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金剛のアルムス  作者: ミササギリョウ
一章・ルディ
5/9

奥の手


入学試験が行われているとき、別の場所でその状況を観察していた者たちがいた。

彼らはルディの理事会といわれる面々である。ここにいる彼らは今までリムドたちが受けている試験の様子を観察していて、ちょうど今すべての試験が終了したところだ。

「どうだった。今年はよさそうなのいたか?」

一人の男が声を発する。それにたいして別の男が答える。

「どうだったも何もこんな試験でわかるわけないだろう。」

「今年から方針変更で、身体能力だけ見て合否を判断するとかいって試験の内容がこんなお遊びみたいなものになるとはな。」

「戦士としての技量は二の次か。まったくなにを考えているのか。」

「よくなったといえば、モニター室からさっさと撤収できるところだな。」

「去年までならこの10倍はかかってたもんな。」

理事たちはすでに試験から興味を失っていた。ただただ愚痴を言うばかりで、誰一人真面目に意見をだすつもりはないようだ。

本来彼らはそれぞれの国家の重役や、富豪などの戦いとは無縁の存在、回避する身のこなしや体力だけで能力を判断することなどできなかったようだ。

そんな中一人の男が口を開く。

「すみません、いくらか気になった受験者がいるのですが。」

声の主は周りの理事よりも幾分か若い男だっだ。この理事会を取りまとめる議長が口を開いた。

「わかりました、ではヤマタ理事、聞かせてください。」

ヤマタと呼ばれる若い理事は発言を許可されると議長に軽く会釈をした。

「えー、まず第一回の緑色の目立つ鎧をきた男性、彼は合格確定条件である10人の中にはのこれませんでしたが、合格者の最低タイムまでの間は生き残っていたので

残ってもらっています。次に第二回では少年の剣士。彼の身のこなしはしなやか、攻撃も確実に見切っていました。合格も確定していますし、

ランク分けでは上のほうを検討すべきかと。また同じ回で双剣を持った女性と、チェーンハンマー使いの大男、鎖鎌をもった黒装束も目にとまりました。

彼らはそれぞれスピード、打たれ強さ、隠密能力が優れており今後注目すべきかとおもいます。次に第三回は・・・」

「ちょっとまて、あとどれだけ続く。」

理事の一人がもううんざりと言わんばかりに口を開いた。

「あと90人ほどいます。それでは続いて」

それをきいて他の理事たちはつぶやきだす。

「わかった、それはあとで聞こう。」

発言を許可した理事も、それを一度止めた。それから他に意見のある人がいないかを確認した。そして誰も追加で発言がないことを確認する

「それでは当初の予定通りそれぞれの回で勝ち残った10人。また合格者の最低タイムを上回った者13名。

 計313名が合格。この方向で考えます。これについてなにか意見のある方はいるでしょうか。」

理事たちの中に異論はなかった。ただ一人先ほどの細身の男だけは話を止められたことが不満ではあるようだ。

「それではこれで決定とします。本日の議題は全て終了です。ありがとうございました。お気をつけてお帰りください。」」

そうして理事たちは騒がしく散っていった。しばらくして部屋に残ったのは2人、会をまとめていた議長と例の若手の男だ。

「では、ここからが本題だ。ヤマタ君話を聞こう。ただし合否に関しては今表明した通りで変更はしない。」

「ええ、わかっています。」

「まあ気楽にいこう、今は面倒な理事たちもいない。彼らはただの出資者だ、この会議に出席していただいているのは顔をたててやっているだけで、

もともと意見については期待していない。君のようにここ出身の理事が増えてくれればいいのだが・・・」

「まああまりないでしょう。先生もたいへんですね、ここの職員にならなくてよかった。」

「本当だな、オススメはせんぞ。理事のご機嫌取りや荒くれ者の統制、その一方で授業やら事務やら、忙しくてろくに休暇もとれんよ。」

