騎士団との再会
果たして、剣士と魔女は無事に危機を乗り越えることができるだろうか?
「これは何の騒ぎかね?」
血の様に真っ赤なローブを着込んだ男が不機嫌そうに現れた。
「ああっ、ご領主どの」
「お騒がせしてすみません」
「えっ、あんたが領主か?」
この男が、魔女を捕らえろと命じた張本人か。丁度いい、彼女を解放してもらうように対話しよう。 そう思って、領主の目の前まで歩み寄った。
「な、なんだね、君は?」
「彼女を返してもらう。彼女は俺の命の恩人でね」
「…………ああっ、君か、魔女を庇った剣士というのは?」
さっきまで驚愕していた表情から、落ち着いた表情へと変わった。
「そうだ。彼女を開放してくれないか?」
「それはできない。その魔女は領民の前で処刑をせねばならぬからな」
「何もしていない者を処刑するのか?」
「魔女だから処刑する。充分な理由だ」
ちょっと待て、存在だけで殺すなんて、あまりにも身勝手だな。
「…………くだらない理由だな」
「魔女を庇うのなら、君も同罪として捕まえねばならぬな。魔剣士殿、お願いします」
おいおい、また魔剣士と戦わないといけないのか。………って、こうなることは予測していたけど。
「…………断る」
えっ、戦わないのか?
「そいつは武器が無い。武器を持たない者を斬るのは自慢にならん」
「魔剣士殿、こいつは魔女に味方をするものです」
「それでもだ」
魔を嫌う魔剣士が、武器を持たないと言うだけで、魔女に味方する俺を斬らないとは…………って、あんたが剣を破壊したんだったよな。
「では、騎士団の皆様にお願いしましょう」
「ちょっ、ちょっと待ってくれ!」
突然の領主の頼みに騎士団長が困ってしまう。
「この二人とは、ちょっとの間だけ親交を深めたんだ。いきなりお願いされてもな…………剣士の兄ちゃん、事情を説明してくれないか?」
この騎士団長は常識があって助かる。
「話の途中で悪いが」
えっ、魔女も何か言いたいことがあるのか。何を言うのかと、緊張感が漂ってくるぞ。
「腹が減った。何か美味い料理を所望する」
って、言っている場合か! こんな時にそんな言葉が良く出るな!
「本当に呆れた。自分の立場をわかっているのか?」
「仕方がないだろう。あんな僅かな量では足りぬ上に、君との口論により、更に腹が減ってしまった。君にも責任を取ってもらう」
「えっ、俺にも責任があるの?」
どうやって責任を取れと言うんだ? いや、口論については君が悪いだろう。
「…………本当に面白いお嬢ちゃんだな」
「…………とても魔女とは思えない。この人は魔女に間違いないのですか?」
「…………そう言われると、自信がない」
あーあ、騎士団や魔剣士にも呆れられてしまった。さっきまで、魔女の処刑を巡って口論が嘘のようだった。
「ご領主殿、とりあえず飯を食いながら話を進めましょう」
「…………わかりました」
呆れてしまう領主が渋々承諾してくれた。なんか、申し訳ございません。
屋敷内の食堂にて、魔女は悠々と食事をする。俺は騎士団長に、これまでの経緯を説明した。
「なるほどな、剣士の兄ちゃんが呪われたのは、そういう訳か」
「自分を引き換えに、その子を救うとは…………良い人ですね」
騎士団長と少女騎士が理解してくれた。感謝します。
「なあ、ご領主殿。魔女の嬢ちゃんは、呪いで苦しむ子供を救って、剣士の兄ちゃんが手伝ったんだ。それに免じて処刑は無しにしてもらえないか?」
騎士団長、魔女の助命を頼んでくれいる。ご領主の態度は…………。
「そう言われても、信じられませんな」
信じてくれないか。確かに証拠がないから仕方がないか。
「なら、村人から事情を聞けばいいんじゃないのか?」
「村人が嘘を付いている可能性があります。魔女が魔法で嘘を付かせている可能性があります」
「なら、そちらも魔法で嘘を消せばよいのではないか」
食事を止めた魔女が領主に言い返した。これに面を喰らった領主は口を噤んでしまう。
これに俺や騎士団長は笑ってしまう。
「俺は魔女の審議より、赤い魔物の討伐を優先するべきだと考えている」
騎士団長が真面目な表情で、驚くことを言った。
「赤い魔物って…………町で現れた真っ赤な人狼が他にも?」
「人狼だけじゃない。赤い小鬼や血のようなスライムなど、赤い魔物が辺りに出没しているらしい。とても凶暴で人間に危害を加えている」
「騎士団が登場するほどに深刻ですか?」
「並の冒険者では手に負えないらしいです」
…………あの真っ赤な人狼の強さを考えると納得できるな。
「俺も、その魔物退治を、そこの領主に依頼されている」
「なら、俺達に協力してくれないか? 人手は多い方が助かる」
「…………考える」
魔剣士なら、難なくできそうだな。
すると、領主があることを言いだす。
「…………条件次第で、魔女の助命を考えましょう」
この言葉に一同が驚愕した。
相変わらずマイペースな魔女でしたね。