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残業代

 グリム兄弟は次元超越者だったと、天才物理学者柳沢教授が語ったのは200年ほど前である。彼の理論によると横軸に『時間』という概念が存在した時に、次元が縦軸に存在し、この世界は波線を打つように揺れて存在し続けているという。グリム兄弟は、縦軸である『次元』を超えることによって、この世界にファンタジックな概念を持ち込んだとのこと。


 柳沢教授は『いつかその波長同士が特異点で合致し、異なる世界が混じりあう日が来るはずだ』という言葉を残して姿を消した。彼の理論が証明されたのは、それから、30年後。彼の言葉を使うならば『幻想ファンタジー現実リアルを襲った日』ということだろうか。


 ドラゴンが跋扈し、悪魔族が徘徊、スライム、巨人等々、今まで幻想世界と空想化されてきたものが、おおよそ別次元の情報を脳内で描いていたに過ぎなかったということに、人類が気づいたころには、マスコミは柳沢教授をえぐいほどこき下ろした後だった。


 まあ、これを語る上では人間機械ヒューマノイドの台頭、人類の覚醒アルクの説明が不可欠かもしれないが、それはおいおい。


 しかし、そんなことより、同期のヒーローが上司になった。


「松下さん! なに、ボーっとしてるんですか!?」


「えっ、ああ……ごめん」


 現実逃避してたわ。


「おっ! 松下。どうだった?」


 神宮寺が、機嫌よさそうにこっちに来る。


「あっ……と、まあ大丈夫()()()()


「だった……()?」


 急に不機嫌な顔になる同期。


「いや、その、まあ弱い……というか、比較的――「敬語!」


             ・・・


 てめえのあばら骨ぶった斬ってやろうか―――――――――!?

 ――なととは、口が裂けても言えるはずはなく。


「……すいませんでした。神宮寺班長」


「いや、わかればいいんだよ。あっ、誤解しないで欲しいんだけど、別に偉ぶりたいから言ってるわけじゃなくて、ヒーロー活動ってチームプレーだろう? そこはビシッとしとかないと。ケジメだから」


 そんな風に俺の肩をポンと叩く。


「……さすがは神宮司君だな」


  指導職3段の職位にあたる海原うなばら課長がウンウンと頷く。


 ヘリポートは黙ってろ! てめえの海藻みたいな髪全部むしり取ってやろうか! ――などと言えるはずもなく。


「やめてくださいよ。僕が課長からそうやってご指導頂いてたからしているだけで。やっぱり、規律は業務にあたって一番重要な要素ですからね」


 神宮寺のさりげないヨイショに、思わずため息が出る。


 狙い(ターゲット)から外れたところで席に戻――


「あの! 松下さん、凄いんです! あの劣悪種の亜悪魔を一人で倒しちゃったんです」


 ……おい未来ちゃ―――――――ん(Fカップ)!?


 周りを見渡すと、みんなが俺を見てシーンとなっている。先ほどのワイワイがまるで蜃気楼だったかのように。


「おい松下……」


 神宮寺……班長の低い声が響く。


「は、はい」


「聞いてねぇぞ俺は」


「あの……それが、実際に行ってみたら報告と違ってて……」


 簡単に言うと報告書が誤りだった。群馬県の近隣住民の証言では、小悪魔(D級)とのことだった。まあ、『怪物を発見したらすぐに逃げる』が鉄則なので、素人が正確に確認できないのも無理はない。そんなことは往々にしてある。


「そういうことを言ってるんじゃないんだよ!? 報告・連絡・相談! 基本だろう? ホウレンソウ! 新入社員研修の時に習っただろう? ホウ! レン! ソウ!」


「……すいません」


 正論だ。



「あ、あの! でも、襲ってきて! 連絡なんかする暇なかったんです!」 


 Fカップは黙ってろ―――――――! そして、今度揉ませてくださ―――い!

 そう盾突く可愛い新人に、神宮寺は頭ポンポンする。


「未来ちゃんは仕方ないよ。まだ、研修受けてないから。でも、考えてみてくれるかな? 例えば、亜悪魔の脅威が去った時。すぐに携帯で電話報告。これはできなかったのかな?」


「……すいません」


 しゅんと謝る未来ちゃん可愛い。掌を合わせて腕を狭めることで強調される胸のラインヤバい。


「いいんだよ。今度、気をつければ」


 再び、頭ポンポン。


「でも! こいつは!」


 俺のおでこツン。


「何回も何回もそう言ってるのに!」


 ツンツン。


「全然治らないんだからな――――――――――!」


 ツン―――――――――――――――!


「……本当に申し訳ありませんでした」


 おまっ、爪きれよ。チャオズみたいな血の斑点できちゃったじゃないか。


「何回目だ? 俺からも、海原課長も、何回も何回も言ったよな!? なんで治さないの? ねえ、逆に不思議なんだけど」


「申し訳ありません」


「いや、謝罪を聞きたいわけじゃないから。むしろ、謝罪してもらってもなんの効果もないってことが、今、ここで証明されたわけだから」


「……」


 今日は、定時で帰れると思ったけど、残業1時間か。

 注)自己啓発ということで残業代はつかない


「あ、あの。私のせいなんです! ごめんなさい!」


 こら――――――! そのおっぱい呆れるほど揉みしだいてやろ――――か―――――――――――!


「未来ちゃんに責任はないよ。失敗できるのは新人の特権だから。でも、お前はもういくつだ? 今年34歳だろう? いったい、なにやってるんだ?」


 海原課長参戦。

 残業1時間追加――――!

 注)自己啓発ということで残業代はつかない


 飲み会で、海原課長のカツラ(本人証言ではウィッグ)を偶然滑り落して以来、どうにも嫌われている。







 結局、残業は3時間だった

 注)自己啓発ということで残業代はつかない


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