地底の車窓から~ぶらり途中下車の旅~
「伏せろ二人とも!!」
ネックが叫び、魔法で防御壁を展開するのと外部から掃射された鉛が電車の左側を吹き飛ばすのはほぼ同時だった。
「電車に乗っている一般市民はガン無視ですかねぇ」
パラパラと左側面が崩れ落ち、この攻撃をい行った犯人が露になる。
「なんてこった……これは、僕たちを捕える為だけにここまでの規模を動員するなんて……」
アスランが思わずふらつきそうになる程のソレは、山のように聳え立つ工場そのものだった。
工場からは、絶え間なく重火器による攻撃が続けられている。
ネックが防御壁を展開している間にも、電車は速度を落とすことなく走り続けている。
「今はまだ大丈夫みたいだが、いつ電車が停止するかもわからない。僕たちはどうすれば……」
「んなこと言ってる場合じゃねーだろおっさん! これが止まったら最後、俺たちは工場からの一斉攻撃で全滅だ!! だから電車が止まらないことを祈りやがれ!!」
ネックは言葉を言い終わると、一点しか展開していなかった防御壁を電車の左側面全体に複数展開した。
「何をする気だいネック!!」
「アイツらの攻撃を止めんだよ!! 出来るかどうかわかんねーけど、やってやる!」
ネックはぐぐぐっとしゃがみ、勢いをつけて真上に跳躍した。
「おい! ネック!!」
アスランの声はネックが電車の天井を粉砕する音でかき消された。
「まったく……ネックは本当にすごいやつだよ……」
「アスランさん。私たちも、自分が出来ることをやりましょう」
「出来ること? それって……」
「ゆっくりしている時間はありません、こっちへ!」
アスランはロバートに連れられて、電車の内部を進んでいった。
☆
「おうおう、よってたかって俺らを狙いやがって……そんなにされちゃあ死んじまうっての」
ネックは走行し続ける電車の上に立ち、工場からの重火器の攻撃を眺めた。
大砲だったり、銃だったり、ネックの知らないようなモアグリード国製の武器による攻撃だったり、工場から放たれている様々な攻撃を、先程展開した防御壁で洩れなく防いでいる。
「俺の作った防御壁がエンドレスで稼働し続けるとは思えない。だから決壊する前に反撃といかせてもらうぜ」
ネックが一番近くの防御壁に手で触れた。
そして
「防御壁……自動送風システムエディション!!」
ネックの展開した防御壁に風速100メートルのミニサイクロンが付与され、工場からの攻撃のすべてを無力化し、それどころか奥の工場施設そのものまで吹き飛ばす。
「あちゃー。ちょっとやりすぎたかね」
口ではそう言うが全く反省の意を見せないネック。倒壊し、爆発と炎上を繰り広げる工場を遠目で見ながら笑っている。
ひとしきり仕事は終えた、と二人の下へ戻ろうとネックが振り返った瞬間、ガゴン! という不穏な音が電車に響き渡った。
「……まさか、自動送風システムが強すぎて、その反動で電車が倒れそうになっているとかーそんなことないよなー?」
刹那、電車が右方向へと傾きだした。
「ちょっとちょっとちょっとォォォォォォォォォ!!! マジで倒れそうになってんじゃん! どど、どうしよ――ッ!? 電車が加速した!?」
何故か電車の速度が上がり、ネックの体は速さに耐えきれず後方に飛んだ。
しかし、一番後ろの車両に何とかしがみつき、事なきを得た。
「クソッ! 今は考えてる余裕なんてねえ!!」
電車の傾きを戻さなければ!
