味に酔いしれる魔女
今回は長く執筆しました。
呪いを払ってもらった剣士は教会の中で聖騎士団の団長と少女騎士から呪いを受けた事情を聞かれる。
剣士は魔女の素性が知れないようにと、通りすがりの魔術士ということにして、後はありのままを話した。もちろん、魔女にも話に合わせてくれるように耳打ちしておいた。
“旅先で立ち寄った村で呪いを受けてしまった少女出会う。そんな時に通りすがりの魔術士も立ち寄り、診てもらったら呪いであるとわかる。そこで魔術士の力で別の人間に呪いを移して助ける。その役目を剣士が買って出た。そして、呪いを払う為に町へとやって来た。”
俺の話を聞き終えた聖騎士団の団長の団長は呆れた。
「お前さん、余程の馬鹿だな。自分の身を犠牲にしてまで子供を救おうとするなんて」
「団長、そんな言い方は無いですよ」
「いや、それは私も言った。別に問題がない」
サラッと失礼なことを言うなよ。確かにそうかもしれないけど。
「けど、俺はそんな馬鹿は嫌いじゃないぜ」
「にしても、お前さんは運が良いな。あんな化け物相手に生き延びた上に、タダで呪いを解いてもらえるなんてよ」
「いや、それは貴方が助力してくださったから」
「気にするなよ、教会の人間がぼったくり同然に金を巻き上げるなんざ、胸糞悪い」
「その通りです。これは聖騎士団として見過ごすわけにはいきません」
「それに、お前さんが化け物を喰い止めてくれたおかげで被害は最小限に止めた。言わば、恩返しだよ」
この聖騎士団の人達は強いだけじゃなくて、優しいな。
「それにしても、呪いを移し替える魔法なんて………凄い魔術士なんだな」
「うむ、常に魔法の本を読んでいるからの」
「………凄いですね読むだけで魔法を習得できるなんて」
「そうなのか? 私は本の通りに魔法を使っただけだ」
えっ、魔物を火の魔法で倒した時も本の通りにした。つまり、ぶっつけ本番で成功させたのか?
「いや、魔法を習得するには本を読むだけでなく、練習する必要があります。もしかして………呪いを移す魔法も練習しなかったのですか?」
「練習も何も、呪われている者に出会ったのは村の少女だけだ」
ちょっと待って。もしも失敗してたら俺もあの子もどうなっていたの!? 今思うと…………ぞっとして想像したくない。
「………本当に運が良かったな」
聖騎士団の団長や少女騎士も同情して俺の肩に手を置いてくれた。………ありがとうございます。
「本を読んだだけで魔法を習得する。あんたは何者なんだ?」
「………想像に任せるよ」
本当に、この魔女は人を喰ったような態度をとるな。
「………まぁ、事情聴取はこれぐらいにしてやるよ」
聖騎士団の団長さん、これ以上の詮索を諦めたようだな。
「まあ、今日はゆっくりしていきな」
「ご協力感謝します」
聖騎士団の団長と少女騎士が教会から出ようとした瞬間、外には多くの町の住民達が表情を笑顔にして揃って立っていた。その中から一人の男性が前に出て頭を下げる。
「聖騎士団の団長さんですか?」
「ああっ、そうだが」
「私は町長です。この度は、町を救ていただき感謝します」
町長と町の住民達は一堂に頭を下げる。
「わざわざお礼を言ってくるなんて、筋が通っているな」
「あと、魔物と戦ってくださった剣士様は大丈夫ですか?」
「ああっ、あいつなら大丈夫だよ」
町長さんが俺に用があるみたいなので、とりあえず顔を出す。
「剣士様、魔物から町の人々を救っていただきありがとうございます」
ああっ、こんなに大勢に頭を下げられると照れてしまうな。
「いや、魔物を倒してくれたのはこの団長さんと騎士さんだから」
「でも、貴方様が魔物と戦ってくれたおかげで町の住民の被害は少なかった。これも十分に感謝します」
「そ、そうかな?」
「はっはっはっ、ここは誇りに思っていいんだぜ!」
痛い! 団長さん、背中を強く叩き過ぎです。
「お礼に何かしたいのですが」
「ああっ、お礼は――」
「宴会を頼むわ! 酒をじゃんじゃん持ってきてくれ!」
「団長!」
「わかりました。では宴会の準備を」
町の住民はすぐに宴会の準備に取り掛かった。
「お礼を受け取るのも、善意だぜ」
この団長さんって、現金だな。少女騎士は頭を押さえて悩んでいる。
夜になって、町の酒場で宴会が開かれた。
団長さんは喜んでビールをジョッキで飲んでいる。他の騎士団員達も酒を飲んでいる。
少女騎士はため息をつきながらジュースをちびちびと飲んでいる。
俺もお酒を飲もうとすると、魔女は不思議そうに目の前にある料理を眺めている。デミグラスソースをたっぷりかかったハンバーグステーキだ。ジュージューに焼けていて美味しそうだな。
「ハンバーグがそんなに珍しい?」
「見たことがない料理でな」
「今までどんな食事を作って食べたの?」
「スープや茸を焼いて食っておった。森にはそれくらいしかないからな」
魔女はハンバーグをナイフで切って、切れ端をフォークに刺して口に入れて食べる。
「…………な、な、な………」
人を喰ったような表情の魔女が驚いた表情をしている。目がキラキラと輝いているように見える。
「なんと………この味は………味わったことがないぞ」
おおっ、魔女がハンバーグをどんどん食べ始める。
「あらあら、美味しそうに食べる子ね。次はこれはいかがかしら?」
酒場の女主人が魔女がハンバーグを食べ終えた後に別の料理を運んでくれる。熱々のグラタンだ。
「これは?」
「グラタンよ。熱いから気を付けてね」
魔女はスプーンですくい取り、フーフーと息を吹いて冷ましてから口に入れた。
「おおっ、先ほどのハンバーグとは違うが、これも味もまた良い」
「そんなに美味しそうに食べてくれるとこちらも作り甲斐があるわ」
「他にもあるのか? もっと食べたい」
「いいわよ」
親切な女主人は料理をどんどん運んできてくれる。そして、魔女がどんどん食べてしまう。森では味わえない料理に魅了されているな。
この宴会は聖騎士団にとっても、魔女にとっても素晴らしいモノとなったようだ。
楽しく書かせていただきました。魔女の意外な一面はいかがでしたか?