■ 後 編
地面に四つん這いに崩れ落ちた、タケル。
完璧なまでの、ストレート負け。
『なんでー・・・ ひどいよ、なんでー・・・
中学でバスケとかやってないか・・・ 確認したじゃーん・・・。』
『中学ではやってないよ。
小学生のとき、地元のジュニアチーム入ってただけ。』
涼しい顔してボールを小脇に抱え、片足に体重を掛けて斜めに立つナナ。
『ずりぃー・・・
おまけに、ソレ・・・
・・・・・・・スカートじゃないじゃーん・・・。』
『え? あぁ・・・
ショートパンツだよ? ・・・プリーツで見えづらいけど。』
いつまでも『ダマされた。』 と呟きガックリうな垂れるタケル。
『こんなはずじゃなかったのに。』 と。 そんなタケルを横目に、
『じゃあ・・・ お願いイッコ。 ナンにしよっかなー?』
人差し指の先でボールを慣れた感じでクルクル廻しながら。
その顔は更にご機嫌に、にこやかに綻ばせて。
『俺。小遣い日まだ先だから、あんま高いモンおごれないっス・・・。』
地べたに胡坐をかき、情けなく背中を丸めるタケル。
不満そうに口を尖らせ、目線を落とし指先で爪を弾く。
可笑しくて可笑しくて、ナナの口角は上がりっぱなしだった。
『じゃあさ。 付き合って。』
聞こえたその一言に、うな垂れていたタケルの頭が急にグンと持ち上がる。
『・・・・・・・・・・・え?』
『あたしと。 付き合って・・・。』
『それ・・・・・・・ どーゆう意味で??』
『アイザワ君が言った意味と、同じ意味で。』
慌てて立ち上がったタケル。
立ち上がる際に地べたで支えにした手の平に、膝に、砂の粒。
『・・・・・・・・・・まじ??』
『まじ。』
まるで4歳児のように、真夏の太陽みたいに、タケルが白い歯を見せて笑った。
喜び勇んでナナの小脇からボールを奪うと、ドリブルしながらゴール下へ進み
ステップを踏んで上に飛び上がり、ボールをバックボードに預けアンダーハンド
でレイアップシュートを打ったが、残念ながらゴールリングネットにかすりも
せず、ポトリと落ちた。
ムキになってそれを3回繰り返し、まるでギャグのように全てはずすと途中から
笑ってしまって手が震えているタケルと、それをしゃがみ込み腹を抱えて笑って
見ているナナ。
気が付くと、空はやわらかく橙色に染まりはじめ清々しい風がそよいでいた。
帰り支度をはじめた、ふたり。
少し名残惜しそうに公園を出て歩きだす。
『でもさー・・・ 実際、付き合うって何したらいい?』
『ん~・・・ まずは。 ケーバンとメアド交換じゃない?』
ナナの言葉に、タケルが呆れて小さく笑う。
『そうだった! まだ知らないんだった・・・。』
『だってあたし達、じゃんけんとダッシュしてばっかだもん。』
すると、タケルが一拍おいて大きめの声を張り上げた。
『あと、もうイッコあるっ!!』
『ん??』 小首を傾げナナが見つめると、タケルがまっすぐ腕を伸ばした。
そしてナナの前で手の平を広げる。
顔を綻ばせてナナが笑った。
そっと、その手をつかむと、ふたり。
照れくさそうに、でも嬉しそうに。 手をつないで歩き出した。
『もうイッコあったっ!!!』 再び張り上げた声に、目を向けたナナ。
タケルの ”言いたいこと ”は、すぐ分かった。
『おっけー!』 聞く前にそう返して、笑う。
『えー、なに? 言いたいこと分かったの? なんで分かった??』
『わかるよー。・・・顔に書いてあるもん。』
『え? すっげえエロいこと考えてたのに!!』
タケルのお尻へ軽くキックした、ナナ。
そして、呆れたようにチラっと目線を遣る。その顔は、目を細め微笑んで。
『もう、ほんっと ”タケル ”はバカでしょーがない・・・。』
『 ”ナナ ”にはナンでもバレちゃうのかー・・・ 気をつけねば。』
手をしっかりつないだまま、『ドンッ!』 の掛け声でふたりで走った。
つないだままだと走りづらくて、ケラケラとふたり笑いながら。
いつまでもいつまでも、ふたりの笑い声が秋の夕空に響いていた。
【おわり】