絶望の入学
ルディ、専門職業者養成場。
世界最高峰の養成施設で、俺リムドは、早くも落ちこぼれてしまいました。
例の手紙を受け取った次の日、ショックから立ち直れないまま、すぐに入学式がとりおこなれた。
俺は手紙に書かれていた集合場所のルディ常用門前広場にきた。入学式はそれぞれのランクに分かれて出席するらしく、
ほかのランクの人はここにはいなかった。
すると何人か見覚えある顔をみた。
(あれはもしかしてナイフペロペロ男か?!やっぱりあいつ弱かったのか。ってあれ?あっちは隻眼着物長刀使い。そうかぁ、あいつも弱かったのか。ということはやっぱりあそこは雑魚のたまり場、そしてあのラゼルも雑魚ってことなのか?)
この時改めて自分が超弱くてカッコ悪いのかと思ってしまった。そんな気分で受ける入学式なんてどうだろう。
本来は期待と不安で胸がいっぱいのはずなのに、どう考えても期待できる要素がないじゃないですか。
さらに、ただでさえ期待していなかった入学式だったのに、それをはるかに下回ることを俺たちはまだ知らない。
「どうも、Fランク合格者のみなさん。ご入学まことにおめでとうございます。」
集合時間を5分ほど過ぎてようやく引率の人がきた。なんだかとてもテンションが低い。おめでとうございますが露骨に社交辞令感で満ち溢れている、というかカンペ読んでる。
「これから入学式会場へ移動します。みなさんついてきてください。」
そういうと引率の人はルディの外壁の小門をくぐった。なぜか外に出たのだ。
訳も分からずついていき、しばらく外壁に沿って歩くと別の門が見えた。
『Fランク生徒入場門』
そう書いてあったが残念ながら入場門などという華やかなものには見えなかった。
どちらかというと刑務所か実験施設のようなものの門に見えた。その金属製の門は錆びついていてツタなんかが巻き付いていて
とにかく汚い。掃除くらいしておいてほしかった。
さらにひどいのはその中だ。中にあるのはランクアップ試験会場受付と書かれた建物と小汚い飼育小屋だけ。
そして極めつけはこれ、屋外にスクリーン、プロジェクターとスピーカーが置かれており何かの映像を投影している。
そして信じられないことにスクリーンの上には手書きで紙に『ルディ入学式』と汚く書かれたものが貼ってある。
「みなさんFランクの方々はいかなる理由があろうとも本校舎に入ることは許されません。ですが入学式は本校舎で行われます。
ですのでここで入学式の様子を生放送でお送りしたいと思います。」
その言葉に俺は絶句した。きっとそれは俺ばかりではない。ここにいる人はほとんどそうだろう。何よりひどいのはもう入学式が始まっていたことだ。他のランクで入学した生徒たちはみんなそろって座っている。
その様子を見てついに不満を大爆発させたやつが現れた。
「おいおいおいねーちゃん、黙って聞いてりゃぁいい気になりやがって!なんで俺らがこんな待遇受けなきゃなんねぇんだああん?!」
どこの質の低いチンピラかと思ったがその意見には同意だ。いくらなんでもこれはひどすぎる。
「近寄らないでください、雑魚がうつります。」
「ざっけんな!今すぐちゃんとした会場に連れていきやがれ!」
そういって男は引率の女性になぐりかかる。しかし彼女はため息をついて避けようとはしない。
そして男の攻撃はとどくことはなかった。何かに阻まれた。さらにその直後男は吹き飛ばされ思いっきり鋼鉄の門に叩き付けられた。
「ぐはっ」
「先ほど言ったようにあなたたちに本校舎側に入る権利はありません。それがこの場所のルールです。あと忠告ですが、私は特殊な装備で攻撃を防ぎ同時に相手を吹き飛ばすことができます。あんな風にけがをしたくなければ私には逆らわないほうがいいですよ。それに私には正当な理由があればあなた方を退学にする権限もあります。
今回は見逃しますが次私に手を出そうとすれば退学にしますからそのつもりで。」
彼女はそうつめたく言い放った。そしてそれ以来だれも文句を言えなくなった。
黙って俺たちは入学式の映像を見続ける。内容は一切頭に入ってこない。
