最初の壁、入学試験
ルディ 専門職業者養成所
ここファンフィクス大陸最大の戦士養成所。
長い歴史、伝統があり、それでいて常に新しいことに挑戦していると評判である。
通常の養成所はそれぞれの職業について専門的に教えるため単科学校のようになるが、ルディは大陸四大国の後援を受け様々な職業の教育を行っている。
「今日はルディの入学試験日です。ということで今日はルディ特集!早速VTRをみていただきました。それでは現在のルディの様子を見ていきましょう。現場のリュナさん。」
「はい、こちら現場のリュナです!今私はルディ東門の上空にいます。
ここからみてもルディ全体は見渡し切れません。その広さはムーロ王国王都城下町約9個分と言われています。えー、今度は下をご覧ください。今年もたくさんの受験者が集まっています。東門では通年剣士や格闘家など剣術や武術といったい自らの肉体を鍛えて戦うタイプの職業の人々の受験が行われます。今年の倍率はなんと過去最高の10倍!定員300人ですので約3000人の受験者が東門前に集うことになります。試験開始までは後1時間、今年もハイレベルな試験となることでしょう。以上現場のリュナでした。」
おれは朝起きて映像盤をつけてぼーっと画面を眺めていた。ムーロ王都放送の朝のニュースだ。そう、あと1時間で試験開始だ。
「やべー!ああ!寝過ごした!目覚まし時計は、うおー!蹴り壊されとる!いったい誰が…」
おれだよ、と心の中で自分にツッコミをいれつつ大急ぎで仕度を始める。ここはルディから三番目に近い村の宿だ。一、二番目にに近い村の宿屋は全て埋まっていたので三番目に近い村まで戻ってくることになった。そしてこの惨劇である。ここからルディまではだいたい歩いて1時間半かかるつまり、今すぐ出てもふつうにあるけば間に合わない。送迎屋なんかもきっとみんな出払っているだろう。となれば残る選択肢は…
「全力ダッシュ、やだな〜。」
しかし泣き言を言ってはいられない。その結論にたどり着くまでにもうだいたいの身支度は終わっていた。あとはいつものデカ物を背負うだけだ。
相変わらずおもい、どれだけ身体を鍛えても不思議な程軽いと思えないこの大剣、これを軽々振り回していた人間がいたとはおどろきだ。
だがその人に追いつかねばならない、だからこそそこに向かう必要がある。
「準備完了!いっくぞー!」
この数分後宿代を払い忘れたのに気づき急いで戻ったのは忘れられない思い出となった。
「もう…限界だ。」
集合時間まであと1分というところでここまでたどり着いた。もうちょっとで受付の人に追い返されるところだった。やっとのことでたどり着いた巨大な東門も目に入らない。
周りのざわめきも遠くに聞こえる。
すっかり気が抜けたおれはその場に座り込んでいた。周りには屈強な男たちが緊張した顔つきでおれに対して背を向けて立っている。それでもしっかり門の1番上の部分は見えている。そうこうしている間に時間がきた。門の上に1人何者かが現れた。
「受験生の皆様、お待たせしました。ただいまからルディ、入学試験を開始します。」
どうやらやってきたのは試験官らしい。周囲の緊張感が増し、自然と身が引き締まる。
「それでまず受付でお配りした小さく折たたまれた紙をご確認ください。」
たしかに受付で何かもらった。その紙を広げると3と書いてあった。
「そこに1〜30までの数字がどれか一つ書いてあると思います。まずはそれが皆さんのグループの番号です。その数字の順に大体100人ずつ一度に試験を受けていただきたいと思います。」
100人が30グループなので、えー、100×30だから…
「場所は東門から入って2分ほどのところにある特設コロシアムで行います。試験内容は試験開始直前に発表されます。それでは皆さん、危険ですので門から少し、というか結構離れてください。」
そう言ってしばらくすると、辺りの人々はから離れて注目をした。そして急にざわざわとしだす。
始まるぞ、とか、待ってましたとかやや興奮気味になっている。
また上空の飛行艇から放送局が撮影しているのが見える。その様子に呆気にとられていると、突然大きな地響きが起こった。危うく倒れそうになった。地震だろうか?しかし周りは誰も動揺していない、いや、興奮している。むしろ歓声が上がっている。しばらくして一同が門に注目しているのがわかった。バランスをとりながら視点を門に移す。するとまさに、巨大な門が開いているところだった。外開きでも、内開きでもなく、横に…
