誓い合った二人
※オリジナルの他作品の一部の設定を使用しています。
簡潔に、
操術→特定の存在を操る術。風操、なら風を、など。
操石武装→操術の力を宿した武装。
右手に腕輪を巻いた女と、左腰に鞘を下げた男。
「どうしても、分かり合えないのですね。」
そして、風。
「許せ。私は、たとえ殺してでも、君を止めるつもりでいる。」
風は、二人の周りを過ぎるものか。
「そうですか。では ――……。」
それとも、二人が風の中にあるのか。
「参ります。」
動く。
「踊り狂いなさい、【風操・刃舞】。」
女が右手を掲げると、風は、傍観者から複数の凶器へと変貌し、男へと殺到する。
「不可視の風の刃か!」
男は鞘に手をかけ、臆さず風の刃に飛び込む。
「操石武装【零夢】よ、その力を見せろ!」
鞘から抜き放たれる剣身は、しかし、風の刃を打ち払いきれてはいない。
「さすがに、あれで終わり、とはいきませんか。」
それでも風の刃が男に届かないのは、男の振るう剣身から放たれた分厚い水の壁が、風の刃を受け止めたからだ。
「当然だとも!かつて君と共に歩むと誓った私の剣は、この程度では折れぬ!」
風の刃を受けて散った水の壁を突き破り、男は女目がけて駆ける。
「共に歩む、と……。あの時の誓いを、覚えているというのでしたら……!」
女はその場で右手を掲げたまま、腕輪に意識を込める。
「なぜ……。なぜ!なぜ貴方は、私の父を殺した者の味方をするのですか!」
再び、風は凶器となり男へ迫るが、その数は先程よりはるかに多い。
「……研究者だった君の父君は、身を滅ぼす禁忌の操術の研究にまで手を染めていた。」
やや俯き、男も再び剣身で空を裂いて、水の壁をもって風の刃を受ける。
「部隊が突入した時、報告を受けたよ。すでに君の父君は、操術に蝕まれ、もはや人ではなかったと。殺すしかなかった、と……。」
しかし、水の壁は、無数とも言える数の風の刃を受けきれず、徐々に崩壊してゆく。
「……わかっていましたよ。私の父はそういう人です。でも、それでも、私は……。」
風の刃は、容赦などなく、水の壁を削り取る。
「誰かを悪役にしなければ、もう、私は!」
水の壁は完全にはがされるが。
「だから!父を殺した部隊長を殺しに行くのです!止めるというのなら、たとえ貴方でも!」
構わず男は前に出る。
「――そうか。」
まだ多く残る風の刃が、男を襲う。
「かつて私は、君と共に歩むと誓った。」
男の肩を裂き。
「あの時の誓いを忘れたことは片時もない。」
腹を裂き。
「だから!」
足を裂き。
「だからこそ私は!」
それでも片足で跳躍する。
「道を違えた君を!」
裂かれた腹から垂れた腸まで裂かれても。
「たとえ殺してでも!」
剣身を女へ走らせ、男は思う。
「今なお君と共に歩む私は!」
男は、思う。
「君を止めるのだ!」
ずっと、いつまでもずっと、たとえ道を違えたとしても、君と歩みたかった、と。
風は止んだ。
「……ああ。」
ああ。
「す、まな、いが、私、は、先……に……。」
身体の裂け目を折り目に、玩具のように、男の身体が崩れる。
「それが……。それが、貴方の覚悟、なのですね。」
女が見下ろす視界には、形の崩れた男と、血に濡れた、己の身体と大地。
「――……。」
女は、目を伏せる。
「そうですか。」
目を開く。
「私たちは、まだ同じ道を歩んでいたのですね。」
右手に左手を重ね、胸元へ寄せる。
「ならば――……。」
ならば、と、女は思う。
「私の覚悟を、貴方へ捧げます。」
私も、共に歩みを止めましょう、と。