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下水道


 目的地に着きマンホールを開けると、尋常じゃないほどの腐臭。設置されている鉄の梯子を恐る恐る降りると、なんの変哲もない下水道が広がっていた。汚水の川が流れ、変な虫がブンブン飛んでいる。


「さあ、張り切って行きましょう」


 腕を大きく振りながら、大きな胸を震わせながら突き進む未来ちゃん。若干19歳という若さが眩しい。そのつるやかなモチ肌は、こんな下賤な空気もものともしないハリがある。


「しかし……なにもこんなところにスライムも繁殖しないでも。はぁ……面倒くさい、そして臭い……」


「そんなこと言わないでくださいよ。人々の私たち覚醒者の役目じゃないですか」


 世界変革が起きた時、人類の0.01%に脳内に変革が起きた。一般には覚醒アルフと呼ばれる現象である。超人的な能力を有し、世界同時多発的に出現した怪物の脅威に対抗する力を持った彼らは、各国の兵隊では賄えない地域の救世主となった。


 ヒーロー国際派遣会社『SERF』。覚醒者と呼ばれる能力者を『ヒーロー』と称賛し、半強制的に括り付けた組織である。未来ちゃんのように、望んでこの組織に入る者はいるが、そうでない者も決して少なくはない。


「あっ、発見」


 未来ちゃんの指さす方を見ると、ゼリー状の固形体が下水の流れをせき止めていた。


 スライム。出現期に置いて世界に最も困難をもたらした怪物である。水気のある場所に生息し、水の流れを変えたり堰き止めたりする単純細胞体であるが、その生息範囲は全世界中。水は生命にとって、必要不可欠なものだ。世界中の重火器を集めても焼き尽くすには圧倒的に物量も、兵数も足りなかった。


 そんな中、活躍したのは、炎を司る能力者だった。


「じゃあ、いきます――炎の紋章(ファイアエンブレム)


 指先から放たれる炎は、スライムに命中し、下水を帯びた固形物が溶け出す。それは酷い異臭を放ち、黒い煙を巻き起こす。


「凄いな……」


 その素質に思わず唸ってしまう。

 一般的に能力者は4つの系統に分類される。狩猟ハンター系、ソード系、シールド系、精神マインド系。狩猟ハンター系の能力者は、経験値に最も依存されやすい特性を持つ。ほとんど経験値がない炎にしてこのレベルであればこの先A級以上の怪物も倒せるレベルに育つかもしれない。


「エヘヘ……ミッションコンプリートですね」


 クルリとジャンプしながら天使の笑顔を向ける美少女可愛い。着地の時に胸がはちきれんばかりに揺れて、至福の夢心地である。


「じゃあ、帰ろうか」


 楽な仕事でよかった。ほぼ、第3者的な立場で趣味である実況・解説(一人妄想)をするだけで、特に何もすることがなかった。平和最高。


「ほぅ……炎の能力者か」


 焼け落ちるスライムの奥に佇んでいる男。シルクハットにコート。全てを黒でコーディネートしたお洒落ダンディー。


「だ、誰!?」


 予定にないゲストに、慌てふためいて叫ぶ未来ちゃん。最近の調査部は結構サボっているような気がする。吉森次長が抜けて気が緩んでるのかな。


「ここに、スライムを導いた男、とでも言っておこうか」


 キザなダンディーだ。ニヒルな微笑みが、それを一層際立たせる。


「未来ちゃん」


「な、なんですか松下さん」


「もう、行こう」


「!? どうしてですか! あの人が黒幕なんですよ? 自ら自供したんですよ」


 猛然と顔を近づけて睨んでくる未来ちゃんにドキドキ。10㎝ほどの距離に、オッサン照れちゃう。


「いや……多分だけど、ヤバいよアレ」


 恐らく誘き寄せられたのだ。SERFに属してない覚醒者は、大抵が無法のフリーランスで、反政府を掲げ組織を結成している者たちも多い。十中八九その類と考えてほぼ間違いないだろう。


 SERFと同様、彼らが欲しているのは優秀な覚醒者。すなわち、未来ちゃん(Fカップ)。そんな彼らに僕の癒しを奪われては堪らない。


「なに言ってるんですか! そこのあなた、一度SERFにご同行いただけますか?」


「クク……同行して、俺を拷問して洗脳するのか?」


「バカな。事情を聞くだけです」


 両方の会話を聞き、間違っているのは未来ちゃんで、正しいのは黒づくめの男だ。SERFに属さぬ覚醒者を、事情を聞くだけで済ますはずはない。


「……まっすぐだな。反吐が出る」


 黒づくめの男は数歩下がる。


「逃がしません! 炎の紋章(ファイアエンブレム)


 放たれた炎は、男の周りを取り囲み、退路を完全に断った。恐るべき操作能力である。


「いい素質だな。調教のし甲斐がある」


 男は掌を地面にかざすと、炎が一瞬にして消えた。一見しただけでは、その能力の特性はわからない……非常に厄介なタイプだ。


「嘘……」


 信じられない様子で、怯えた顔を見せる未来ちゃん。そんな表情も、また趣深い。いと、おかし。


 とまあ、ここまでは想定内。未来ちゃんの能力を見た上で現れたのだ。十分な勝算があるのは想定済みだ。


「ま、松下さん……」


「まあ、やるだけやるけど……ダメな時はダメだから」


 いつものように、そう口走って未来ちゃんの前に立つ。


 でも――






 俺が負けて、未来ちゃんが捕らえられたら、調教する時は、ぜひとも呼んでいただきたい。

 


 


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