表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/26

変調


 復讐のために生きるのか、生きるために復讐するのかで、その意味は大きく変わってしまう。

 前者は自分の生涯を棒に振り、後者は他の生涯に凶器を振りかざす。


 ところで、モアグリードとは何なのか。


 啓帝と呼ばれる人間がいて、影取りババアと呼ばれる魔女がいて、安国兵団と呼ばれる護衛集団がいる。


 モアグリードとは何なのか。

 それを説明するには彼、啓帝モアグリードの原典を知る必要がある。


 神殿。

 ネックは気付いたらここに立たされていた。

 目の前にはこの世界の帝、モアグリードが君臨している。


「俺はな、称賛したいのだよ。異世界から来たお前に」


 モアグリードは本当に嬉しそうにしていた。


「称賛? 馬鹿かお前は。俺はお前に恨まれることはあれど、感謝されるようなことした覚えはねーぞ」

「お前こそ馬鹿か。俺はお前に称賛してはいるが、感謝なぞ一ミリたりともしてはいない。俺は、お前がグレゴリーとエキセント=リリックを退けたことだけを称賛しているんだ」

「……なるほど、俺たちの行動はすべてお見通しだったってわけか」


 だったら、とネックは続け魔法陣を作り出した。


「俺がこれ(・・)を使えるってことも知ってんだよな」


 轟! と展開された魔法陣は、爆発的速度でその範囲を拡大させていく。

 その有様を目の前で見せつけられたモアグリードは、歓喜の感情で満たされていた。


「知っているとも! だが俺にかかればすべてが無力!!」


 モアグリードは服の内側からとある機械を取り出し、その機械についている大きなボタンを押した。

 すると、重低音と共に地鳴りが響き、ネックの魔法陣が消え去った。


 ネックはこの現象に心当たりがあった。

 これは、対魔昇華法そのものだ。


 しかしネックは疑問に思った。モアグリードの人間は魔法を使うことを禁忌にしていたはず……なのに何故目の前の男が魔法を使えるのか。


「我々の技術力がお前たちの世界よりはるかに優れているということはご存知かな?」

「……さあな」

「そう謙遜するな、我がモアグリードは土地の三割を技術向上の施設で占めている。文明力はお前たちより上だ」

「謙遜はしてないと思うんだが」

「薄々勘付いておるだろう、先の現象がグレゴリーの術と同様のものだというのは」

「!」


 ネックは自分の考えていたことと同じことを言われて、一瞬動揺を見せる。

 しかし、すぐに平静を取り戻し、


「あの魔法はグレゴリーの一族に伝わる秘術なんだろ? それをお前が使えるとは思えない。この世界では、魔法を使うことは禁忌なんだからな」

「そうとも、しかし俺にお前の魔法は通用せんぞ? すべて対魔昇華法で消せるんだからなぁ」

「言ってることが矛盾してないか? お前」

「試してみてもよいのだぞ? 異世界人」

「……ハッ」


 フッ、と空気が張り付いた。

 ネックが本気で戦闘を開始しようと意識したのだ。


「どうなっても知らねえぞ、モアグリードォォォォォ!!!」


 ブォン、と一つの歪みが生まれた。続いて二つ三つ、四つ……合計で六つの歪みだ。

 その歪みはそれぞれが主張するように『赤』『青』『緑』『黄』『紫』『幾』を瞬かせ、ネックを取り囲むように揺らめく。


 『赤』の歪みは火炎の属性を示す。

 『青』の歪みは水分の属性を示す。

 『緑』の歪みは自然の属性を示す。

 『黄』の歪みは光源の属性を示す。

 『紫』の歪みは悪意の属性を示す。

 『幾』の歪みは異常の属性を示す。


 火炎、その性質は獄門。無情の業火でその身を焦がす。

