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魔剣~魔女と剣士が旅をする物語~  作者: 氷刃竜
出会いから始まりへ
14/22

魔剣士のぼやき

あの魔剣士の視点で物語を書きました。

 俺は魔を殺す剣、“魔剣”で魔物や魔の者を抹殺し続けて生きてきた。それは、俺が魔を憎んでいる。魔を殲滅することが俺の目的であるからだ。

 そんな俺を人は“魔剣士”と呼んでいる。俺自身もそれがお似合いだと考えている。

 俺は今、この地を治める領主の屋敷に招かれている。それは森に住むと言われている魔女の捕らえるためらしい。

 捕らえるなどと甘っちょろいことを。俺に抹殺を依頼すれば効率が良いだろう。だが、特に断る理由はない。場合によっては斬れば良いのだからな。

 領主の家来達の案内で森へ入り、住みかと思われる家を見つけた。家来達は家の中を捜索したが見つからなかった。とりあえず、家を燃やすことにした。そんな時に、女と男が飛び出てきたので驚いた。

 その女こそが魔女。男は剣士。剣士は魔女を助けようと刃を向けてきた。邪魔をするのであれば、誰であろうと容赦はしない。

 俺は剣士と闘った。腕は悪くはない。だが、運が悪かったのか、剣の刀身は俺の魔剣の力で粉々になった。この機を逃さず、剣士を斬った。魔剣は人間を斬ることができないのが欠点だ。だが、痛みは受けてもらう。何度も斬ったおかげで体中に激痛が走ったはずだ。

 家来達は剣士に止めを刺そうとしたが、魔女がそれを止めて、自分が身代わりになるから助けろと。流石の俺もこれには驚いたな。こうして魔女を捕らえることができた。


 魔女を捕らえて屋敷に戻ってから、夕刻になった頃。領主が食事に招いてくれた。ちょうど腹も減ったからありがたく受けよう。

 屋敷内の食堂では領主が既に席に座っていた。鋭い目つきで口ひげを生やした中年の男だ。血の様に真っ赤なローブを着込んでいる。

 白いクロスが掛けられたテーブルに沢山の料理と高そうな酒が並べれている。俺は一応お辞儀をしてから席に座る。壁に控えていたメイドがグラスに酒を注いでくれる。

「魔剣士殿、この度はご苦労であった」

「ああっ、確かに予想外なことに出くわしたが、問題はない」

「そうですか。しかし、相手は魔女です、油断は禁物です」

「なら、さっさと殺すべきではないのか?」

「いや、魔女にはそれなりの殺し方がある。処刑に関しては此方に一任してもらう」

「…………なら、俺を雇った意味は?」

「こちらの用心棒と、この地に救う魔物の排除です」

「ほぉー、そっちの方が良い。どんな魔物だ?」

「赤い魔物と呼んでいる。通常の魔物とは違って、大変に凶暴。特徴は色が赤いこと。つい最近では町に赤い人狼が現れたが、聖騎士団に退治されたと聞く」

「そうなのか?」

「しかし、人狼だけではないのだ。他にも赤い魔物は存在する」

「何故わかる?」

「いくつかの発見されたという報告を聞いてな。やってくれるか? 報酬はちゃんと払う」

「俺は魔物さえ排除できれば、それでよい。引き受けよう」

 そう、俺は魔物を排除することが目的だ。どんな魔物だって倒して見せる。とその前に、

「その代わり、頼みがあるのだが?」

「頼み? 私にできる範囲なら」


 食事を終えた俺はある部屋へと向かう。そこに家来が二人ぐらい立っていた。

「すまないが、通してくれないか?」

「いえ、ご領主様の許可がなければ――」

「その領主の許可は取ってある。嘘だと思うのなら、聞いてみろ」

「………わかりました。ですが、くれぐれも注意を」

 家来は注意深く部屋の鍵を開けてくれる。俺も注意深く部屋に入る。その部屋の中にいるのは、例の魔女だ。

 今の魔女は魔法を封じる鎖に縛られていることで魔法が使うことは出来ない。だが、油断は禁物だ。

「…………なんじゃ、お主か」

 魔女の様子を窺ってみると、あんまり怯えていない。いや、内心では怯えているかもしれん。処刑されるのだからな。

「ここの食事はマシなものはないのか? パンと具の無いスープとはあんまりだ」

「処刑されると言うのに、食事に対する文句か? 余裕だな」

「処刑されるからこそ、食事くらい良いモノを食べたいのだ」

この魔女は本当に魔女なのか? まあいい、聞きたいことだけを聞こう。まずは、

「いくつか聞きたいことがあるから答えろ。あの剣士は何者?」

「強いて言えば…………お人好しだ。自分の命より他人の命を優先にする」

なるほど、確かにそうかもしれんな。魔女を庇う為に剣を抜いたのだからな。

「剣士とはどういう関係だ?」

「一緒に行動した。とある理由でな」

「その理由は?」

「とある子供の呪いを自分に移せと、あまりにお人好しなことを頼んだので、仕方がなく移した。そして、呪いを解くために町の教会に行く際に付き添いをした」

そこまでお人好しとはな。では次の質問をするか。

「赤い魔物を知っているか?」

「ああ、町で見かけて暴れていた。剣士は奮戦したが、危なかった。聖騎士団という者達が来なければ死んでいた」

ほう、剣士も関わっていたのか。あの領主め、省いたか。

「それで、魔女であるお前と赤い魔物は関わりがあるのか?」

「知らん。私も見た事がない」

……本当とは思いたくはないが、嘘とは思えない。魔女の言葉だからな。

「最後に…………死ぬのは怖くはないのか?」

俺は魔女の態度が気になる。いくら、あの剣士を助けたかったとはいえ、自分の命を差し出すほどなのか?

「…………わからん」

「なに?」

「今まで考えたことなどなかったからな」

こんな答えを聞いたのは初めてだ。正直戸惑った。なら、質問を変えよう。

「なら、何の為に生きている?」

「簡単だ。生きているから生きるのだ。それでは納得できぬか?」

…………この魔女、ある意味現実的だな。

「…………邪魔をしたな」

俺は魔女の部屋から出ていく。何だか、調子が狂ってしまいそうだ。

俺も…………俺の目的の為に行動しよう。

魔剣士と魔女の会話をこだわって書きました。

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