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金剛のアルムス  作者: ミササギリョウ
一章・ルディ
9/9

勝利への意思

俺がFランク全体を敵に回した次の日、さっそく俺は全員の前でダンジョンの内部について説明させられていた。俺が見たダンジョンの全て、肉食芋虫、さなぎ、蝶のこと、さらに『危険』な道の先の堅穴のこともだ。

「異常が俺の見たダンジョンの全容だ。なにか質問のある人は?」

俺はわかりやすく簡潔に説明したはずなのに、見てみるとほとんどの奴らは首をひねっている。

バカなのか?

「ありがとう、素晴らしいプレゼンだったよ。」

そういっておれの方に近寄ってきたのは今のこの状況を作り出した張本人、ラバー・ストーレットだった。

「どうも、まあわかってもらえたかは謎なんですけど。」

「なにも全員が分かっている必要はないんだ。作戦を立てる僕らがちゃんとわかっていればね。」

そういってこの男は鼻をふんと鳴らして笑う。嫌味な笑い方だ。こいつのことはたぶん好きになれない。

だが今はこの場所のボスだ、不用意に逆らうのはまずい。

「では早速作戦会議といこう。君の持っている情報があれば必ずいい成果が出せるよ。」

そういってあの男は一人豚小屋を出ていった。俺もそれについていく。

俺たちは汚らしい池の前で話し合った。

「じゃあまず僕の考えを聞いてもらえるかな?」

「どうぞ。」

「僕はここにいる全員で大きな結果を残したいと思うんだ。今までのFランクをはるかに超えた最大の結果。全員で踏破するだけじゃあ物足りなくはないかい?」

なにを言い出すかと思えば。この男どうやら大きな功績が欲しいらしい。

「どういうことです?」

「このランクは毎年ほとんどの生徒が自主退学するランクだ。ダンジョンの突破ができずにね。でももしそのランクが全員突破、しかもそれより大きな功績を残したとしたら、みんないったいどう思うだろうね?」

「そりゃまあ驚くでしょうね。」

あとそれを指揮した男はさぞかしいい思いをすることだろう。

「そこで全員が活躍でき、なおかつ大きな功績を残せる作戦を考え付いたんだ。」

「いったい何なんです?」

そしてこの男はにやっと嫌な顔で笑う。

「ダンジョン破壊だよ。」

その言葉をきいて俺に寒気が走る。かつて親父はダンジョン破壊ののち命を落とした。

「あんた、本気で言ってるのか?」

「ふふふ、なにを怖い顔をしているんだ。大丈夫だよ、この人数で行くんだ。そうそう犠牲者は出ないよ。それにすぐいこうってわけでもない。ちゃんと彼ら全員がある程度戦えるように教育はするさ。」

「いや、ダンジョン破壊はそんな甘いもんじゃない。少しここのやつらを鍛えたくらいじゃ、死ににいかせるようなもんだ。」

「君の情報から推察するに、このダンジョンの敵は、芋虫類と蜘蛛だけだ。ならその戦い方をしっかり把握させれば大丈夫だよ。彼らだって君と同じようにここに入学できた生徒なんだから。」

「あんたの功績を残すっていうならここの全員をEランクに昇格させるだけで十分だろう。わざわざ危険を冒さなくても・・・。」

「おっと、誰がそんなこと言ったんだい?僕は善意で動いているんだ。今ここにいる仲間たちのため、そして来年はいる後輩たちのためにね。僕らのようなみじめな思いをする人たちはもう出したくないんだよ。」

白々しいウソを言うものだ。こいつは自分の思惑がばれていることはもうとっくにわかっているのだろう。

「とにかく、ダンジョン破壊なんて危険すぎる、やめとけ。そういうことならおれは協力できない。」

「ふふふ、いいのかい?君、今孤立したらまずいんじゃない?」

確かにまずい。だがこのまま大量の死者が出るよりはよっぽどいい。

「そうなったときは、なんとか方法を考えるさ。」

「そうかい、ご意見番の君がそこまで言うんだからやめた方がいいのかもね。そうだね、ちょっと待っていてくれないか?」

そしておれは一人その場に取り残される。あの男何を考えているんだ。おそらくあの男は名声を欲している。学校側から才能なしと見限られたFランクを導いた指揮官としての栄光。おそらくそのためなら多少の犠牲を出すこともいとわないだろう。そして今あの男はおそらく周りの賛同を得ようとして説得に向かったはず。そうなったら俺は協力せざる負えない。そうしなければたくさんの人を見殺しにしたことになる。