 水分、その性質は浄化。心身まで澄み渡る鎮魂の唄。

 自然、その性質はいにしえ。原始の胎動から刻まれた、滄溟の記憶。

 光源、その性質は審判。果てまで映す采配の煌。

 悪意、その性質は破壊。本能に身を委ねた魔神たちの調べ。

 異常、その性質は幻想。魔法の根源たる浪漫イメージの世界。



 その歪みが折り重なり、一つの個へと変する。

 その個の性質は解放。その一つ一つが魔法というカテゴリーの集大成ともいえる伝説の災禍。

 あまりにも強大過ぎるその個は、どこかの世界では禁忌と呼ばれた。


「早速で悪いがモアグリード。お前の出番、これで終わりだわ」


 この世の法則とはかけ離れた異質な衝撃。それを言葉で表現するなら皆は口をそろえてこう言っただろう。

『衝撃の一個一個がまるで天災が起こっているかのよう』と――、、


 あまりにもあっけなさすぎる結末だったとネックは笑った。

 ひとしきり笑って、腑に落ちないことがあった。


 あれだけの衝撃に、この神殿がまるで無傷なのはおかしい。


 その時、強烈な頭痛がネックを襲った。

 そして、視界が歪んでいく。

 今、彼が見ているのは架空の光景だ。


「ま……ず…ッ!!」

「俺の作り出した幻の光景、楽しんでもらえたかな」

「ク、ソがァァッ!!」


 ネックは、自分の魔法力を振り絞って偽りの世界を消し去った。


 視界は晴れ、頭痛も治まり、しかし非情な現実がネックの目に映る。


 ネックの目の前には、無傷のモアグリードが立っていたのだ。


「理解したかな、お前の魔法は俺には効かないということが」

「……誰が……!!」


 ――一体どうやって……


 ネックは思考した。モアグリードに魔法を使うすべはないはず。ならばどうやって自分の考え得る最上級の魔法を赤子の手をひねるかのように消滅させた?


「考えているな? 『どうやって魔法を消し去った?』とな」

「……驚いたな。お前には俺の思考を読み取る魔法でも使えるのか? にしては魔法力は感じ取れなかったが」

「何を言っている。俺に魔法は使えない(・・・・・・・)こと、ひいてはこの世界の民が皆魔法を使えないことは知っているだろう。禁忌なのだよ、禁忌」

「それじゃあさっきお前が言った『対魔昇華法』で俺の魔法を消せることの納得がいかねえ」

「俺は別にお前が納得出来ようが出来まいが知ったことではないのだが」

「まあ、教えてくれるわけねーよなァ……だったら」


 ネックの手元に魔法陣が形成される。

 彼は薄く笑い、モアグリードを見据えた。


「何十何百、何千と続けりゃあ少しはこっちでもお前の技の正体を理解できるよなぁ!!!」


 質量が無理やり作り出される時の解析不能の矛盾音が連続して起こった。

 魔法陣は天井を覆い、縦横無尽に拡大していく。


 そして、広がり終えた魔法陣からは、冷水が降り注いだ。


「なんだ、これは……?」


 モアグリードはまるで始めて見るように、降り注ぐ冷水と天井を見上げた。

 その反応は意外だとネックは少し驚いたが、すぐその意味を理解する。


「知らねえか……知らねえよな。地上を捨て、地下でダラダラと何百年と生きてきたお前はよぉ」

「……」

「これはな、『雨』っていうんだ。といっても俺も記憶を失ってから体験はしたことはないんだが、まあ大体こんなもんだろ」


 ネックは手のひらで、雨が弾けるのを見ながら続ける。


「で、本題はここからなんだが、この雨……一体何でできていると思う?」

「……質問の意図が読めんな」

「じゃあ質問を変えようか。『もし、この雨の一粒一粒、単品単品がそれぞれ魔法で構成されていたら、果たしてこの雨はお前の対魔昇華法で消滅させることは可能でしょうか?』」

