勇者と魔王の物語
今回は短いです。
広大な緑の草原。清々しき青空。そして、活気豊かな人々。まさに平和そのものの大陸。だが、そこへある異形なる者が現れた事で崩れ去った。その者は自らを“魔王”と名乗りを挙げ、大陸を我が物にすると宣戦布告した。
これを脅威と感じた人達は一丸となり、魔王を討ち果たそうと立ち向かった。だが、魔王は桁外れに強かった。残虐非道な性格上に強大な魔法を自在に操る事で多くの人を殺めた。魔王は異界から多くの魔物を召喚し、更には大陸の魔物すら支配して自分の国家を作り出して大陸への侵略を始めた。
人々は絶望した。だが、そんな人々の前に希望が現れた。それは“勇者”である。勇者は圧倒的な力と魔法、更には聖なる光で多くの魔物を倒してゆく。更に優れた仲間達と共に魔王と戦い、そして勝利を掴んだ。こうして、大陸に平和が戻り、勇者は大陸の守護するものとして君臨した。
「これが勇者と魔王のお話でした」
「ふーん」
魔女に勇者と魔王の話を聞かせてくれと頼まれた俺は話をした。
けど、魔女はあまり興味を抱かなかったようで、温かなお茶を啜る。話してくれっていうから話したのに。
「森の外でそんな大変なことが起きていたのか」
「……風の噂とかで聞かなかったの?」
「うむ。ずっと森に住んでいたからな」
「……どのくらい?」
「うーん……忘れた」
忘れるほど長くいたんだな。
「それで、魔王倒した勇者は?」
「王国に滞在しているよ。王女と婚約して、次期国王になる予定」
「英雄が国王にか。勇者と言えば、聖騎士団もいたな」
「ああ、魔王を倒しても残党がいるからな。それを討伐するのが本来の目的」
「悪人も捕縛するのは?」
「ついでらしい。名誉を高める為のな」
「ご苦労なことだ」
サンドイッチを口に入れて頬張る。
「君は呑気だな」
剣士はお茶を飲もうとすると、突然カップを落として胸元を押さえ込む。
「呪いか!」
魔女は踞る剣士に駆け寄る。
「今から魔法を掛ける」
魔女は剣士の胸元を片手で触れて呪文を唱える。
「……流れよ、静まれ」
魔女は手を離してからしばらくすると、剣士は落ち着いてゆく。
「大丈夫か?」
「…………う、うん」
「これが呪いの影響だ。いつ苦しみ出すか判らぬ。そして、今のは進行を一時的に食い止めるだけだ。一刻も早く払わぬと……本当に死ぬ」
「…………肝に命じる」
剣士は身を持って呪いの恐ろしさを改めて知った。
「なら、早めに行くか」
善は急げとばかりに魔女はピクニックセットを魔法の皮袋に入れた。
そして、俺と魔女は教会のある町へと目指した。
勇者と魔王のお話はいかがでしょうか?