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第六話 謎の露呈

 俺は握手を交わした後、俺が眠っていた物の上に腰かけ、話の続きを始めた。

「私の事信用してくれた?」

「ああ。そもそも俺が信用するためにいろいろやっていたのは、俺が奴隷と知って見捨てられるかもしれないと思っていたからだ。だから、もう疑う必要はないんだよ」

「そっか、嬉しい」

 アリスは満面の笑みを向けてくる。


「けど、魔法が使える奴隷なんてのはまだ信じてないからな」

「えー、何で?」

「当然だ。魔法は一般人、まして奴隷が使える訳がない。研究したというのも違和感がある」

「うーん、本当なんだけどな。まあ、私は同じ奴隷と一緒に過ごしていたいから、信じてもらいうのはまだでいいよ」

「ああ、俺も証拠でも見つかったら素直に信じるさ」


 それから沈黙の数秒が経過し、アリスが声を掛ける。

「じゃあ、狩りに行くね」

 アリスは立ち上がり、部屋の外にでる。

 昼頃なのか、太陽が部屋の中に差し込み、一気に明るくなる。

 狩りに行くというのは、猪とか魔獣とかを狩って食べるという事だろう。

「俺も行くよ。アリスについていった方が安全だろうからな」

 この部屋に居続けると魔獣が襲ってきた時に危険にさらされる事になる。なら最初から魔法を使える人の近くにいる方が安全なのだ。

「それは構わないけど。私も守り切れるとは限らないよ。助けた時も魔獣に一方的にやられたし」

「でも、行くよ。ついでに寄りたいところがあるんだ」

「寄りたいところ?」

「そう、穴に、行きたい」


 ※※※


 俺が村の人に認められなかった事、結果的に村の女性を助けられなかった事。その原因は分かり切っている。

 職業が元に戻っていた事だ。

 ステータスの穴で手に入れた捕食者と農民戦闘員。この二つが消えて、俺は最弱奴隷に戻っていた。


 アリスの件もあるだろう。

 例えば、アリスが奴隷だとして、いや奴隷じゃなかったとしても、魔法適性130はあり得ない数値なはずだ。


 あの洞窟は職業を変えるという力を持っている。ステータスと言う概念と関係が無い訳がない。

 つまり、あそこに行けば俺の職業が元に戻っていることは勿論の事、アリスが異様な力を持っていることにも何らかの説明が出来るかも知れない。


 今後、アリスと共に生活していく事になるだろうが、食料も防衛も完全にアリスにまかせっきりと言うのは何となく気分が悪い。それに助けてもらった恩もある。


 いつか、恩を返して、村に入れてもらえるようになったら村民に謝罪して、それからは分からないけど取り敢えず、この二つだけは絶対に成し遂げなくちゃいけない。


 アリスがいるから生きてはいけるとは思う。今は待つしかない村の方は生きていれば機会が訪れるだろう。でもアリスへの恩返しは悩ましい。魔法が使える人に対するお礼。


 本当に奴隷なのだとしたら、ステータスの穴は恩返し足りえるだろうか。


 もしそれを恩返しとしてアリスに教えるなら、俺がちゃんと最弱奴隷を卒業しない事には意味がないか。


 ……恩返しも、時が来たら、その時に合ったものをすればいいだろうか。


 まだ、分からない、な。


 ※※※


「ここがアルト君の寄りたいところ?」

 そんなことを考えながら歩いていると、いつの間にか俺たちは、ステータスの穴の入り口まで到着していた。

「ああ、この中だ」

「じゃあ、入ろうか」


 まずは俺が先に入る。

 中に入れば、見覚えのある、赤い洞窟の中。俺はアリスが下りてくるのを、途中補助したりする。

「ありがとうね」


さて、とやりたいことは色々あるが、取り敢えず

「ステータス、職業変更」

 そう言うと、今回はしっかりと職業変更画面が表示された。

「出るのか。……じゃあ、捕食者」

 やはり、職業は更新される。

 なら、外に出てみればどうなるだろうか。

「アリス、俺は一瞬だけ、外に出るからここにいてくれると嬉しい」

「分かった。でも、帰ってこないって言うのはやめてね!」

「当たり前だ」

 そもそも俺はアリスが居なければ生きていく事すらままならないというのに何を心配しているのか。


 俺は穴をよじ登る。

 外に出て、もう一度、

「ステータス、職業変更」

 しかし、今度は最弱奴隷と書かれたステータス画面のみしか出ない。


 つまり外に出ると手に入れたステータスが無かったことになるのか。


 なら果たしてこの穴に必要性はあるのか。

 これでは試験を受けて、合格して職業を手に入れてもそれはただの自己満足、優越感の為だけにしか使えない。俺は別に優越感の為に力を欲したわけだは無い。


 どうするか。

 外で使える方法を考えるのが最善だろうな。

 早く、力をつけないとアリスに負担がかかる可能性がある。最弱奴隷の上限値は両方とも1だから訓練でどうにかなる物でもない。


 ……いや、待てよ。


 俺はすぐに穴の中に戻って、目の前にいたアリスを見る。

「アリス、ステータスって言ってもらえないか」

「え? 構わないけど。ステータス」

 こちら側からは見えないが視線が少し下に向いているため、見えているのだろう。

「そこに上限値って言うのが載っているはずだ。その値、教えてくれないか」

 もし、上限値が130以下なら上限値1でも強くなる可能性があるかもしれない。そう考えると、上限値の意味が分からなくなるし、穴に対する俺の信用は地の底に落ちる。でも正直、強くなれるなら何でも構わない。


