箒
皇都中心部より少し離れた場所に、この皇国中のすべてのガーディアン支部をまとめる皇国のガーディアン本部がある。最も、世界中の支部を統括するのはジューネルス中立国にある本部だが……
そんな皇国支部……皇国本部の一室で私は座っていた。俗に女の園と呼ばれているガーディアンの敷地内に男性がいることが珍しいのだけど、そんなことは気にしてはいなかった。
「くるかな」
カリーナはそういうと、私の顔をじっと見つめてくる。その顔は何か言いたそうで……困った顔をしている。
「大丈夫ですよ。カリーナ……本当のことはぼかしますから」
部屋がノックされて、真っ黒いし服に身を包んだミチが入ってくる。
「上層部からはウィスのことは内密にとのことよ……エンジェルズはガーディアンの偶像であってほしいみたいねぇ」
入ってくるなり、悪態をつきながら彼女が座る。
「難儀だね、あなたたち夫婦も」
ノックなしで入ってきたミチがそういうと、私はそうですねぇと答える。でもまぁ……
「楽しいから、問題はありませんよ。さて、案内ご苦労様ですミチ」
ミチの後ろには、二人の魔法少女がいた。実地試験対象者の二人を見て、にっこりと笑う。まったく、私がいる学校に送り込むとか、ガーディアンの上層部はよほど死にたいと見えるのですが……。
「まだ名乗っていなかったですね。私は上代 智哉と申します」
立ち上がり友好的な笑顔を見せるも、二人はどこか警戒しているように取れた。
最初に口を開いたのは、気弱そうな少女からだった。
「エンジェルのマーリス・アルステンと申します」
「カリア・ネースンよ」
気を強そうなほうは、不承不承といった形だがあいさつを返してくる。実際、挨拶は大切なのだ。
「さて、まぁむだばなしはなんですし、本題を言いましょうか。カリアさんでしたね。あなたの疑問に答えるとすれば、私は魔女の箒に選ばれた、男ですとしか言いようがありません」
ごとりと、一本の日本刀を彼女たちの前に出す。
「それは、日本刀だろ。だとすれば、魔女の箒であるはずがない。あれは、歴史の節目に表れて、魔女とともにあるもののはずだろう」
「はて、おかしいですね。だとすれば、魔女の箒はすべて青銅器でなければならない。歴史上12本のうちの一本が現れたのはその時代でしたから」
その言葉に、二人の魔法少女が固まる。魔女の箒の出自を知らないとこうなるのは、わかりきったことだが……
「だとすれば、魔力を扱えない男性がなぜその箒に選ばれたのですか」
「わかりません、ただわかることがこの刀は発見された箒の中の1本目で、確認されている12本の箒の原点ともいえるものだということです」
13本目については秘匿情報なのですが、ガーディアンの上層部に対する意趣返しの一環としてつぶやいておく。
「まぁこれが、私が戦う力ということで……本来ならば、人目に触れた場合の危険性と私の身の安全のため、使用が禁止されているのですが、あの時は例外だったため使用しました」
対外的な発表は、カリーナがアシスト魔法で覆っていて、その結果幻獣を切り裂けるようになっていたというシナリオになっているが。
まぁ初期に込められていた魔力は、カリーナのものなのであながち嘘ではない。
「……他者の魔力を喰らい、因果を断ち切る刀それがこの無銘ですよ」
無銘はその名のとおり、名前がないことから名付けられた。おかしなことに刀身の炭素測定では、この星が生まれたとされるよりはるか以前から存在しているらしい。
らしいというのは、比較対象があいまいだからだ。
「……普段は戦わないのよね」
「刀以外は、生身で魔力障壁などありませんので」
小さく目を細める。幻獣の攻撃は幻獣の性質上物理防御が何の意味もなさない、生身の肉体なんかは、攻撃が当たった瞬間削げ落ちるだろう。
「私個人としても、あまり戦いたくはないですしね。あの時は、悪魔型が出るとわかっていたので手出ししましたが……これでも不服があるというのなら、私とやりあいますか」
「やめておいたほうがいいと思うな、彼容赦ないもの」
道は苦々しい笑いを浮かべながら、モニタに当時の映像を流す。そこにはかつての私と、ミチが写っていた。その映像を見ていた二人は、最初は小ばかにした感じだったものの映像が終わるころには、顔を青くしている。
だってそのはずだろう、純粋な魔法少女でさらに最上位の動きをするミチを刀一本でほぼ生身の状態の私が圧倒しているのだから。