ネックは電車の左側に施したときと同じように右側にも防御壁を展開し、自動送風システムを付与した。
右側で作られるミニサイクロンと左側で作られるミニサイクロンの風速は一ミリの誤差も無い。
結果、電車は均衡を取り戻し、ネックは安どのため息を吐く。
「アホが……電車を加速させたのはあいつらだな。こりゃあ後で説教だな」
とは言ったものの、あまりのスピードが出ているものだから、ネックは車両にしがみつくことが精一杯だった。
「……どうしたらええねん……」
☆
電車・運転席
誰か止めてええぇぇぇ――……という嘆きがアスランの耳に聞こえた。気がした。
「さっきの揺れは何だったんだろう? 電車が傾いたような気がしたけど……もしかして僕たちが電車のスピードを上げたからとかじゃないよね?」
アスランが心配そうに窓から外の風景を眺めた。外の工場の一部はネックの自動送風システムで木っ端微塵になっていて、重火器による攻撃の手も一旦は落ち着いていた。
「恐らくネックが何かをしたんじゃないですかね。なんにせよ、私たちが無事という事実に変わりはない」
「まあ、そうだけど……」
「それに、貴方たちはモアグリードの人間とは違い、不死ではないんですよね? だったらあまり無茶はするべきではないですよ」
「そこは協力し合おうよ! さっきロバートさんだって言ってたじゃないですか。自分ができることをする……そう、だよね?」
「しかしですね――」
「うわああああああああああああああああ!!」
ロバートの言葉はアスランの声に呑み込まれた。
ロバートは、アスランが電車が通る線路のずっと先を見て驚いていたので何事だ、というふうに自分もアスランが見ている方を見た。
「っ!? あれは……!!」
「人ですよロバートさん!! あれ、このままじゃ死んじゃうよ!!」
「落ち着いてくださいアスラン! モアグリードの人間は死なないんです!!」
「落ち着いていられるわけないでしょ!! 人が轢かれそうになっているのに死ぬとか死なないとか関係ない!!」
「!!」
アスランはロバートの制止を振りほどいて運転席のたくさんある装置やボタンを必死に操作した。
「絶対に止めるッ!! 人が何の理由もなしに轢かれて良い筈がないんだ!!」
「アスランさん……」
アスランは動揺して何もわからないレベルでいろいろ試してみていて……
ふと気が付くと、自分じゃない他人の手がアスランの視界に入った。
勿論、誰かなんて問う必要なんてありはしない。
「ここを引けばブレーキがかかるんですよアスランさんッ!!」
「ロバート……ありがとう!!」
二人は協力して全力でレバーを引き、電車は止まるかに思えた。
☆
「その必要、止める。必要……ない」
☆
鉄と鉄がとんでもないスピードで摩擦し、火花が捲き起こる。
この電車はもう、止まるということを知らない。
「逃げろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」
アスランが線路のずっと先にいる人間に伝えるために全身全霊で叫んだ。
「……おかしくないか?」
ロバートが、叫ぶアスランを横にぼそりと一言呟いていた。
電車がハイスピードで前進する中、ロバートは一人あることに気付いていた。
この電車の速度はおよそ時速100キロメートル。
その速度の電車の運転席から、線路の人間は今から何分も前から自分たちが視認することができていた。
ロバートは、この時、この違和感の正体に思い至った。
「アスラン、逃げろ……後ろへ…………」
「ロバート! 何言って――」
「逃げるんだよ!!! あれは、あの人間は――」
しかし、もう手遅れだ。
電車は、線路に仁王立ちしていた鋼鉄の男によって空中数十メートルを、舞った。
☆
「ん……俺は……」
ネックは体中が悲鳴をあげていることに気付いた。
「そういやさっきまで電車にしがみついてなかったか? 俺」
そこまで思考が巡って、ネックは、状況がさっきとは全然変わっていることを理解した。
ひとまず立ち上がり、自分の置かれた状況を整理する。
「思い出せ……俺は確か、電車の上で必死にしがみついていて、それから……それから?」
ネックはかなり悩んだ後、悟る。
「俺っていう人間は本当に記憶喪失ネタで成り立ってんのな。それにしても……」
ネックは辺りを見回す。
どこを見ても機材やら重機やら、ネックの思い当たる節は……一つ。
「さっき俺たちを攻撃してきていた巨大規模の工場の敷地の中ってわけか」
つまる話敵陣のど真ん中、ということである。
ネックは鼻で笑った。
「ということはあっちこっちに隠れて俺を見張ってるやつらは、さっき俺たちを攻撃してきた敵ってことでいいのか?」
