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キキ(危機)


「おい! お前、携帯見せてみろよ!」


 彼女と同い年くらいの大学生だろうか。正義感に燃えている年頃。この世に悪は許さない敵立ち位置で、彼が俺を責め立てる。


「そ、それは……」


 思わず言い淀む。


「ほらな! どうせ、悪事の限りを尽くしたんだろう? カメラには盗撮画像がバンバン出てくるんだろう?」


 な、なんて酷いことを。


 当然、盗撮画像など、ない。


 しかし……痴漢AVは、山ほどある(有料)。


 インターネットの閲覧履歴にはズラリ。お気に入りには、上位から、一位マッサージ、二位NTR(不倫)、三位痴漢……正直、変態ととられかねないほどの分量である。もちろん、有料で合法だ。だからと言って、世間様に大手を振ることができないのが、悲しい所だが。


 物的証拠ではないが、心証的証拠感が半端じゃない。


「け、携帯は困ります」


 その一言で、風向きが大きく変わる。さっきまで傍観を決め込んでいたリーマン勢の表情が一変。酸いも甘いもかみ分けた企業戦士たちは、『えっ……お前ガチのやつだったの?』と心理的距離を開ける。


「変態死ね」「お前みたいなやつがサラリーマンの地位を貶めるんだよ」「携帯ぐらい普通に見せられるだろうが」「車掌さん、誰か呼んでくれば」「あーあ、お前の人生オワタな」


 一斉に浴びせられる罵詈雑言。


 さようならシャバの生活。こんにちは留置所生活。母さん、僕は警察官の取り調べに耐えられそうにありません。罰金5万。老後の生活で示談金を支払うことにします。


               ♪♪♪


 そんな時、兄からLINEが来た。


 こ、こんな時になんなんだ!?


「仮想通貨やりたいから50万円かして?」


 ……そっと、携帯を閉じた。


 ウチの兄貴は浪人して大学に行って中退してさらに大学に行って休学して結局8年間大学生活兼ニートを満喫していたにも関わらず、働き先で突然キレてゴミ箱を蹴って足の小指を折ってクビになったというガチのクズである。その後も、クレジットカードで借金をしまくり、俺にも100万ほどの借金があるが、『夢を追いたい』と言って東京に単身上京したが、ついに仮想通貨にまで手を出したか。


 同じ東京にいても関わりたくのない身内である。


「ほらな! こんな奴だからそんなクズみたいなこと言われるんだよ」


 大学生が俺の携帯を取り上げて兄のラインを掲げる。


 そ、そいつと俺は何のかかわりもありませーん! ただ、血のつながりがあるだけで(重要)


 その時、


「携帯おろしてあげなさいよ」


 綺麗で静かな声が響く。


 その方を振り向くと、一人の美少女がいた。透き通るようなエメラルドの瞳をした黒髪のロングは背中まで長く、その細身の身体にを見事なまでにひきたたせている。その絵画に出てくる女神ような神聖な雰囲気は、この満員電車、満員オッサンの雰囲気にまったくと言っていいほどそぐわない。


 現に、この満員電車の中、彼女の周りだけは少し距離を離している企業戦士たち。美しいモノを見ると、つい距離を取ってしまうのは悲しき男の性なのかもしれない。


「な、なんだよ……俺はこの痴漢野郎の証拠を見つけるためにだな」


 若干気後れしている大学生。まさか、女子にオッサンがかばわれるとは思いもしなかったのであろう。


「まだ、この人が痴漢をしたと決まったわけじゃないでしょう?」


「そ、それは……」


「私、さっき見てたわよ。この人は、ずっと手すりを両手で持ってた。身体も密着させてなかったと思うけど」


 途端に周囲がざわついた。


「ねえ、誰か他にこの人が手すりを持ってるの見た人」


 すると、手を挙げたサラリーマンが二人。


「確か……なんだけど」「俺も……確証はないんだけど」


 彼らの位置関係から察するに、この女子大生を眺めまわしたいにも関わらず俺みたいなオッサンが壁となっていたので、「なんだ、このオッサンは」と忌々しく思っていたから覚えていたのだろう。

 感謝するぜ、同胞。


 すると、形勢逆転。

 女子大生の視線が一斉に降り注ぐ。


「い……いえ違うんです!」


「なにが違うのかしら?」


 慌てふためく女子大生(Dカップ)に対して、美少女(推定Bカップ)は、その首を傾げて問う。


 彼女は……若干中躊躇し……頬を凄く赤らめて口を開く。


「その手じゃなくて……股間の……反り立ったモノが」


 アベノミクス第3の矢だと――――――――!?


「この変態やろーがあああああ!」


 胸倉を掴まれて見知らぬ大学生風男子に殴られそうになる。 


 ひ、ひ―――――――――っ! 記憶にございませーん!(多分)


「ねえ、証拠は?」


 黒髪美少女はその発言に一ミリの動揺も見せずに尋ねる。


「……えっ」


「この男の、股間をあなたに擦り付けたという証拠」


「そ、それは立ち位置的に……」


「そうは見えなかったけど。やっぱり距離は少し離れていたし、その時、あなたは携帯をいじっていたわけだから、カメラか何かで証拠取れたんじゃない?」


「こ……怖くってそれどころじゃありませんでした」


「叫ぶことはできたのに? 指さすことはできたのに? 手に持っていたカメラで写真をとることはできなかったの?」


「と、取ろうとしましたけど手が震えて……」


「ねえ、あなたの携帯見せてよ」


 !?


「な、なんで……取れてないって」


「さっき痴漢が起きてた時間にあなたがなにをしていたか調べるの。まあ、LINEとかメールとかね」


「そ、それは……」


「『たっくん、待ってて。リーマンなんて超簡単。もうすぐこのオッサンから30万円徴収するから、そのお金で乾杯しよ♡」


「み、見たんですか!? ……あっ……」


 途端に表情を蒼白にさせる女子大生(Dカップ)。


 勝敗が決した瞬間だった。




 




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