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WANTED~逃亡戦~

 17号広場より東の地区、『高層ビル群』


 おっさんと青年と少年という珍妙な組み合わせの三人組は、ビルとビルの間の路地裏を全力で疾走していた。


「うおおおおおおおおおおお!!」


 簡単に説明すると彼らは逃げていた。


 誰から?



「待てコラァァァァァァァァァァァァァァ!!!!」

「その首差し出せェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェ!!!」

「カネカネカネカネカネカネカネカネカネカネ…………………」



 狂気……彼らを追っているのは金欲に支配された人間。


「どうしてこうなった……!」

「それは、少し前に遡る」


 ダッシュを続ける三人の頭上に回想のモヤが出現する。


ホワンホワンホワ~ン・・・・・・


「あのヤローどこまで吹っ飛んでんだ?」

「そうだね。そろそろ見つかってもらわないと展開的に困るね」

「お前もうあんまり喋るなよ」


 17号広場の東に位置する居住区。

 ネックとアスランは鋼鉄の巨人、エキセント=リリックに吹き飛ばされたロバート(自称学者)を探すためにこの辺りを歩いていた。


「しっかしこのモアグリードって国は凄いなぁ、地下都市だってのに暗がりが全然ない」

「電気が隅々まで行き渡っているね。魔法がない国でも化学は発展するみたいだ」

「発展とは言うけど、この辺りは居住区ばかりで研究施設なんてどこにも見当たらないぞ?」

「どこかに密集してるんじゃないかな? シドンサイドだってそういった施設は一か所に集まっていたはずだよ」

「そうなのかー。こーゆーときに記憶喪失ってのは不便だな~」

「ネック君は折角の記憶喪失だっていうのに全然シリアス方面に持って行こうとしないね。普通記憶喪失になったら記憶を取り戻すために頑張るんじゃない?」

「それは記憶を失う前の俺を知る人物がいたときの場合だろ。頑張るのは記憶を失った自分ではなくそいつの記憶を取り戻そうとする仲間たちだ。そこにおっさんの言うシリアスが発生する」


 少年は淡々と語った。

 まるで自分には関係のないことだと言わんばかりに、


「じゃあ、君はどうしたいの?」


「俺は……」






「いたぞ! 懸賞金だ!!」


 突然の怒声と、突然の銃声。


「なっ!?」


 その銃弾がネックの顔を掠めたことで、とにかくヤバいということを感じ取った。


「逃げるぞネック!」

「わかってる!」


 二人は住宅地の中心へと走り出した。


「逃がさねえぞ100億ぅぅぅぅぅぅぅ!!」

「100億ってなんだああああああああああああああ!!!」

「あの人たち目が怖いいいいいいい!! 絶対に殺しに来てる目だよアレ!!」

「ヒャッハァーーーーー!!!!」

「「うわあああああああああああああああああああ!!!」」



                ☆



 同時刻、ネックとアスランが死にもの狂いで逃げ回っていたとき、ロバートはというと……


「路地裏のゴミ箱の中で寝てました~はい」


 ハエが飛び回る掃き溜めのようなこの場所でロバートは目を覚ました。


「さて、メタい発言もそうそうに切り上げて……これからどうしよう……」


 1、何もなかったということにして自分の家に帰る。

 2、少年たちに同伴して安国兵団と戦う。

 3、仕方ないのでゴミ箱にダイブしてみる。


「それだッ!!」


 ロバートは バケツ型ゴミ箱へ ダイブした!



「……落ち着く。生臭さと若干の湿り気が私の嗅覚を抉り、ふたを閉めることで暗闇という空間に一人取り残されたような感覚に陥る」


 ブツブツとゴミ箱の中で呟くロバート。


 …………。


 