そうなる前に留めなければならない。のはわかっているが、どうしてもすぐに止めに行く気にはなれなかった。考えてしまうのだ。本当に俺ではダンジョン破壊ができないのかと。たしかに俺一人では無理だ。でももっとたくさん人がいたら?俺の親父はかつて一人でやった、自分の命と引き換えに。あの人がどれくらい強かったかは覚えていない。けどたしかなことは俺の師匠よりもずっと強かったということだ。そしておれは師匠に到底及ばない。じゃあやっぱり俺らみたいな烏合の衆がいくらあつまたところでどうにもなりはしないのではないか。でもどうしてだろうか。頭ではできないとおもっている。でもそういって逃げるのは悔しい。悔しくてたまらない。でも止めなければいけない。思えばあいつがダンジョン破壊を口にした時からわかっていた。この気持ちはダンジョン破壊への恐怖だけじゃない。きっとこれも俺の大切な目標の一つだ。でもまだ早すぎるのではないか。すぐにダンジョンで死にかけるような子どもが、そんな大それたことをできるわけがない。そんなことはわかっている、でも、くっそ!

色々と複雑な感情が胸の中で渦巻いている。俺は結局しばらくその場を動けないでいた。


俺が我に返ったのは豚小屋から男たちの雄叫びが聞こえてきたときだった。

その声を聞いておれは大急ぎで駆けつける。その場はすでにあの男がほかの奴らを煽り、掌握してしまっていた。この時俺は悟った。もう遅い、もうこの戦いに加担することは決まったのだと。

激しい後悔とほんのりとした喜びが俺を傷つけた。


その後俺は彼らに全面的に協力をした。その日何度も彼らとともにダンジョンへ潜り、敵との戦い方や、チームワークを教えた。そして彼らは蜘蛛や芋虫程度には遅れをとらないまでになった。中には蝶やさなぎにも対抗できるところまで成長した者もいた。すべては奴の思惑通りに進んでいたのだろう。それは釈然としないが、今はできることをするだけだ。こうなるまでに止められなかったせめてももの償いのために。


そして次の日、よく休んだ俺たちはついに作戦を実行することになった。

「皆さんの多大なご協力に感謝します。では今から作戦の確認をしましょう。」

今日の作戦はこうだ。

まず最初に2組8名が斬り込み部隊として突入する。おれはその最初の一人だ。

この舞台には昨日のトレーニングで良い結果を残した者たちが集められている。このこの部隊がまず蜘蛛の集団、次に羽化の間へといき大部分の敵を掃討する。

次に二番隊俺たちの補助に入る部隊だ。総勢12名。

俺たちの戦闘に後から加わり、戦闘をより円滑に進めるためにいる。目標では羽化の間で合流することになっている。そして羽化の間の敵を討伐したのち、堅穴に向かう。だいたい12~16人くらいで討伐する予定だ。あまり多すぎても戦うスペースがない。前衛8人、後衛、その他補助や交代要員が残りのメンバーとなる。その戦闘が終わるころにだいたい20名の人員がそろうと見積もっている。

その後俺たちは休憩、交代で見張りをしながら堅穴で残りの10人が来るのを待つ。

そして残りの人々がダンジョンの中を見回り、敵の殲滅を確認したとき、全員でダンジョンの奥深くへ潜ろうという算段になっている。

その最後に入ってくるのは我らが指揮官ラバーのパーティだ。総大将は最後に一番後ろから指揮をする決まりらしい。

「以上、それでは皆さん、我々の、我々の後輩の未来のために頑張りましょう!」

『うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!』

この時すでにこの男の支持率は異様なまでに上がっていた。嘆かわしいことだ。それに逆らうこともできないなんてな。


こうしてダンジョン破壊作戦は始まる。第一関門蜘蛛の巣穴は難なく突破。4人で十分だった。

「じゃあ、次の羽化の間に向かう。」

おれは仲間に指示をする。俺のパーティのメンバーは人の好さそうな巨体の男、ガンラ。武器は大斧。攻撃範囲の広い薙ぎ払い攻撃や、さなぎの殻をも破壊する重い一撃が特徴だ。

次は少し細めの背の高い男、レドル。赤いバンダナとサングラスをつけている。戦闘方法は俺のように投げナイフを使ったり、爆発物や目くらましの道具を持っていたりする中距離の要だ。

最後は槍とボウガンをもってさまざまな状況に対処するオールラウンダー、ハルシー。もっとも重要な攻撃の要として考えられた編成だそうだ。実際彼らの実力は確かで俺が一人で来たときの何倍も早く片付いた。