「フン、俺を試しているということか。よかろう」


 モアグリードは、再び機械を取り出し、ボタンを押した。


「…!」


 瞬間、豪雨のように降り注いでいた雨は、嘘だったかのように消え去り、静寂が二人を襲った。


「まあ、俺の対魔昇華法にかかればこの程度造作もない。俺も――」


 モアグリードはネックの顔を見た瞬間、何故かはわからないが喋ることを止めてしまっていた。

 圧倒的優勢にいたモアグリードが目を見開き、彼の顔を凝視する。なんてことはない。


 笑っていたのだ。彼……ネックは、完全に策を不発させて、絶望するか、少なくとも動揺しているはずにもかかわらず。


「笑っている、だと? お前……その自信はどこから湧いてくるというのだ」

「自信? ああ、そうだな。自身ならついたぜ、今さっきな」

「何?」


「お前の使う対魔昇華法は、ロイタミナス=グレゴリーの使うオリジナルの対魔昇華法とは効果だけ同じの、いや……全くの別物だってことがな!!」


 モアグリードは、ネックの宣言を受けて表情を厳しくした。


「原理はわからねえが、お前は魔法をそれっぽく再現する何かの技術を得ている。その手に握っている機械から判断すると大方超ハイスペックな演算装置でもあるのかね」

「……そう、我がモアグリードの工業力はお前たちの数千倍上をいっている」

「大したもんだぜ、モアグリードってのはよぉ。もし魔法を消せる機械なんてもんがあったら魔法で成り立っているアステラ王政は大打撃どころの騒ぎじゃあないだろうな」


 モアグリードは、ネックの言葉を食い入るように聞いた。

 ある言葉、それを確認するために。


「王政に大打撃……それは、お前が適当に言っているだけではないのか」

「いや、詳しくは知らんが常識的にそうなんじゃないか? とある国家の根本のシステムを無力化できるんだぜ? 惨事も惨事、大惨事さ!」

「そうか、この程度でアステラは滅ぼせるのか……」


 もし、ネックが記憶を失っていなかったら、これからのストーリーは大きく変わっていたかもしれない。

 モアグリードは、自分の計画を、ネックにさらけ出す。



「少年、シドンサイドを征服してみたくはないか」



 ネックは、


「謹んでお断りだ。というか、そんな簡単に征服できるとでも?」

「お前が言ったのではないか。これ、『神殿』があればアステラに大打撃を与えられる。と……俺はその確認をさせるためだけにお前をここへ呼び寄せたのだよ」

「いやいや、確認って言われても……」

「この神殿ごとシドンサイドへ転送する方法はあるのだよ」

「……まさか」


 モアグリードは両手を広げ、謳うように言った。


「時空間転送装置『カイン・ド・ラ=モナーレ』それがこの神殿の真の名前だ」


 ……時空…間……だと?


 イカれている。

 そんなこと、本当にできるのか……?


「……もし」

「ん? なんだね」

「もし仮にこの神殿で、こことあっちを行き来する事が出来るとして、対魔昇華法は? お前はどうやってあれを使ったんだよ!?」

「簡単さ、時空間転送装置程の演算機能を持つ機械に出来ぬことなど無いのだから」


 不可能はない……それは、ソレを、神にも等しい域のものと言っていることに他ならない。


「異世界人、俺は『空間移動の機械化』を一種の終着点だと思っている。工業的文明の極致……この次元まで足を踏み入れることに成功したらもう、出来ぬことなど無いと言っても過言ではない」


 モアグリードは、「だが」と付け加えた。


「しかし、そこに魔法が関与してくれば話は大きく変わってくる。あれは、想像イメージの産物であり、完全な無から生成される有。元から存在しないものを作り出すのはいかに優れた機械とて無理だ……解析次第だが」

