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宿もねぇ、アシもねぇ、おめーに食わせる飯もねぇ! その三、戦略部隊


 その昔、この世界に生まれ落ちた一つの命は必然の常を我が物とした。

 彼はその必然の常によって瞬く間に王の座へと上り詰めたという……。


 やがて王のもと以外の多数に人が溢れるようになり、いつからかその世界は――シドンサイドという名称で呼ばれるようになった。



「着いたぜ。ここが俺の小屋だ。暑かったろう? 早く中に入れよ」


 ザメイルは僕たちから先に入るように促した。

 正直もう限界だ。早く涼まないとマリナ共々ここで共倒れだ。


「「おじゃましまーす」」


「ようこそいらっしゃい。俺のマイハウスへ」


 ザメイルもそう言って小屋の中に入る。

 

 小屋、という割には中は随分と広い。

 

「なんだか小屋というよりは屋敷ですねここ。天井にはそれっぽいシャンデリアもあるし、二階への階段も豪邸のそれっぽい……」


 ん? 二階への階段? 

 僕はその時自分の言葉に違和感を覚えた。


「外から見たときはそんなに大きく見えなかったのに……なんで中に入るとこんなに立派なんだろう」

「あーそれはね。魔法結界よ、俺のな!」

「マホウケッカイ? 何それ私気になる!」


 ザメイルの魔法結界という言葉に何やら聞いたことありげな興味の示し方をするマリナ。

 

「魔法結界を知らないの? 魔法結界っていうのは文字通り魔法で作り上げた結界のことだよ」

「うんうんそれで?」

「魔法結界は主に結界内の術者の能力を上げる用途で使われるんだ。まあ俺の場合はちょっと特殊なんだが」

「特殊? 一体どんな効果があるんです? 僕、気になります」


 マリナに便乗して僕もそれっぽく言ってみた。


 ザメイルはフフンと鼻を鳴らした。


「聞きたいか、しょうがない! 特別に教えてやろうじゃあねーか! 俺の結界はな、外部からの目を眩ますっつー効果がある。だからここは外から見たらすごく小さな小屋に見えるんだ」

「なんでそんなことを?」

「む? それはな――」


「そんなことはいいから私水飲みたいー!!」

 

 ザメイルの言葉を中断させて己の欲望に忠実になるマリナ。


「ちょっとマリナ! 僕がザメイルさんと話してる途中でしょーが」

「もう待てない―! 水分欲しいーーーっ!」


 ザメイルはマリナのだだっこぶりを見てやれやれと笑いながらため息を吐いた。

 

「部屋へ案内しよう。少年、話はまた後ってことで」

 

 「わりぃ」と言ってザメイルが僕に手を合わせて謝る。

 そういえばまだ名前教えてなかったっけ。


「気にしなくていいですよ。それと僕の名前はアルト。いつまでも少年じゃ呼びづらいでしょう?」

「んじゃアルトも行こうや、彼女が待ってるぜ?」


 なっ……!?


「かっ彼女じゃありません!」

「ヒューヒュー」


 もうザメイルさん悪ノリすぎだし……。


「もう行きますよっ! 僕も喉カラカラなんです!」

「ハッハッハッ! アルトは面白いなぁ」

「うるさいっ!」

「アルトくーん! 早くぅー!」

「ああ、もうやだ……」

 

 僕はニヤニヤしながら顔を覗き込んでくるザメイルを無視しながら二階に上がっていったマリナのもとへと向かった。


          ☆


 コップに注がれた水を一気に飲み干す僕とマリナ。

 

「っぷはぁー!! 完全復活元気いっぱいマリナさん!」

「……何言ってんの?」

「え? いや// ちょっと言ってみたかったなーって//」

「あそう……」


 水を注ぎ足してはゴクゴクと飲み進める。

 ヤバい、トイレに行きたくなってきた……。


「あのーザメイルさん、トイレってどのあたりにあるんですかね~」

「トイレ? それならこの部屋を出て左に向かっていった先だよ」

「アルト君水飲みすぎじゃな~い?」

「ナハハーちょっと失礼しまーす」


 僕はいそいそと部屋を出て扉を閉めた。

 ……恥ずかしい。

 女の人、ましてやマリナの前でトイレに行きたいだなんて……。


「うぅぅ、早くしないと漏れる~」


 左ってに進んだ先って言ってたよね。確か――


「――へっ?」


 この廊下、長――――!!


