グラスト商会と
ガーデンの中へと侵入を成功したネックたち。
三人はモアグリードの地理に詳しいロバートを先頭に中枢へと向かっていた。
「それにしても、ここら辺はやけに静かだな。都市ってのは普通、内側に向かって人が多くなるんじゃないか?」
ネックがふとそんなことを言い出した。そう思うのも当然である。
三人はガーデンに入ってまだ、人を目撃していないのだ。
「……確かに、ここまで人がいないのはおかしいかもしれませんね。私が以前ガーデンに来たときは活気に満ち溢れていたのですが」
「誰も出てこないなんて寧ろ好都合じゃないか。僕たちは今、追われる身なんだよ?」
「それもそうだな。とりあえずは見つからずにババアをぶっ倒すのが最優先か」
「………そうですね」
「あれ? でもあの魔女の居場所ってわかってるの? 僕たち」
「それは心配ないですよアスランさん。私たちが向かうのはグレゴリーがよく訪れる場所です。恐らくそこにいれば彼女と遭遇できるでしょう」
「そうなのね、じゃあ当面はそこを目指すわけだ」
「ええ、そうなりますね」
二人の会話が終了した直後、三人の付近で大きな火花が上がった。
「な、何ですあの紫電は!?」
ロバートが突然の出来事に驚き声を上げる。
そして、ロバートの驚くさまを見て、二人は確信した。
「ネック……あれは……」
「ああ、間違いない」
現場から離れた三人にも見えるほどの大規模な紫電。それをロバートがまるでそんなことが起こるわけないと驚いたことで、可能性は一つの事柄へと帰結する。
「あれは、あの事象は――魔法によるものだ!!」
☆
三人は紫電が発生した場所へと急いだ。
モアグリードの人間が魔法を使ったということは禁忌を犯したということ。
つまり、禁忌違反者を殺害する為に影取りの魔女は必ず現れる。
もたもたしていたら何もかもが手遅れになってしまうのだ。
「魔法が発生したのはここか!?」
ネックが息を切らしながら叫んだ。
すっかり寂れてしまったような商店街の真ん中で、バチバチと火花をあげる少年を視界に入れながら。
「よかった、まだグレゴリーは来ていないんだな!」
「お前! 早く魔法を使うのを止めるんだ!」
アスランとネックは少年に呼びかけるが、少年は応える様子はない。
「もしかして……魔法が暴走しているのか」
「暴走!? 暴走ってなんだよおっさん!!」
「暴走はね……君みたいにとてつもない魔法力を秘めている子供によく起こるんだ。感情が抑えきれなくなって理性で自分を律することができなくなるのと一緒さ。多分ネックも、記憶を失う前に何度かは暴走した経験があると思うよ」
「じゃあアイツも、理性で押さえきれないほどの興奮状態にあるってことかよ……!!」
「いや、どちらかというとあれは……無理やり操られているような――」
紫電を放つ少年が、一際大きく放出した瞬間、
「ヒィーッヒッヒッヒ!! またここにも禁忌違反が一人……」
一度聴いたら忘れることは簡単にはできないような笑い声が闇の中から聞こえてきた。
無論ロバートもアスランも、そしてネックも……この笑い声の主を知っている。
「影取りババア、グレゴリー……!!」
忌々しそうにネックが言う。
「っ!! 異世界の魔法使い共ッ!?」
「ネック! 早くあの少年を!!」
ネックは少年の下へ駆けた。
だが、紫電が邪魔をしてうまく近づけない。
「クソッ! どうすれば……」
「ヒヒヒッ! 流石のあんたも子供を傷つけるような真似はできないようだね。だったらあたしの勝ちさね!」
グレゴリーは少年の背後の影から顔だけ出し、カッ! と目を見開いた。
すると、少年を中心に一度だけ強い衝撃波が発生し、次の瞬間には少年を囲むように放出されていた紫電が消えていた。
「なっ!?」
ネックはその一部始終を見て、驚きを隠せなかった。
「テメェババア、一体何をしやがった!!」
「ヒヒヒ……あんたに教えることは何もないよ」
ネックはこの時、言い知れぬ不安を感じていた。
そう、これは既視感。
「そうか、あの時俺の魔法が消えたのもこの妙な技のせいってわけか……!」