「えっと、上限値?」

「そうだ」

「……そんな項目ないけど」


「えっ?」


 どうなっているんだ。

 確か、上限値が表示されたのは激痛を味わう前の筈だ。俺はてっきりこの穴に来れば俺が見たものは見れるものだと思っていたが、そういう訳だは無いのか。


 それも気になるところだが、それはあくまでも上限値が分からないと言うだけで、強くなる方法を一つ潰されたに過ぎない。

 まあ、一つ潰されたのは痛手だが、上限値が分かったところで、上限値を超える可能性を提示できるだけだし、なぜそうなるのか研究しなければならないから、即効性は無いよな。


 なら、さらにどうやって強くなるのか考えないといけない。


「なあ、強くなる方法、分かるか?」

「いきなりどうしたの?」

「いや、アリスはどうやって魔法適性を上げたのか聞きたくて」

「うーん、何をしたっていう事は無いんだよね。サバイバル生活で緑のやつ、あれ色々変形させられるから、それで頑張っていたんだけどね、そしたらいつの間にかすごく上がってたの」

 緑の球体を動かす事が訓練になったのか。参考にはならないな。


 うーん、やっぱり職業を外にも持っていけるようにさせるくらいしかやり方は無いか。


 そんな方法分からないぞ。

「どうしていきなりそんなこと聞くの?」

 俺が考えているとアリスが質問してきた。

「ある程度、自分でも生きていけるようになりたいんだよ。でもやり方が分からない」

「ここに来たのも生きていけるようになるため?」

「そういう事。この先でステータスを上げられる。……はずだったんだけど、その値が外に引き継がれないんだ」

「ん? 何で?」

「何でそうなるか、どうすれば引き継げるかは分からないんだ」


「いや、そうじゃなくて。……ここで強くなったのに、どうしてその強さが外で使えないの?」

 どういうことだ?

「だから、ここで訓練して、ステータス値が上がるんでしょ」

「そうだ」

「ステータスが上がったっていう事は筋肉が付いたとか、そうじゃなくても身体能力とかが物理的に上がってるんだよね」

「そういうことになるな」

「なんで筋肉がついて強くなっているはずなのに、それが外に通用しないの」


 確かにそうだ。

 俺は十六の時最弱奴隷である事が分かったが、それまでの間家の農業を手伝っていたりした。同年代の人たちとの力差はそこまでなかったはずだ。

 にも関わらず、俺のステータスは1でもう一人の方は具体的な数字は分からないが、恐らく、俺と同じ27程度あっただろう。


 そう考えると、俺たちは実際の筋力関係なく多くの事がステータスに左右されていることになる。


 俺たちはステータス値ですべて決まっているのか。

 言い方を変えれば一種の支配だ。ステータスによって対象人物の力を制限する支配。


 ……ステータスって一体何なんだ。


 ステータスの穴で新たな職業を手に入れて、強くなってそれを外に持って行って生きていく。

 ただそれだけなのに、何故か職業は外に持ち込めないし、穴の中では強くなっているはずなのにその値を持ち込めない外では弱くなる、といくつも謎が生まれる。


 この謎は解決しないと強くなれないか?

 いや、体を動かす原理が分からなくても体は動くように、きっと謎を解き明かす必要はないはず。謎は解き明かせなくても結局職業やステータスを外に持ち込めればそれでいいんだから、今は謎への対策を考えよう。


 まず、優先的に何とかしなければならないのは、外に職業を持ち込めない事だと思う。

 ステータスに支配されているうんたらは、ステータスが伸び悩んだ時、若しくは職業の持ち込みに行き詰った時に考えるべきだろう。


 では、具体的にどうやってやるかだが、もう分からん。

 ステータスについて考えていたら謎が深まったし、もう頭だけで考え付くところは過ぎ去ったのではないかと思っている。


「一度、行動に移してみるか」

「行動に移すって?」

「この先に行ってみる。もう一個、職業手に入れてみて、どうなるかとか見てみたい」

 正直、何かが変わるとは思わないが、何もしないよりかはましだろう。それにいつか外に職業を持ち込めるようになったら、強い職業を持って行った方がいいからな。

「それ、私も行った方がいいのかな?」

 どうだろうか。

 上限値が表示されていない事もあるし、いると試験が成立しないかもしれない。

「いや、来る必要はない。来たいならくればいいと思うが、訓練が出来なくなったらここに戻ってきてくれるか?」

「勿論だよ!」

「よし、じゃあ行こうか」

「うん!」

 そして俺たちは物理の方の洞窟に向かった。

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