砂漠のど真ん中でダンジョン始めました ~すべては魔王様のために!~
ギラギラの太陽、見渡す限りの砂!砂!砂!
地平線すら見えやしない、十重二十重の砂丘の稜線と、遠くに見ゆる蜃気楼。
足は砂に沈み頼りなく、暑さのせいか前後不覚の状態で目眩すら覚える。
とにかく今は辺り一面、砂しか見えない。他にあるものなんて、頭上の雲一つない青空と、とても直視できない灼熱の太陽だけ。
私は悟った。
このままじゃ、死ぬ。
冗談じゃない。
苦労してやっとダンジョンマスターの資格を取ったのに。
魔王様から直々に領地を賜ったというのに。
まあ、その拝領した地がこんな砂漠のど真ん中だったわけなんだけど!
や、ほんと、うちの魔王様はひどい。
いくら魔族の生命力が強くて、どんな環境でも耐え抜けるとはいえ、大陸地図にダーツ投げて、新しいダンジョンどこにするか決めるとかないわ。
その上、ダーツの矢が地図に刺さるなり、そのまま現地に転送しちゃうとか、もうひどすぎる。
私、ここがどこだかすら知らされてないよ。
こんな砂漠のど真ん中。第一村人どころか虫一匹も発見できねーわ!
ほんと、どこなの、ここ!?
* * *
いかんいかん。落ち着け、私。
なにせ私はもうダンジョンマスターなのだ。
あ、ダンジョンマスターとは平たく言うとダンジョンの支配者だ。
ダンジョンコアを用いて、己の魔力を素にダンジョンを構成することが出来る。
どんなダンジョンになるかは、各々のセンスによる。いかにも伝統的な石造りの地下迷宮型ダンジョンを運営する者もいれば、天空を漂う島を丸ごとダンジョン化した者もいるし、さらには海底都市を作ったダンジョンマスターもいる。
すべてのダンジョンマスターは魔王様の配下であり、魔王様から与えられた領地にダンジョンを築いている。
なにせ、魔王様が支配する魔大陸は広大ゆえに、まだまだ未開の地が多く、そういった土地にダンジョンを築くことで魔大陸を開拓しているのだ。
つまり、ダンジョンマスターとはこの大陸の開拓者でもあるのだ!
そんなわけで。私は見渡す限りのこの大砂漠のど真ん中で、これから生きていかねばならぬ。
灼熱の太陽と、四方八方の砂の照り返しに私の喉はカラカラだ。いくら魔族でも、このままじゃ干からびる。
よし!まずは水だ!水!
すべての文明は大河沿いに発展したのだ、アカデミーの歴史の授業でそう習った。
しかし、見渡す限りの砂である。オアシスどころか日陰になりそうな岩のひとつもない。
いっそ、ここにするか。
なんせ魔王様が直々に転送して下さったポイントだ。なにか意味があるはずだ。
きっと、ここが龍穴だとか、なんかすごい理由があるはずだ。
私は魔王様を信じている。
まさかダーツでヒョイと人の人生決めちゃうようなお方だとは思わなかったけど。
でもいいんだ、あの美の女神も裸足で逃げ出すこと間違いなしの麗しいご尊顔を間近で拝見し、さらにあの涼やかな玉音でこの鼓膜を直接震わせて頂くという、ファビュラスな奇跡体験が出来たのだから!
あー!幸せ!
