表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ラヴァの伝説  作者: だとーる
ラヴァ イエロー第七地帯
1/9

地獄

「ケイト、ケイト……!」

 血まみれで地面に横たわり譫言を繰り返す男を、血と泥で汚れた白衣をまとった男が無表情で眺めていた。いや、無表情と言うには、目線にわずかな期待が混ざっている。

「おい、どこだ、どこ……? ただいま……あぁ、なんだ。みんな、揃ってたのか?」

 突如、血まみれの男の声が明るくなる。まるで今、自宅に帰ってきたかのようだ。その異様な様子を見て驚くものは、この場にはもういない。

 そう、ここはイエロー第七地帯の医院である。しかし、医院とは名ばかりで、溢れ帰った怪我人に対し治療を行うことはできていない。数週間前、この地帯への補給線は敵軍に突破された。二度にわたる奪還作戦もただ怪我人を増やすだけにとどまり、医院の負担を大きくするだけに終わった。

 薬も包帯も軽傷者にしか使えなかったのも、もはや懐かしさを覚える状況だ。俺は平気だ、あいつを治してくれ――そういった言葉を無視し、治療する。「あいつ」が持ち直すことは決してない。助けられたかもしれない、そういった考えを持つ人間はこの医院にはいない。

 できることと言えば、床を跳ねる蛆、そして様々な汚れを外に掃き出すことくらいだ。はじめは目に涙をため吐き気をこらえていた十四、五の女も、今ではなんでもないようにそれをする。

 そんな地獄が、この医院だった。

 先程まで見えない家族と会話をしていた男が、急に苦しみ出した。もはやそのときは近い。

 と、汚れた白衣の男が苦しむ男に覆い被さった。白衣の彼の、現状にはふさわしくない長髪が、何をしているのかを知らせない。彼が身を起こしたとき、男の息は既に絶えていた。

「シェリー」

 長髪の男が呟く。すると、まだ若い女がいそいそと近づいてきた。

「グレム先生?」

 グレム――長髪の男が微笑む。シェリーは僅かに頬を染め、そして一つ息を吐くと未だ温もりが残るそれをやっとの思いで背負い、ごみ捨てへと出ていった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