「解析……だと?」


 そんなことで、魔法を機械が模倣できるなんて……有り得ない。

 しかし、モアグリードはネックの想像をいともたやすく超えていく。


「そうだとも、解析できる魔法ならいくらでも再現できる。思い出すがいい。お前はカイン・ド・ラ=モナーレにどうやって来た?」

「っ!?」


 ネックは、ここに来た時のことを思い出した。

 あの時は、視界が急に曲がる感覚がして……気が付いたら既にここにいた。


 まるで――


「いや、そんなことは……」

「思い出せ。何故お前は俺が持っているこの機械一つで己が魔法を消滅させられた?」


 ネックはその現象に遭いすぐに察した。

 これは、グレゴリーの対魔昇華法そのものだと。


 心のどこかで、歯車がかみ合う音が聞こえる。

 それを、ネックは必死に聞こえないふりをする。



「思い出せ。そもそもお前はどうやってこの世界にやってきた?」

「…ッ!!??」


 ネックは、理解してしまった。

 この男が言っていることは、すべてが真実なのだ。


「やっとわかってもらえたようだ。そう! 時空間転送装置、カイン・ド・ラ=モナーレは我が従順な僕、ロイタミナス=グレゴリーの最も得意とする魔法を完全に解析し、その効力を何千倍にも膨れ上がらせることに成功していたということになるのだよ! その効果の範囲は世界の端から端までありとあらゆるすべてだ!!」


「は、はは……」


 あまりにもすごすぎて、わらいしかでない。

 そこに、追い打ちをかけるようにモアグリードは責める。


「そうら、そろそろお前の魔法も『解析』が終わるぞ?」

「ぁ……」


 モアグリードが指示した上空を見上げると、よく見覚えのある魔法陣が無数に展開されていた。

 そこから放たれるのは、ネックを殺す光の雨。


「フハハハハ!!! 俺は!! 今からこの破壊力を以って、シドンサイドの征服を開始する!! モアグリード全土の民よ!! この声が聞こえていたら叫べ!! 猛れ!! 身を潜め、無情に過ごす幽玄の時間はたった今終わりを告げた。今度は、俺たちがアステラを地獄の淵へと叩き込むのだぁぁぁぁあぁぁあああ!!!!!」


 啓帝・モアグリードのその声は、モアグリード全体へと行き届いていた。

 啓帝は、その威光を顕わすかのように、まるで気を纏っているようにさえ見えた。


 そして、


「あっれぇー? モアグリードさぁーん、その気何の気ぃー?」

「っ何者だ!?」


 男は、モアグリードの背後からヌッと現れた。

 光の雨が降り注いではいるが、啓帝に全く気付かれずに背後まで迫っていたのだ。

 その事実にモアグリードは驚いたのだ。


「あ、ども。アタクシ、ガーネットと申します。以後、お見知りおきを」

「そういうことを聞いているわけでは――」


そんなこと(・・・・・)、どうだっていい。そだよね?」

「あ、ああ。そうだな」


 ――また新しい人間だと?

