交渉する剣士
話が進むにつれ、あらすじを増やす予定です。
招かれた俺は椅子に座ると、魔女は暖炉の前にしゃがみ、片手の指一本を上げて動かすと、暖炉の薪に小さな火が付いて燃え上がる。
魔法を使ったんだ。やっぱり魔女なんだな。
暖炉に掲げるお鍋の水が茹で上がってお湯となり、魔女は酌で一杯掬い上げると綺麗なティーポットの蓋を開けてお湯を注いだ。
「お茶ができるまで話を聞こう」
その提案に乗り、魔女に経緯と用件を話した俺。それを聞いた魔女は不機嫌な表情になる。
「それは濡れ衣だ。何故、私がそんなことをしなければならないのだ?」
「いや、俺に聞かれても困るけど」
「魔法が使える魔女が魔力の持たない人間に何を求める?」
言われてみると、確かに村人に魔女を満足させることができるとは思えない。
「なら、子供の病気はいったい?」
「そんなことは知らない。医者に診てもらえ」
「いや、診て貰ってもわからないんだ」
「…………とにかく、私は潔白だ」
こう言い切ったところを見ると、本当に潔白らしいな。このことを村人たちに伝えるべきだと思うが、言ったって信じてくれるとは思えないな。ならば……、
「あのう……君がその子の病気を治してあげない?」
俺の言葉に呆気にとられる魔女はため息をついた。
「…………面倒くさいな。自分を悪者扱いにした奴らの為にそんなことをしないといかんのだ」
「身の潔白を証明する為だよ。このままじゃ、魔女である君を討伐する口実ができてしまう」
「討伐? お主が私を討伐するのか?」
「いや、俺には無理でしょう。けど、“聖騎士団”ならできる」
「聖騎士団?」
知らないのか? 森で暮らしていたからしょうがないか。簡単に説明するか。
「王国…………いや、この地にたくさん存在する騎士団だ。主に魔物の討伐や各地の悪人を捕縛している。魔女も例外じゃない」
「…………その者達は強いのか?」
「強い。あの魔王を倒した勇者が設立した騎士団だからな」
「魔王を倒した勇者?」
「魔王も勇者も知らないの?」
「いや、魔王の噂くらいは聞いたことはある。しかし…………止めよう、話が逸れた」
「ああっ、だよね。とにかく、騎士団に目を付けられる前に子供を診てあげなよ。できれば、治してあげないかな? 回復魔法もできるよね」
「魔法は万能では無いんだよ」
魔女は真面目な顔つきで語りだした。
「回復魔法は傷を治したり毒を消したりはできる。だが、病気までは治せぬ」
「…………そうなのか」
魔法は万能じゃないのか。魔法の勉強なんてやっていないからな。ってか、魔力の無い人を馬鹿にしていた魔女の言うことか?
魔女は考えてため息を吐いて、
「…………良いだろ、行ってやる。こっちも無用な争いは嫌いだからな」
「本当?」
「その代わり、私を怒らせるようなことをすれば…………君も含めて村人達の命が無いと思うのだな」
「…………村人達にも必ず伝えます」
意地悪な笑顔で言われると、本気か嘘かわからないな。
「そろそろだな」
魔女は棚から二人分のティーカップを出し、ティーポットに入ったお茶を注いだ。
「召し上がってくれ、味も栄養も保証する」
俺はお茶を飲んでみると、確かに美味しい。
「もしも、この件が済めば…………君には、どんな見返りがもらえる?」
魔女の問いかけに俺は気付いた。確かに見返りについては何も言っていない。
「私と村人達の間に揉め事は無くなる。しかし、その橋渡しをしてくれた君に何の得がある?」
「いや、橋渡しぐらいで見返りが貰えるなんて思っていないよ」
「なら、何故引き受けた?」
「…………断ると、恨みことを受けそうになると思って」
「恨まれるも何も、偶然通り掛かった君には関わり合いが無い。恨むのは筋違いだろう」
「そうかもしれない。それでも…………そういうことになってしまう時があるよ、世の中」
魔女は不思議に思っている。人との関わらないを避けているから、こういう出来事に疎いのかな?
「人とは…………面倒くさい生き物だな」
魔女はそう呟いた。けど、俺は理屈をこねる君の方が面倒くさいと思うよ。
感想を書いてくだされば参考にします。