ネックの発言でネックを見張っていた人間は慌ててネックを捕えようと姿を見せた。
しかし、一手遅い。
ネックは既に臨戦態勢を整えていた。
「工場。ここは想像の宝庫だ!! テメーらの使う怪しげな武器だって魔法で再現するのはそう難しくないんだぜ?」
ネックの周囲が不自然に歪み、ゴパッ! と割れた。
その割れた歪みから数々の重火器のビームやら弾やらが発射され、周りの敵を蹂躙した。
「俺を追うってことは一分毎に三分の二殺しされる覚悟でもしてくるんだな。それでも足りるかは知らんが」
ドヤ顔で勝利宣言をするネックは、突然自分の視界が暗くなったことで真面目顔に戻る。
「何奴!?」
背後に違和感を感じたネック。
振り返って、そして……。
☆
同時刻、ロバートとアスランは工場のどこかでグッタリしていた。
「あいてて……ここは……」
アスランは最早テンプレと化した台詞と一緒に目を覚ました。
横ではロバートが辺りを見回しながら警戒していた。
「目が覚めたようですね、アスランさん」
「ロバート、僕たちは……」
「私たちは線路に立っていた男にここまで吹き飛ばされたんですよ」
「……? どうやって僕たちが飛ばされるんだい? 有り得ないでしょふつう」
「さあ? それはどうですかね」
ロバートの言葉が終わる間際、ここからやや離れた場所で爆発が起こった。
「私の推測ではこれ、おそらく線路にいた男ですよ」
「なっ、それは……どういう………」
「鋼鉄の男」
ロバートがそれだけ言って、アスランを悟らせた。
「啓帝も本気で私たちを捕まえに来たってことですね。行きましょうアスランさん! あそこにはネック君もいるはずです!」
二人が目指すのは黒煙が上がる工場奥地。
☆
ネックの背後に迫った男が起こした爆発で黒煙が上がる場所。
ネックはここで、その男と対峙していた。
その男の名前はエキセント=リリック。以前ネックが倒した男だ。
「まさかお前が出てくるとはな……またぶっ潰されに来たのか。もしかしてそういう嗜好の持ち主?」
「俺、モアグリード様の命令で、ここまで来た」
「へえ、なら自分から進んでやられに来たってわけじゃあないんだな。よかったぜ、お前にもまだそれぐらいの考える頭はあったんだな」
「そう、俺は命令されてここまできた。だが、俺の目的は、命令とは違う」
鋼鉄の男は一歩下がり、片足を地面に打ち付けて地ならしするように地面を震わせた。
「命令は『お前たちを捕まえること』……目的は『お前と、戦うこと』!! 今こそ再戦……次は…俺が、勝つ!」
「やってみろ、この野郎!!」
エキセント=リリックが力む。
プルプルと鋼鉄の体が震え、べりべりと音が響く。
「変身かぁ? だが、そんなことを許す俺じゃねーぞ!!」
ネックの正面に魔法陣が発現する。
そこから射出されたのは炎球だった。
その炎球は連続でエキセント=リリックに向かい、小さな爆発を数十発起こした。
が、エキセント=リリックにダメージは無かった。
「お前、その姿は……ッ!!」
「お前に勝つために、用意した。新しい身体!!」
まるで人間を殺害する為だけに用意したかのような武装。
胴体からは銃を発射でき、両腕からは空気すら裂く切れ味の刃物が出現している。
本体の全長すら元の倍以上はある。
「でっけぇ……何メートルあんだよ。けどな、でっかくなっただけで俺に勝てると思うなよ」
「デカさだけ、じゃない!」
エキセント=リリックは地面を抉るように蹴り、目にも留まらぬ速さでネックに接近した。
「なっ!?」
エキセント=リリックはネックの体を裂くために腕の刃を振り下ろす。
しかしネックはその攻撃を紙一重で躱し、魔法陣から衝撃波を発射、その反動で後退する。
二人が一旦動作を止める。
ネックの頬には、さっきの攻撃で受けた切り傷から出た血が滴り落ちる。
「……力でゴリ押しするタイプってのは鈍足であるべきだと思うよ? 俺は」
「脚部分だって改造済み。お前に遅れは、とらない」
「ハッ! 上等!! デカブツは所詮かませだっていうことを、たっぷりと、不死のお前が死にたくなるぐらい、その体の全身に刻み込んでやるよ!!!」
ネックは魔法を発動した。
造形魔法、工場の敵が使用していた重火器の一つ。
大口径のライフルのようなもの。
その標準をエキセント=リリックの胴に定める。
「重っ! でもこんだけ重けりゃ威力はなかなか期待できる。吹っ飛べデカブツ!!」
ネックが引き金を引く。しかしその体は撃った反動で後ろに撥ねた。
そして、エキセント=リリックは、
「無駄だ」
と、一言だけ言った。
この時ネックはある音を耳にした。
キュルキュルキュルという高速で何かが動くような音を、聞いた。
何の音だ?