その光景に絶句した。ただ門が開くだけ、それだけなのに、地響きを起こし、それを受験者たちが血気盛んに見守り、果ては放送局の取材まで来ている。この時初めてルディという場所が、それほどまでに注目を浴びている場所であることを知った。
そのまま呆然としていると、いつの間にか試験会場に着いていた。無意識のまま人の流れに乗って会場までやってきていたようだ。そして3番控え室に案内されることになった。俺は最後のほうに入ってきたらしいく中は既に人がたくさんいた。廊下より少し暑い。それでも全員が座ったり、荷物を少し広げたりするスペースがあるようだ。俺は一度気を落ち着かせるために剣を置き、床に座る。別に緊張しているわけではない。ただあまりにどんなところか知らずに来たため驚いているのだ。自分が来たのは世界中の人が注目している場所で、皆が熱狂し、苦しみながら目指す。そんな場所であって、そこで頂点に立とうとしている。
そんなこと、ここのたった一部である門の地響きに踊らさらるような自分にできるのだろうか。
「それでは、試験開始!」
その言葉の直後、ドーンという激しい衝撃音が響き周りの景色が吹き飛ばされていく。正確には吹き飛ばされていた自分だった。どこからともなく攻撃が飛んでくる。痛みはない、ただ身体が重い。
そこでなんとか我にかえり急いで状況を整理する。試験の概要はたしか…
「この試験は反射神経と基礎体力のテストです。このコロシアムの周りに魔導砲が設置されています。その魔導砲からの攻撃を回避、または防御して凌ぎ切ってください。
皆さんはには特殊魔法をかけています。この魔導砲で攻撃を受けると全身に衝撃がはしり、身体が重くなるようになっています。この重圧と猛攻に耐え切った10人が合格です。」
その次に続く言葉はそれでは、試験開始…。
どうやら情けないことに試験のルールすら聞き逃すほどぼけていたようだ。たしかに身体は重い、だがまだ問題ない。気をとりなおして起き上がる。周りは魔導砲に囲まれている。攻撃は続く、倒れた相手に追い打ちをかけるような衝撃の固まりがさながら流星のごとく降り注ぐ。既に何人か倒れている人がいる。こんなもの一発も当たらないなんてできるわけがない。さっきから何発も攻撃が身体をかすめており、その度に小さな衝撃と微妙な重圧が身体にかかる。あと何度か直撃を受けられるだろう。一人、また一人と倒れていく戦場。悲鳴をあげ、地面に打ちつけられ、そして悔しそうに地面を押し続ける腕。
その場にはほとんど恐怖しかない。周りを敵に囲い込まれ、受験者たちは次々倒されていく。次は誰が、どこから、いつ倒されるのか、たった一撃で命を奪われる。そしてこちらには逃げる他の抵抗の方法はない。
いつ終わるのか、いつ攻撃は止むのか、それを考える暇はない、余裕もない、少しでも意識をそらせば次は自分が倒れることになる。周りの仲間が倒れるごとに自分への攻撃は激しくなる。あたりは倒れた人の山、重い体を起き上がらせることもできず、ただただ悔やむだけ。そしてその時はやってくる。次は自分へとやってくる。ただ一回の衝撃が、無限の絶望をもたらす時。
直撃を受けた僕の体は片膝を着いてなんとか体を支えていた。倒れてはいない、そう信じて支えていた。
だが、すぐに動かなければ、次の一撃で終わる。また来年はあるかもしれない。けど今負けたら多分この心はバラバラに砕け、二度と元には戻らない。そう思っていると目の前の砲台から光が放たれる。あれを受ければ終わりだが、受けずにいられるだろうか。むしろ終わらせたほうが楽なのだろうか。
「楽していいとは言っとらんぞ小童!」
これは夢か現か、目の前には小柄な男、俺に体術を教えた師匠が立っていた。
「これしきのことでねをあげているようでは、お前の親父にはとうてい及ばんぞ!」
「でも師匠、まだ始めて3日じゃないですか。」
自然と浮かんだのはその言葉だった。そういえば過去にこんなやり取りをしたんだっけか。
「は!お前の親父は始めて3日で全部凌ぎきって反撃まできめてきおったぞ。」
「まじ!師匠!次来いや!」
