宿もねぇ、アシもねぇ、おめーに食わせる飯もねぇ! その二、原因の素
テレテテッテテッテー♪
アルトは『パルプンテ』をおぼえた!
アルト「パルプンテッッ!!」
アルト「……」
し か し 、M P が た り な い 。
「ちょっとアルト君大丈夫? 顔色悪いよ?」
「ん……なんとか……」
それにしても、だ。
このままじゃ僕たちも目の前の軟体生物になってしまうかもしれない。
照りつける日差しのせいで焼けるように熱い。
「とりあえず日の光が当たらないところを探そう。最悪そこで夜になるのを待つことにするんだ」
「じゃあこの子たちは?」
マリナはじゃれあっているスライムたちに目をやった。
「仕方ないけど……全員連れて行こう。もしかしたらこの姿から解放してあげれるかもしれないし」
「やったー! 良かったね君たち、まだ一緒にいてもいいって!」
スライム(複数)はマリナの嬉しそうな声を聞いて飛び跳ねていた。仲間は多いほうがいいっていうし、スライムがちょっと増えたぐらいで何も問題なしだ。
僕もちょっと気になることがある。
「ねえスラタロー。君はいつからここにいるの?」
「うーん、いちねんくらいかな。ちなみにこのこうやでいちばんのこさんはぼくだよ」
「じゃあここの近くでどこか涼しい場所知らない?」
「それならここからすこしあるいたところにいいたてものがあるよ」
「建物? 誰か住んでるの?」
「ぷるぷる。よくしらない。あのあたりはこわいまものがでるからちかよらないようにしてる」
魔物!?
魔物っていったらあの伝説上の?
「いやいやそんなのいるわけないじゃん、魔物? そんなのがこんなとこにいたら今頃ニュースになってるって」
「ぷるぷる。まもの、こわい」
「……まあいいや」
そろそろ本当に聞きたいことを聞くとしよう。
「君は、なんでこの荒野を訪れたの?」
「……」
沈黙が訪れた。
後ろのほうではマリナとその他のスライムたちがはしゃいでいたが、このときだけは世界から音が消えたようだった。
「ど……どうしたn「知らない」――え?」
スラタローから発せられた言葉には先程までの幼稚さはなく、一瞬アルトは誰が発した言葉か理解できなかった。
「どうして私は……こんな……?」
「急にどうしたのさ。さっきまでと口調が全然違うし」
スラタローが容姿と似合わない言葉を使うものだから、その不可解さが余計滲み出ていた。
「どうかしたのー? 早く休みたいんだけど」
後ろにいたマリナが僕たちの様子を確認しに来た。
「マリナ……スラタローの様子がおかしいんだ。なんかこう、別人になったみたい……」
「何それ。……スラタロー私のことわかる―? マリナさんですよー」
マリナはまるで子供に接するかのようにスラタローに話しかけた。
「お前……お前は……っ!?」
マリナを見て、明らかな動揺を見せるスラタロー。
「んー? どしたのスラタロー。まるで怯えてるみたいに」
「ちっ、近寄るなぁ!!」
マリナは動いていないというのに、スラタローは的外れなことを叫ぶ。
そして僕は気付いた。
スラタローの怯えていた者の正体。
「マリナ! 危ない!!」
「――えっ?」
マリナの背後にそれはいた。
狂気的な目をした男はマリナを槍のようなもので貫こうとしていた。
「止まれぇぇぇぇぇぇぇ!!」
駄目だ、間に合わない!
一か八かの賭けだけど……魔法でやってやる!!
