退屈な人生
「つまんねえ・・・」
汎田和人《はんだかずと》は家の前で呟いた。学校の屋上なんて空いている訳もなく、そもそも学校でそんなことを呟こうものなら聞いた人にキモがられるのがオチなので家の前なのだ。
こんな早朝からそんなことをグダグダ言いながら学校に向かう。歩いて20分ほどの距離ではあるのだが、特にやる事もないため開門とほぼ同時に登校する毎日だ。
11月の朝ともなると、顔や手が痛みを伴った寒さに晒される。ただそれだけのことにイライラしながら汎田はいつもの道を歩いていた。
「つまんねえなあ・・・」
登校中、級友を発見した汎田は視線を上に向ける。そこには金髪の男が立っていた。
鈴村牙狼《すずむらがろう》。汎田と同じ1年A組所属の生徒である。
「おお、ボンジン君じゃねえの!オッスオッス!」
ボンジン君とは鈴村が勝手に付けた汎田のあだ名である。
「『凡』じゃねえよ『汎』だ。あとそれ流行らせようとすんのやめてくんない」
「いいじゃんいいじゃん!特徴ないんだし変わらんでしょ」
否定できない。中肉中背、髪も染めず顔も並、成績も並。特技が無いわけではないが、人に自慢するようなものじゃない。
それに比べてこいつはどうだ。スポーツ万能、端麗な容姿に加えその人当たりの良さから自然と周りに人が集まってくる。
・・・唯一共通しているのは、今の状態に満足していないということだろうか。
「つか、お前何してんの?学校逆だろ」
「いやあ、先輩が『面白いもの』見せてくれるって言うからさあ。見に行くわけよ。ボンジン君もどう?」
「遠慮しとく。うちのサッカー部まともな奴いねえだろうが」
「それ俺も含まれてる気が・・・」
「よくわかったな」
くだらないやりとりをした後、各々の目的地へと向かう。汎田は学校へ、鈴村は近くの裏路地へ。
学校に到着した。まあこれから先はお察しである。いつも通りの、ごく平凡な学校生活。鈴村が学校に来ていなかったことを除けば、ごくごく自然な、一日だった。
帰りのホームルームが終わり、帰ろうとした矢先だった。
「なーボンジン君、牙狼知らん?」
「ボンジン言うな。今日は先輩の誘いであの裏路地の方に行ったみたいだけどな」
霧崎潤也《きりさきじゅんや》。鈴村の腰巾着である。こいつは鈴村無しじゃなにもできないのかとかくだらないことを考えながら、汎田はふと外に視線を逸らす。
「牙狼さ。家のことがあるからさ・・・」
いつになく真面目な雰囲気に、汎田は戸惑う。
「あいつの家貧乏なのか?」
「それもあるんだけど、親父さんのDVが酷いらしいのよ。ギャンブルの借金もかさんじゃって、お袋さん養う為にバイトして金貯めたりとか、大変みたい」
「だから最近部活行ってないのか」
最近帰り道よく汎田と鈴村の二人は遭遇していた。おそらく家の近くの居酒屋か何かで働いていたのだろう。
「それで2,3年の先輩に目つけられたらしくて・・・ほら、サッカー部って結構ヤバい人多いから」
なるほど。今頃路地裏でフルボッコにされていてもおかしくないだろうな、と汎田は考える。彼自身鈴村を嫌いなわけでもないし、むしろ仲は良い方だ。このまま放っておくのも後味が悪い。
「それで、俺は何かしたほうがいいのか?喧嘩の助太刀なんてしねえぞ」
喧嘩なんてゲームの中だけで十分だ。ちなみに汎田の数少ない特技の一つはゲームである。
「いやいや、ただちょっと物騒だから探すのについてきてほしいだけなんだけど」
「全然ときめかねえ響きだな・・・」
「何言ってんの?」
「(ネタ説明させるとかこいつは鬼なのか)」
どうせすることもないし、ついていくことにした。
学校を出てものの10分ほどで、例の裏路地に到着した。
「ここかー雰囲気あるなー。ボンジン君はここ来たことあるの?」
「俺は一度もないな。物騒だし」
退屈なのは嫌いだが、被害を被るのはもっと嫌いなのだ。汎田は心の中でそう語った。
「とりあえず一通り回ろか」
「そうだな」
一時間後、霧崎が口を開いた。
「・・・広くね?」
「確かに広いけど、それ以上に地形が迷路みたいになってるな。探すのは中々難易度高いぞ。今から地図書くからちょっと待ってろ」
「へえ、ボンジン君そういうの得意なんか。なんかキモい」
「ぶっ殺すぞてめえ・・・」
汎田はつらつらと地図をノートに書いていった。マッピング能力はゲームで養っている。
「ほら、今こんな感じで・・・」
汎田が上を向くと、そこに霧崎はいなかった。いや、実際にはいたのだが
・・・首から下が、両側から飛び出してきた壁に潰されてしまっていた。
初めての投稿となります。愛と勇気とかしわもちです。
能力系バトルが好きなので、この先の展開は主にそういった内容になると思います。
至らない箇所ばかりだとは思いますが、最後までお付き合い頂ければ光栄です。