「了解だリーダー。しっかり頼むぞ。」

「あいよ、さっさとこっから抜け出してやろうぜ!」

「ああ、われらの目的のためにも。」

この三人はおれに無用な敵意を抱いていないようで、とても組みやすかった。

昨日の指導の時は俺を目の敵にしている連中とまで組まされてそれはそれは苦労したものである。

こうして羽化の間に辿りついた。

「お願いします!」

「オッケー、任せときな!」

俺たちは急いで目を伏せる。サングラスの男は爆弾を投げる。閃光弾というらしい。その弾の炸裂とともに、辺りに強烈な光が広がる。目を伏せていても眩しい。この暗がりの洞窟にずっとこもっている魔物たちならなおさらだろう。

この光に驚き、大量のさなぎは一気にしたへ降りてきた。また光につられ、ぞろぞろと芋虫たちも姿を現したのである。

「ここでの作戦は打ち合わせ通り、お二人は幼虫を撃破。、俺とあなたはさなぎを力技で仕留めていきます。羽化されるより早くお願いします。」

『了解』

昨日どうやって敵を倒すかを何度か話し合った。ここの虫たちはかなり光に敏感だと何度か探索して気づいた。本来暗がりで生活する動物の目は発達しないはずだが、ここの魔物たちは暗がりでも物が見えるという方向に進化したらしい。

その性質をいかして何とか一度に強い光をあててさなぎトラップを解除する方法を考えた。またそのさなぎをさなぎのまま倒してしまえば蝶が出てくることはなく、楽に戦える。

昨日足の引っ張り合いをして蝶、さなぎ、幼虫と一度に戦うことになったときは4人でも立ち回れなかった。意識を散乱させて来る蝶、動きを封じ味方の盾にもなるさなぎ、凶悪な見た目と破壊力をもつ芋虫のコンビネーションは恐ろしいを通り越して気持ちが悪かった。

しかし今日は首尾よくさなぎ幼虫を撃破できる。こう考えている今でもすでにさなぎは半数へと減った。味方の適切な援護で、幼虫たちの注意はこちらに向いていないのだ。またその幼虫たちも出てくるそばから倒されている。このままいけば四人で十分事足りる。

しかし実際うまくはいかないものだ。さなぎを倒し終わる頃蝶が飛来する。羽化の間にすでに羽化したものが襲い掛かってきた。だが慌てない。すでに敵の防御の要は崩した。そこで俺は武器を斧からロッドへ持ち替える。それを激しく振り回し、蝶たちを叩き落としていく。ロッドは攻撃範囲が広く、一度に巻き込める敵の数が多い武器だった。そのためさなぎが障害となっている場合はうまく振り回せなかった。また芋虫のような鈍い敵を倒すなら打撃より斬撃を選んだ。しかし蝶は芋虫やさなぎよりも敏感だった。羽や細い脚などもろい部分が成長により生まれたのである。そういう相手には強力な打撃攻撃で打ち崩すのは十分有効だ。一度に倒せる数が多いロッドなら二刀流よりも早く片が付く。羽を強力な打撃で打たれ、飛び上がれなくなった蝶は芋虫たち同様残りの二人にとどめを刺される。もう一人は巨大な斧を振り回し、効率よく敵を撃破している。さらに敵に追い打ちをかけるように増援だ。二組目が合流してすぐに敵は一掃された。

「おお、予定よりも早く済みましたね。」

おれは向こうのパーティのリーダーに話しかけられた。

「そうですね、みなさんが頑張ってくれたおかげです。」

「いえいえ、みなさんのほうこそ。おかげさまで私たちはほとんど蜘蛛の巣穴で襲撃されませんでした。」

「そうなんですか、合流が早かったのはそのためなんですね。」

「ええ、驚きましたよ。今まで何回入ってもあんなに出てこなかったことはありませんでした。どうやら私たちが昨日からここに入り続けているおかげで敵の数が減ってきているようです。」

「ああ、なるほど。」

「それにもう幼虫の進行も収まってしまったようですし、きっともう相手も戦力不足なんですよ。」

「そうだといいですね。」

「きっとそうです。このもまま行けば案外簡単にダンジョン破壊までいけてしまうかもしれませんな、はっはっは。」

そして向こうのリーダーは笑いながら自分のメンバーのもとに戻っていく。本当にこのままダンジョンをせめ落とせるのだろうか。そうだったらこんなに安心できることはない。

しかしどうも腑に落ちない。俺の父はこの程度のところでやられてはいないはずだ。きっともっと強力な敵のいる、それこそAランクと称されるダンジョンだったかもしれない。それでさらに一人で戦っていた。でも何か納得がいかなかった。俺の中で親父は強くなりすぎているのかもしれない。そう思い始めるまでになった。