しかし、
「マリナはぼくたちがまもる!」
スライムたちが決死の行動に出た。
槍とマリナの間に複数のスライムが割り込み、スライム全員が槍に突き刺さることでその攻撃を無効化させた。
「マリ、ナ……だいじょ、う……」
「しな、ないで……マリ、ナッ…」
「やめて! 大丈夫、大丈夫だから! もう喋らないでっ!!」
結果的にマリナは助かった。
多くのスライムの犠牲によって。
「おう? 一気に狩れたな。ったく、とんだクソ作業だ」
男はけだるそうに呟いた。
「お前……」
「あん? 誰だてめぇ」
僕は男の目の前に出た。
知っていた。
男が来ている制服。それは、聖ドレット教会のものだ。
「なんで教会の人間がこんな辺境にいるんだ」
「教会の人間がこんな辺境にいたらダメですかぁ? 馬鹿言ってんじゃねー。
いいか、教会はな……シドンサイド全域の平和を守る秩序なんだ。だからこんな荒れ果てた荒野にいるのも当然なんだよ」
「嘘ばっかり、私知ってるのよ? ここが教会にとってどんな場所なのか……ね」
マリナは手帳を開いた。僕にはその内容が見えなかったけど、マリナがその手帳を大切そうにしているのは何となく理解できた。
「えーとなになに……聖ドレット教会には表向きには秘密にしていることがある。それは、教会による『統治外』の地域のこと」
「……なんだそりゃ。それがここに俺がいることと何の関係があるんだよ」
こいつ、しらばっくれてるな?
僕にもわかるぞこんなこと。
「頭の悪い人ね。これだけの裏付けがあったら誰でも予想着くでしょ。つまり、貴方は統治外のこの荒野を裏で支配しようとしていた。そーゆうことでしょ?」
「ぬぅ……ばれてしまってはしょうがない」
男が、本性を現す。
「ああそうだよ! 俺は聖ドレット教会戦略部隊隊長、ザメイル=スローバーグだ。上の指示でこの荒野の管理を任せられた哀れな部隊長さ」
「戦略部隊? それって……」
「聞いたことねーだろうな。それも無理はねぇ、戦略部隊ってのは元々戦争が起こった時にしか動けないような戦闘部隊だ。単純な戦闘スキルだけだったらあの治安部隊とも引けを取らないんだが、ここ数十年戦争という戦闘はまったくもってご無沙汰だったもんだから、こんなカスみたいなところに配属されちまったんだ」
「あそう」
治安部隊か、見つけたら一人残らず懲らしめたいものだ。
「ひとつ教えてくれないかしら」
「答えられる範囲なら教えてやんよ」
「この荒野は普段今の時期ならとても寒いのでしょう? なのに何故こんなに暑いの? しかも溶けたらスライムみたいになるようだし」
「あーそうだったな。悪い、これ俺の魔法。管理するなんて怠いからとりあえずここを通る人を全員スライムに変えてんだ」
非道な男だ。彼はそんなことをして何も思わないのか……
「僕たちがここを通り過ぎる間だけでも構わないからその魔法を解いてくれない? スライムになったら意味がないんだ」
「どこに行くんだよ。ってもここを通っていくなら向かう先は一つだよな。パッと見お前ら王都の人間じゃなさそうだし」
「そうだ。僕たちは王都へ行く途中なんだ。邪魔しないでもらいたい」
ザメイルは速攻で答えた。
「それは無理な相談だな、田舎者がそう易々と王都に行くもんじゃねー。……まあ話だけは聞いてやるよ、俺の小屋まで行こう。そろそろ次の変幻の時間だ」
変幻? そーゆー固有名詞はあまり使ってもらいたくないなぁ。
「ついて行ったらダメだ!! ソイツは危険な――」
「行こうマリナ。とりあえずは休憩できそうだ」
「そうだね、最初はスライムたちが殺されちゃったけどなんかこの人悪い人たちじゃなさそうだし」
スラタローの呼びかけは、アルトとマリナの耳には届かなかった。
変わりにスラタローの呼びかけに応じたのは、無音なる殺意の手だった。
その凶刃に裂かれ、スラタローが最後に目にしたのは……ザメイルの、狂気だった。
☆
「ようこそいらっしゃい。俺のマイハウスへ」
狂う気持ちを内にしまいつつ、ザメイルは爽やかな笑みを浮かべた。
はろー、私です。
更新遅れちゃって申し訳ありません。IPPON観てたら時間なくなってました。
次は何とか間に合わせてみせますので。
ザメイルに言われるがままにホイホイ小屋までついてきてしまったアルト君とマリナさん。二人の様子もなんだかおかしかったみたいだぞ……?
次回!『宿もねぇ、アシもねぇ、おめーに食わせる飯もねぇ! その三、戦略部隊』
やっぱりちょっと更新遅れるかも……