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宿もねぇ、アシもねぇ、おめーに食わせる飯もねぇ! その一、荒野にて


「現実は無情である」――マッケンリー=コバルトアウト(197~)


 これはとある偉人がこの世に悲観し発したとされる言葉である。

 彼は世界最高の魔法使いと言われており、有史700年の現在においても生き続ける秘術『不老』の魔法を使うことのできる唯一の人間だ。

 老いを失った彼は、どこかの山奥でひっそりと暮らしているという。


 とある荒野に立ち尽くす二つの影があった。

 その一つは僕こと普通の平凡人、アルトだ。

 僕は聖ドレット教会という所謂シドンサイドの秩序を守る人達に両親を殺された。弟と妹をさらわれた。

 これまで僕は教会の人たちはかっこいいと思っていた。

 ちょっとした問題にも全力でかかり、民間人から受けた依頼は一つの失敗もなくこなす。

 まるで正義のヒーローさ。

 僕は彼らに憧れ、少しでも魔法が使いこなせるように努力してきたつもりだった。

 それなのに彼らはどんな理由かは知らないけど、僕の父さんと母さんを殺した。

 それどころか僕まで手に掛けようとした。

 僕の目には聖ドレット教会はもう正義のヒーローには見えない。


 だから僕はこうして旅に出たんだ。聖ドレット教会本部のあるシドンサイドの中央都市、アステラ王都へ。


「あっつぅ~……この辺の気温どうなってるのぉ~」


 説明が遅れたね、今ここには僕とあともう一人いる。


「ねえ聞いてるのアルトくぅ~ん。私暑すぎてもう歩けないんだけど」

「……暑いのは僕も一緒だよ。ホントどうなってるんだこの暑さは。この時期はいつも雪が降っていたはずなんだけど」

「アルト君の魔法で私を冷やしてよぉ。もうキンッキンにさ」

「僕ができるのは生温かな風を発生するぐらいだよ」

「とーけーるぅー」


 いまにも溶けそうになっている少女はマリナ。どうやら彼女は魔法について知りたいことがあるらしい。

 というか、魔法についてというより、魔法そのものに興味があるようだ。

 

 彼女が僕の旅に同行しているのは、目的地が一緒だから。魔法について調べるにはアステラ王都が一番早いから。一人旅はさびしいので、正直マリナがいてくれて精神的に助かっている。

 

「試に、やってみようか?」

「え? 何を?」

「……雨乞いにきまってんじゃん、さっきの話の流れ的にさ」

「そんなことできるの!?」

「わからないけど、まあやれるだけやってみるよ」

「頑張って! 失敗したら私たち、この暑さのせいで溶けて経験値3ぐらいの液状のモンスターになっちゃうよ!」

「そんなわけ……」

「信じてないの!? アレを見てよ」

「アレってなんだよ…………ッ!?」


 マリナが指示した先には、確かに経験値3程度しか貰えなさそうなプルプルした謎の生物がいた。


「ねえそこの水色の君、単刀直入で悪いんだけど……溶けたの?」

「そんなわけないじゃん!! 単刀直入にも程があるよ!!」


 マリナはHP5もないような固体とも液体とも言い難い物体に声をかけていた。

 そもそも、このマスコットにしやすそうな形状の何者かは意思疎通ができるのか?


「何か返事してよー」

「やっぱりただのおもちゃか何かだって」

「君、どこから来たの?」

「……」


 とりあえずマリナは放っておいて僕は雨降らしに集中しよう。

 イメージするんだ……この荒野一面に降り注ぐ恵みの雨を……。


「ぷるぷる」


 ん? 今、なんて……。

 

