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ラヴァの伝説  作者: だとーる
ラヴァ イエロー第七地帯
5/9

舞台

 ヘイレンを選別した翌日から、医院の空気は戦々恐々としていた。今までに無いくらいの速さで選別が行われていたのだ。

 今回のことに、普段はグレムに心酔している女たちもさすがに抗議せざるを得なかった。もしや、ということもある。そうすれば沢山とは言わないまでも、医薬品は届くはずだと主張した。

 だが、グレムはそれを聞き入れなかった。そして、手や足を僅かにでも欠損している者、爆撃や戦闘の後遺症を僅かにでも持っているものを次々にそれの対象とした。

 「ふざけないでくれ! 俺はラヴァ軍人だ! こんなところで死んでたまるかよ!」

 「そうだ! 元に戻る見込みはない?! 指の2本や3本無くたってなぁ! 首だけになってもソルナスを殺してやる!」

 「……ソルナスの前に、ステニファに殺されそうになってたやつが吠えないでください」

 戦場にあって、戦場にあらずな医院で下される死刑宣告に、当然のように対象者は怒り狂った。心の内でグレムはヘイレンの冷静さを思い描くが、彼が生きていること自体が奇跡であることを思い返し、皮肉の言葉を飲み込んだ。

 わあわあと、もしやこの声で医院が見つかってしまうのではと思えるようなその騒ぎを沈める声が上がった。

 「ステニファ隊に入れてください」

 その声は、酷く小さなものだった。普段なら書き消されるようなその声は、不思議と医院の全員の耳に響いた。

 しん、と静まる医院に、声の主は戸惑ったようだ。だが、その戸惑いを残したまま後には引けぬと言葉を続けた

 「戦場で死なぬとはラヴァの恥……まして、憎きソルナスの刃の傷が原因での選別など、耐えられません」

 「しかし」

 「グレム医師、お願いします。犬死などしたくない! 幸い五体満足だ、多少目にもの見せるくらいはできる! だから、ステニファ様に取り次ぎを」

 「あなたは治るのです。多少の休息は必要ですが、今私が選ぶものより、確実にラヴァのーー」

 「だからこそ!」

 その声は高らかに響く。ラヴァの誇りをしっかりと持った声だった。

 「私は死に怯え、狂乱することはない。恐ろしいのは、この医院で死ぬことだけだ。ステニファ隊に戻り、補給線を復帰させる……それ以上の誉れが、今ここにありますか」

 「あなたにとっては、そうかもしれません。しかし、曲がりなりにも軍医の私は、人を見極め、一人でも多く生き残らせ、今後に備え」

 「今後?」

 静かな、しかし怒りのこもった声が上がる。それは先程までグレムへ怒鳴りかかっていた男のものだ。自分の話に割り込まれたことで、僅かではあるが冷静さを取り戻したらしい。声の主の瞳には、侮蔑の心が隠そうともせず浮かんでいる。

 「ソルナスに勝てずして、ラヴァの今後がどこにある? 全てを破壊してにいれたラヴァの血は俺に」

 「死にたがりが!!」

 グレムが叫ぶ。グレムが声荒く叫ぶところを見たことのある者はこの医院にはいない。

 しかし、戦場に長くいる者はこの光景を見てきている。助けられる者を助けられず、また、見捨て続けなければいけない医者が最後に陥る段階だった。平淡な彼を見てきた歴戦の兵は、それを見て例外はないと悟る。

 「なぜ生きようとしない。なぜ死ににいく! 私が今までしてきたことを無駄にするのか?! 私の決断で死んだ者は無駄死にだったと言いたいのか?!」 

 「そんなつもりでは……」

 「黙れ! お前たちをここまで生かしたのは誰だ! 私だ! 治療し、殺してきた! 選んできた、私だ!!」

 絶叫するグレムに、さすがの兵士も気圧されている。

 「……そんなに死にたいか。無駄死したいか……なら、もう、勝手にしろ……。お前らは恨まれるさ、そうだとも…………」

 ブツブツと呟きながら、グレムは部屋に下がる。

 後には戸惑いと共になにかが残されていた。それを言い表す言葉を、ラヴァ軍人は持ってはいない。だが、それは心に刻み込まれていた。誰からともなく立ち上がり、ある者は握手し、ある者は抱擁する。無言で行われた、軍人同士の意志だった。

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