電車
残念ながら、日帰りで鳥取から東京へ帰ってきた。そのまま、桜子ちゃんと未来ちゃんはそのまま会社へ戻り、俺は電車で直帰。社畜になる気はない(残業嫌い)。
山手線は今日も、満員電車……だっ!
絶望、絶望、絶望。女性専用車両なるものができ、ここ一般車両はオッサン地獄と化す。オッサン、オッサン、オッサン(はげている)。一昔前までは、女性専用車両が成されるまでは、痴漢なる犯罪が大量発生していたという都市伝説。痴漢という残虐非道な行いにより散って行った企業戦士は星数多の如く。
彼らは、その社会的地位への没落と家庭内の絶対的カーストを奴隷に貶めるというリスクにも関わらず、果敢に痴漢行為に及ぶといった言わば、狂戦士。負けた戦士たちは、その後の生活に暗い影を落とす。
そして、痴漢が残虐非道な犯罪とすれば、痴漢冤罪は死の宣告。痴漢をでっちあげる女性たちが増え、リーマンは戦慄した。
ひとたび痴漢呼ばわりされれば、行為に及んでいないという証明は困難。5万円という決して安くない額の上納金を国に納めて、自らの罪を認めれば、
プライドを捨てさせられた冤罪者たちの悔しさが、今日も俺たちの手を万歳させる。
しかし、これは決して降参のサインじゃない。妻や子どもを守るための誇り高き儀式。
まあ……俺は独身なんが(独白意味なし)。
♪♪♪
次は―、新宿ー、新宿ー。
ふぅ……またしてもオッサンまみれの数十分。
♪♪♪
「はぁ……はぁ……すいません、乗りまーす」
ぐはぁ!
強引にタックルをかましてギリギリ乗ってきたのは、可愛い推定女子大生(推定Dカップ)。反射的に俺たちリーマンたちの手が万歳のポーズになる。立ち位置的には女性が俺のすぐ前に陣取る。急いでいたからだろうか、女性専用車両ではなく、ホームから一番近い車両に飛び込んできたようだ。
さて……逆に万歳ポーズを取ったところで、完全無罪成立。そうなれば、しめたものだ。
ここからは、心理的犯罪(俺のターン)。
ところで、今やCMでも使われている美人のモデルと女芸人とのコラボレーション。公然とは言われていないが、世界の持つ欺瞞を如実に表したものだといえる。アレは、塩大福のようにしょっぱさと甘さを併せ持つことによって美味しさを増すという効果を持つ。
俺はこの時にそれを応用する。しょっぱいオッサンと可愛いDカップ女子を交互に見ることによって、より女子大生(推定)を美味しく味わおうという算段。
盗撮は犯罪。スカートを覗き見るのは犯罪。胸の谷間を除くのも犯罪。
しかし……胸と顔を見るだけなら、犯罪にならない。
一見、犯罪行為には及んでいないと見せかけ、心の中では犯罪を犯しているという思想良心の自由をフル活用したまさに……完全犯罪!
・・・
「この人、痴漢です」
その時、衝撃的な言葉が走った。
しかし、俺は触っていない。ポーカーフェイスも崩していない。視線も、オッサンと交互することによって、凝視もしていない。もちろん、両手は万歳ポーズ(完全勝利のポーズ)
以上、完全犯罪の証明終了!
とすると……誰が……ん?
指が、こちらを指している。
……そっと首をそらすが、その指がついてくる。
彼女の指が、ついてくる。
「……俺?」
コクリと女性が頷く。
なに――――――――――――!?
そんなバカな……この完全犯罪が見破られるとは。いや、そんなはずはない。彼女はブラフ(嘘)をついているのだ。
「ち、違うよぉ」
我が声ながら、それは震え、怯え、上ずっていた。自分で言うのもなんだが、明らかに嘘くさい。でも、俺はきちんと両手を万歳してたんだ。思想良心の自由が侵害されない限り……このアリバイは崩せない(キリッ)。
そんな自信から、彼女の可愛い顔を見据えると……涙!?
「おい変態野郎!」
隣から、リーマンが苛立ち紛れに叫ぶ。
そ……そんな。君は仲間だろう!?
「ち、ち、ちがいますよ! だって俺は両手を万歳してて……ほら、みなさん見てましたよね?」
「見てねえよ!」
ガーン。
「みなさん! どうですか!? 俺は両手ずっと万歳してましたよね?」
……シーン。
なんてこったい。彼女の涙によって、完全アウェー。アリバイは立証されず、心証の問題になった。そして……彼女と俺の心証を比べてみると……どちらが高いか……比べるべくもありません!
「おい、次の駅で降りろよ変態野郎!」
ああ……オワタ。
オワテ……しまった。
こんな事だったら……本当に痴漢してやればよかった―――――(心の叫び)