「暇だな」


 ロバートがゴミ箱に入って一分が過ぎたころだった。


「喧騒が近づいてくる……何かあったのだろうか?」


 言い争うような声と銃声? が聞こえてきた。

 その音はだんだんと大きくなり、ロバートのゴミ箱の前までやってきた。


 ドグシャ、バキッドゴッと軽快な音がロバートの間近で起こり、続いて銃声が鳴り響く。


「オラァァァァァァァ!! とっとと捕まりやがれよおおおおおおお!!」

「ひょひょひょひょひょーーーッ!! マネープリーズミー!!!」

「大丈夫、大丈夫だよ~? 痛いことはしないからさ、ちょ~っと首ちょんぱして献上するだけだからさァ~~~!!」


「(なんだこの人たち。声だけで狂っているのが丸わかりだ……)」


 ロバートは息を殺し潜んだ。

 見つかったら何をされるかわからない。




「……はぁ……行った、か」


 キ○ガイ集団の気配が無くなったのを感じ取ってロバートは安心して、溜めていた息を吐き出した。


「(そういえば、さっき私の付近でドンガラガッシャンしていたみたいだが、もしやドンガラガッシャンの人はあのキチ○イさんたちから逃げていたのかな?)」


 ロバートは理解が追い付かない中、脳をフル回転させ最適解へと辿り着いた。

 チラーっとゴミ箱のふたを少し開け顔を出す。


「いやはや大変ですなぁ。貴方方、さっきの妙な連中に追われているのですか?」


 ロバートの向かいには複数のバケツ型ゴミ箱があった。

 そして、


「そうなんですよぉー。お互い大変ですねぇ、ホント」


 予想は的中。顔は見せなかったが返事は帰ってきた。


「(思った通りだ! 学者やってて良かったー!)」


 ロバートはこの時初めて学者という職業に感謝した。

 彼が喜びを噛みしめていると、返事のあったゴミ箱に動きがあった。


「ちょ、おっさん動くなよ! もうキツキツなんだよこっちは!」

「しかしだな少年、僕ももう限界というか……」

「おいっ! そこは……ッ!!」

「少年! 出るぞッ!!」

「~~~~~ッ!!」


 ロバートは不意に聞こえてきた二人のやり取りに驚愕した。


「な、何が起こっている……? いや、これはもう……ナニが起こ――」

「変な勘違いしてんじゃねえええええええええええええええええええええええええええ!!!!」


 少年と呼ばれていたほうだろうか。

 彼は、バケツ型ゴミ箱を破壊させながら登場した。


「きっ、君は!?」

「あん? ってお前!」

「ふぅ……やっと出れた……ん? おお! ロバートさんじゃないか!」

「ネックにアスランさんじゃないですか!」



 こうして、彼らは再会を果たしたのであった。


 ……がしかし、喜ぶ暇は彼らには与えられない。



「いたぞ!! 100億だ!! もう逃がさんぞォォォ!!!」



 男の声を合図に三人の近くにあったゴミ箱はすべて炸裂し、中から世紀末な人たちが出現する。


「……いや、おかしくね?」


 誰かの発言後、沈黙が五秒……そして、


「に、」


「「逃げろぉおおおおおおおおお!!!」」


 アスランとネックが悲鳴に近いレベルの声で叫び、逃走を開始した。

 ロバートはアスランが担いでいる。


「へ? 何? どうなってるんですこれ!?」

「んなこと俺らが知るかよ!! いいから逃げるんだよ!! アイツらに捕まったら120%死ぬぞ俺ら!!?」

「20%は死んだ後に蘇生されてもう一度殺されるの意だねネック君!!」

「補足ご苦労!! しかしふざけてる暇があったら走れェェェェッ!!」


 背後からは住宅地を蹂躙しながら世紀末が迫っている。

 彼らの手には近未来な武器が握られている。


「喰らえ! ビームだ!!」

「俺のレーザーが火を噴くぜェェェ!!」

「ネコえもんから借りた空気ガンを味わえ!!」

「面白いと思ったら大間違いだぞ三人目ええええ!!」


 ネックの全力のツッコミの後、突如として世紀末軍団の中心に爆発が起こった。


「「「た、たけしィィィィィ!!!」」」


「っ!? 何しやがんだゴラァ!! たけしが吹っ飛んだじゃねーか!!」


 世紀末軍団のリーダー格が、とある一軒家の屋根の上にいる爆発を起こした張本人に向かって啖呵を切る。


「たけしなんて知らないね!! 懸賞金をもらうのはあたしらだよ!!」

「今度は誰ですかねぇ……」


 アスランに担がれたままのロバートは屋根の上の人物を確認した。


「あぁ、彼女たちは『バズーカ隊』ですね」

「バズーカ!? バズーカって、あのバズーカ!!?」


 そう、さっき世紀末軍団のたけしを消し飛ばしたのはバズーカによる砲撃だったのだ。


「あっ……兄貴。俺は……」

「もう喋るんじゃねえたけし!! 死にてえのか!?」


 そして何かが始まった。


「兄貴の下で……バカやれて、俺……た、のし……かっ、た―――」

「たけしいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!」


 泣き崩れる兄貴の前にネックが現れる。


「茶番は終われ」


 そう言い残してネックとアスランたちは走り去っていった。




 


