呪いを解く費用は大金貨一枚
二人に待ち受けるのは……?
「やっと着いた」
俺と魔女は町に辿り着いた。村とは違って、人が多い上に活気に溢れている。
「これが町か。村とは大違いだな」
彼女は興味津々に町中の様子を眺めている。本当に森の外に出たことが無いみたいだな。
「おっと、いけない。目的は教会だな」
「うん。早く呪いを解いてもらおう」
俺と魔女は色んな人に教会の場所を尋ねてみた。その結果、早く見つかった。
大きく純白な建物で屋根のてっぺんには金色の十字架を掲げてある。魔女は首を上げながら教会を眺める。
早速、教会へと入ってみた。そこで俺と魔女が目にしたのは、飾られている巨大なステンドグラスに目が入る。無数の着色ガラスで表現される絵が日の光を通して綺麗だった。
「これが教会というものか」
「あまりに立派だから驚いた?」
「うむ、こんな綺麗なものは初めてだな。あれは、なんだ?」
「ステンドグラスだよ。いろんな色のガラスをくっ付けて模様や絵を表現するんだ」
「ほーっ」
彼女はすっかりとステンドグラスに魅了されているな。
俺がそう思っていると、神父らしき人がやって来た。人の好さそうな雰囲気が漂っているな。
「ようこそ教会へ。ご用件は何でしょうか?」
「実は……呪いを受けてしまいました」
「呪いですって!?」
神父が驚いた。そりょあ、呪いなんて聞いたら驚くよな。
「どんな呪いか、見せてもらってもよろしいですか? 服を脱いでください」
俺は神父の言う通りに服を脱いで上半身裸になった。神父は俺の胸元に手を当てて目を閉じて動かなくなる。少し経ってから目を開けた。
「確かに呪いを受けていますね。それも命を蝕む」
「はい。呪いを払うことができますか?」
「もちろんできますよ。ただし、それにはお布施が必要です」
「お布施って、お金だね。幾らですか」
「死の呪いですと…………大金貨一枚ですね」
「大金貨一枚!?」
「呪いを解くのは容易ではありません。それには色々と費用が掛かります」
「それにしては高いですよ」
「命は一つです。それなりに高くつきますよ」
この神父、見掛けによらずにあくどいな。費用が掛かるとは聞いていたけど、そこまで高いのか!?
すると、彼女は俺に尋ねてきた。
「…………大金貨ってすごいのか? 金とはなんじゃ?」
えっ、お金というものも知らないのか? 本当に森の中で――金とは無縁な日々を送っていたのか。
「大金貨一枚は金貨の十枚分。金貨は大銀貨の十枚分。大銀貨は銀貨の十枚分。銀貨一枚は大銅貨の十枚分。そして、大銅貨は銅貨の十枚の価値だ。ちなみに値段では金貨は“G”。銀貨は“S”。銅貨は“C”と表現される」
「…………とにかく凄いのだな」
…………本当に分かっているのかな? お金の話は後に改めて説明するか。話を戻して……。
「あのう…………後払いで良いですか?」
「いえ、前払いです」
この神父はきっぱりと言うな。そりゃないだろう。
「それだけの金額なんてありませんよ。必ず払いますから、呪いを解いてください」
「これは規則です」
「なぜ、そんな規則があるのだ?」
「代金を踏み倒されないようにする為です。武器を持たない神父が身を守るためです」
「うむ、一理あるな。しかし、そう言わずに解いてやれ。この者には時間があまりない」
「それでも規則は規則ですし、呪いを解くためには何分費用が掛かります」
「命を落としたら元も子もない。必ず払う」
「駄目です」
この神父は一歩も引かないな。人の弱みに付け込んでいるくせに。
「……わかりました、ではこうすればよいでしょう。金融問屋にお借りするのはいかがですか?」
金融問屋!? よりにもよって金融問屋を教えるなんて……とんでもない神父だ。
「金融問屋とはなんだ?」
「お金が必要な時にお金を貸してくれる問屋です。ちょうど、今回のように、金額が足りない時に貸してくれます」
「それは便利だな」