そして俺たちはゆっくりと後戻りをする。分かれ道のところで俺たちは仲間との合流を待っていた。このあとはあの超巨大蜘蛛との決戦だ。気を引き締めなければ。

10分後増援を含めて12人になったおれたちは『危険』と書いた穴のほうへ進んでいく。そして目下に多いな堅穴をとらえる。

「作戦開始!」

まずその合図とともに閃光弾が穴に投げ込まれる。それが炸裂し辺りは穴の中から強い光が漏れだす。そして蜘蛛の悲鳴が聞こえた。

そしてそれを確認した後今度は火炎瓶が投げ込まれる。前回確認したときこの穴の途中には蜘蛛の巣が貼ってあった。今度はそれを焼き切る。

俺はすぐに穴の中を確認した。中では強い閃光にやられた何かがじたばたと蠢く姿と、燃える細い足場が見えた。

「よし、次だ!撃て!」

次は遠距離攻撃を浴びせる。光と熱に混乱している蜘蛛は格好の間とだった。だがやはりただでかいだけではないようだ。集中砲火を受けながらもその攻撃が飛んできている方角、すなわち上へ上ってきた。

「いったん退避!それぞれの配置に着け!」

これも打ち合わせで自分の得意な分野で前衛後衛、その他補助にあらかじめ分けていた。すぐに打ち合わせた配置につき迎撃態勢にはいる。

なんとかのし上がってきた蜘蛛は奇声を上げながらこちらへ向かってくる。巨大な足を振り下ろし、前衛を攻撃する。それをみな丁寧にかわす。そこにすかさず後衛が攻撃。蜘蛛の注意は後衛に向く。

しかし前衛部隊も負けてはいない。各々得意な武器で敵の体に大きな傷をつけた。俺もこの蜘蛛は固そうだったのでハンドアックスを用いて足を一本たたき割った。

散々に攻撃された蜘蛛は自分の周りに大量の蜘蛛の糸をばらまいた。これは一度蝶とこの蜘蛛が戦ったときに使っていたのを見ている。かなり粘着力のある糸のようで、捕まったら厄介だ。

俺は蜘蛛の攻撃をかいくぐり相手の頭の前に立つ。胴体は足を何本かやられてすでに立ち上がれなくなって地面にべたっと引っ付いている。俺はその相手の顔面に剣を突き立てる。蜘蛛は足をじたばたとさせて暴れまわる。

しかし大きな隙に全員が総攻撃を仕掛ける。足、胴、頭など屈強な戦士たちの連撃になすすべなく、超巨大蜘蛛は倒れるのであった。

この奇襲作戦が功を奏し、一見勝てそうもない巨大な敵を倒し、全体の指揮は一気に上がる。

「おっしゃ!このままダンジョンごとぶっ潰す!」

『うをおおおおお!!!』

誰かの呼びかけに答え、全員の雄叫びが洞窟内にこだました。本当にこのまま勝ってしまうのか。そうおもうと俺も心臓の鼓動が速くなった。しかしここまでは俺が事前に情報を与えていたからうまくいっているのであってこの先に何が待ち受けているかはまだわからない。まだ気を抜いてはいけない。しかし今のこの乗っている状況に水を差すのも気が引ける。再びほかのパーティと合流するまでの間はこのままにしておこう。


俺は時間を確認した。まだ全てのパーティが到着するには1時間以上ある。大蜘蛛を倒し、手持無沙汰になった戦士たちはここで思い思いに語り合っていた。数々の戦線を切り抜け、彼らの団結力は大いに高まっていたのである。

「なあリーダー。」

うちのパーティの屈強な斧使いが俺に話しかけてきた。

「なんですか?」

「あんた、今いくつだ?」

「15です。」

「おお、若いな。それなのにこの実力か。」

「おい、マジかよ、10個も下!」

俺の歳を聞いてサングラスの男も驚いたように反応する。

「いえいえ、それほどのものじゃないです。」

「なに、謙遜するな。あんたが強いっていうのはもうみんなわかってる。さっきも蜘蛛の攻撃を糸をすり抜けていったあの動き、そしていろいろな武器を使いこなす技量、本当に驚かされたよ。」