そう思って反動で宙を舞う体を頑張って起こし、エキセント=リリックを視界の端に捉えた。
その時、ネックは音の正体に気付いた。
ネックが目にしたのは、回転するエキセント=リリックの胴体だった。
ガゴン! と一際大きな音がたち、エキセント=リリックの胴体は回転を止めた。
そして、止まった胴体の中心からは、一筋の高圧縮エネルギー波が放たれた。
エネルギー波は瞬時にライフルの弾を消滅させ、そのままネックの肩を貫いた。
「ッ!!! ァァァァァァァアアアアアアアアアアアア!!」
響き渡るネックの絶叫。
彼は悲鳴をあげながら後ろの壁に衝突した。
この間、わずか一秒。
しかし、これで終わりではない。
エキセント=リリックはネックに立ち上がる隙を与えぬよう右手の親指と人差し指でつまみ、軽々と持ち上げた。
エキセント=リリックは左手をゆっくりとネックまで持って行き、軽く握った。
「止めだ」
その左手に、力が入り――、
☆
鋼鉄の巨人の左腕は、大動脈をなぞるようにぱっくりと割れた。
☆
「グ……ッ」
エキセント=リリックの悲鳴は、この工場全体に響き渡る。
ネックは締め付けから解放され、地面へと降り立った。
少年の両腕は、眩い光で覆われていたのだ。
「よく、もっ……おれの、腕をォォ!!」
鋼鉄の巨人がネックへと右拳を振り下ろした。
が、次の瞬間にはその拳は体から分離する。
「アァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!!」
絶叫。
そしてエキセント=リリックは判断した。
このままではコイツに勝つことはできない。
「(まだ足は動く。逃げる、チャンスは、今しかない!)」
エキセント=リリックは左足を一歩、後退させた。
その足が、地面に触れようとしたとき――
ブチッ
腱の千切れる音ののち、シャワーのようにそこから血が噴出する。
「逃がすと、思ったか?」
ユラァ……と、いつの間にかエキセント=リリックの背後に回っていたネックが、その身体の上体を起こす。
その眼は、黒く淀んでいて、とても平常な人間の眼には見えなかった。
「さぁ~て……ここからは」
残虐で、グロテスクな、発禁の時間だ…………
☆
☆
「この血は……」
「酷い……あまりにも凄惨過ぎる」
ネックとエキセント=リリックが戦っている場所へと辿り着いた二人は、目を覆いたくなるような光景を目の当たりにした。
「……」
ネックは肩で息をしながら、地面に倒れ込んでいるエキセント=リリックを見下ろしている。
「ネック……これを、君がやったのか……?」
アスランは二人が来た今もずっと黙り込んでいるネックの背中に問いかけた。
返事はない。
「アスランさん。ネック君は様子がおかしい」
「そんなのはわかってる! なあネック、返事をしてくれ。僕の声が聞こえないのかい?」
アスランは、ネックの荒く上下する肩に手を置き、揺さぶった。
その時、少年に変化があった。
「……ハッ!? お、おっさん?」
ネックが意識を取り戻したのだ。
振り返ったネックの顔には。誰の血かもわからないが、べったりと塗りたくるように付着していた。
「よかったネック、無事だったんだね!」
「心配したんですよ。ネック君」
「二人とも……いつの間に――って!」
ネックは自分の置かれていた状況を思い出した。
一番新しい記憶は……巨大化したエキセント=リリックに指で摘みあげられたあたり……。
「エキセント=リリックは!?」
二人はネックの発言をとても驚いた顔で聞いた。
それも当然だ。
「あの男なら、ほら……ネックの後ろに」