「察しがいい男は……嫌いだよッ!!」
モアグリードで唯一魔法が使える人間、グレゴリーが少年の影から勢いよく這い出て、ネックへと攻撃を開始する。
雷雲をネックの上空に発生させ、そこから高電圧の雷撃がネックを襲う。
「テメェみたいなババアは、こっちから願い下げだっての!!」
ネックは造形魔法でJの形の避雷針を造って、雷撃を吸収する。
そして、
「倍返しだ!! 自分の創った雷に打たれてくたばれババア!!」
吸収した雷をグレゴリーに向かって放った。
しかし、グレゴリーは焦るどころか、勝ち誇った笑みを見せていた。
彼女は、ネックの放った雷撃を、少年の体で防いだのだ。
「……ァ……っ……」
少年の体は、麻痺して痙攣していたが、間も無くしてピクリとも動かなくなる。
「ヒィーッヒッヒッヒ!! ご苦労様ですぢゃ!! ヒィーッヒッヒッヒッヒッヒ!!!」
ネックは、目を見開いて硬直して動かなくなる。
グレゴリーはネックへと歩み寄り、耳元で囁く。
「子供の未来を自ら絶った気分はどうじゃ?」
ネックは……、
「うわあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」
そして、ネックの記憶はここで途切れた。
☆
ネックは、目を覚ました。
「ここは……」
「造船場、のようだね」
「あぁそうか、造船場……っ!?」
ネックは自分が置かれている状況を理解した。
二人は、縄で縛られて身動きを封じられていたのだ。
「やっと目ぇ覚ましたのかよ。おっせーんだよガキが」
「……誰だあんた」
「俺はグラスト商会のトップ、ミロ=ティアトゥルースだ。ヨロシクな100億の賞金首さんよ」
「ッ……テメェ……!」
ミロはニタリと笑みを見せた。
「まあそうカッカすんなよガキ。安国兵団に身柄を渡すまでは何もしねぇからよ」
「……チッ」
ネックはミロから目を逸らし、舌打ちして黙り込んだ。
「それでいい。自分の身が大事ならそうやっておとなしくしてるんだな」
ミロがどこかへ行ったのを確認して、ネックが同じように傍で縛られているアスランに話しかけた。
「そういや、ロバートはどうしたんだ? さっきから見当たらないんだけど」
「……実はね」
アスランは、ネックが気を失ってからの一部始終を話し始めた。
「君が気を失った後、グレゴリーはすぐに逃げて、その後僕はロバートから携帯を見せられたんだ。そして、内容を読もうとした瞬間…………気付いたら縄で縛られていたんだよ。まだ後頭部がズキズキする」
「つーことは何か? ロバートが、俺たちを……」
「売った…ということになるね」
ネックはそれを聞いて落ち込むように頭を落とした。
「ロバート……どうして……」
「ネック……」
数十分後。
「よう、これからの予定が決まったぞ。お前たちは神殿まで俺たちに運ばれることになった」
「神殿……だと?」
「そうだ。神殿だ」
「そこは、どこだ」
「知る必要はねぇ」
ネックたちは無理やり立たされる。
「さっさと行くぞ。こう見えても俺、大金を目の前に舞い上がってんだよ。協力してくれや」
「ネック。ここは彼らの言う通りにしておこう」
辺りを見回すと、グラスト商会のメンバーのほとんどが銃で武装しているのが見て取れた。この状況で反逆するのは流石に無謀だろう。
「俺たちはどうすればいい」
ネックは、ここはおとなしくしようと思い至った。
「あれに乗ってもらう」
そういってミロが指差したのは、造船所の作業用に使われていると思われるトラックだった。
「乗り心地はまあ、察してくれ」
作業用トラック、荷物置き――。
ネックとアスランは、向かい合うように座らされ、荷物置きの奥に見張りが座っている。
「……! …!! ……」
「(ネックが何やら踏ん張っているように見える……)」
ネックは、アスランへとテレパシーで会話を試みようとしていた。
「(おっかしーな。念動力があるなら念話が出来てもおかしくないんだけどなぁ)」
この中ではグラスト商会の見張りのせいでまともに喋ることも出来ない。