「休暇がないという点では僕も似たようなものですよ、それでは始めましょうか。」

そんな議長の男は思い出したように言った。

「おお、忘れるところだった。私たち以外にも信頼のおけるものをいくらか呼んでおいたよ。」

「ほう、それはどんな方々で?」

「今それぞれの分野においてここで優秀な成績を収めている生徒たちだ。彼らなら良い意見を出してくれるだろう。」

「それはそれは、いいんですか?生徒に決めさせたりして。」

「下手な理事よりよほどいいとおもわんか?」

「それはその通りですね。」

「では始めよう、入ってきてくれ。」

そういって議長の男は部屋の外に声をかける。すると扉が開き、数人の若い男女が入ってきた。

そして細身の男が立ち上がり落ち着いた様子でたちあがった。

「はじめまして、わたくしは理事のヤマタと申します。みなさん同様にかつて先生にお世話になっていました。」

「今ではこの若さで大企業の副社長だ皆失礼の無いように。」

そういわれて集まった者たちはそれぞれのやりかたであいさつをし、席に着く。

「では始めよう、クラス分けの選別作業を。」


試験から一夜明けたこの日、合格者の一部が昨日の試験会場に集められていた。だいたい30人くらいだ。その中に俺がいる。いったいこれからなにが始まるのだろう。

「みなさん、おはようございます。昨日はお疲れ様でした。みなさん他約280名、計313名は昨日の試験で合格し、無事にルディへの入学が決定いたしました。

そしてこれからここにきているみなさんで、特別振り分け試験を行いたいと思います。」

「試験だって!」

「昨日で終わりじゃなかったの?!」

「いったいどういうことなんだ!?」

試験という言葉にあたりがざわつきはじめた。俺もこれには驚きだ。もしかして昨日の試験でぶっ倒れて保健室行きになったから入学資格をはく奪されるとかそういう試験か?

「ご静粛にお願いします。まずみなさんの合格は確定しているのでご安心ください。今回行われるのはみなさんの入学後の立場を決める試験です。」

その言葉であたりは一度静まった。しかし疑問は残った。入学後の立場とはいったいどういうことなのだろう。

「ルディでは個人の実力や知識に応じてカリキュラムを設定しています。その基盤となりますのはランクというもので基本ランクはA~Fの六段階があります。

今日行われる試験は入学時点でどのランクに配属されるかを決定する重要な試験です。合格しているからと言って手を抜いたら痛い目に遭うのでご注意ください。」


そして試験の概要が説明された。

まずこの試験は昨日の試験で実力やポテンシャルが高いと判断されたもの、あるいは逆に実力不足と判断されたものが対象となる。

強者か雑魚か、ここに集まっているのはどちらか、ということだ。

次に試験の内容だ。この試験ではあらかじめ強い奴と弱い奴で別に対戦カードが設定されている。

そして1対1で戦闘を行いその様子を見てどのランクに入れるかを審査員が判定する。

審査員団はどこかで隠れてみているらしい。ちなみに勝敗についてはどちらかが動けなくなるまでだそうだ。

昨日と同じ様な防御魔法がかけられているが、昨日と違って攻撃を受けるとその部分に衝撃が走り動きが鈍化するということだそうだ。

そして試合が始まるまでは控室で待っていることになった。外の様子はみることができず呼び出しがあるまで待機だそうだ。


試合前おれは緊張していた。ここにいるおれは強者か弱者か、いったいどちらで呼ばれたのか、そればかり気になっていた。

決して試合前で緊張していたわけではない。俺は自分では結構強いほうだと思っている。だが昨日は散々だったので弱者に混ぜられているのではないのかと思ってしまうのだ。

この部屋には俺以外にも何人かいた。そしてそいつらもきになるのだ。

(こいつはどんなやつかな、持ってるのはナイフ二本。あの金髪は染めてるのかな。なんていえばいいんだろう、すげー小物臭がする。

俺の恐ろしさ思い知らせてやるぜ~!とかいって一撃で葬られそうな・・・ということはここは弱い奴らの集団なのか?)

