始まり
これまでのあらすじ
どうやら、唐突に出たくしゃみはもう一つの唐突を運んできたらしい。
ってなんだかラノベのタイトルっぽい。
いつか、願ったことがある。
魔法なんてなくなってしまえばいいのに。
何度でも言うが、僕は魔法が苦手だ。
そのせいで何度も惨めな経験をした。
でも、これは運命なんだと、どこかで諦めのような感情が僕の中にあったかもしれない。
そんな時、
「魔法が何故アタリマエに存在しているか知りたくない?」
と、目の前にいる彼女は僕に質問を投げかけてきた。
その質問の内容を一言で表すなら、魔法の存在理由の解明。
「ぷっ」
「?」
いかんいかん、つい笑ってしまった。
こらえようとは思った。だけど、もう、限界。
「あはははははっ! 知りたいねぇ! もちろん知りたいさ。それは未来永劫謎のままだろうさ」
あまりにも急な話だったものだからビックリした。
「第一、そんなことを知ってどうするんだい? 確かに、言われてみればちょっと気になるかもだけど、僕はそんなこと知らなくて困ったことは一度もないよ」
魔法が苦手で困ったことはたくさんあるけどね!
「でもアルト君、魔法が苦手なんじゃない?」
「えっ!? なんでわかるの?」
「顔に書いてあるよ、僕は魔法が苦手だ。って」
「そんな……」
どうやら僕は思っていることが顔に出やすいようだ。
なのでここからは彼女に気づかれぬようにポーカーフェイスで行こうじゃないか。
「で、なんで君は魔法について調べようと思ったの? ただの興味ってわけじゃないだろうし、何か特別な理由があるとか?」
彼女はじーっと僕を見つめ、少し笑った。
「魔法が使いこなせるようになりたいんでしょう? そのために魔法について調べるのは必要と考えたのね。つまりそれはOKってことでいいのかしら」
会話が成り立っていない気がする。
まるで心の中を覗き込まれているみたいだ。
「そうだよ図星だよ! 魔法の存在理由? それを知ったら僕は魔法が使いこなせるようになるの!?」
心が読まれてるなら小細工はなしだ。思ってることを全部そのまま言ってやる。
「そうよ、魔法について理解するということはこの世のすべてのことを理解することと同義だと私は考えてる。この世のすべてを理解したのなら魔法を使うことぐらい造作もないんじゃない?」
この世の……すべて、だと?
なんでここでどこかの大海洋冒険ロマンに出てきそうなフレーズが出てくるんだ?
魔法なんて最初からある常識であり必然なんだ。
根本に戻るが、彼女の言っていることは何故ここに生きて生活しているのか、僕たちが当たり前のようにここに存在しているのかを聞いているようなものだ。
あるものはあるんだ。哲学っぽいが、魔法はあるものなんだからしょうがない……よね?
なんだか、わけがわからなくなってきた。
「つまり、アルト君は魔法について少し勉強しているみたいだけどそれが魔法のすべてじゃないってこと。私が知りたいのは君の知らなかったところ」
そして、と彼女は続ける。
「君は魔法が苦手である。でも、私と一緒に魔法について探求すればその苦手を克服できる。私は私で魔法について知ることができる……それって一石二鳥でしょ?」
「そう……だね……」
それが、彼女が魔法について知りたい理由だった。
僕は、
「知りたい」
学校では習わなかったこと。
教科書には載っていなかったこと。
彼女の言い分が正しいのなら、今から行おうとしていることは、世界の秘密について調べるということ。
だが、そんなの知ったことではない。
「僕も、魔法の存在理由について、知りたい!」
知れば変われると思った。
今までの自分から、今の自分から。
「一緒に来てくれるの?」
「うん!」
彼女は僕を必要と思ってくれた。ならば、それに応えなくては。
「君の名前を教えてよ。僕だけ教えてたら不公平じゃないか」
でたらめな理由だったと思う。だけど彼女は僕がOKを出したことがよほどうれしかったらしく、満面の笑みだった。
「私の名前はマリナ! よろしく、アルト君っ!」
短いですが、ようやく始まります。