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幻世界の小休止

「はっ、はっ、はっ、はっ……!」


 アスランはモアグリードの地下都市を駆けぬけていた。

 体術強化の魔法を使って、自身の疲労など気にも留めずに、


(ネック君……君はあれからどうなったんだ?)


 グレゴリーを『明星送り』で倒してから、しばらくネックの帰りを待っていたアスランだったが、ネックは一向に帰ってくる気配がなかった。

 それを不審に思ったアスランは、ロバートたちにそれを伝えネックがグレゴリーと戦った大図書館へと急いだ。



 その時、アスランは目撃した。神殿へと向かっていく死霊たちの群れを。



 現実的には有り得ない光景だった。それ故に、アスランはとある仮説を思いつく。


 ――魔法だ。


 いかにモアグリードの科学技術が優れていようとも限度というものがある。目の前の光景はその『限度』の範疇を簡単に超えていくものだ。

 そして、その仮説が正しいとしたらそれを使っている魔法使いがいるということにもなってしまう。


 だったら、何故神殿へと死霊の群れは向かっているのか。


(これを使っている魔法使いが指示したのは間違いない。しかし、その目的は? そもそも何故彼らが出張ってくる?)


 アスランの思考の中の『彼ら』とはNAGI隊のことである。実は、アスランは初めからNAGI隊の存在を知っていたのである。

 知ってはいても彼らの目的も、行動理念も、強さもアスランは何も知らない。ただアスランは彼らにこう命令されていた。


 ――記憶喪失の少年を荒野で回収し、直ちに指定された場所に迎え。


 勿論、指定された場所というのはフシギアナのことだ。

 しかして、アスランはこの命令を無視することはできなかった。それだけの理由がアスランにはできてしまっていたのである。


「はっ、はっ、はっ! はっ、はっ……」


 命令されたことは少年と指定された場所に向かうだけ。本来アスランはフシギアナの目の前に辿り着いた時点でその命令を達成させていたのだが、アスランはどうしても記憶喪失した少年を一人にすることはできなかった。

 現に、こうしてアスランは少年の為だけに必死に走り回っている。わざわざ赤の他人である少年と異世界に赴き、指名手配され、悪者と対峙する。時には辛かった。時には死にかけた。果たしておっさんである彼が普通ここまでするだろうか。


 不安に煽られつつ、神殿へと足を進めるアスランは、次に建物が派手に破壊される音を耳にした。神殿の一部が突拍子もなく崩れ去るのを見て悟った。あれをやったのはネックだ、と。


「アスランさん! 見てください、さっきまで動いていたこいつら……」


 動きを完全に停止させていた。まるで電池のなくなった玩具の兵隊のようにその場に崩れ落ちていったのだ。

 異常がなくなった、ということは魔法が解けたということである。


「急ぎましょう!! 何か、とても嫌なよ―――



 急にロバートの声が聞こえなくなったアスラン。ロバートは自分のほうを向いて必死に何かを伝えようとしていた。

 しかし、アスランは無音の中で『ソレ』を視覚に捉えていた。


 一人の少年が、地下都市の天井を豪快に突き破っていくのを……。


 ……ネック君……!!


 音は無けれども、確かに彼はそうつぶやいた。

 そして、


「待っててくれ、今すぐ君を見つける」


 確かに彼は、そうつぶやいた。



                 ☆



 月のような天体がうっすらとモアグリードの地表を照らしている。

 その地表のごく一部ではあるが、一か所だけぽっかりと空いた穴がある。


「……」


 まるでクレーターのような穴の傍に、彼はいた。

 姿は変わってはいないが、その雰囲気は元の少年とはかけ離れているようだった。


「ネック……」


 アスランは、彼の名を呼んだ。

 だが、彼がアスランの言葉に返答することはない。いや、出来るはずなかった。


 彼は、死んだように地面に倒れ込んでいるのだから。

 暴走の果てに、意識を失ったのだ。


「目を覚ましてくれ……ネック」


 アスランは、彼の目の前で膝をついた。


「僕は、君に許されるはずがないことをしてしまった! 知らない連中に言われるがままに君をこんな世界に連れてきてしまった……記憶を失って混乱していたであろうというのに……!!」


 アスランの目じりには、涙が浮かんでいた。

 体を震わせ、悔いるように何度も自分の拳を地面に打ち付ける。


「名前だってそうだ!! 本当の名前ではないというのに僕は君をネックと呼び続けた……僕はクズだ。失った記憶を取り戻そうとする君に名前を付けることで第二の人生を歩んでほしいなんて自分勝手な願望を押し付けた!! 最低だ……僕は本当に、最低のクズ野郎だ!!」


 最低だ、最低だとアスランは何度も復唱する。


「僕は最低だ……だから、僕は君にまた自分勝手を押し付ける……ネックに死なれたら、僕はその重圧、責任に耐えることができない……僕は弱い人間なんだよ」



 だから



「だからさ……死なないでくれよ!! お願いだ、一緒に過ごした時間は短かったけれど、それでも今ここで死なれたら一生僕の心に残るくらい君は僕の中で大きな存在になっているんだ!! だから頼むよ、ネック……ネ―――――ック!!!!」

「んだよおっさん」


 ――――アレ?


