引きこもりの人
静岡県中部にあたしは引きこもっている。
わざと薄暗くした部屋の壁には、アニメのポスターがいっぱい。ごちゃごちゃの本棚には漫画がたくさん。カラーボックスにはきれいに整頓されたコミケで収穫したグッズ。ベッドの上にはノートパソコンに携帯ゲーム機にスマホ。
「このまま、死ぬのかな、あたし…」
ベッドの横にあるこの部屋で一番大きいポスターに話しかける。あたしの一番好きなアニメの一番好きなキャラクター、ノートに名前を書いて人をどんどん殺していくというアニメに出てくる超頭のいい探偵さんが、ぼーっとした顔で写っている。
もちろん返事が返ってくることもなく、同じ表情であたしと目が合っているだけだ。
「……神様神様、あたしの生きる意味ってなんですか…」
柔らかいベッドに倒れこんだ。すぐそばにあった抱き枕を抱きしめ、目をつむる。
さあ、生きる意味なんて考えないでおやすみなさいと神様が言った気がして……。
「……湖杜、か……そのまんまじゃん」
「姉さん」
「ひょあ!!」
名は体を表すなあ、母ちゃん、ごめんな、と泣きそうになっていたとき、暗闇に光が差し込んでそこから義弟が現れた。少し目に涙が浮かんでいたし、まさかこんな時間に扉があくなんて思いもしなくて尋常じゃないくらい驚いた。
義弟、翔太は、部屋の電気を勝手につけた。
「ぎゃあああああ! き、貴様! 吸血鬼の私にこんな仕打ちを…!!」
抱き枕を抱きながら仰向けになって足をじたばたさせる。これがいつものノリで、昔は翔太は喜んでくれたけどもうすっかり笑わなくなってしまい最後には黒歴史の誕生となる。
翔太はペットボトルやら空っぽのカップ麺やらが散らばっていて足の踏み場が無いに等しいあたしの部屋にズカズカはいってくる。
「な、何? 今午前3時だよ」
「明日休みだからゲームしてたんだ」
垂れ目で無表情でさっぱりした短髪の翔太は結構淡泊だ。ここの家に来たときは敬語だったし表情も豊かだったんだけどなあ……なめられてるんだなああたし。
「来年受験生でしょ? 勉強しなきゃ…」
「姉さんが教えてくれるから平気だよ」
なんだそりゃ……勉強できるわけじゃないし、教えるのへただし。とりあえず中学三年生の勉強を見てあげれるほどの学力ではないのだ。
翔太はだらしなく寝ているあたしの横に立った。タンクトップ一枚とパンツ一丁でいるにも関わらず恥もしらないのは女として終わっているのだろうか。
「で、何? あたし今から寝るんだけど……」
「コンビニ行きたいんだけど、怖くて行けないんだ」
「……引きもこもりのあたしに頼まないでよね」
とか言いながらあたしは立ち上がって服の山から着やすいズボンを引っ張り出した。
翔太は、私がついてきてくれるとわかっていたのだろうか、すでに出かけられる格好に着替えていた。私も一応財布を持って翔太の後ろをついて部屋を出た。
家を出るとカエルの鳴き声を浴びる。部屋の中でも聞こえていたけど外に出ると一層凄い。この時間帯は人もいないし、目があるとしたらカエルとその他の虫だけだ。
買い物をさっさと済ませ、そそくさと部屋に戻った。
「ありがとう姉さん。あと一緒にお風呂入ろうよ」
「え? さすがにそれは無理だよ。それに翔太、中2じゃん」
「何本気になってるの? ウソだよ。おやすみ」
母ちゃんが起きないようにそっと部屋のドアを閉めてでていった。
こいつは……。
なんでこんなに生意気になってるんだろう。あたしの接し方が悪かったんだろうか。甘やかしすぎたのかそれとも足りなかったのか……寝た後に考えよう。