はっ!いかんいかん。
仕事をしよう。
私はダンジョンコアを足下の砂に埋めた。
私のダンジョンコアは無色透明な球体で、まだ大きいビー玉くらいのサイズしかない。
ゆくゆくはダンジョンの成長と共に、ダンジョンコアの大きさも色形も変化していく。どんな成長をするか、実に楽しみである。
さて、私は胸の前で右手を下に向けて、サッと左から右に振る。
すると、半透明の画面が現れた。
これはダンジョンコアのコントロールパネルだ。私はポチポチと操作を進める。
ダンジョンを建造するには、ダンジョンコアが蓄えた魔力が必要になる。
魔力はダンジョンマスターである私が毎日せっせとダンジョンコアに込めていくのだけど、だってこのダンジョンコアはつい先程、魔王様が大陸地図にダーツを投げる前に、魔王様から賜ったばかりの新品だから、当然、魔力なんてほとんど空っぽである。
本来なら、赴任先の領地に着いたらまず現地調査をして、その土地にあったダンジョン計画を立てたその後に、初めてダンジョンコアを起動させる。
その頃には新品のダンジョンコアにも、ある程度の魔力が貯まっているものだけど、そんな悠長にやっている時間は私には無い。
身一つで砂漠に放り出されたのだ。
水だ。水がないと。
こうしている間にも汗がダラダラと流れ、私の中から水分が奪われていく。
マジで干からびそう。
そもそも私、魔族は魔族でも水属性なんだよ。砂漠とか相性最悪なんだよ。
魔王様から直々に拝領したんじゃなかったら、今すぐ魔王城まですっ飛んでいって担当者の首絞めてやるとこだわ。
まあ、ここどこだかわかんないし、流石にまだ転移魔法は習得してないから魔王城に戻りようないんだけどさ。
まあ、いい。
とにかく、水だ!水!!
ようやくダンジョンコアを起動できるだけの魔力をチャージできた。
私はコントロールパネルに映る初期設定をどんどんスキップして、進める。
そんな後から設定できる項目、今はどうでもいいんじゃ、バカタレ!
スキップボタンを連打し、ようやくチュートリアル画面になった。けれど、私はそれすらスキップ。
ダンジョン建設は計画的に?
ハハハハ!そんなもの、命の危機の前になんの意味もないわー!
ようやくお目当ての画面にたどり着き、私は迷わずそのボタンを押した。
* * *
ついにやった!
キラキラと揺れる水面を前に、私は体を震わせる。
そう!水面である。
つい先程まで、ただただ見渡す限りの砂!砂!砂!の砂地獄が一変。なんということでしょう、立派なオアシスがここにー!
ふふふ、伊達にアカデミー主席ではなくってよ。
ダンジョンコアが生み出した水は今もなみなみとオアシスを潤している。灼熱の太陽なんかに負けないぜ!
私はそれを、お洒落なガゼボの中に置いたソファーに横たわった姿勢でゆったりと眺めた。
当然、サイドテーブルにはトロピカルジュースとフルーツの盛り合わせも忘れてはいない。
ジュースのグラスにはしっかりハイビスカスの花も飾った。
とにかく水だ、水だと、脳内で騒ぎまくったが、ここは期待の超大型新人ダンジョンマスターとして!
ただ水場を作るのではなく、湖の周りに様々な植物も設置したのだ。
砂嵐対策はまだこれからだけど、とりあえずオアシスの外周を防風林で囲み、様々なトロピカルフルーツやらパッションフルーツの木々を植え、さらにはハイビスカスも咲かせた。
さらに湖の真ん中に神秘的なガゼボを作り、砂漠のオアシスっていうより、南国リゾートパラダイスを作ってやったのさ!どやさ!
ふふふ、この短い時間でここまでの魔力をダンジョンコアに注げるダンジョンマスターはそうはいない。
なればこそ!私は魔王様直々にダンジョンマスターに任命されたのだ!!
あー、本当に魔王様ステキだった。
死ぬほどアカデミーで頑張った甲斐があった。
主席なら卒業生代表として、魔王様直々にダンジョンマスターの就任の儀を行って頂けるからね。
これからはダンジョンマスターとして、魔王様のお役に立つんだ。
いつか魔王様が視察に来て下さるくらい、すっごいダンジョンにしてやるぞー!
最後までお読み頂き有難うございます。
真夜中テンションで勢いのまま書いたのですが、キリが良いとこまで出来たので短編として投稿してみました。
少しでも楽しんで頂けたなら幸いです。