 まあいいや、少し長いけど走れば三十秒ほどで辿り着くだろう。


「って走ったらもっと漏れそうになるよっ!!」

 

 ここはひとまずそーっと歩くことにしよう……。


           ☆


「ねえザメイルさん……私、気になっていたことがあるんです」

「聞きたいことは何でも聞いてくれ。元々ここに来てもらったのもそれが本命だしな」


 マリナは部屋についている窓の目をやった。


「この結界。何のために張ってあるの?」

「結界……か。お前らはそんなにこの結界に興味があるのか?」


 ザメイルの言葉にマリナは疑問の表情を浮かべた。


「簡単な話さ。さっきの少年も同じことを聞いてきたんだよ。お前らはよっぽど俺の魔法について知りたいらしいなぁ」

「ふーん。アルト君も同じことを……」


 マリナが訝しげに呟く。


「いいぜ、そんなに知りたけりゃ教えてやんよ」



「この結界の本質は――――


          ☆


「ふい~、スッキリしたぁ~」


 トイレの洗面台で手を洗いながらそんなぼやきを漏らしていた。

 いや、漏らす前にまにあったからねっ!

 

「さーてと、戻ったらまたアステラへの旅を続行しないといけないな。今日一日ぐらいゆっくりしたかったけど……」


 ザメイルさんならここに止めてくれるだろうけど……それはザメイルさんに申し訳ない……し?


「あれ? 何だろう。すごい変な感覚……」


 そういえばなんで僕はこんなにザメイルさんを優しい人って思っているんだ?

 自慢じゃないけど、こう見えても僕は結構人見知りするタイプなんだ。そんな僕が会って間もない人にこんなに信頼を寄せている。これは何か不自然だ。

 第一最初僕たちがザメイルさんと出会った時、彼はマリナを……。


「そうだよ!! なんで僕はそんな大事なことを忘れていたんだ!?」


 確かに彼はあの時マリナを殺そうとした。

 結果的にはスライムたちが守ってくれて……。


「っ!! スラタローもいなくなってる!?」


 思い出せ、いつからスラタローが僕たちの前から消えていた?


『ぷるぷる、ぼくわるいスライムじゃないよう』


 違う、それはむしろ出会った時だ。


『かれらはとけたんだよ。ぼくみたいにね』


 これも違う……。


『どうして私は……こんな……?』


「そうだ。このあたりからスラタローの様子がおかしくなったんだ」


 確かあの時僕は、


『ちっ、近寄るなぁ!!』


 スラタローに荒野に訪れた理由を聞いたんだっけ……。


『ついて行ったらダメだ!! ソイツは危険な――』


 思い出した。スラタローはあの時……。


「あれ? なんだか目が滲んでよく前が見えないや」


 さっき通ったはずの廊下が、とても長く思えた。


「あれ、この廊下ってこんなに長かたっけ」


 あれ、何か後ろから物音がした。


「あれ……あんた、誰――」


          ☆


「それ、本当に言ってるの?」

「ああ、ぜーんぶ本当の話さ」

「そう……ほんっとうにゲスね、貴方たち」


 マリナは真っ向からザメイルと対峙していた。


「ははっ! 貴方たちってのは王政の連中のことか? それとも(・・・・)――」


 マリナが瞬きをする瞬間、複数の人間が元からいたかのように馳せ参じた。


「……っ!」



「この俺の直轄、聖ドレット教会戦略部隊のことか?」



「マリナ! 大丈夫か!?」

「アルト君!!」

「っクソッ!! この扉、開かないっ!!」


 ドア越しにアルトの声が聞こえた。


「こっちからはいくら叫んでも聞こえはしねーぜ? さぞ不安だろうよ。愛しの君が今俺に何されてるかなァ……」

「……きっも」

「くぅ~! きっついこと言うねぇ~。たった三文字で俺大打撃だよ」


「おい、ザメイル! いるんだろ!! ここを開けろ!!」


「呼び捨てってことは気付いたか……。まあいい、どうだ? アルト君の声は聞こえるんだぜ? まったくいい演出だろ? 片方は何も状況を理解できず死に、片方はもう一人が死にゆくのを助けることも看取ることも出来ずに、そして死ぬ」

「ええ、貴方の考えそうなことよ。でもね、アルト君はそんな簡単に死ぬ男じゃないわ。こんな状況もきっと打開してくれる……アルト君なら!」

「……」


 ザメイルは、ニタァと顔を歪ませた。


「マリナァ、君は戦略部隊を舐めすぎだ」


「お前らは……ッ!? うっ、うわァァァァァァァァッッ!!」

  

 そしてマリナは、血液が体内から噴出した時特有の音を、確かにその耳で聞き捕えた。


 シリアスパートっぽいんで後書きは自粛したいと思いませうのことよ!


次回『宿もねぇ、アシもねぇ、おめーに食わせる飯もねぇ! その四、魔法合成』

 宿や飯だけじゃ済まされない。

 

 二人に明日はあるのか!?


PS.バカテス今日最終巻発売らしい。買いに行きそびれたぁぁぁ!(ステマ)

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