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ラヴァの伝説  作者: だとーる
ラヴァ 第三次奪還作戦
8/9

 ザワザワと木々が揺れ、不気味な影を形作る。薄暗さのせいもあるかもしれない。ひゅうと風が吹き、その一瞬でひとつの生命体がそこに存在を現した。

 戦時にあわぬ長い髪。そしてなにより、その身に何も纏わぬ異様さ。もしこの光景を見ている人がいたならば、その目を疑っただろう。そして、次の瞬間には夢か、幻かと自問することになる。

 その男は膝から崩れるように見えた。だが、その体が地につくその瞬間、四足の獣にその姿は変貌する。濃い灰色の体毛を持つそれは、狼に似ていた。

 たん、とそれが足を踏み出せば、まるで風に乗ったかのように優雅に、しかし素早く進む。彼の通った道筋は、数秒遅れて風が吹く。

 その獣はある一点で足を止めた。その眼は真っ直ぐとしている。注視していても見逃しそうなほど小さく、明かりと音が漏れていた。

 その獣から光の粒子が発生する。導かれるように、その明かりの元へと向かう。後にはそよ風に揺れる草葉があった。




 「つまり、あの医者はこの私が失敗すると……そう思っているということか、ペスタ」

 「はい。貴方がお帰りになるやいなや、選別を始めました」

 「チッ」

 ステニファの顔は、憤怒の表情で歪む。敵に見つかることを恐れ、蝋燭一本で明かりを賄っているせいもあり、その炎の揺れがよりいっそう、ステニファの表情を歪に写す。

 この報告をした男ペスタ――先程、グレムにステニファに合流したいと述べた兵士であり、取り次ぎのためにいち早く医院を後にしていた――は、その様子を見て胸を撫で下ろした。こうなった方が、彼のやることは上手く運ぶ。

 ステニファは確かに少佐としてはあまりにも器が小さく、その技量もない。だが、いくら人材不足とはいえ、その位につくくらいのものを三つ持っていた。

 一つ目が、怒りから来る残虐性だった。並みの者はついていけない。必死にしがみついても振り落とされ、その身は敵か味方か、それともただの地表か、とにかく悪い形に着地する。彼は誰と分からず盾にし、それごと剣で貫き、頭を割られようと歯を剥き出しにしながら敵陣へ突っ込み、そして帰ってくる。

 二つ目が、古の時代、全ての人が持っていたという不思議な能力だ。その能力は、一つの国を焼き尽くす炎を興したり、何もないところから水を発生させ大きな湖を一瞬のうちに作ったり、とにかく色々なことができたという。 

 その能力を持つ人は、現代ではごく少数だ。それも伝説上のものには遠く及ばず、せいぜいが日常生活を多少便利にする程度のものだ。例外は、数えるほどしかいない。

 そして、ステニファこそ例外だった。彼には驚異的な治癒力、怪力があった。それを使って、前記のことをなしていた。

 「ならば、目にもの見せてやる。あの医者は……」

 「ステニファ様?」

 「……」

 ステニファは蝋燭の炎を消した。一寸先も見えぬ暗闇のなか、ステニファとペスタの呼吸音だけがひびく。あとは沈黙だった。

 途端、何かが空を切る細く鋭い音がその沈黙を破る。ペスタに分かったのは数瞬遅れた突風と、それからさらに遅れ伸ばされるステニファの腕だった。彼の手からは数粒、光がこぼれ落ちたようにも見えた。

 「……」

 蝋燭に再び炎を灯し、ペスタはステニファの表情を見る。何もない掌を見ている彼は、真剣そのものだった。

 「いかがいたしました?」

 「気のせい……では、ないだろうな」

 「は?」

 「明日、この時間には行動に移す。ソルナスに例外の話は聞いたことはないが……何か、いた」

 三つ目が、゛最悪゛の予知だ。彼の器量では防ぎきることはできなかった。だが、彼よりも優秀な人物と組んでいた場合、確かな実績があったことは間違いない。

 ステニファの視線は、真っ直ぐと、確信を持って一点を見ていた。

 光の粒はさらさらと進み、数百メートル離れた兵士たちの拠点へと現れた。そこには四百人ほどの兵士が屯している。そこにはつい数時間前まで医院のベットにいた者が百に届かぬくらいいた。

 光の粒――グレムは蜘蛛にその姿を変える。多くある眼で、人の姿で見ることのない視点に一瞬頭が揺れるが、持ち直して見渡した。いきがいい兵士が五十出ていけば儲けもの、と考えていたグレムは実際の多さに、何が薬の無駄遣いだと心の中で吐き出した。

 その人数を確認すると、彼は再び光の粒になり、そして獣となり駆け抜けていく。

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