「単純だな、父親に似て。だがその意気だ!」
そして何発か凌ぎ吹き飛ばされる。
「まだまだ!」
何度も繰り返し吹き飛ばされる。
とうてい及ばない実力差、今ならはっきりわかる。そう、最大の窮地に立たされた今だから。
「ま、まだだ。」
「まったく、お前には反撃までは無理に決まっておろう。」
「できる!かもしれないっしょ。」
「ムリだ。お前と親父には決定的な差がある。」
「差?なんだよそれ。」
師匠はふぅ、と一息着いていった。
「それは経験の差だよリムド。あいつは十分に経験を積んだ後、私に体術の指南を頼んだ。お前はまだまだひよっこ。たった数日私と戦おうと、いや、たった1年の旅したくらいでは、奴の経験にはとうてい敵わない。」
その通りだ。このときは素直にそう思わされた。
「慣れたものと同じようにやろうとしても、無理に決まっていよう。お前の目の前の壁はいきなり超えるには大きすぎる。」
そうだ、そうだろう。今目の前にある壁ですらこんなに大きく見えるのに。
「だが、諦めるな!私を見ろ!宿命のライバルに勝ち逃げされても、今だ勝つことを諦めてはいない!日々鍛錬を重ね、小さな壁を超え、大きな壁を砕き!そして国内最強とまで言われるようになった。そしていつか、お前が父を超え、それを私が倒すことを夢見ている。いや、現実にしようとしている!諦めずに追い続ければいつかはたどり着くと信じている!」
「根性論じゃん、かっこ悪。」
「かっこ悪くても結構!だがお前はそのかっこ悪いのにすら勝てないいわばちょ〜かっこ悪い間抜けじゃ!」
「誰がちょ〜かっこ悪い間抜けだ!」
「ふはははははは!悔しかったら一発でもきめてみろ!」
「くっそぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおお!」
そして俺は拳を固め渾身の一撃を叩き出す。その拳は衝撃をまともに正面から受け止めた。全身に衝撃が走る。だが辛くない、重くない。この程度の壁、何ともない、この試験は例えどれだけ大きく見えても、一発一発の衝撃波は小さなものだ。そして俺はそれを何度も乗り越えてきた。身体の疲れも重さも、砂漠で遭難したとき、大剣を初めて振り下ろしたときと比べれば何ともない。
何を迷っていたのか、何を怖気付いていたのか。そのときにはもう忘れていた。ただその意思の中にはかっこ悪くてもこの試験を超えることしかなかった。
それからどれくらいのときが流れたのか、長かったかもしれない、もしかしたらものすごく一瞬だったかもしれない。しかしそんなことは関係ない。その終わりの時にまだ俺は立っていたのだから。
目覚めた時はどこか知らないところにいた。
「あら、目覚めたの?」
目の前には看護師さんがいた。綺麗な女性だ。
「ここは?」
「医務室、まさかこんなに早く使うことになるとはね。」
「へ?」
「本来試験では怪我人は出ないようなシステムになってるの、だから運ばれてくるのは長い待ち時間で体調に影響が出て倒れるひとくらいのものかと思ってたのに、まさか第3グループのあなたが、しかもたった5分の試験直後に意識不明で運ばれてくるなんてね。」
よくよく考えてみればそうだ。受験者は魔法で身体が重くなっていただけ、多少吹き飛ばされたり人の下敷きになったりで少々の怪我はしても、その程度で医務室のお世話になるようでは、この先戦士としてやっていけるとは思えない。だから俺がここに運ばれてくるなんて、結構不自然だったようだ。
そういえばあの後、つまりちょ〜かっこ悪いって言われたあとだったか俺は師匠にたいして一本とった。
なんかすげームカついて、死に物狂いで戦って、で結果は直後にぶっ倒れる。今回と同じだ。俺って成長してねーのな。身体も…
ぐ〜
お腹がなった、結構大きな音で。
もしかして、さっきまで感じてた不安や恐怖は空腹と疲労による錯覚!そんなまさか!
「ふふふふふ、まさかお腹すいて倒れたの?」
看護師さんに笑われてしまった。恥ずかしい、本当に、ありもしないものにビビって、勝手に怖気付いて…
「俺って、かっこ悪いっすね!」
元気に笑顔でそう言葉が漏れた。
「本当、ちょ〜かっこ悪い。」
医務室の中に笑顔が溢れる。本当にいたかもわからない敵に俺は大きく成長させられた。けどまだ、身も心も、成長段階だ。