「ありがとうございます。でも皆さんもすごいですよ、それぞれの個性を光らせる武器を選んで、その扱いをしっかり身に着けているじゃないですか。」

「へへ、まあおれにはこういう投げたり光ったりするもんが性に合ってるんだよ。」

「私も昔から森の中で野生動物を狩ってきた身、いつの間にかこのボウガンが相棒となっていた。」

「おお、お前らはそういう理由か。おれはただ単に昔から体がでかくて、強い力を生かせる仕事に就きたかったんだよ。で、今の武器だ。」

そんな他愛のない話をして談笑している。おれはここで一つ気になったことがあった。

「皆さんに一つお聞き気したいことがあるんです。」

「おう、どうした改まって。」

「何事なのだ?」

「僕らはすでにこのダンジョンを抜けて、Eランクに上がる程度の実力は身に着けています。でもそれを後回しにして、どんな敵が待ち受けているかわからないこのダンジョンのさらに深いところへ向かおうとしています。そこで皆さんの言葉で答えてほしいんです。この先に本当に進んで、ダンジョン破壊をこのまま続けるべきかどうか。」

いつになくおれは深刻な声を出していたと思う。彼らはその気持ちを汲んでしっかりと考えてくれた。

「俺はな、たしかに最初はラバーって男に乗せられて、この計画に乗った。けどあとから考えたさ。ダンジョン中のモンスターを全滅させるなんて本当にできるのか、途中で死ぬような目にあうかもしれないとか。だからやめといた方がいいんじゃねえかとも思った。だけどな、もう俺らみたいなみじめな目に遭うやつらが出てきてほしくねえって本気でそう思ったんだ。だからおれは誰がとめてもこっから先に行くぜ!」

「俺としてはこれに乗っかったふりして楽に乗り切る方法をいくつも考えてたんだがな。でもお前みたいなちびっこがここまでやってて、そこで逃げるなんて自分が情けなく思えてきてよ。だもんでここはいっちょ本当にこの計画に協力して、派手に決めてやろうってな。」

「私は最初からあの男は胡散臭く思っていた。だが周りを敵に回すのは不本意であったので途中までは仕方なく参加していた。そして本番は辞退しようと思っていたのだが、皆と高めあううちに、その者たちとの共通の願いをかなえたくなったのだ。」

それぞれいろいろな思いを持っていた。しかし今は誰もこの先に行かないなんて言わなかった。

「でもここから先は完全に道の場所です。もしかしたら本当に誰かが亡くなるかもしれない。下手をすれば、誰一人無事では済まないかもしれません。」

しかし俺はまだここまで思いきれない。もし俺があの時止められなかったせいで多くの人が死んだら、ここで俺の目標がついえたら、何度もダンジョンで死にかけた恐怖が今頃になって訪れる。初めてその重要さと正面から向き合っている気がした。しかし彼らの意思は固い。

「確かにあんたの言うように、いや想像以上に厳しい戦いがこの先に待っているかもしれん。それでも俺は自分で選んでこの道を進むさ。」

「まあなんだ、こういうのすきじゃねえんだけど、俺らなら絶対に勝てる!なんてな。そう信じてるんだよ、俺は。」

「私たちは誰一人命を捨てに来てなんかいません。全員が全員それぞれの野心を抱いてここにいる。このくらいの試練を超えられなければ、私たちはここでなくてもどこかで命を落とすでしょう。だからこれは絶対に超えて見せます。」

彼らはどこまで覚悟しているのだろうか。どこかで油断しているのかもしれない。もしかしたら死まで覚悟しているかもしれない。本来ならかける必要のないものを俺は彼らに賭けさせてしまった。だから責任がある。彼ら全員を無事に返すこと、そして必ず彼らの抱いた希望の勝利を実現させる責任が。


そしてついに、総勢30名の戦士たちがこの穴の前に集まった。ラバーは皆の前に立ち演説をしている。その話の白々しさにはほとほと呆れる。それに乗ってしまうやつがたくさんいるこの状況にも。ここで予想外に俺の番が回ってくる。ここまでこの軍勢を指揮、指導してきた立役者の俺に挨拶をしてほしいということだ。はっきり言って断ろうかと思った。自分の欲のために彼らを必要以上の危険に巻き込んだようなものだったから。

「今ここで、この道の場所へ踏み込むことが恐ろしいという人や、試験ごときに命を懸けたくないという人はすぐに引き返してください。」

そういうと辺りは静まり返る。さっきまでラバーの熱い演説によって活気づいていたのでこのテンションの差は大きい。俺はしばらく様子を見た。しかし今更誰も止まる様子はなかった。そう、今更止められるはずはないのだ。もっとはやくにそうしなければならなかったのだ。だったらおれはもう結果で自分の選択が間違っていなかったことを示すしかない。

「では、ここにいる仲間すべてを無事に返すことが私の責任です!この命がある限り必ずあなたたちをお守りします。だからどうか、安心してついてきてください。必ず、全員で勝ちましょう!」

『うをぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!!!!!!!』

彼らの指揮は最高潮に達した。何が何でもこいつらを守り抜く。俺の責任と願いのために。




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