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新幹線


 新幹線。人類の英知にして、快適な乗り物。平日にもかかわらず指定席が許されているのは、大企業の数多い利点と言ってもいいのではないだろうか。そして、左手には、金髪美少女。右手には、Fカップ美少女。通路挟んだ横のオッサンは、『ちっ、運が悪いな』とこっちをガン見してくる。

 悪いな、オッサン。こっち(天国)は、いい香りだよ。

 この子たち、寝ないかな……寝たらガン見るできるのに。


「松下さん、桜子次長。UNOやりませんか?」


 えっ、そんな修学旅行的なノリが許されるの――「やらない」


             ・・・


 ……てめえの薄い胸に全力ダイブしてそのまま通路中をグルグルしてやろうか――――――――――!?

 と、心の叫びを押さえつつ、新幹線には恒例の煮卵を食べる。


「っと、ちょっとトイレ行ってきますね」


 鳥取は長旅だ。席を跨ぐときに、未来ちゃんのFカップを凝視できるという役得。自ら志願して真ん中の席を確保した甲斐があったというものだ。


 じ――っ……ふぅ。

 後、5回は使えるな(確信)。


 トイレに行くと、先客がいた。なんとなくシャドーボクシングをして時間の潰していると、ことが終わったようで、洗浄音が流れて出てくる。


「あっ、すいませ……」


「いえい……」


 !?


 黒づくめの男。


「……」


「……」


 ああ、終わった。バイバイマイライフ。零の手は、存在を消す能力。半径2メートル以内確定。もう、どんな手を使っても逃れる術はない。


 こんな事なら、未来ちゃんの胸を壊れるほどの揉みしだいとくんだった(走馬灯)


 その時、


「れーちゃーん、おーそーいー」


 と、一人の女性が黒づくめの男に巻きつく。


「お、おいやめろよ。あんまりくっつくなって……」


「えーっ、なんで照れてんの? いつもだったら――知り合い?」


「え? あ、ああ。まあ……」


 気まずそうに俺を流し見る黒づくめの男。


「あの……初めまして、松下です」


「初めましてー! れいちゃんのー、彼女の瀬理奈でーす」


「ちょ……お前、ちゃんと自己紹介しろって!」


 腕に巻き付いてくる瀬理奈さんを窘める黒づくめの男をよそに、彼女をなんとなくガン見してしまう。


 なんというか……超可愛くない。体重は実に80キロを超えるだろうか。小柄な体にもかかわらずその凝縮された肉厚は、ビックマックを思い起こさせる。一般的に、かなりお太りになっている部類である。少なくとも、全然タイプではない。


「……その、ほら。今は、お互いプライベートってことで」


 いろいろバツが悪そうに言う黒づくめのれいちゃん


「そ、それはこっちとしても凄く助かります」


 死ぬかと思ってたから。絶対に存在消されるかと思ってたから。

 そして、むしろ、ダイナマイトな彼女がいるれいちゃんに、凄く親近感が湧いている。今は、俺の死んでほしくない人リスト10位以内に入っているよ。


「じゃ、じゃあな」


「はい……お疲れ様です」


「ねー、れいちゃん。ピザ食べたーい。ピザピザ」


「ば、ばか。さっきかけそば食べたばっかりじゃねぇか」


「だってぇ、お腹減って――」


 ウィーン


            ・・・


 自動ドアが閉まった。

 とにかく、九死に一生を得たのは確かなようだ。

 それから、新幹線トイレで用を足し、手を洗っていると、再び自動ドアが開く。


「松下さん松下さん松下さん松下さ――――――ん!」


 俺をガクガクと揺らしシャツが水でべちょべちょになった。


「ど、どうしたの?」


 揺らすのは君の胸だけで十分だよ。


「黒づくめの男! 黒づくめの男がいます!」


 ああ、会ったのね。


「うん、さっき見たよ」


「なんでそんなに平然としてるんですか!」


「ま、まああっちもプライベートだから。そっとしといてあげようよ」


「プ、プライベート……ってなんでそんな事知ってるんですか!?」


「いや、さっきチョット話してて。凄くいい奴だったよ」


「な、なにを……いい奴が反政府組織に加担してるわけないでしょう!」


「……」


 まっすぐに見つめる未来ちゃんの瞳、萌える。真摯にSERFの正義を疑っていないその眼差し。この組織が、どれだけ人間の欺瞞に満ちているかも知らないで……ああ、結婚してくれないかなー(悲願)。


「とにかく、今日は存在を消されることはないと思うから」


「な、なんで敵をそこまで信頼できるのか、私にはわかりません」


 信頼というのは、少し違うのかもしれない。


「人間……だと思ってるからじゃない?」


「……えっ?」


「人の存在を消す力って……言わば呪いだよ。そんな風には感じなかった?」


 天涯孤独。まずはその言葉が思い浮かんだ。先天的にこの能力が発現されたのであれば、間違いなく家族の存在は消えている。さぞや、地獄であっただろうとは容易に想像できるところだ。むしろ、ここまでよく生きてこられたのだとも。


 あんな風に人間臭く生きて入れること自体、奇跡だと思った。イメージでは、もっと冷酷で、澄ました感じの。まあ、あの瀬理奈さんのいる前だけかもしれないけれど。


「……」


「そんなに深い意味はないから。行こう」


 そんなに悩ませるつもりはなかった。君には凛としていて欲しい。

 まっすぐ、凛と立っている、君のおっぱいのように。


 席に戻ると、斜め前にイチャイチャしてるバカップルが。


「れーちゃーん。あーん♡」


「ば、ばか周りが見てるだろう!?」


「いいじゃーん、見せつけてやろーよ。はい、あーん♡」


「……」







 れいちゃんは結構いい奴だった。






 




 

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