そしてそのあとおれはまた辺りを見回す。今度は俺は別の相手に目を付けた。

(おお!あの人は期待できそうだ!片目に眼帯、あれは着物っていうんだっけかそれに長刀。絶対強い奴だろ。あの試験を片目で乗り越えるんだ。そうに違いない!・・・あれ?じゃああの小物臭しかしない男も強いの?ないないそれはない。うわっ!あいつナイフなめだしたよ。汚いな~、こんなわけのわからないタイミングでナイフなめるとか絶対雑魚だよ!ちょっと目立つ出落ちやろーだよ。)

こうしておれは最終的に実力関係なく集められた可能性を見出した。


そうこうしている間についに俺の番がまわってきた。コロシアムまでやってきた俺の前に立っているのは片手剣をもった少年だった。年齢は俺と同じくらいだろうか。

服装はきれいな装飾がほどこされたプレートのついた軽装、それにちょっと目立つ石のついたブーツ、武器は片手剣。おそらくはスピード重視の剣士。

力量はどうだろうか、目つきは悪く、しっかりとこっちを見据えている。お互いに相手を観察しあっているようだ。

油断している様子はない。相手もこちらを観察している。相手の目には俺はどのように映っているのか。


そんなことを考えているとき観察の時間は終わった。ついに試合が始まるようだ。

「両選手、そろいましたね。それではただいまから特別選抜試験第4回戦を行います。両名武器を構えてください。」

その合図で相手は剣を抜き構える。以前見たような構えだった。ロルンとおなじ、ムーロ王国正統剣術の使い手と考えていいだろう。

俺も剣を抜く。しかし重いので体の前で地面につき差し、右手で柄をつかむ。

「試合はどちらかが動けなくなるか降参するまで時間無制限で行います。それでは試合開始。」

開始の合図とともに相手はこちらに突っ込んできた。想像以上に速い。試合開始前は少し距離をおいて立っていたのに一瞬にして大剣の前まで踏み込んできた。そして最初の一撃が振りかかる。何とか反応して第一撃は回避した。

しかし相手はすぐに方向転換しながら斬りかかってきた。回避された時点でステップを加えてこちらの、大剣の裏側に回り込み方向転換しながらの回転斬りである。大剣と相手の間に挟まれ、さらに相手の動きの速さとキレに動揺していた俺はこの攻撃を避けきれなかった。相手の回転方向に大きく跳んだが、左腕に攻撃がかすった。傷はない、しかし微妙な衝撃と痺れが斬られた辺りに広がった。こうしてダメージを受けると当たった部位に影響が出るらしい。今はまだたいしたことはないがもう少し深く切られていたら左手の動きは大分鈍っていたことだろう。

相手は休む暇を与えてはくれないようだ。目線がちょうどこっちへ向くところで回転をとめると再び踏み込んできた。

そして踏み込みながらの斬りあげをしてきてなんとか後ろにとんで回避する。なんだか鬼ごっこみたいだ。

しかも片方の足が半端なく速いから全然楽しくない、一回タッチされたら二度と鬼が交代しないタイプのやつだ。

よくユージンとアミーとか村の皆でやってたな。ユージンとか終始鬼で笑ちゃったよ。見ている分には楽しいんだろうな。

ちなみに俺は足は速い方すぎて周りがだれもつかまえられなかった。のちに俺とユージンがみんなという集団から距離をおいた原因の一つだ。強すぎるやつも弱すぎるやつも仲間はずれにされるのである。

とまあ今はそんな回想をしている場合ではなかった。鬼ごっこ無敗の俺でもこの男のスピードからはのがれきれないかもしれない。

少なくとも大剣で相手できるようなやつではないことはわかった。そして、普通にやっていては体術も当たらない。

ならほかの戦い方、俺ができるのはあれしかない。


俺はこれが使えるタイミングを待った。相手から何としても少しでも距離をとる。そのため後ろや左右に大きく跳んで攻撃を回避する。

できるだけ相手にこちらの次の動きを予測されないように動く必要もあった。単純に相手の攻撃を避けやすい方に動けば

相手の次の攻撃はスムーズになる。なんとか相手の攻撃が一瞬止んだ状態で、ある程度まで距離がとれればこの戦法は通用するかもしれない。


チャンスが来るまで逃げ続けた。かっこいい戦い方ではない。しかしなりふり構っていられない。

かつて師匠も言っていた。

『理想的な勝利も大切だが、ダサくても必死にもぎ取った勝利から学べることもある。』

といことらしい。ちなみにこのセリフを言ったときの師匠は弓使い相手に体術で戦おうとしてあきらめてその辺の小石を拾い本気でぶん投げて勝利した。その前に『勝負は勝ちよりも勝ち方が大切だ!』とか言っていたので説得力皆無だった。