「(もういっかい……フン!!)」
「(あ、またネックが気張っている…………もしかして、これは)」
バッ!! とアスランが手を挙げた。
「何がしたいんだ」カチャ
すかさず銃口をこめかみに突き付けられる。
「……いえ、なんでも……あ、りません!」
「……そうか。妙な気は起こすなよ」
「……」
「返事!」
「はいぃ!!」
再び静寂が訪れた。
「(さっきのアスラン、何がしたかったんだ? わざわざ見張りを煽るように……)」
「(ネック君済まない!! 君の為と思って勇気を出して見みというのに……)」
「(いや、考えろ。アスランはそんな馬鹿じゃない。さっきの行動には何らかのメッセージが隠されていたんじゃないだろうか)」
「(ああ神様!! 僕は駄目な人間です。どうして僕はここまで無力なんだ……ッ!!)」
アスランは目を強く閉じ、祈るように両手をこすった。
「(あれはッ!? どうしたというんだアスラン! いやあれはッッ!!?)」
アスランは一心不乱に自分の掌に指で文字を書きなぐっていた。
「(あれはまさか、手のひらに書いている文字。その書き順で俺に何かを伝えようとしている!!?)」
「(違う!! 冷静になれ僕!! 僕は緊張しているに違いないんだ。だからうまく行動できないんだ。だからこうして手のひらに『人』とかいて冷静さを取り戻すんだ……!!)」
「(何だ? なんて書いているんだアスランは!? クソッ、ここからじゃよく見えない……もっと目を見開かなければ……!!)」
もう一回言っておく、二人は向かい合って座らされている。
「(『人』って何回書けばいいんだっけ!! 三回だっけ? 三十回だっけ!? てか今何回書いたっけ!!?)」
取り敢えずたくさん書いて勢いよく呑み込んだ。
「(何だあの行動は!? まったく意味が解らない!! 何を……お前は何を俺に伝えようとしているんだアスランんんんんんん!!!)」
驚愕にネックはさらに目を見開いてしまう。
「(ふう。だいぶ落ち着いてきた気がする。ネックはどうしているだろうか)」
アスランはネックを見た。
「うわぁあ!!」
アスランはちらっとネックを見た瞬間悲鳴をあげた。
「なんだ!?」
「!?」
「何でもあるませんのですっ!!」
アスランが立ち上がって見張りの人に敬礼する。
しかし銃を向けられ、
「妙な気は起こすな……さっきもそういったよなァ、俺」
「わかりましたから銃を降ろしてください死にたくありませんのですぅぅぅぅぅぅぅぅう!!」
見張りは銃をおろし、鼻で笑った。
「こんなんじゃあ死ぬわけねーだろ。おっさんおもしれーな」
「……すいません」
か細い声で言い、座るアスラン。
そして考える。
「(さっきはネックの顔があまりにもすごすぎてびっくりしたけど、あの表情はもう嘘偽りないホンモノの顔だ。間違いない)」
「(アスランの奴め……我慢しているようだがさっきお前が伝えようとしていたことはしっかりと俺に伝わったぜ)」
「(ネック……君は)」
「(アスラン……あんたは)」
二人の動きが今、シンクロした。
手を挙げ、立ち上がり、見張りに頭を下げる。
「「すいません!! アスラン(ネック)がウ○コしたそうにしているので停車してはもらえませんでしょうかッ!!!」」
☆
「んじゃあ待っててやるから、早く済ませてこいよ」
「「ありがとうございますお頭!!」」
アスランとネックは、風の如きスピードでビルを昇っていった。
「……念のためだ。トイレまで行って見張ってろ」
「「はい!」」
ミロがトイレの見張りに向かわせたのは二人。
ビルは広い。
何故ミロは二人しか見張りを向かわせなかったのか……。
それはミロがこのビルの構造を知り尽くしていたからである。
「まさか自分のマイホームまで戻って休憩することになるとはな。なかなかどうして偶然には思えないぜ」
このビルの名前は『グラスト商会本社ビル』
グラスト商会といえば、このモアグリード最大の裏組織である。
次回更新は遅れるかも……?
次回『悪意の中の真実』