目に入ってくるのははるかかなたに離れていく希望と周りに満ちる絶望だけ。
入学式は終わり、次はガイダンスが始まった。
「ではルディの基本ルールを説明します。基本ランクはAからFの6種類。ランクごとに単位が決まっており、その単位を落とした場合
ランク降格となります。単位は本校舎側で行われる授業を受けることで取得できます。ですがご安心ください。Fランクには降格はありません。そもそも落第ランクなので。自主退学がほとんどです。またランク昇格には昇格試験を受けるため
ノルマがあり、それを達成することでランクアップ試験が受けられます。AからEのランクアップ試験は月に一度行われます。Fランクの昇格試験は常時行われています。奥に見えるランク試験会場で行われています。試験内容は洞窟抜け。一人から四人のパーティーで洞窟を抜けていただきます。ゴール地点にはEランクの特別校舎とランクアップ受付がございます。ぜひともみなさん競ってご参加ください。 それと学生証はランクアップ試験会場で発行されますので、まだ試験を受けないという方も一度試験会場へ行ってください。詳細はみなさんがEランクに上がった時に説明があります。頑張ってランクを上げていってください、まあ無理でしょうが。それではみなさんの今後のご活躍をお祈り申し上げます。」
それだけ言ってガイダンスは終わった。細かい学校の説明まで投げ出された。
これは冷遇とかいうレベルじゃない。公的ないじめだ。俺たちを追放する気だ。これがここのやり方なのか。
今の説明でわかったのはFランクにいる以上俺たちは人とは認められないということだ。おそらくあの豚小屋みたいなやつが俺たちの寝床。なにか訓練を受けられるわけでもなく、ただランクアップのための洞窟があるだけ、あとは完全に放置されている。一刻も早くこの地獄から抜け出さなければならない。そう思っていた矢先。
「何だか知らねーがこんなとこさっさたでていってやらぁ!」
「そうだ!俺たちの力を思い知らせてやるぜ!!」
さっきも聞いたようなセリフが飛び回り、周りは大混乱だ。皆が一斉にランクアップ会場へ向かっていく。なんだかここでのノリに
ついていけず俺は一人取り残された。今行ってもあのしょうもない奴らがいっぱいできっとろくなことになってないな。
うん、あとにしよう。
俺はひとまずあの豚小屋へ行ってみることにした。この広場から一分くらい歩くとたどり着ける。
近くで見てみたのだが、想像以上に大きい、そしてぼろい。どうやらFランク30人くらいの全員が横になれるくらいはありそうだ。
しかし問題はなか。入ってみて視界に入ったのは柱とコンクリートの床、そして穴のあいた天井だった。
これでは雨や嵐が防げないのではないだろうか。よく見るとところどころ木材で補修されている。
想像どおりの酷さ。こんな解放的な場所では落ち着いて寝られない。ましてまわりがあの荒くれ者ばかりでは盗難とかいろいろ心配だ。
自分一人で静かにいられて雨もしのげる場所はどこかないだろうか。
そんなことを考えて豚小屋の周囲をうろついていると、小さな泉があった。そこの立札には、『Fランク専用入浴場』と書いてある。て、全然入浴じゃねえ!なんか水濁ってるし、冷たいし、虫みたいなの泳いでるし!
まあ別に旅先ではよくあることだったけどもう少しきれいなのがいいって、それ以前にここにみんなはいるんだよな。汗臭い荒くれ者の汁がここに溶け込んでいるんだよな。いやーー!!毒虫と一緒に入った森の湖のほうが千倍マシ!
そんな想像をしてしまった俺はそこから逃げ出した。そして今度視界に入ってきたのはこんなんだった。
『配給所』と書いてある小さな看板のついた小屋。そこにはボケボケした爺さんが座っていた。
少し話しかけてみることにした。
「あのー、すみません。ここはなんですか?」
「見ての通り、食品の配給所じゃ。」
「そうですか、今日の夕食は?」
「パンとキャベツ。」
「あのー、ほかには?」
「ないのう。まあキャベツ丸々一個も食べれば腹も膨らむだろうの、はっはっはっ!」
はっはっはっ!じゃねえ!笑えねぇよ。この際肉とか魚とか贅沢は言わん、せめて調理してくれ!