が、これからのちにつづくこの戦い、ここで負けるわけにはいかない。俺の底力をどっかで見てるかもしれないやつらに見せてやる。

相手が距離を一気に詰めてきた。この次に来るのはおそらく切り上げきり、振り下ろしの二段攻撃。そんな直観が走る。

そしてとんできた攻撃はやはり斜め上への切り上げ、おれはこの攻撃をぎりぎりでかわす。次に振り下ろしがくる。

相手は上がりきった腕をおろし始める。おれはそれを見始めるよりも前に大きく後ろに跳んだ。そのままもう一度跳んで完全によりは

開いた。そして腰の小さなホルダーに手をかける。

そしてついに作戦実行のときだ。相手は開いた距離を詰めるために一歩大きく踏み込もうとする。

そこにおれはホルダーから取り出したものを投げる。投げナイフ。俺唯一の中距離攻撃だ。

相手は踏み込むための姿勢なっていた。これを回避するには大きな力がいる。そして次は相手は右に跳ぶ!

これは相手の踏み込みとして前に出しているのが右足で俺のナイフの狙いが相手の左足の太ももあたりだからだ。

そして右足にかかった力を身体の重心をずらして何とか回避する。だがときにはすでに俺が移動して次の攻撃を放っていた。

今度はさっきよりも近い距離からの攻撃。そして2本の刃で攻撃。相手は反射的に攻撃を回避するが一本は相手の左足をかすめる。

さすがにこの程度では仕留められない。そしておれはさらに距離を詰めながらナイフを投げる。相手の周りを渦を巻くように接近しながら

常に背後に回るように移動し攻撃、相手に落ち着く暇を与えない。誤算だったのはナイフが全然相手に当たらないことだ。

こちらの狙いはかなり正確だったが相手はぎりぎり反応して回避したり剣でナイフを叩き落としたりしている。

だが本命はそれじゃない。それはあくまで過程重要のはこの後だ。

おれは一本のナイフを相手の背後から投げつける。相手はそれをぎりぎりでかわす。

そこに俺が飛び込む一気に相手の剣の間合いの内側に入った。そして相手の武器を持った右手を攻撃。武器を撥ね飛ばす。

ここからは俺の独壇場。そうおもって殴りかかる。しかし相手はそれにも反応する。ぎりぎり腕をだして防ぐ。

直撃しないように受け流された。だがこちらもそれだけでは終わらない、今が最大のチャンスだ。俺は空いた方の手で相手の胴体を

狙う。しかしこれの止められる。しかし今度は相手は手で受け止める形で防いできた。

しかし腕力はこちらが優っていたようだ。相手は少し後ろに押された。そして次の攻撃に移る。

いつしか格闘戦は激化していた。こちらは決定打を与えることはできないず、相手はたびたび反撃をしてくる。

掴み、投げ、足技、打撃、どれをとっても技量は互角。相手も何かしら体術の腕があるようだった。

だがこっちは力だけは優っていた。そのため正面から与えるダメージとそれでできる相手のスキで勝負を優位に進められた。

そしてついに決定的なスキを相手がつくる。こちらのパンチを正面から受けとめたが、長い戦闘で体力をかなり消費していたため

耐え切れずに崩れた。ここに最後の一撃を叩き込めば俺の勝ちだ。大剣を持って振り回し鍛えた筋力、師匠に散々死にそうになるまで仕込まれた体術、この2つが合わさった一撃なら必ず相手を倒せる。


