が起きて、大騒ぎになって
その後にサリン事件以前に教団内であった殺人事件が発覚して、それの実行犯として逮捕された信者の中にソイツがいた。
それで思い出したんだ。
子供の頃祖父母が住んでいた家の近所に元ヤクザだったと言われてる爺さんがいて
その爺さんの目もあんな風に黒い目だったな、と。
当時子供だった俺はあの爺さんの目は何故黒いのか聞いたような気がするけど
なんて答えられたのかはハッキリ覚えてない。
怖い人だから話しかけたりするなよ、みたいなことを言われた気がする。
まぁでもなんで目が黒いのかとか聞かれても意味分からなかったのかな。
日本人はみんな黒目だしな。
んでその後気になって何回かいろんな裁判の傍聴とか行って見てみたんだ。
殺人事件はそもそも件数が少ないから二回しか傍聴出来なかったが
交通事故、過失致死とかで人が死んだような事件は10回くらい傍聴した。
それで大体分かったのは交通事故とかで本人に殺すつもりが無かった場合は目に変化がなくて
明らかに意図的に、相手を殺すために殺したと本人が自覚してる時にあの目になるらしいと分かった。
でもいつ、何処で、誰を、どうやって殺したかは全然分からん。
単に誰かを意図的に、殺すために殺したことがある、という事だけが分かる。
ただそれだけでもずいぶんと助かったよ。
七瀬巡査部長が知ってるかどうか知らないが交番勤務の頃に俺は殺人の指名手配犯を三人捕まえてる。
全部目を見て気付いたよ。
あ、目が黒い、と気付いてから、指名手配犯の顔写真を思い浮かべて職務質問する。
一人、指名手配写真が撮られた時より滅茶苦茶太ってた奴もいて驚かれたな
なんで分かったのかって。」
西武警部補は淡々と、他人事のように話をした。
「それで・・・やっぱり渡辺和則の目は黒かったですか?」
七瀬巡査部長は一番知りたいことを聞いた。
「あぁ、黒かった。真っ黒だ。」
西武巡査部長はそう断言した。