何というところだ。ここではまともに生きる権利さえも迫害されているのだろうか。
おれはとぼとぼとその場を後にした。そして後ろからかけられたこんな言葉をかけられた。
「食事の時間は朝8時と昼12時、夜7時の三回じゃぞ。毎日いろんな野菜持ってきてやるから楽しみにしておくんじゃぞ☆」
もう・・・いや。
さてそろそろ試験会場のほうも騒ぎが収まったころだろう。
そう思ってランクアップ試験会場へ向かった。案の定すでに会場は静まり返っていた。むしろ静かすぎて怖い。
俺は受付のほうをみるとひきつった笑顔のお姉さんが立っていた。
「あの、すいません。学生証の発行をお願いしたいんですが。」
そう声をかけるとお姉さんはそのままの表情で言った。
「はい、わかりました、それでは、おなまえ、を、おきかせ、くだ、さい。」
この人なんかすごく疲れてそうだな。なんか笑顔を無理に作っているというより、無理な笑顔が張り付いたってかんじだ。
「はい、リムド・ソウ・スパルエルです。」
お姉さんは何か機械を操作している。そして画面を見つめているが表情はそのままだ。なんかキモイ。
「はい、リムド・スパルエル、さん、ですね?」
「? あっ、はい、そうです。」
ミドルネーム省略されて一瞬誰かわからなくなった。
「はい、で、は、昨日送付された合格証明書、を提出してくださ、い。」
合格証明書、昨日のランク選考結果と一緒に入っていた紙か。おれは鞄からその紙を探して提出した。
そしてお姉さんは紙を受け取ると機械に紙を通して操作をする。そしてピッという音の後にカードが出てきた。
「はい、確認しま、した。リムド・スパルエル、さん、本人様ですね。このカードが学生証、となりま、す。他者へ譲渡、したり、貸与した、りはできません。紛失したさい、は速やかに再発行をして、ください。このカードは常に携帯していてくで、さい。あなたの、身分を、証明するうえ、で重要なも、のです。お気を付けて管理、してください。」
「ありがとうございます。」
おれはお姉さんからカードを受け取った。カードには俺の名前、顔写真、そのほか入学年、そのほかいくつかの情報が載っていた。
「ところでお姉さん。なんか疲れてます?」
「いえいえ!そんなことはありません!!このように!!!元気に!!!!」
明らかに無理してそうだ。そりゃこんな若そうな人のところにあんな騒がしい連中が一斉に詰め寄ってきては気苦労もするだろう。
「はあ、大変ですね。まあそれはいいとして、ランク試験受けたいんですけど。」
「はい、ランクアップ試験ですね。少々お待ちください。ただいま、ほかの三組待機中となっております。最長一時間半お待ちいただく、ことになりますが、よろしいでしょうか?」
「短いとどれくらいですか?」
「そうですね、早いと、20分、くらいですかね。」
「えらい差ですね。なぜこんなに差が?」
「この試験では説明があった、とおり洞窟抜けをしていただきます。最大4人一組で、という形式なのでほかのグループ、と重ならないように、ということで前のグループが出発してから、30分、たつまでほかのグループが出発できないルールになったいるんです。ですがそれまでにゴールしたり逃げ帰ってきたりした場合は、すぐに出発できるので待ち時間は短くなります。」
「なるほど、わかりました。じゃあ受けます。」
「はい、わかりました。では学生証をお預かりします。」
そういってお姉さんは学生証の提示を求める。そしてカードを受け取って機械に通して俺に返却してきた。
「はい、登録終了しました。それではあちらの控室でお待ちください。」
そうしておれは控室に案内される。中に入るとFランクほぼ全員がそこにいた。半数はけがを負い。残りはその様子に戦慄している。
応急処置BOXみたいなものが控室においてあり。帰還者はみな疲れ切ってその場で座り込んでいたり、けがの治療をしたりしている。
それ以外の人たちは順番待ちの席に座っている。おれもそこに並ぶことにした。隣には大柄な斧使いのおっさんが座っていて、額に汗をかいている。たしかにここ暑いかもな。こんな狭い部屋にむっさいおっさんいっぱい詰め込んじゃダメだろ。ていうかこんなところで汗かいちゃったらあのおっさんの泉につからなければならなくなる。それだけはいやだ!みんな早くでてけ!!