 しかし次の瞬間倒れていたのは俺だった。突然視界から相手は消え、標的を失った拳は空を切り、そのままバランスを崩した。

今起こったことを正しく認識できないでいる間に、訳の分からない衝撃と強烈なしびれが突然背中のあたりから全身に走る。

そして後ろを向くととさっきまでいなかった相手と剣が見えた。どうやらこいつに斬られたらしい。

しかしこいつは俺の一瞬目を離したすきに剣をとってきて俺を攻撃してということになる。やはりおかしい。こいつただの剣士じゃない。

そうおもって立ち上がろうとしたが、すでに体はまともに動かなくなっていた。さっきの一撃が決定的だったようだ。

でもあきらめられない。なおも立ち上がろうとするおれに対して、相手は言った。

「もう無駄だ、今の一撃でお前の勝機はなくなった。負けを認めろ。」

この勝負はどちらかが降参するまで、または動けなくなるまで続く。

深手を負った相手を追撃する趣味はないとか、剣士の情けとか感情があるのだろう。

「うるせーな、まだ負けてねーよ。何をやったか知らねーが、俺はまだ立ち上がれるぜ!」

四肢の痺れはたいそうなものだった。だけどこのまま負けるのも面白くない。

こんなところでは負けたくない。まして自分から負けを認めるなんて死んでもごめんだ。

俺は英雄を超えにきた。

英雄が命を懸けて守ったものを、命を捨てずに守れるようになりたい。

だからせめて勝てないとしても、まずは全ての戦いに命を懸けるつもりでいよう。

だからまだ立てるうちは、絶対にあきらめない。

「そうか、わかった。では決着をつけよう。」

相手はおそらくこの一撃でけりをつけるつもりだ。さっきまでの構えより、力強さを感じる。

片手剣を高く揚げ俺の前に立ちはだかる。そしてその剣の周りにはさっきまで見えなかった光を発していた。

稲妻を思い起こすような光はやがて剣全体を包みこんだ。これは模擬戦、死なないしケガもしないことくらいわかってる。

それでも死を覚悟するほどに、相手は強大に見えた。


「試験終了。お疲れ様でした。受験者は速やかに退出してください。次の試験に移ります。」

このアナウンスがもう一度繰り返されたときやっとおれは起き上がることができた。

どうやら負けたようだ。そんな感傷に浸りながら、地面に倒れた体を起こした。

まだ立ち上がる気にはなれない。

するとあいつが歩いてきた。さっきまで戦っていたあいつだ。あいつはこっちを向いて立って軽く会釈をするといった。

「いい勝負だった。まさかあそこまで追い詰められるとはな。」

「何がいい勝負だよ。最後の方なんてないが起きてるかこっちは全然わかんなかったんだぜ。」

「いや、驚いたよ。まさかまともに武器を持たずに俺に奥の手を出させるとはな。」

「奥の手か。本気だせば俺なんか敵じゃねえって言いにきたのか。」

「すまない、そう聞こえたのなら謝罪しよう。純粋に驚いている。まともに武器を使わず、俺の攻撃をかわし続け、

体術では完全に押しまけた。同じくらいの年齢では今まではそんなことなかったからな。」

「ケッ、何にしろ嫌味な奴だぜ。まったく、で、さっきのは何だったんだよ。お前一瞬消えただろ。」

「消えてはいないさ。」

「じゃあなんだよ。」

「それは答えられない。自分の能力をわざわざ明かすような愚かなことはしない。」

「そりゃあそうでしょうね。」

おれはなかば投げやりになって返事をしていた。相手の顔を見ずにただただ聞こえてくる声に返事をするだけ。

さすがに無視はできない。そんなことをすれば、負けをより深く実感してしまう。

「だが、次あったときは教えよう。」

その言葉をきいて俺は初めて相手の顔を見た。

「今日と同じように戦いの中で、ぜひ相手をしてくれ。」

その表情からは見下すなんて意図は少しも感じられず、今の言葉も社交辞令ではなく真剣に言っているって、そう分かった。

あんな真剣な顔しながら微笑奴は初めて見た。おれはその顔を見ると黙って頷いた。

「俺はラゼル、ラゼル・フィレンツ。」