「うわぁぁぁぁぁぁぁん!! ネックぅぅぅぅぅぅ!!」

「ちょ、おっさん!! 抱きつくなよ! 気持ちわりぃ!!」

「生きてて良かったよ~~~~!!」

「わかったから、わかったから俺から離れろーっ!!!」




 やっと、君を見つけた――


 ……………。


 ……。



                ☆

                ☆

                ☆



エピローグ


 あの後、二人はシドンサイドに帰るためのフシギアナが無くなってることに気付いて、右往左往していた。

 そこにロバートがやってきて、微量ながらフシギアナのあった場所に魔法力が残っていると判明した。

 まあそれさえわかるとネックが無理やり疑似的なゲートを造ることができ、無時、ネックとアスランはシドンサイドへと帰還を果たした。


 シドンサイドに帰ると一番に女性と子供が出迎えてくれた。話を聞いてみると彼女らはアスランの家族だというので、ネックは仰天した。

 どうにもアスランは、NAGI隊に家族を人質にとられていたらしい。ので、彼らのいうことを聞くしかなかったとか。



「そうゆう事情があったんなら仕方ねえよ。おっさんは何一つ悪くねえさ」



 ひたすら謝るアスランにネックはそのような言葉を伝えた。それは同情でも情けでもなく、まぎれもないネック本心からの言葉だった。


 しかし、そのNAGI隊もなんでそんなことをしたのか。ネックはそれだけが解らなかった。相変わらず思い出せることも無い『失われた記憶』が関係しているのだろうか……。

 一度気になってしまえば、求めずにはいられないのが彼の性分である。

 ネックはシドンサイドへ戻ってきて早々に自分探しの旅に出ることを決意した。

 アスランには家庭がある。これ以上頼るわけにはいかないので、これからは本当の一人旅になるだろう。

 だが、ネックはそうこうしているうちにまた事件に巻き込まれることになるのだが……それは別の話。




 最後に、一つだけ言っておこう。


 シドンサイドの探求者とは、彼であり彼ではない。

 その矛盾のような現状の中に秘められた真実に彼が気付くのは遠い未来だろうか、はたまた数時間後か――……






































































「うーん。やっぱり、魔法っていうのは素晴らしい技術ね! いくら資料を読んでも興味が尽きないわ!」






                知られざる亡国編、完




どうも作者です。

まず初めに言わせていただきたい。


「この『シドンサイドの探求者』を最後まで読み切った猛者はいらっしゃいますかァーッ!?」


いるのであればぜひお会いしたい。そして土下座したいです。


こんな駄作に貴方の貴重な時間を割いてしまいすいませんでした!! と。


惰性と飽き性による二重奏でここまでこぎつけるのに半年以上もかかってしまいました。完全に予想外です。元々は数か月で終わらせる予定だったというのに……。

しかしそれも今回の更新でなんとか完結という一つの区切りを迎えることが出来ました。これが一般的なラノベとかだったら「応援して下さった読者の皆様に感謝!」とか言えるのですが、如何せん『シドンサイドの探求者』はPVも少なく、ここまで続けることができたのはすべて私の努力の賜物ですね(自惚れ)


……と、終わった作品の話は早々に未来の話をしましょうか。

以前後書きで伝えたことがあったのですが、私はもう一つ作品を温めております。それもこの作品よりずっと前から。

まあ簡単な話、次回からはその作品を投稿したいと思っておりますのですよ。


言っちゃあなんですが、『シドンサイドの探求者』もその作品の宣伝のようなもので、わかりやすく言うとその作品のifストーリーなんですよね。ですから、この作品のような見切り発車ではなくちゃんとした作品になっているはずです。


というわけで、こんな創りの粗い作品を生み出してしまった元凶である私の次回作に、どうぞご期待ください!



次回作予告!



時は有史2999年、六月。

平穏な日常を過ごす高校生、柊晴人はとある少女と出会ったことにより、平穏が一変。運命の歯車に翻弄されていく――、

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