などと心の底から願っているとき隣のおっさんが話しかけてきた。
「おい、小僧、一人か?」
「そうですが。」
「悪いことはいわん、やめといた方がいい。どうやらこの洞窟、結構強力なダンジョンらしい。」
俺はその言葉を聞いて一瞬思考が止まった。何とか意識を持ち直し問いかける。
「ダンジョンってあのモンスターの巣窟?」
「そうだ、さっきから何組も即席パーティーで突入しているが10分もたずにみな逃げ帰ってくる。中がどうなっているの考えるだけで
冷汗が止まらないよ。」
どうやらついにおれはかつて親父が死んだダンジョンというものに潜ることになったようだ。
さっきまでとは違い、俺の中には緊張感が走る。しかしいずれは超えるべき壁、なら死なないように、命がけで突き進もう。
それからしばらくして先に入っていた集団がものすっごい勢いで逃げ出してきた。そして次に入った集団も5分、その次は7分で帰ってきた。
そしてついに俺の一つ前の集団が入っていく。
「じゃあ坊主、やるなら気をつけろよ。」
「おう、おっさんたちも気を付けて。」
軽く挨拶をした後、おっさんたちは洞窟へと姿を消した。
ちなみにおっさんのパーティーは昨日見たナイフペロペロ男と隻眼刀マン、あと入学式で吹っ飛ばされたモヒカン男だ。
ていうかモヒカン男もう包帯ぐるぐる巻きになってんぞ。試験受けるのやめた方がいいんじゃねえか?
なんにしてもこのFランクとかいうところは人も設備もひどすぎる。
そして待つこと1分。
「ぎゃーーーーーー!!!!」
「まだ落ちるのは御免!!!」
「俺たちの力を思い知らせてやったぜ!今日はこのくらいにしといてやる!」
(prprprprprprprpr)
もう戻ってきたよ。どうやら本日の最短記録更新らしい。
それにもにぎやかな奴らだ。こいつらは不思議なことにけが人が増えていない。いったい洞窟に何しに行ったのだろうか。
そして奴らはこの部屋からも最初の退場者となった。
「んじゃ、行きますか。」
「少年、一人で大丈夫か?」
今度の係員は男だった。
「大丈夫ですよ。つい最近までずっと一人旅してたんですから。
「そうか、でも気をつけろ。このブレスレットを受け取れ。そして危なくなったらこのボタンを押せ、すぐに助けを向かわせる。」
「ありがとうございます。んじゃあ行ってきます。」
「ああ、試験開始だ。」
こうしておれは初めてのダンジョン探索に向かった。
おれにとってダンジョンとはかなり思うところがあるものだ。実際おそれがないといえばうそになる。
だがそれ以上にこの壁を越えることに集中していた。
洞窟の外壁にはランプがついている。しかしところどころ破壊された跡がある。
どうやらこの辺からモンスターが現れ始めるようだ。俺はいっそう気を引き締めた。
そして向こうのほうでなにかが動いたのが見えた。
おれは目を凝らし、ゆっくりと近づいていく。
そこにいたのはでかい芋虫。どうやら芋虫が巨大化して生まれたモンスターのようだ。
この程度の相手なら旅先でいくらでも倒している。俺はナイフを二本取り出して一本を投げて、突然の襲撃に混乱しているところをもう一本で斬りつける。ナイフは虫の脳天に刺さった。そのとき芋虫の癖に奇声をあげ、その後その場でのたうち回る。そこで頭部を切り落としてとどめを刺した。しばらくの間胴体だけが気味悪く蠢いていた。
刺さったナイフを回収し、先へ進む。どんどん照明の数が減っていく。
足元が見づらい。さっきからたまに生温かくて柔らかい感触が足に当たるが、きっとこれは先にダンジョンに潜ったやつらが
倒した芋虫だろう。俺は足場に気を付けながらもできるだけ見ないように歩いた。
そしてあるところになにか穴がぶつぶつと開いた岩のようなものを見つけた。これはいったい何だろうか。
こんなもの旅の途中でもみたことがない。俺はゆっくりと近づいていく。よく見ると穴は意外に大きく、さっきの芋虫くらいなら
までなら通りそうだ。おれはもう少し近づいてみようとおもった。あと一歩で手が届きそうだ。
しかしここで急に中から何かが飛び出しきた。蜘蛛だ。さっきの芋虫より一回り小さい。しかし尋常じゃない大きさの蜘蛛のモンスターだ。
おれは何とか飛びのいて蜘蛛をかわす。武器をもって蜘蛛と交戦しようと思ったが恐ろしいことに中からぞろぞろ出てくるではないか。