「おれはリムド・ソウ・スパルエル。」

つい答えてしまった。ラゼルという名前か、覚えておこう。いや、たぶん忘れられないだろう。

「リムド、では覚えておこう。次会う時まで、お互い腕を磨いておこう。」

そういうとラゼルは姿をフィールドから姿を消した。俺は次にさっきのアナウンスが聞こえるで、その場から動けなかった。


 今回の試験の様子を昨日の彼らはまた見ていた。今回もモニターしていたようだ。

「へー、あのラゼルって子、中々やるじゃん。」

「確かに、ぎりぎりまで魔具を使わないであのスピードそれに加えて体術とテクニック、並の新入生じゃないね。」

「そうか?でも途中押され気味だったじゃないか、俺からしてみれば期待外れだな。」

「相変わらず厳しいねー、でも少しは期待してたんだ。」

「そんなんじゃねぇよ!」

二人の試合を彼らはずっと見ていた。もちろん試験の一環だからではあるが、注目のカードであったのだ。

大半がラゼルたたえているとき口を開いたのは昨日の議長のほうだった。

「彼は正直昨日の段階からCランク行き確定していた。問題はもう一人の彼だ。」

「みんな、どうだった。」

「ああ、まあいいんじゃないか?」

「そうね、あの大剣持ってる意味は不明だったけど。」

「相手に合わせて戦い方を変えたんじゃない?大剣じゃとらえきれないと思って。」

「それで投擲とか体術、あのスピードを殺して打ち負かしたときはさすがにすごいっておもったね。」

「そうか?あいつもダメだろ。逃げながらちくちく攻撃して、男らしくしろってんだ。」

「またそうやって厳しいこと言う。本当にツンデレだねー。」

「ちげぇつの!」

ワイワイ言っているがだいたい高評価なようだ。

そろそろ意見がまとまりそうだというところで、一人沈黙を守っている人物がいた。

「そういやメル、あの子たちあてようっていったのあんたでしょ?なんかいいなさいよ。」

「たしかに、あの男に一番興味を示していたのはお前だったな。」

「違う違う、メルの目当ては、男のほうじゃなくて~」

「そうだった、そうだった。職業病ってやつかな。」

「では聞こう、君の考えは?」

メルと呼ばれる少女の答えは出ていた。ただ機嫌が悪くなっていたのだ。

だから口を閉ざしていた。

「はっきり言って、彼は問題外です。まるでお話になりません。まともに剣を扱えない剣士なんて存在価値はありません。」

そう、彼女は怒っていた。彼の剣の扱いに、あれほどの武器をもっていてその力の鱗片すら使いこなせない彼に。

彼女は完全に見抜いていた。リムドが剣を使えないことを。

「私は主張します。彼は・・・」


その日の夜、俺はずっと考えていた。ラゼルに負けたこと、その戦い方、そして次会ったときどう戦おうかと。

「あー、あんなぼっこぼこにされたの師匠以来だ。すげー身のこなしとか剣術だったし、それどころか最後のほうは同じ人間とは思えなかったな。」

だいたいあんなに強いのって絶対何か後ろだてがあるだろう。それほどまでに強くなれる場所があるということだろう。

ではなぜ・・・。

「あいつはここに来たんだろうな・・・」

そんなことを考えているとき泊まっていた部屋に誰かの足音がして・・・。

「リムドさーん、お手紙です。」

俺は受け取るために扉をあけた、そして配達員にかるくあいさつをして受けた手紙をみた。

そこには『ランク分け選考結果』と書いてあった。

ついさっきまで今日の戦いのことで頭がいっぱいで選考結果のことなんて忘れていた。

俺はすぐにその手紙を開けた。結果はどうか、どう考えてもあのラゼルが雑魚だったとは思えない。

一瞬でも勝利できそうだったんだからきっとランクは結構上のほうかもしれない。

しかし負けたから期待しすぎてはいけない、そう自分に言い聞かせながら期待と不安を抑えながら・・・。


『Fランク』


この時俺は思った。もしかして、俺ってものすごく弱いのかな、と。


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