「ぷるぷる、ぼくわるいスライムじゃないよう」

「あぁっ!! せっかく著作権を守るためにその表現は控えていたのにっ!」

「喋った! 喋ったよアルト君!!」

「ぷるぷる、ぴきー」


 くそっ、いちいち別の表現をするのは面倒だ。○で隠すことにしよう。


「君、本当に悪いス○イムじゃないの? 見た目は他の奴と変わらなそうだけど」

「そうだよ、ぼくはスラタロー。このこうやでとけた、なれのはてだよ」

「溶けた? それ、どいういこと?」

「だからあっついじゃん! 暑かったら溶けちゃうのは当たり前だよ」

「有り得ない……よね?」

「ぷるぷる、ほんとうだよう。おねーちゃんのいうとおり、このこうやをこえられずにさまよっていたら、きづいたときにはスライ○になっていたんだ」

「そんな馬鹿な話があるわけ……」


 僕がスラ○ムを観察しているとマリナが何かに気付き、僕をちょんちょんと突いてきた。  


「あ! ねえねえアルト君。あっちに人影が見えない?」

「えっ?」


 マリナの言っていたあっちを見てみると、大人数人と思われる人影がこちらの方向へ歩いてきていた。

 しかし、様子がおかしい。


「もしかしてあの人たち、熱中症になっているんじゃないかな? フラフラしてるし……」

「かもね! マリナ、水はあとどれくらいある?」

「一日はいけるかなってぐらいだけ」

「あの人たちに分けてあげよう、貸して!」

「はい。途中でこけて中身まき散らしたりしないでね」

「わかってる!」


 僕はマリナから水を受け取ると、彼らのもとへ急いだ。


「大丈夫ですか! 熱中症の方はこれを呑んでください!」

「君は……」

「いいから早く!!」


 僕はこのとき頭の中で一つの可能性を考えていた。

 あのスライ○ムは言った。

 この荒野で溶けた、なれの果て――と、

 もしも溶ける、ということが熱中症で倒れるという意味なら、


「熱中症の奴はいないか? 喉が渇いた奴もだ。彼から貰った大切な水だ。大切に飲めよ」

「アンさん、ティーナが苦しそうだ。まずはティーナに」

「そういうお前はどうなんだ? 随分辛そうだが」

「俺はまだ大丈夫です。間違っても女より先に自分が楽するなんてできないですよ」

「ハハッ、さすがはマオだ。頼もしい、ほれ、水だ。ティーナに渡してやってくれ」

「任せてください! ティーナ? 大丈夫かー?」


 のろのろしてんじゃねーよ。バカやろう!


「早くみんな飲んでください! スライムになってもいいんですか!?」

「スライ……なんだっt――」

「うわぁぁぁぁぁぁ!!! アンさん! ティーナが、ティーナがぁぁぁ!!」

「ティーナがどうしたんだ! うっ! マオ、これは……!?」

「アンさん! ティーナ!! ウグッ!?」

「グゥッ!? アァァァッ!!!」


 それは阿鼻叫喚の地獄絵図だった。

 僕が渡した水は、まず一番奥にいたティーナさんと呼ばれていた女性に渡った。はずだった。


 ティーナさんに水が渡るときにはもう、現象が始まっていたのだ。


「あ、ああ……」

「どうしたの?」


 マリナの声がした。心配するようなその声色も、目の前の現象を見たら変わってしまった。


「何? これ……」

「……」

「ねえアルト君!? アルト君ってば!」

「かれらはとけたんだよ。ぼくみたいにね」


 その声の主は、最初に僕たちが出会ったスライム、スラタロー。

 僕の目の前にたくさんいるのも、スラタローと全く同じ見た目をしていて……。


「わかっただろう。このこうやはいじょうなんだ。ぼくがむかしここにきたときはきびしいさむさだったんだけど、いつだったかな? たしか、じゅうねんほどまえだったかな」

「それって……」

「ああそうさ、じきはちょうどいまごろだったよ。アステラへむかうとちゅうだったことをよくおぼえている」


 異常なんだ、この気候自体が。


「狂っている……こんなの自然現象なんかじゃないぞ…………」 


 僕の声に反応して、さっきまで人間だったスライムの群れが一斉にこちらに振り向いた。



「「「「ぷるぷる、ぼくわるいすらいむじゃないよう」」」」



 統率されたかのようなその言葉に、僕は人知れず吐き気を催していた。

 どうも、私です。

 今回からはざっくりと章を分けることにしました。

 なのでオメーに食わせるタンメンはねぇみたいなサブタイトルとは180度違った内容になってしまいましたが……。

 さてさてアステラ王都へ歩みを進め始めたアルトとマリナ。

 来週こそはサブタイトル通りに事を進めようとキーボードを叩く私。

 しかしそこに、新たな刺客が現れる。

 次回!『宿もねぇ、アシもねぇ、おめーに食わせる飯もねぇ! その二、原因の素』


 なにィ? どこかで見たことあるキャラが出たって?

 そーんなわけないだろう!

 この物語はフィクションです! 実在の人物、団体、事件とは一切関係ありません。

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