どうやらこの蜘蛛はこうして洞窟に巣を作って生息しているようだ。
ナイフ二刀流で相手をすることにした。この数の蜘蛛に投げナイフはきっときつい。それに本数も足りない。
俺はとびかかってくる蜘蛛をナイフで切り付ける。そうすると奇声を発してもがきながら地面に落ちる。そうしてしばらく戦っていても
一向に数はへらない。それどころかどんどん数は増え、目の前の道は蜘蛛で埋め尽くされた。これでは一向に前に進めない。
諦めて撤退するしかない。そう思って走り出したがこの蜘蛛案外速い。逃げてもなかなか引き離せない。さらに背中に向かって思いっきりとびかかってくる。
さっきから蜘蛛の足についているとげがちくちくと刺さるのだ。さらに今度は蜘蛛の糸を後方から飛ばしてきた。半端なく動きづらい。
これでは逃げられなくなる。こうなったら一気に蜘蛛を減らすしかない。
おれは大剣を振う決意をする。うまく攻撃できるタイミングを探さなけなければならない。
もう結構な距離走って逃げている気がするが、まだまだ入口は見えてこないし、蜘蛛も引き離せない。
このままでは死ぬかもしれない。死なない程度に命かけるつもりが本格的に命かけることになってしまった。
この状態を打開する方法はないのだろうか。このままでは逃げれない。
しかししばらく走ると追手の攻撃頻度が下がっているのに気が付いた。
まだ蜘蛛のカサカサと走る音は聞こえてくるのだが、その大きさも心なしか小さくなっている。すこし後ろを向いて確認すると蜘蛛の半数くらいが途中で止まって何かを運び出している。でかい芋虫だ。どうやらあの芋虫の死体を巣へ持ち帰るらしい。
これはチャンスだ。しばらく走ればまだ少し芋虫の死体は転がっているはず。それを使って追手を減らし、残りを瞬殺する。
おれは必死に走り続けた。前をみて、追手の足音を聞き、チャンスを待った。
そしてついにその時はきた。
さっき俺の倒した芋虫が転がっている。頭が切り離されているのがその証拠だ。
もう少し走ったところで蜘蛛を大剣で潰す。平らな部分で打てば一気に減らせる。
俺は振り向いて大剣を振り上げる。全身の筋肉が硬直する。蜘蛛はもうすぐそこまで迫っている。
そして何匹かがあの芋虫を運び出しているのが見える。やるなら今だ。蜘蛛の数はさっきまでとは比べ物にならないくらい減っていた。
今までにはいった人たちが芋虫を倒しまくってくれていたおかげで、たくさん運んで引き返してくれたようである。
蜘蛛はおそらくとびかかってくる。でもその前に何匹も一気に叩き潰したい。そう思っておれは一歩とぶ。
とっさに近づいた俺との距離に蜘蛛は急いで飛び上がろうとする。だが俺が剣を振り下ろす方が速い。そうおもっていた。
しかしそうはならなかった。大剣は俺が飛び上がったことで洞窟の天井で引っかかった。
そして大剣は俺の背後に落ちる。さらにおれに複数の蜘蛛がとびかかる。
「うわぁぁぁ!」
おれは思わず悲鳴をあげた。おれは必死に蜘蛛を振り払う。払っても払っても落とした奴が飛びついてくる。
また払うのが遅ければ噛みつかれる。武器を取り出す暇もない。
このままではいつか力尽きる。またもっとたくさんの蜘蛛が増援にきてもおかしくない。これが死ぬかもしれないって状況。
初めて潜るダンジョンの恐ろしさ。ひとりで焦り、判断力は鈍り、多勢に無勢の圧倒的不利。
親父はこんなダンジョンを一人で潰したというのか。いったいどれほど強大な男だったのか。改めて俺はそれを知った。そして同時に己の無力を呪った。
さっきからだんだん蜘蛛にあらがう力がなくなってきた。そろそろ限界のようだ。こんなところで果てるなんて情けなさすぎる。村の皆に合わせる顔がない。いや、合わせることはもうできない。
ユージン、アミー、すまん。おじさん、おばさんさようなら。ほんやのばあちゃん、弁償できなくてごめんなさい。師匠、親父を超えるのは別の方法を探してくれ。
おれはいまにも力尽きそうで、とびかかる蜘蛛を払うのをあきらめた。そうすると今までにあったいろいろな人の顔が思うかんだ。
そういえばロルンもここにいるんだったかな。まだ会ってないけど、元気にやってるかな。決着つけたかったな。
