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勇者様なんですぐ死んでしまうん?  作者: ヒトデマン
死にまくる勇者
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第1話 ステータス・オール・ワン

「魔王を倒す使命を帯びた勇者よ──女神アテナの名のもとに、この世界に現れたまえ──」


 とある神殿で、女神がそのように言うと、地面に描かれた魔法陣からまばゆい光が発せられる。


 その近くで戦士の男、「ギガース」、魔法使いの男、「ウィザー」、神官の少女、「システ」が見守っていた。


「やれやれ、勇者サマだけ半年も遅れて召喚とは、ヒーローは遅れてやってくるとはよく言ったものだね。」


 ウィザーがキザなセリフを吐くと、ギガースも鼻息を荒げて言う。

「うおおおおーーーー!!!!どっちが強いか手合わせしてみてぇぜ!」


 その二人を見てシステはおろおろとして言う。

「ふ、二人とも、仲良くしてあげてね……?」


「皆さん、いよいよ勇者が現れますよ。」

 アテナがそういうと、光は収まり、その中から一人の男が現れる。黒髪のどこにでもいそうな感じの男だった。


「──勇者、『カゲロウ』だ。よろしく頼む。」



 現れた勇者をみたギガースは笑顔を作ると、のしのしと歩いてカゲロウに近づく。そしてカゲロウの体をまじまじと見た後言った。


「なんでぇ、勇者のくせに案外ひょろっちいじゃねえか!俺が鍛えてやろうか!ガハハ!」


 そう言ってギガースはカゲロウの背中をバン!と叩く。


 ──その瞬間、カゲロウは前のめりに倒れて動かなくなってしまった。


 突然の出来事に四人は動揺するが、すぐに気を取り直して状況を分析する。

 ウィザーが叫んだ。


「アテナ様!彼のステータスを今すぐ見てください!システ!回復魔法の準備を──」

「その必要はありません。」


 アテナはそういうと静かに話し始めた。

「彼はもう死んでいます──死因は……脊髄損傷。」



 *


 アテナの言葉を聞いたシステはすぐに蘇生魔法を詠唱し始める。それを見たウィザーはシステに止めるように言う。


「いくら神殿でも、女神の加護を受けた我々は蘇生に時間はかかる!いったん街へ戻って神官たちの協力のもと──」

「蘇りました!」

「早!?」


 皆は、不思議そうな顔をして立ちすくむカゲロウに目を向ける。何が起こったかわかっていない様子であった。ギガースは気まずそうな様子でカゲロウに言う


「す、すまねぇ!あんまり強く叩いたつもりじゃあなかったんだが……」

「ん?何の話だ?」


「皆さん、彼のステータスを見てください。」

 そう言ってアテナがカゲロウに指さす。カゲロウの傍らにはステータスが表示されていた。そしてそこに記述されていたカゲロウのステータスは──


 すべて"1"であった。


 アテナは絶句した。

「嘘、この勇者様──弱すぎ?」


 *


 女神に召喚されし者たちは、平均してそれぞれ1000前後のステータスを持ち、さらに女神から与えられた特殊スキルを持っている。

 子供でさえ10前後のステータスをもつこの世界で、カゲロウの弱さは異常であった。


「と、特殊スキル!なにかすごい特殊スキルをもっているんですよ!」

 システがそういうと、まわりもそうだ!といわんばかりにカゲロウに期待の目を向ける。


「勇者カゲロウ!あなたの特殊スキルはなんでしょうか?ウィザーは魔法無詠唱、ギガースは武器防具精製、システは瞬間治癒のように、自分にあったスキルが私から送られて──」

「いや、ないが?」


 再び全員が沈黙に包まれる。たしかにカゲロウのステータス画面にも特殊スキルの記述はなかった。だがギガースは自分の疑問を口に出す。


「でもよぉ、さっき滅茶苦茶高速で蘇生したぜ?あれが特殊スキルじゃねえのかよ?」

 ギガースの質問にウィザーが答える。


「いや、あれはステータスが極端に低いからさ。宮殿を作るには手間と時間がかかるけど、泥団子ならすぐに誰にでも作れるだろう?……彼は言うなれば泥団子だね。」


 ウィザーの例えに皆が「あー」と納得していると、カゲロウが口をはさんでくる。


「なんださっきからステータスの話ばかりを、魔王を倒すのにそんなものが重要か?」

「とっても大切だと思いますが……」

 アテナの発言を無視してカゲロウは話続ける。


「違うだろう?魔王を倒すのに必要なのは……魂だ!肉体の強さは後からついてくる。」


 カゲロウは熱心に言うがアテナ、ギガース、ウィザーは「うーん」と頭を抱えている。だがただ一人、システはカゲロウの言葉に同調した。


「そうですよね……私もこの世界に召喚された初めのころは弱っちくて、全然役に立てませんでした。でも勇気をだして冒険にでて、ここまで強くなれたんです。あなたもきっと。……さあ!一緒に冒険に出かけましょう!」


 システがカゲロウに握手の手を差し出す。カゲロウも笑みを作って握手に応じると──


 ボキボキボキッ!


 システが信じられないという顔でカゲロウを見た。カゲロウも自分の手をみて呟いた。


「手が複雑骨折した。」


 *


 改まって、神殿の魔法陣を囲むように勇者たちが立ち、その上にアテネが瓶をもって浮遊している。


「魔王討伐パーティーの完成を記念して、神酒で乾杯しましょう!」


 そして勇者たちはコップを持ち上げ乾杯すると各々が神酒を飲み干した。


「さあ!冒険の旅に出発だぜぇ!」

「旅の計画は完璧にね。」

「怪我したときは任せてください!」


 ……一人だけ宣言の声が聞こえない。アテナと三人がカゲロウのほうを見ると、カゲロウは床に突っ伏していた。近くに神酒のグラスが転がっている。


 アテナはステータスを確認して呟いた。



「勇者カゲロウ、死亡──死因、急性アルコール中毒。」

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