砂丘
鳥取砂丘に到着。金髪美少女とFカップ美少女に挟まれた至福の夢心は終わり、とうとう仕事の時。取り合えず、双眼鏡で事件を遠くから眺めると小竜(C級)が8体ほどでバトルロワイアルしている。
C級が8体って……ヤバいな。しかも、身内で殺しあうくらい獰猛。小ぶりとは言えど、小竜の体長は5mほど。トリケラトプスが肉食になって、ガンガン互いに体当たりしているような光景。
「ダメですね。応援呼びましょう」
「ま、松下さん!? まだ、なにもやってないじゃないですか」
未来ちゃん。世の中にはね、なにもやらなくてもわかることがあるのだよ。
C級8体なんて、もはやB+級のミッションである。俺の禁断の箱の能力はB+級以上の武器の確率が3割を越えない。つまり、7割は、負け試合(死亡)確定なのだ。
「ふむ……意外と冷静ね。報告書とは違うな……」
金髪美少女がそのキューティクルなブロンドをかき分けて、報告書を眺める。
「……ちょっと失礼します」
さりげなく彼女の隣に寄り、さも『俺はあなたには全然興味なくて、ただその報告書を眺めたいだけですよ』みたいな顔をして、彼女の甘い匂いを嗅ぐ(第一希望)。そして、ついでに書かれている報告書も読む(第2希望)。
ふむふむ……松下は、手柄を立てたいがために、危険を省みずに目標に立ち向かう傾向にある。己の実力を考慮することはなく、上司の言うことを無視し、今回の亜悪魔の討伐を行った。同行していた新人も必死に制止し応援を呼ぼうと提案したが、松下は己の欲のために云々かんぬん。
……全部、俺のせいになっている。というか、俺はどんだけ無謀な特攻野郎だ。
まあ、そんなことよりいい匂いだ(ラベンダーか)。
「松下さん! 遠隔攻撃する手段もありますし、一度トライだけしてみませんか?」
やる気満々の未来ちゃん。両こぶしを握り脇をギュッとしめると、胸が強調されてヤバい。オッサンの別のやる気がフツフツと湧き上がってくるのを……感じざる負えません(キリッ)!
「いや、遠隔は意外に危険なんだよ。攻撃位置を特定されるし、あっちの遠隔があった時にヤバいからね。あの小竜って確か、遠隔持ちだった気がするけど……あった。
【怪物図鑑】
種類: 雷竜
特性: 雷属性の光体を吐く。威力はカミナリに撃たれるのと同等。
……即死やん(紳助風)。
「えーっ……遠いから避けられると思うけどなぁ。一回先制攻撃してみません?」
……攻撃的なのは、君のおっぱいだけで、充分だよ。どうせ、前の亜悪魔の時みたいに『松下さん松下さん松下さーん』ってオロオロするんだから(それもまた、おかし)。
「……じゃあ、こんな時は上司に判断を仰ぎましょうか? どうします、桜子次長」
さりげなく、苗字の『日比野』じゃなく、『桜子』と呼ぶ。呼び名は親密度を表すため、これは、かなりの冒険であるといえる。でも、多少怒られても、これで定着させておきたいところだ。
「ふむ……」
よし、気にしてない! これで、今回の裏作戦は完了した。いつか……桜子と呼び捨てしてヒーヒー言わせる。今夜はその妄想を繰り広げ、から揚げをお供にレモンチューハイで乾杯。
「やってみれば?」
さらりと言ってのける桜子ちゃん。
「えっ、でもいいんですか?」
俺の能力は一度使わないと、次が出せない。仮に、近距離の能力が出たら、近づいて使わないといけない。しかも、1日3回、持続時間5分という条件付きだ。応援者が到着した時に、援護として『禁断の箱』を使用するのがベストだと思うが。
「今回は君の能力を知るための応援は知り合いのA級を呼ぶ予定よ。一度ここで使ってみればいいじゃない」
「……まあ、そう言うことなら」
さりげなくその美しい顔をガン見。ああ……このまま危険に襲われて彼女の呼吸が停止して、その唇を思いきりマウストゥーマウスしたい。
「じゃあ、行きます……『禁断の箱』」
唱えて出てきたのは、大鎌だった。
禍々しい闇と神々しい光が刃に宿り、圧倒的な存在感を放つ。
よし……『死神の鎌』だ。
「これなら、問題ないですね」
斬
8回。実に8回死神の鎌を振り回した。それだけで、勝負は決した。雷竜はその能力を発揮することともなく、気づかぬうちにバラバラになった。
「……」
「あの……終わりましたけど」
桜子ちゃん、黙っちゃった。もしかして、俺のあまりの有能ぶりにホの字ですか? いいんですよ。今夜は帰りたくない宣言しちゃっても、いいんですよ。
「松下さん……やっぱり凄い」
未来ちゃんは、相変わらず尊敬のまなざしで俺を見てくれる。
今夜は3Pか。
「……A+」
「えっ? なんですか桜子次長」
Aまでならいいですか? Bまではダメでしょうか?
「少なく見積もっても、A+級の力がある……凄いわね」
素直に賞賛されて、少し照れくさい。
「いや、運しだいの能力なんで、たまたまです」
「またまた謙遜しちゃって」
未来ちゃん。謙遜じゃないんだよ。回数を重ねていくとわかるが、本当に確率の問題だ。B級以上だと3割を超えない。せめて毎年3割を超えれば……野球選手だったらメジャーにも行けるのだが(全く関係ない)
とにかく、作戦は問題なく完了した。