 モアグリードは何故自分がそう思ったかわからなかったが、不思議とその声に逆らうことができなかった。正しいと思い込んでしまった。


「フフ、アタクシたちが誰か気になっているんでしょう? いいですよ。貴方の手に持っているそれ、押してみたらわかると思います」

「……」


 モアグリードは、謎の男たちに言われるがままに対魔昇華法が発動するボタンを押した。


 しかし、特に変化は起こらなかった。モアグリードには、何も変化がなかったかのように思えたのだ。

 しいて言えば、ネックに放っていた光の雨が消失したぐらいだった。


「どうやら貴様等の言っていることはハッタリだったようだな。その証拠に、俺は貴様等のことなど微塵も理解できておらん」

「本当に理解できていないのですか?」

「……どういう意味だ」


 ガーネットは何も答えず、代わりにゆっくりと笑みを見せる。

 とてもゆっくり、まるでスローモーションのように六十秒間ゆっくりと。


「貴様等――」


 モアグリードが口を開いた瞬間、彼の背後で肉の塊が地面と激突する音が炸裂した。


「何を!?」


 振り返ると、そこには夥しい量の血がまき散らされていた。

 人の形をしているのが辛うじてわかる。コレは落下による衝撃でひしゃげてしまっているのだ。


「だがコイツはどこから……」

「上ですよ、う・え」

「っ!?」


 いつの間にかモアグリードの背後に迫っていたガーネットは、囁くように呟いた。


 そして、モアグリードは気付いてしまう。


「なんだ……これは――」


 今いる神殿の天井に、無数の蠢く何かがいることに。


「貴様等は……一体……」

「改めて紹介させてもらいましょうか。NAGI隊が一人、ガーネットです」

「NAGI隊が一人、アンドレ」

「そんなことを聞いているのではない!! 貴様等はッ――」


「呪いを解き放とうよ、モアグリード」

「そんなこと、するわけが」


 アンドレが一言発すると、モアグリードの意志とは関係なく強制的に魔法を使わされてしまった。

 とてもしょぼい、絞りかすのような魔法を。


「な…なにが……?」


 まるで理解できない。モアグリードは混乱していた。

 自分が魔法を使った? 封魔の呪いを自分自ら解放した?


 そんなこと、出来るはずがない。

 しかし、


「どうでしたか? 魔法初体験は」


 ガーネットのその一言で、理解してしまった。自分が何をしたのかを。


「俺が、自分で、呪いを解いた……のか?」

「そだよ。僕はNAGI隊の『A』を担当してる。それはつまりアンサースナイプという魔法をつかうこと」

「魔法……だと?」

「まあ簡単に言うと、アンドレの云う通り、とでもいいましょうか」

「……まさか」

「察しがいいですね。そうです、あなたはアンドレが言った言葉が絶対的に正しいと思い込まされたのです。だからあまたは魔法を使ってしまった。自分にかかっている呪いが解けることも知っていながら」