ふふふ、どこからか声が聞こえる気がする。まさか、最後に聞こえてくるのがあいつの声なんてな。
俺はだんだんと体が軽くなって行くのを感じた。死ぬっていうのはこういう感じなのかな・・・
目を開いた俺が見たのは無機質な天井。洞窟ではない、死後の世界はこういうところなのだろうか。
おれはもっと温かみがあるところを想像していたので、冷たい世界に戸惑っていた。何とかおれは体を起こそうとする。その時に傷が痛む。体中蜘蛛に引っかかれたりかまれたりしたのだ。当然といえば当然だろう。
と思ったが死んだとき体の傷は引き継がれるのだろうか、そんな疑問が思い浮かんだ。そしてそこから一気に意識がはっきりした。
ここはあの控室だ。どうやらおれは生きているらしい。いったいあの後なにが起こったというのか。
「お、気が付いたか?」
おれは聞き覚えのある声をきき、顔をこえの主へ向ける。
「おまえは、ロルン」
「二度も命を救った恩人に、お前は失礼じゃないか?」
どうやらあの時の声は幻聴ではなかったらしい。
「洞窟で蜘蛛に絡みつかれて死にそうだったんだぜお前。まったく、また無茶しやがって。Cランクのダンジョンに一人で入るやつがあるか!」
「ダンジョンにランクとかあんの?それにCランク?」
「まあその辺の説明は今度な。いいか、とにかく今後は一人でダンジョンに潜ろうと思うんじゃねえ。ランクアップ試験だから俺らみたいな救助隊がいるけど、そうじゃなきゃ死んでたぞ。」
「そうか、また助けられちまったのか。あーあ、情けねえ。」
おれは心の底から悔しく思った。いろいろ失敗して死にそうになったこと。ロルンに助けられたこと。
そしてなによりダンジョンに負けたこと。
ロルンに見られていなかったらとっくに泣き出していた。こいつには感謝しないとな。
「すまん、たすかった。」
「いいよ、これは仕事だからな。というかああなる前に救助ボタン押せよ。もっと早く助けられたのに。」
「救助ボタン?・・・あ!」
おれのブレスレットについていたボタン。ブレスレットには蜘蛛の足の毛がたくさんついている。
どうやら蜘蛛にとりつかれたときに押されたようだ。これがなかったら本当に死んでいた。
おれは安堵して一息ついた。そしてあることを思い出す。
「あっ、大剣!」
「ああ、それな。残念ながら誰も運び出せなかった。だからまだダンジョンの中に取り残されてる。」
「急いで取りにいかねえと!」
おれは体が痛むのも気にせず飛び上がろうとした。しかしロルンは止める。
「馬鹿野郎!そんな傷でいかせられるわけねえだろ、考えろ!死ぬ気か!」
「でもあれは大事なものなんだよ!言っただろ!くそお!」
「こいつなんて馬鹿力だよ!いいから落ち着け!」
取りにいかないなんて選択肢はない。あれは大切なものだ。何かあったらどうする。
ロルンの静止なんて今の俺には聞こえない。聞く気なんて全くない。ただ俺は必死に剣を取りに向かおうとした。
係員の男も加わり俺を止める。
「邪魔だ!放せ!くそ!どけ!」
騒ぐおれを男二人が必死に止める。でもおれは止まらない。あの剣はダンジョンの中だ。
「待って!」
聞きなれない声がした気がする。でも知らない。関係ない。
「待てといっているだろ!」
パシッとおおきな音がした。そしてじわじわと俺に頬に痛みが広がる。
ふりむくとそこには髪の長い人が立っていた。赤毛のしゃれっ気の無い、たぶん女性だ。
「落ち着いたか。ではいこう、係員通せ。」
「えっ、しかし・・・」
「大丈夫だ、これはランク試験でもない。失くしものの捜索だ。」
「でもこの洞窟内は・・・」
「安心しろ、私はこういうものだ。それに護衛もつける。いいだろう。」
そういって彼女はなにかを係員に突きつける。そうすると係員は突然頭を下げだした。
「失礼しました!どうぞお入りください。」
そして彼女は鼻をふっとならして門の中に入る。
俺たちは呆然と先へ進む彼女の背中を見つめていた。
「何をしている。二人とも、行くぞ。」
おれは一瞬反応が遅れた。
「ああ。」
それでも彼女の後をついてダンジョンに入る。
「えっ、ちょっと待てよ!?というか護衛っておれ?!」
そういってロルンも中へと入ってくる。
いったい彼女は何者なのか。ダンジョンに入った時にはそれはほんの少ししか気にならなくなっていた。