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05 私の旦那様と娘たちがまばゆくてツラい。

私はライラ。

紅茶が産地の片田舎に住む平凡な村娘だ。

父は茶摘みで母は専業主婦をしている。

こんな家庭を持ちたいなと思って暮らしていた。


ある日友人のルゥナが顔を赤くして、


『街のお祭りに行こうよ!』


と誘ってきた。

最初はあまり乗り気ではなかったが、それを聞いた母がお小遣いをくれて行くことが決定した。

まさかそこで後の旦那様であるヴァーグが村まで付いて来るだなんて誰が考えただろう。

門の前の警備さんと話していた兵士さんが物凄い強面だったので覚えていただけだったのだ。

村にも似たようなおじいちゃんがいて、目付きが悪いから子どもに最初逃げられてしまうのだが実際は凄く優しいおじいちゃんなのだ。撫でてくれる手が優しくて大好きだ。

きっと苦労してるんだろうな、と思って横を通っていった。


次の日に本当に苦労していた。思わず笑ってしまう。やっぱりおじいちゃんと一緒。

仲裁しにいくと兵士さんは感謝してくれた。これこの人にとって毎年恒例なんだろうな。

話してみると驚くほど礼儀正しい人だった。

そうして気付くと仲裁しに来た際にルゥナ達とはぐれてしまったらしく、周りに知っている人が誰もいない。

その事を伝えると「迷子ですか……。」と返されたものだから恥ずかしくてツラい。埋まりたい。

でも兵士さんは一緒に探してくれると言ってくれたので、少し安心する。

最悪、宿に帰れば合流は出来るだろうと言われると、それもそうだわ、と頷いた。ただ向こうがはくれた事に気付かないと宿屋前で立っているだけで1日が終わるだろうと言われるとそれは嫌と返した。

だって折角……わざわざ街まで……。うぅ……。


『俺からはぐれないように、してください。』


と言って私の少し後ろを歩いてくれる。

少し横を見ると兵士さんの逞しい体が見えた。

ん?とこちらを見返してくるのに吃驚して前を向く。

……どうしよう、街の男の人って慣れない、かも。うちの村にはいないタイプの男性だ。

なんだろう、紳士的?というかなんというか。

村の男達と比べてはいけないなにかだ。

私はルゥナ達を探しているはずなのに、チラ、チラと横目で見てしまう。

見てるのバレてないかな。


『そういえばお連れの人の特徴はどんな感じですか?』


ーえ?、あ、ええと……赤い髪でおさげですね。今日は確か黄色いワンピースを着てます。私の幼なじみで、17歳にしては少し小柄です。あと、もう1人は金髪で私と同じくらいの身長です。髪型は上で一つに纏めてます。服は上が青で下が茶色のズボンです。



『なるほど、わかりました。俺も探しますからあんまり落ち込まないでください。』


ー……わかりやすかったですか?


微笑まれた。

余計にツラい。


歩きながら色々と喋ったのは覚えている。

ここには友達と遊びに来たとか、普段はこんなことしているとか、とにかく自分の事を喋った気がする。

そしたら兵士さんは道の端の方に寄って、



プロポーズされた。



いや、これは私が勝手にプロポーズだと思っているだけで兵士さんからしたら普通の挨拶のようなものなのかもしれない。だってなんの脈絡もなかった。どこからその話しに飛んだの!?訳が分からないよ兵士さん!

それともこれはナンパだったのだろうか。うええ?でもさっきまで普通だったよ?

とりあえず考えさせてくださいと答えて時間を稼ぐ。

混乱した頭が、え?え?としているとルゥナ達が目の前までやってきていた。


『祭りの間は迷子には気をつけてください。』


そう言って兵士の礼をして去っていった兵士さん。

私はただ呆然とした。



宿に帰ってルゥナ達にそれを話すと、何やら訳知り顔で明日はその人に会ってお礼を言ってらっしゃいと言われてしまった。

なんだかニヤニヤしている。2人ともなんだかニヤニヤしている!


『まさかこっちでねぇ。』

『あいつ等が知ったら面白いよ。最高。』


『ライラ、私達の笑顔の為に頑張って!!』


『期待してる。』


訳が分からない。



翌日、件の兵士さんをルゥナ達と歩いている時に見つけた。


『おお、確かに強面。』

『ライラ、いってらっしゃい。』


発破をかけられて仕方なく向かうと、向こうも此方に気付いて挨拶される。

お礼、お礼いわなくちゃ……。


『……ええと、また迷子ですか?』


ー……え?あ、はい。


『昨日で顔は覚えてますから、直ぐに見つかりますよ。大丈夫です。』


なんだか不名誉な勘違いをされた。

しかし気を取り直してお礼を言えば、どういたしましてと普通に返される。

……やっぱり昨日のは勘違いだったのだろうかと心持ち安心して話していると、なんと地元のお茶はこちらで人気だったらしい。

兵士さんも飲んでいるのだと聞くとなんだか不思議な気持ちになる。

父の仕事は私も手伝っている。だからお茶といえば私が摘んでもいるのだ。


私が摘んだお茶が兵士さんに……。

これ以上はいけない。なんだか本能的にストップがかかった。頭が真っ白だ。

そうこうしているうちにも話は進み、兵士さんに尋ねられる。

いつ帰るか……っていうともう明日だ。そもそも宿は2日でとっていて、帰りの乗合馬車も決めてある。

最終的に村まで行く商人さんの馬車も決めてあるが、あれはあんまり好きではないので憂鬱な気分だ。多分、いつもくる商人さんが馬をひいてるだろう。あの人苦手なんだよなぁ……。

そんな事を考えていると、兵士さんがまた私を護衛したいと言ってきた。

いや、私達を、か。吃驚した。吃驚したけど……けど……。

迷惑かなんて聞かれれば護衛は迷惑な事ではないし、

気持ち悪いかと言われればこの2日で知った兵士さんは気持ち悪くはない。


……としか、言えない。



私は困惑している。そう困惑しているのだ。

だって昨日会ったばかりの人にこんな事を言われた事ないし。

こんな風に接せられた事も無ければこんな風に熱のこもった……。

頭がどうにかなりそう。


ー俺も、困惑してます。こんなに人を守りたいと思ったのは初めてで。



もう無理。



翌日、兵士さんと改めて自己紹介をして一緒の乗合馬車に乗り、

ルゥナ達につつかれニヤニヤされ居たたまれない状態になり、

途中泊まった宿場町でルゥナ達の計画的犯行により2人きりにされ、

為すすべもなく改めて告白され、

泣き帰って宿屋に戻るとルゥナ達に針のむしろにされ、

翌日の商人さんの馬車でひと悶着して、

ヴァーグさんが馬に乗って馬車と併走しているのを唖然と見つめ、

道中賊に襲われた所を助けてもらって、

何故か両親に挨拶していた。




……もう好きにしてください。




そして今、私は夢だった両親のような優しい家庭を持っている。

娘たちは可愛いし、優しくて愛しい旦那様もいる。

幸せだ。


しかし困った事もある。ヴァーグは時折枷が外れたように私を慈しむのだ。

……心の準備ができなくて困るし、娘たちに見られたらといてもたっても居られず。


今日も私はヴァーグを殴る。


……顔面にグーパンはマズかっただろうか?しかし悪いのは全部ヴァーグだと思う。


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