「待て! その際には利子というものも付いてくる。返す時は貸した時の倍の金額を支払わないといけないんだ! もしも、大金貨を借りたら、返す時は大金貨の他にも他の金額も一緒に支払わないといけないんだ」
「…………つまり、強大な力を得る代わりに大切なものを引き渡すと言う禁断の契約と同じか」
禁断の契約って…………魔女としての考えではそうかな。
「まぁ…………そんなものかな」
「うむ…………神に使える者が禁断の契約を進めて良いのか?」
「人聞きの悪い。お布施を貰って、呪いを解くのも仕事ですので」
人の命が掛かっていること良いことに、金をとろうとする奴が、何を綺麗ごとを言っているんだ。
「…………いい加減に…………」
彼女は魔法を使おうと考えるが、俺はそれを止めた。こんなところで騒ぎを起こしたら、厄介なことなる。素早く耳打ちして止めた。
「そんなことをすれば、君が魔女であることがばれてしまう! ここは落ち着いて!」
彼女を宥めつつ、事態の悪化を防ぐために…………神父の提案に乗るしかなかった。
神父が教えてくれた金融問屋の道筋を通ることにした。
すると、まだ不機嫌な彼女が声をかけてくる。
「何を素直に従うのだ、君は。あの不親切な応対をする神父の言うことは気に入らん。良い話というのも胡散臭い」
「俺もそう思う。だけど、そんな相手だからこそ、余計な争いは避けたいんだ」
そう話しているうちに、“金融問屋”と書かれた看板を飾られた一軒の建物がある。
「……まずいと思ったら早々に立ち去るぞ」
彼女の忠告を聞き入れつつ俺は問屋に足を踏み入れた。
「いらっしゃいませ」
受付に怖い顔つきの男性が出迎えてくれた。お店の雰囲気も暗くて怖い。
「ご用件は何でしょうか?」
「…………お金を借りに来ました」
「おいくらですか?」
「…………大金貨一枚」
「また大金ですね」
「どうしても必要なんだ」
「お貸しできますが、それなりの対価をお持ちですか?」
「この二本の剣で」
俺は愛剣二本を差し出す。それを受け取る男性は鞘から剣を抜いてじっくりと鑑定する。
「悪くない剣ですけど………せいぜい銀貨10枚ほどですね」
「全然足りないな。なら、このペンダントならどうだ?」
魔女は例のペンダントを差し出した。それを見た俺は慌てて止めようとした。
「安心しろ。このペンダントに呪いは無い」と小声で教える。
男性はペンダントを受け取り、虫眼鏡を使って鑑定を行った。
「…………残念ながら、銅貨5枚ですね」
「えっ、高そうなペンダントなのに?」
「一見そう見えますが、宝石ではなくガラス。細工も銀色を塗っただけ、つまりは偽物」
鑑定を聞いて目論見が外れてしまった俺は心底落ち込んだ。
「どうする、他に売るモノはあるか?」
男性は魔女を一目で見て笑った。
「そこの連れのお方、申し訳ありませんが、顔を見せてくれませんか?」
「……構わぬが」
魔女は言われた通りに被っていた衣を脱ぐと、男性はじっくりと彼女の顔や体付きを観察する。
「……中々の上玉ですね。このお方と大金貨一枚に等しいですよ」
「それはどういう意味だ?」
「つまり、貴女と大金貨一枚を交換できるという意味です」
「人も交換できるのか?」
「はい。それなりの金額には時に人をも交換することができます」
「交換されると私はどうなるのだ?」
「それは勿論、こちらの所有物となります」
「所有物となった人間はどうなるのだ?」
「所有者の言うことを絶対に従わなければならないのですよ。例え、それが――」
「よせ! 彼女はただ付き添いだ!」
俺は思わず叫んで止めた。この男が何を企んでいるのか察しが付く。
「嫌なら別にいいのですよ」
男性は残念と思って引き下がる。やっぱり胡散臭い店だと思ったよ。
「もう行くよ!」
「………やれやれ、せっかくのカモだったのに」
男性は肩を竦むと、机に置かれたペンダントに気付く。
「あらら、忘れて行ったよ」
この世界での通貨はいかがでしたか? 魔物より金銭が一番厄介な展開。