呪いの移し
魔女の汚名は晴れるか否か?
村人の数人が畑を耕していると、森から剣士と黒い衣を身に纏う者が出てくる。
「剣士さん!」
村人達は鍬を手放して剣士の元へと駆け寄る。
「いかがでしたか!?」
「魔女は聞き入れてくれましたか?」
「ええっと…………本人を連れて来ちゃいました」
衣を脱ぐと、魔女だった。
「私がお前の言う魔女だ」
村人達は顔色を青くして一目散で逃げてしまった。そりゃ驚くよな。
「…………逃げるくらいなら、怒らせるようなことをするな」
ごもっともです。それはそれで、話をつけないとな。
俺は村人達に事情を説明するが、にわかに信じてくれない村人達。危険は無いのか? 本当に魔女なのか?
仕方がないと思って、証明する為に魔女に魔法を使って見せようと説得する。
「魔法は見世物ではない」
「わかっている。けど、信じて貰う為にもさ」
魔女は呆れ顔でため息を吐くと、先ほど村人が耕していた畑の方へ向く。人差し指で指しながら動かすと、倒れていた鍬は起き上がりくるくると踊るように回る。
俺も村人達も驚いた。魔法にこんな使い方があるんだな。 鍬は宙に飛び、村人の手元に戻った。
「これで良いか?」
村人達は呆気にとられつつ頷くしかなかった。
俺と魔女は村人達の案内で病気の子供がいる家に行ってみた。
ベッドに眠る子供と、それを心配して見守る両親。
俺と魔女はそっと子供に近づき、診てみる。
小麦色の髪の幼い少女だ。顔が赤くなっている上に汗が滝のように流れている。魔女がそっと少女の額に手に乗せる。
「何をしているの?」
「黙ってくれ」
魔女は目を閉じて、時が止まっているように動かなくなる。
いったい、何をしているんだ? 俺も両親も村人も不思議に思う。そして、口を開いた。
「…………これは病気ではない。医者に診せても解らぬはずだ」
「何だって?」
魔女の言葉に俺達は驚いた。
「これは呪いだな」
「呪い?」
「呪いとは生きるものを苦しめ命を奪う禁じ手だ」
「どうして、こんな女の子が呪いを?」
魔女は首を振り、両親に話しかける。
「この子供が苦しみ出したのは何時だ?」
「えっと…………三日前です」
「その三日前に何か変わったことはなかったか?」
両親は思いだそうとする。すると、母親が何かを思い出す。
「そういえば、あの子はペンダントを見つけてきました」
「ペンダント? それはあるのか?」
「持って来てくれないか」
母親は直ぐに小さな棚の引き出しからペンダントを持ってきて、魔女に手渡す。
俺もペンダントをじっくり見てみる。両翼を象り、その中心部に真っ赤な宝石が埋め込まれ、銀色の鎖で結わえている。これは高価なペンダントだ。
魔女は手のひらに乗せたペンダントをじっくり睨み付ける。
「これは…………微かだが、呪いが残っている。恐らく、呪いが隠っていたペンダントに触れたことで呪いが乗り移ったのだな」
「そんなペンダントをどうして」
「今はどうするべきかだ」
「の、呪いを解いて下さい!」
必死で訴える両親に魔女は言った。
「呪いを払うなら、教会の神父に呪い払いの儀式をかけて貰う。ただし、高く付く」
両親は驚き戸惑った。
「教会は何処にある?」
「と、遠くの町にあります」
「距離は?」
「三日はかかります」
魔女は少女の様子を診て、頭を抱える。
「この様子では三日も持たない。早く気付いておれば、間に合っていたはずだ」
母親は泣いてしまう。父親も落ち込んでしまう。
「…………本当に駄目か?」
「…………別の方法がある」
「本当か?」
魔女の言葉に希望を持つことができた俺と両親。
「魔女にしかできない魔法があるのだが…………」
「教えてあげなよ」
魔女は悩んでいる。よほど、大変な魔法なんだ。
「…………呪い移し。呪いをそのまま別のものに移す。分かりやすく言えば、この子供の呪いを代わりに受けるのだ。呪いは並大抵の者には辛いぞ」
呪いを代わりに受ける。確かに大変な事だ。俺は息を呑む。
「というわけで、誰が呪いを受ける?」
この決断にどう判断する?