「高高度から攻めれば、いつかは……」
「確かに、空中戦を仕掛ければ、こいつの刀は当たらんが。残念ながら私たちは無限の魔力なんて都合のいいものは、持っていないだろう」
その言葉を聞いて、彼女たちの顔が真っ青に染まる。
「魔力が切れるか、彼の集中が切れるかどちらかしかないの、後者はまず無理ね。彼自身、魔法を切り裂くのに力を使ってないから」
空を飛ぶのに魔力を使い、攻撃するのに魔力を使うそうなれば鍛えている私のほうに分が回ってくる。こと、一対一の戦闘でなおかつ相手が人間であれば勝てると自負している。
「……それなら、なぜ世界に公表しないのですか」
やはりその質問になりますかと、小さくつぶやき溜息を吐く。
「わかってないですね、パワーバランスが崩れるんですよ。魔法少女、魔女などが必要になるまで、男尊女卑の世界でしたよね。それが崩れて、今は女尊男卑の世界になっています。男尊女卑の間、女性は自身の権利を主張して運動を起こした。パワーバランスが崩れたと同時に……あとは言わずともですが」
この力は危うい。だからこそ守れるものを見捨ててまでも、隠し通さないといけないのだ。
「……まぁこの件は内密にと、開示情報としては、私の家族すら知らない情報ですので。そろそろ帰らないと、晩の支度がありますので……カリーナ手伝ってください、買い物行きますので」
私はそういうと立ち上がり、カリーナを連れて外へと出て行った。
「しかし、あそこに行って妹に会わなかったのは幸いでした」
帰り道、疲れたように溜息をつく彼を見て、私は苦笑いを浮かべる。
「妹がいたのか」
「えぇ……言ってませんでしたか。弓を主体とする、神道の巫女なんですけどね」
日本の魔法少女には複数の連中がいる。古来ながらの魔女タイプ、世界規模の宗教の密教からの派生でありエクソシストと呼ばれるタイプそして、日本古来の八百万の神を信奉し、その力を借りるという形で魔法をなす巫女と呼ばれるものだ。
「へぇ、トモの妹は巫女か……ん?」
確かに巫女で弓を扱うといえば、大量に思い当たる人間はいるが果たして、トモの妹がまともだという保証がない。
「歩く主砲とか言われている奴じゃないか?」
「あー、よくわかりましたね。その通りですよ。あの子も加減を知りませんからね」
大型の竜種を弓一本で撃ち落とすとか、してたらそうだろうなと思うのだけど……
「それにしても、よかったのか。箒のことを言ってしまって」
「13本目はここ数日で公表されますよ。所持者と形状はそのすべての箒の祖たる能力を持っているため、秘匿されますがね」
いろいろ手を打っていて、本当に自由だなと思う。
「さて、しばらく幻獣でないでしょうし、私も明日は学校に行かないつもりなので……二人で出かけましょうか」
「いいのか」
確かトモは皆勤賞を狙っていたとか、話していたはずだけど。
「あぁ、アレ嘘です。あれほしがるのって、成績優秀なまじめ君か、それ以外に表彰されないようなゴミがねらうものじゃありませんでした」
相変わらず辛らつな言葉が聞こえ、少しだけ苦笑いを浮かべる。
「カリーナは家にずっといるでしょう?私が自制しないと、二人とも外出しなくなりますしね」
私は、依然彼に対して言った言葉と、彼がとった行動を思い出し苦笑いを浮かべる。
少しばかり、イチャコラしようぜぇといっただけなのに、彼はいいのですかと不敵な笑みで襲い掛かってきたことを。
「まぁ、そうだな。でも、あれはトモもわるいだろ」
「そうですか?私は確認したはずですが」
私を襲ったことを悪びれていないのだろう、まぁ私も彼があそこまで積極的にやる人間だとは思わなかった。
「はは、そうですね。でもまぁ、あなたも抵抗しなかったでしょ」
「うっ」
図星を刺されて私は後ずさる。
「まぁその観点から言うと、自制心をなくしてサルみたいに盛った私たち互いの責任ということで……」
自分も含めての発言なのに、なんでこんな口が悪いのだろうかと、少し疑問に思うがおおむね間違いではないのだが。
「あぁ知ってます?サルみたいに盛るって言いますが彼ら、そんな盛らないらしいですね。ボスザルを頂点とした実質ハーレムだから考えてみればそうなのですが」
「なんだ、その無駄な豆知識!!」
そんなこんなやりながら、私たちの日常は過ぎていくのだった。




