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ラヴァの伝説  作者: だとーる
ラヴァ イエロー第七地帯
4/9

イヌ

 グレムは今、ヘイレンの体を見ていた。

 全ての衣類を剥ぎ取り現れたその上半身は中性的な顔立ちに違わずほっそりとしていて、また男性でありながら僅かに丸みを帯びているようにも見える。多少の火傷の痕や化膿している部位があるものの、それすら目に入らなくする理由が二つある。

 一つ目は、大部分が存在していない下半身だった。

 太ももが半分ほど残っただけのそこは、今でもまだ血がじくじくとにじみ、その中で白いものがうごめく。

 このような劣悪な環境で生きていることは奇跡だった。その白いものをピンセットで摘まみとりながら、グレムは計画を頭で練っていた。

 「あ、あの……グレム医師……」

 「何か……というか一応、私は医師ではないんですけどね。はめられて軍医という形になってますが」

 「それは分かってますが……その、せめて下着は着けたいなと」

 「駄目です」

 きっぱりといい放つグレムにヘイレンは項垂れた。

 「あなたは身も心も男であるとの宣告を受けていますが。ならば私がやっても不都合はないですよね」

 「……だからこそ、と言いますか……」

 ヘイレンは居心地が悪そうに呟く。そこに、二つ目の理由があった。

 ヘイレンのソコの近くには乱暴に彫り込まれた文字列があった。ゼストのメスイヌ――――

 「妬みですか」

 「まあ、そうです。私の通っていた学園に講演をしに来たゼスト様のお世話を担当していたんですけどね、それがきっかけで見出だされたので」

 「それは初めて聴いた」

 グレムは手を止めずに返事をした。ヘイレンはグレムの口調の変化に気がついていたが、指摘しようとはしなかった。

 「これを彫られたとき、絶望しました。私は確かにゼスト様を慕っていましたし、それを隠す気はなかった。その信愛の情を、こんな汚い言葉で、そして……」

 ヘイレンの様子が変わり、さすがのグレムをその手を止め、顔をあげた。彼の肩に手を伸ばせば、どこにその力が残っていたのかという勢いで振り払われた。

 「事実に、されるなんて……!」

 「事実?」

 その語が表す意味を咄嗟に理解できなかったグレムが聞き返す。一瞬の沈黙のうち、それを理解したグレムが目線でそれを制したが、ヘイレンは初めのグレムの一言を聞いていなかったようだ。

 アグレフ=ゼスト将軍。国への絶対的な忠誠とその能力、何より代々騎士団長を勤めあげたゼスト家の、百年に一人と言われる天才。ラヴァが未だ陥落しないのは、彼の采配があってこそだ。

 現代の救世主の小さな綻びを今、グレムは手中にしていた。

 「ヘイレン公」

 身を縮め、息を整える青年に声をかける。彼の返事を待つ数秒に、グレムの脳内には記憶の大波が押し寄せ、必要なものを掬い出していた。

 「はい……はい。すみません、見苦しいことを」

 「ヘイレン公にお訊きしたい。そして、正直に答えてもらいたい」

 「はい」

 「ヘイレン公は、ステニファが今回の作戦に成功する確率はどう考える」

 その問いに、ヘイレンは目を丸くする。それはグレム自身が不可能なものと考えており、自分自身が選別された理由であった。

 現在の上司を悪く言うことにもなる。だが、ここで虚偽を述べたとして、事態が好転するわけでもない。ヘイレンは正直に口を開いた。

 「限りなくゼロに近いでしょう。ステニファ様にそのような器量はありません」

 「では、もしあなたがステニファと並び立ったとして、状況を好転させるには、どうする」

 「私が……まずは、状況を知ろうとしますね。相手が作り替えていない限り、補給線への道のりは頭に入ってますから、最低でも二部隊に分け、……あぁ、でも」

 ヘイレンが溜め息をついた。

 「ここに来ている同胞の数を考えると、動ける兵は数百人いるかどうか。すみません、忘れてください」

 「それはステニファ隊のみでの数ですよね」

 「え? ええ、そうです。実際はもっと少ないかもしれないですが」

 「……最後に、二つ。あなたは死ねと言われたら、死ねますか」

 ヘイレンは微笑む。

 「それがラヴァの男です」

 「例えば、あなたの前で多くの人が、大切な人が死んでも、あなたは取り乱しませんか」

 「ラヴァに必要なことならば」

 その答えを聴き、グレムは自分のとる行動が決まった。

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