プロローグ
静岡県中部にあるド田舎にとある引きこもりがいた。彼女の名前は吉里 湖杜。名は体を表すとはこのことだろうか、彼女は中学2年生のある日を境に、学校へ行かなくなってしまい、中学3年になってからは部屋からでることさえも少なくなってきた。
高校は一応通信制のところに決まり、底辺な人生のど真ん中を歩いている最中にやっかいなものが舞い込んできた。
それは東京から越してきた戟 翔太という湖杜の4コ下の男の子だ。親が交通事故で死んでしまい、引き取ってくれる者が誰もいないということで湖杜の母親がその役を任された。戟家と吉里家のつながりは全くないが、翔太の母親と湖杜の父親が学生時代にとても仲が良く、湖杜父が死んだときに湖杜の母親を慰めて仲良くなったのが翔太の母親である。
翔太は初めて来たときは両親を亡くしたショックで笑顔がなかった。だが、引きこもりの湖杜が親身になって翔太のそばについていたのだ。自分も父を亡くし、親がいなくなる辛さを知っていたからである。
極力面白い話を振ってあげたり、勉強をできる限りみてやったり、翔太が立ち直るまでそう時間はかからなかった。ちなみに湖杜は頭が良い。あるものを見ただけで覚えられることができるという能力が備わっている……だがそれがいじめの原因となり引きこもったのだ。
人生最大につらいと思われる苦しみを解放してくれた湖杜に恋心を抱いた小学生の翔太もまた賢くて、湖杜に話しかけてほしくて両親の死から立ち直ったにも関わらずあまり笑わないようにしていた。それを毎日のように続けていたら、中学1年生に進級した時にはもう表情筋は硬くなっていたのだった……。