エキセント=リリックは立っていた。
体中血まみれで、普通の人間なら到底死んでいるであろうというのに。
これが不死たる所以。
エキセント=リリックはぱっくりと割れた拳と、既に無くなって血管から血を垂れ流しにしている腕を振り上げ、ネックらを叩き潰すように振り下ろした。
「っ!!? させるかッ!!」
ネックは咄嗟に防御の魔法陣を構成して、エキセント=リリックの攻撃を防いだ。
しかしその勢いまで殺しきることはできず、三人もろとも後ろ数メートル先にあるコンクリートの壁まで吹き飛ばされた。
ガラガラとコンクリートが倒壊し、三人はコンクリートの向こう側まで追いやられた。
「うわぁぁ!! で、出たぁあああ!!」
「逃げろ!! こいつはガチでヤベー奴だよ!!」
コンクリートの向こうは通路になっていて、そこには複数の工場員がいた。
のだが、三人を確認するなり血相を変えて逃げてしまった。
「逃げる……コンクリ………そうか!」
ネックは何かいい案を思いつき、立ち上がった。
「ロバート、おっさん。頼みたいことがある」
☆
封魔の呪い。
これはモアグリードに伝わる古の秘宝である。
かつて啓帝がこの業に気付き、公からその存在を抹消したのが、今よりおよそ七百年前。
モアグリードの民は、自分たちに『本来は有り得ない筈の不死』の能力が備わっていることの異常性に気付くことなく、数世紀の時を過ごしてきた。
鋼鉄の巨人、エキセント=リリックは封魔の呪いの本質を理解していた。
だから彼は常人、いや、人体の限界による死を知らないモアグリードの民でさえ躊躇うような事でさえ、いとも容易く出来てしまう。
今の彼は、例えるならゾンビという言葉が一番合っているのかもしれない。
「…ガ……ッ、ゴキュッ……!」
エキセント=リリックは、グチャグチャになった口で、言葉を発することなど不可能だというのに、ネックへと何かを伝えようとしていた。
ほとんど肉塊となった体でもなお、ネックへと接近することを止めるそぶりなど欠片も無い。
「なんて野郎だよ……お前は」
ネックは一人、エキセント=リリックのタフを通り越した異常さに戦慄した。
「グチャ……ジュッ…」
「気持ち悪い。何言ってるか、わかんねえよ」
「……!」
エキセント=リリックは、胴体部分を肉片ごと稼働させた。
それが意味することを、ネックは知っていた。
「うおぉぉッ!!」
ネックはいち早く察知し、横の通路へと転がり高エネルギー波を避けた。
「あっぶねぇ……」
しかし、自分とエキセント=リリックの間にあるコンクリートの壁がオレンジ色に融解するのが見えて、安堵するのは早すぎるとネックは思い至った。
ネックは這いずるようにその場から離れ、その一秒後には今いた場所は溶けて爆散した。
「クッソ!! バケモノかよあいつは!!」
ネックは通路の奥へと走り出した。
「こっちだバケモノ!! 俺を捕まえたかったら追ってこい!!」
「ゴリュルルル……」
エキセント=リリックの口からは、今だ出血が止まらず。
しかし彼はネックを追うために通路に入った。
決着の時は近い――
☆
ネックは工場の内部を駆け抜けながら、背後から迫る高エネルギー波をひたすら躱していた。
「何なんだよこのビームは! 俺の姿は見えてない筈なのに確実に狙ってきやがる!!」
そう、エキセント=リリックの胴体から放たれる高エネルギー波は、今のところ百発百中でネックの心臓を狙うように打ち出されていた。
だからネックは走り続けないといけない。
逆に言うと、走り続けていれば攻撃を受けることはない。
「もうっ! 体力っ! 持たねーって!!」