 サーッとモアグリードは血の気が引いていく感覚に陥った。

 呪いを解く、ということは即ち不死の状態からただの人間に戻ってしまうということ。


 それはつまり、モアグリードが数世紀分生きながらえてきたこと全てを無に帰す、ということ。


「無くなった? 俺の、不死が?」

「イエス。とだけ答えておきましょう」


 ……あ――



「有り得んッ!!! 啓帝であるこの俺の不死の力を剥奪しただと? 一住民風情が!!! 貴様等は万死に値するぞ!!!」

「万死? 啓帝? ンなもん関係ねえんだよ。第一、お前は一つ重大な勘違いをしている」

「っ!?」


 モアグリードの目の前に現れたもう一人の人間は、モアグリードと容姿が酷似していた。

 モアグリードはこの世界に自分と顔も体系もすべて同じ人間がいないとこを知っている。だからこそ疑問に思う。


「何者だ!!! 貴様はッ!!」


 モアグリードに酷似した男は、ニヤリと笑った。


「NAGI隊が一人、『I』の担当のインディーだ。ヨロシクな」


 そう言い、インディーは姿を老いぼれのババアへと変化させた。

 まるで、影取りの魔女、ロイタミナス=グレゴリーのように。


「まあこんな感じで一度視た人間のそっくりさんになることができるのが俺の魔法、模倣魔術イミテーションっていうんだわ。そして大トリが――」


 インディーが上を見る。

 蠢く群れの中、そこから一部が地面へ落下してくる。


 そのまま轟音と共に着地して、四人目の男が姿を現す。


「そしてNAGI隊が一人! 『N』のノイマン。死霊遣い(ネクロマンサー)である!! お前の世界の民約千人は俺たちが皆殺しにさせ、使役している!!」


 そう、グレゴリーが対応に困っている間、彼らNAGI隊はずっと今のように強制的に魔法を使わせ、禁忌違反者を増加させていたのだ。

 すべては、この時の為に。


「フハハハハ!! 見ろ!! 不死でなくなったお前はじきにお前の世界の民に屠られるだろう!!! シドンサイドからの使い、俺たちNAGI隊の魔法によってなぁ!!」

「シドン……サイド……」


 まるですべての歯車がかみ合ったかのように、モアグリードは一瞬呆けたかのようになった。


「そうか、わかったぞ。貴様等は最――」

「残念だが、時間切れだ」


 インディーの模倣魔術で作り出された模倣の斧が、モアグリードの喉元を穿つ。


「ちょっと待てよ」


 ――瞬間、インディーの斧は融点に達し、驚くほど速く溶けた。


「……テメェ」


 インディーが恨めしそうに彼を見る。

 彼は傷だらけの体を回復魔法で癒しながら、インディーの腹部に手を持って行った。


「消し飛べ」


 一言、それだけ言うと、インディーの人体。その腹部部分は跡形もなく消えた。


「ぐああああああああああああああ!!!! ッ何故だ!? 魔法を同時に使いこなす、だと……!?」


 彼は全体重をかけた蹴りでインディーの体に空いた穴を射た。


「ッ!!」


 インディーは想像を絶する痛みに、意識を失った。


 彼は次に、モアグリードを見た。

 モアグリードは彼を見て、恐怖した。


「貴様は光の雨で確実に殺したはずっ!!?」


 そう、モアグリードの目の前に立ちはだかったのは、シドンサイドの少年・ネックだった。


「死にかけたぞ…俺は」

「あの攻撃を、耐えきったというのか? ただの人間風情が……」


 ブチ。


 ブチブチブチ!


 ネックは、沸騰するかのように頭に血を昇らせて、激昂していた。

 その姿はもう、記憶を失う前の優しい少年のものではなく、記憶を失った後の野蛮ではあるが、どこか優しさの残った少年のものでもない。


 まるで魔物だ。と魔物を見たことがある人は云うだろう。

 それほどまでに彼は鬼のような形相をしていた。


 飾る言葉など無い。

 彼の思うところは結局一つの単語へと還元する。


 そのため、彼は最期に一言。たった一つだけ言葉を発する。

 



「死ね」




 瞬間。世界から『音』が消えた……‥‥‥。



 ――何が起こった何が起こった何が起こったッ!?


 NAGI隊の『G』を担当するガーネットは、ただ一人だけネックの魔法から生き残った。

 それ以外の人間はもう生きていないだろう。


「クソッ! 何が起こったっていうんだ!? 予め仕掛けておいたミニッツトラップがなければ『アレ』に確実に巻き込まれていた……!!」


 ガーネットは、グリニッジカウントという魔法を有している。自分もしくは対象の時の流れを一分間操ることができる。

 対象の一秒を一分にすれば対象の動きは六十分の一になってしまい、逆に一分を一秒にすれば、対象は通常の六十倍で動くことができるようになる。

 ミニッツトラップは、その対象を地面からその座標の空中に指定し、その座標を次に自分が通るときに、その速度を六十倍にするものである。


「あれが、資料に載っていたアルト=ランドレットだっていうのか? 話が違い過ぎるぞ……」


 神殿は爆撃にでも遭ったかのように局地的に崩壊していた。

 ちょうどネックらがいた場所だ。


「クラッカーズの力が暴走したのか、それとも別の何かか……兎に角あれはもう魔法なんて謂う次元の話じゃない……! あのままシドンサイドにあれを持って帰ってしまったら史上最悪の大事件になる!!」


 冷静さを欠いているのか、素ではそうなのか、ガーネットは先程までのモアグリードと話していたときの面影はゼロである。


「早く……早くあっちに戻って、モアグリードとシドンサイドとの移動手段を断つのだ! 一分一秒が惜しい!!」


 ガーネットが目指すのは最初にネックたちが使ったフシギアナである。

 こっちとあっちを繋ぐのは、あのフシギアナしかないのだ。


 早く――早く!!


