聖騎士団に危機を救われる。
「…………かったるいな」
愛用の多機能斧を背負う、俺は耳を指で穿る。
俺は聖騎士団の団長として、とある魔物を捜索する任務を受けて、この地へとやって来た。
けど、正直に言って、面倒くさいのでやる気が出なかった。俺は戦う方が好きだからな。
「隊長」
二つ結いした長髪を揺らす、少女騎士が俺の元に寄ってきて、
「真面目に探しましょうよ」と咎めてくる。………真面目だね。
「そんなこと言っても見当たらないからしょうがねぇよ」
「もっと捜索範囲を広げましょう。この近くの町にいる兵士に協力を要請して」
「おっ、頭いいな」
「この場合は隊長がしっかりしないと」
「わかった、わかった。隊長として許可する。早速町へ行くか」
俺は、またどやされるのが嫌なので、少女騎士の提案に従って、町へと行こう。
*
町中にボロボロに破れて汚れた衣を身に纏った男がふらふらと歩く。そんな男は目立つゆえに、町の人々は怪しげに見つめる。
そこへ、町の衛兵が男に不振に抱いて近づいて尋問する。
「君、そんな格好でどうしたんだ?」
しかし、男は衛兵の尋問に何も答えようとしない。
「安心しろ。私はこの町の衛兵だ。ただ、質問に答えるだけでいいんだ。それでその姿はどうしたんだ?」
衛兵は慎重に質問する。すると、男は呻きながら体を震わせる。
「どうした? 具合でも悪いのか?」
衛兵は心配になって男の体に触れた瞬間、突如男の体が衣を破って大きくなった。大きくなっただけでなく体中から真っ赤な毛に覆われてしまい、おまけに臀部から尻尾が生えてしまい、そして顔つきも一瞬で犬の顔つきに変貌した。男は真っ赤な人狼になった。
それを目の当たりした町の人々は驚愕のあまりに叫びをあげ、衛兵が突然の出来事で動けなくなる。
そして、衛兵は一瞬で首を噛みつかれてしまい、血を噴き出しながら即死した。
突然の惨劇に人々は恐怖して逃げ出してしまう。真っ赤な人狼は死んだ衛兵を放して、次なる獲物を逃げ惑う人々へと定めて襲い掛かった。自分以外のものは獲物と判断して食い殺そうという獣としての本能に従って。
叫びを聞いた俺と魔女が駆け付けてみると、そこに真っ赤な人狼が暴れていた。
刃のような鋭い爪で屋台の柱や果物が入った篭、人までも切り裂いている。なんて、恐ろしい奴だ。
「…………あれは、理性を失っておるな」
「ああっ、俺でも見てわかるよ」
などと話していると、真っ赤な人狼と目が合ってしまった。案の定、奴はこっちへと向かってくる。俺は反射的に二本の剣を抜いて構える。
真っ赤な人狼の右腕の爪が振り下ろされた瞬間、俺は一本の剣で受け止めた。
なんて重い一撃なんだ! と思った瞬間、また襲い掛かってきたのでもう一本の剣で受け止めた。
げっ、真っ赤な人狼が雄たけびを上げてから攻撃を繰り返し迫ってきた! 俺も必死で二刀流を使って受けて止めたり受け流したりと防戦で精一杯だ!
おおっ、剣士はよくやる。剣術というものは剣をただ振り回しているわけではなく、正確に相手の動きを見ながら合わせて動くものなのか。いや、並の人間では出来ぬ芸当だ。あやつ自身が己の技術を磨いてきたのだな。
それにしても、あの真っ赤な人狼は本当に見たことがない。どこから現れたのだ?
おっ、真っ赤な人狼は両手を上げて思いっきり振り下ろした。よし、剣士は上手く避けた。おかげで鋭い爪が地面を突き刺して動かなくなった。よし、今のうちに止めをさせ!
剣士が二本の剣を合わせて真っ赤な人狼に目掛けて突き刺そうとした瞬間、動きが止まってしまった。剣士は苦痛の表情を露わにした。
しまった、こんな時に呪いの影響が現れてしまった。その隙に真っ赤な人狼は突き刺した爪を抜いて、剣士の剣を弾き飛ばした。そして、剣士の腹部を突き刺した。
いかん、剣士を早く助けねば! すぐに私は魔法の呪文を唱えながら走り出した。
町の門番の許可を得てから、町へと入った途端に、魔物が暴れていると騒ぎを聞いた俺は部下を引き連れて現場に向かった。
現場に着いて、俺が目にしたのは、真っ赤な人狼と闘う剣士だった。やばい、アイツがやられると感じた俺は言葉を出す前に身体を動かした。
「こっちだ、化け物!」
俺は思いっ切り、人狼の背後に多機能斧を叩き付けてやった。見事に刃が背中にめり込んだ。
人狼が苦しむ瞬間、少女騎士が飛び込み、携える二つの剣を抜いて、腹部に目掛けて斬りつけた。良い判断だ。
腹部まで斬られたので更なる激痛で苦しむ人狼。今、楽にしてやるよ。
俺は引き抜いた多機能斧で頭部を狙って叩き割った。あっと言う間に人狼は絶命して倒れた。そして、俺は一息ついた。
周りを見渡すと、町の住民達は、余りの突然の出来事に唖然してしまう。無理もないか。
「皆さん、もう大丈夫です。我々は聖騎士団の人間です」
おお、流石は俺の部下だ。あいつの言葉を聞いた住人達はすぐに安心して喜んでいるぜ。
さて、俺は闘ってくれた剣士を労うか。見たところ、若い兄ちゃんだな。
「よう、兄ちゃん大丈夫か?」と、聞いた途端に剣士の兄ちゃんが苦しみだして倒れやがった! 傷を負っていたのか!?
「おい、剣士!」
ん? 剣士の兄ちゃんの連れの女か? 必死で介護していると、妙なことを叫んだ。
「………おかしい呪いの速度が上がっている!」
「呪い?」
「団長、その人を治療班に診せてもらいましょう!」
駆け寄る少女騎士は俺に進言すると、これまた連れの女は妙なことを言いだした。
「いや、この者の苦しみは呪いのもの、治療魔法では無理だ」
なんだって!? 闘って傷を負ったんじゃなくて、呪いで苦しんでいたのか。
「呪いを解いてもらおうと思って、この町の教会に行ったのだが………大金貨と引き換えだと言われて追い返された」
何!? 呪いを解くのに大金貨!? それって、ぼったくりだろう!?
教会は規定を無視して、多額の金を要求するなんて、許せねぇ。
俺は剣士の兄ちゃんを抱えて、連れの女に教会に案内してもらうことにした。
教会に着いた俺は、少々怒りに満ちあふれていたから扉を蹴破った。
教会の中に、神父らしき奴を見つけたので、怒気を込めて尋ねた。
「おめえがここの神父か?」
「は、はい!」
「単刀直入に言う。こいつの呪いを解け」
「へっ、その方は…………」
「聖騎士団の頼みを断る気か?」
「聖騎士団!? させていただきます!」
半分脅しで頼むと、神父は急いで準備に取り掛かった。