続けざまに三連続で来た高エネルギー波の軌道を、三度魔法陣の障壁で受け逸らす。
瞬間、ネックはある一点に目を凝らした。
それは、矢印である。
そして、
「ネック!! こっちだ!!」
「おっさん!」
アスランが通路の影から姿を現した。
「さあ早く!!」
アスランが出てきた通路の角を曲がった先は、何もない広間だった。
「ハハッ! あのバケモノにケリを着けるには勿体無いぐらいの何もない場所だな。だけど、シンプルでいいじゃねーか……」
ネックは振り返る。
「なあ! エキセント=リリック!!」
「ヴゥゥ……コヒューッ……!」
エキセント=リリックは、ネックに向かって跳躍した。
「まだこんな力が残ってたとはな、その精神力には脱帽するよ。だが! お前の負けだ!!」
ネックの掌からは無数の針のような物質が発現し、空中の巨人の身体を捉え、その動きを完全に停止へと追いやった。
「動けねーだろ。お前の体に突き刺さった針の一つ一つには、細かい棘があって、それのせいでお前は身動きが取れなくなる……そして」
ネックの目の前、つまりエキセント=リリックの真下の地面は、ベコリと音を立てて深く沈んだ。
「ネック! あとは任せたぞ!!」
疲れ切ったアスランがロバートに肩を借りながら言い放った。
「上出来すぎるくらいだぜ、おっさん!!」
ネックの前の地面を抉ったのは、他でもないアスランの魔法だ。
サイコキネシスの力をフルに活用してこれほどの作用を生んだのである。
「締めはコイツだ」
ネックはアスランの抉った地面の中に、ドロドロに煮えた液体を発生させる。
「なあエキセント=リリックさんよ、お前は強いよ。比較対象を俺は全然知らないから確証はないけど、お前は俺が出会ったどんなやつより強かった。主にそのタフさがな」
ネックが話している間にも、沈んだ地面に液体は溜まり続ける。
「グジュル……ッ!!」
エキセント=リリックは抵抗するように胴体を回転させた。
しかし、その行動はまったくもって無駄なことである。
エキセント=リリックの胴体の直線状にネックがいない限り、高エネルギー波は当たることはないのだから。
「……ところで、お前の下の地面に溜まっている液体、何だかわかるか?」
返事はないことは、ネックもわかっていた。
もしかしたら巨人は耳の機能すら失っているかもしれなかった。
しかし、エキセント=リリックがどんな状態であろうがどうでもよかった。
ネックは続けた。
「まあ実際に体験した方が早いよな……墜ちろ」
無数にあった針は一瞬のうちに消えてなくなり、鋼鉄の巨人は文字通り落ちて行った。
あっさりとした結末。
エキセント=リリックは何も出来ずに、枝から離れた葉がやがて地面に落ちるのと同じように、液体の海へと落ちたのだ。
「あぁそうだ言い忘れるところだった……正解はコンクリートだよ。不死の人間でも、動きを封じてしまえば無力だからな。ほら……もうすぐ固まるぜ?」
ネックの、巨人に対する最後の魔法が行使される。
それは、エキセント=リリックの永遠の終わりを表しているようだった――――
☆
モアグリード地下都市、東ゲート。
「よし、行こう……!!」
まるで警備されていない東ゲートから三人はガーデンへの侵入を果たした。
その先に待っているのは……
「ん? おい、早くいくぞロバート」
「……ああ、すみません。今行きます」
彼は、携帯の画面を見つめながら、そう言いかえしたのだった。
メール履歴
「あいつらの身柄を差し出せば、ロバートさんだけなら助けてくれます! ガーデンの造船場で落ち合いましょう」
次回、『グラスト商会と』