 ガーネットは走った。これでもかというぐらいに走った。

 その速度は実に、モアグリードを走る電車を越えていた。


 そして、


「着いたぞ!! 地上だ、地下都市から抜け出したぞ!!」


 ガーネットは生きながらえた喜びに打ち震えた、


「だがまだ油断は禁物だぁ~……まずは、危険な状況だということをバシリスク様に報告せねば」


 ガーネットは再び駆けだした。フシギアナを目指して。


「こちらはNAGI隊! バシリスク様!! 緊急連絡です!!」

『なんだ騒がしい。その声はガーネットだな』


 通話の先の人物、バシリスクは不機嫌そうな声をしていた。

 だが別に不機嫌というわけでもない、これが彼の普通なのだ。


「今回の重要人物、アルト=ランドレットの暴走で啓帝モアグリードは死亡、他NAGI隊も私以外は消息不明であります!!」

『そうか』

「私は暴走化にあるアルト=ランドレットを危険因子とみなします! このままシドンサイドへあれを連れ帰ったら大惨事になることも大いに予想されます!!」

『うん。それで?』

「はい! ですので、独断ではありますがゲートを封鎖して、一旦シドンサイドとモアグリードを完全に分断すべきと考えました!!」

『おっけ。わかった。俺の魔法で造ってたゲートを無くせばいいんだな』

「さようでございます!!」


 通話している間に、ガーネットはフシギアナもといゲートに辿り着いた。

 幸運だ……逃げている間に追いつかれなくてよかった。とガーネットは安堵した。


「では私はこれからそちらへと帰りますので、帰り次第魔法の解除お願いします」


 ガーネットがフシギアナに足を踏み入れた。


                ☆


 その先の光景は、まるで何の建造物も見えないモアグリードの地上そのものだった。


「な……なんで」


 後ろを見ると、ゲートがある。自分はあの何事も無いただの穴を潜り抜けただけのようだ。

 ガーネットは、血相を変えて通話先のバシリスクに吼える。


「ゲートが使えなくなっています!! これはどういう意味でしょうか!?」

『あん? 何言ってんだ』


 通話先で相変わらずの不機嫌ボイスなバシリスクに、ガーネットがプッツンする。


「ゲートが無くなってんですよ!! これじゃあ俺はシドンサイドに帰れねえじゃねえかって言ってんだよおい!!!」


 ついに言葉使いも荒々しくなってしまったが、バシリスクは俄然として口調を変えずに、



『だから何言ってんだっていってんだよ。ゲートを消せって言ったのはお前のほうじゃあねーか』



 ――そんな


「どうにかしてくださいよ!! 後ろからは怪物が迫ってんですよ!? モアグリードにいたら命がいくつあっても足りないですよ!! どうすりゃあいんですか!!!」

『ほっほーそうかそうか。アルト=ランドレットはそんなに成長したか―。いやぁ充分充分』


 成長?

 ガーネットの脳に、その言葉が渦巻いた。


「それって……どういう意味ですか」

『んー? あぁ、折角だし教えといてやる。実は今回のこれって全部アルト=ランドレットを本気にさせるための訓練みたいなもんだったわけよ。お前らNAGI隊とモアグリードは晴れてその経験値役に抜擢されてたってこと』

「それは、つまり……」


『そう。NAGI隊もモアグリードも、そこで死んでいくことは全部うちらの計画通りってことなんだよな』


 ガーネットは絶望した。

 自分たちが捨てられたという事実に、


「ふふ、ふふふふふふふふふふふふふふふふふふふあははははははっははははははは!!!!!!」


 ガーネットは、狂気に身を委ね、天を仰ぎ笑った。

 空には、月のような天体が浮かんであり、彼の姿を妖しく彩っている。


 ガーネットではなく、彼を――


「もうどうでもいいや」


 振り向き、その姿を目にする。

 既に恐怖など無い。


 もう何も、ガーネットには残っていないのだ。


「殺せ」







 …………。




 ………。




 ……。









 NAGI隊、生存者――無し。



                ☆



「……ネック君……!!」


 少年におっさんと呼ばれていた男は、爆発的跳躍力で地下都市の天井に大穴を開けた存在の彼の名を呟いた。



 次回『幻世界の小休止』

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