 この後、たけしの弔い合戦で世紀末軍団VSバズーカ隊の抗争が起こるのだが、それは別の話である。



                ☆




「なんだったんだよアレ……肉体的にも精神的にももう限界だよ……」

「ハァ……ハァ……でも、ネック君は僕と違ってまだ若いから、いいほうだよ。僕なんてもう、吐きそう……」

「踏みとどまれよおっさん、そこは超えちゃいけない」

「いやぁーお疲れ様君たち! 何とか逃げ切ったね」

「「君(テメー)にだけは労われたくない」」


 三人は謎の追手軍団から辛うじて逃げ切り、居住区を抜けた先の高層ビル群の名前も知らない公園で休憩していた。


「さっきのやつら、何がしたかったんだろ」

「懸賞金……彼らはそう言っていたね。あの状況から考えられるのは……」

「指名手配、さながらウォンテッドといったところか」

「何だよそれ、笑えねえ冗談だな」


 ネックはケラケラとひとしきり笑った。


「冗談……だよな?」

「……ネック君…………」


 その時、電子音が鳴り響いた。


「済まない。私の携帯だ」

「へぇー、こっちにもケータイはあるんだね」

「科学っていうのはどこの世界だろうと結果は一つに収束されるのかもしれないな……もしもし」

「学者らしいこといえばキャラを戻せるとか思ってんじゃーぞ」


 手を後ろに組んだネックがアホみたいだ、と呟く。


「ネック君、こういった時の電話が新しい展開を運んでくることはよくあることだよ」

「……何が」

「何だって!?」


 ロバートの驚く声に、ネックとアスランの視線が交差した。


「そうか、わかった。ありがとう」


 ロバートは通話を止め、二人を交互に見た。


「どうやら私たちは指名手配されてしまったらしい。だがそれはもう君たちも理解していたと思う……問題はその規模だ。包囲網は既にモアグリード全域まで広がっている」

「つーことは俺たちにはもう逃げ場はないってことか」

「理解が早くて助かるよネック」

「ちょいちょい! なんで君たちそんなに冷静なの!? 馬鹿なの? 死ぬの!?」

「馬鹿じゃねーよおっさん」

「私は不死だから死なないのですが」

「いやいやいや、指名手配だよ!? 捕まっちゃうんだよ? あんなヤバい連中に!!」


 アスランが立ち上がって指を差す。


 その指の方向は、ネックとロバートに向けられてはいなかった。


 ネックとロバートは自分たちの背後を振り向いた。


「おいおい……何だよ、これ」

「アンビリーバボー……」


 そこには、色とりどりの世紀末が一面に咲き誇っていた。



 これで三人は本当の意味で悟ることになる。







 この世界に、自分たちの安息の地が無いことに――――



               ☆



 このモアグリードは、大きく分けて三つの構造に分割することができる。



 一つは地表。

 見渡す限り何もないような地平線。

 空には月のような天体が浮かび、いつであろうとも変わらず地表を照らし続けている。



 二つ目は地下都市。

 地表とは打って変わって華やかさのある、都会のような場所。

 居住区がそこらじゅうにあり、モアグリードの人間は何百年の時を地下都市で過ごしてきた。



 そして三つ目、啓帝の檻。

 通称ガーデンとも呼ばれるそこは、地下都市のさらに中心に位置する特別区だ。

 ガーデンは堆積した砂や岩で囲まれるようになっていて、そこに入るには東西南北にある四つのゲートしか手段はない。


「だから、ガーデンへ行くならここから一番近い南のゲートを使うのがいいだろう」


 ロバートは依然として追手から逃げている足を止めずに説明した。


「そうはいっても後ろのやつらはどうするんだよ! ずっと追われっぱなしだったら体力がもたねーぞ!」

「ネックの言う通りだ! まずは追手をどうにかしないと」

「追手……あなたたちでどうにかしきれますか?」


 ロバートが挑発するように二人に言った。


「よしきた! 俺の魔法に任せと……」


 ネックが爆走しながらちらっと背後を振り向いた。


「ケキャキャキャキャ! 待て待て待て待てェェェェェ!!! 逃がさへんでええええええええええええええええええええ!!! なあ野郎ども!」



「「「「「ファファファファーーーーーーーーー!!!!」」」」」





「よし……逃げよう」

「「うん」」


 三人は、ビル街を駆け抜けた。

 


                ☆



 モアグリード地下都市、南ゲート付近――


「あれが南ゲートか」

「そうです。しかし困りましたねぇ」

「ゲートの前にいる人たちは、さしずめ門番といったところかねえ。これじゃああそこを通るのは難しそうだ」


 ゲートの近くの影に隠れて、三人は様子を窺っていた。


「さっきは煙幕の魔法で何とか切り抜けたけど、さすがにここはどうにもなんねーぞ……どうする?」

「うーん。どうしたものでしょうか……」

「ねえねえ。あれって使えないのかな?」


 アスランは自分たちの後ろに目をやった。


「あれって……」

「電車、ですか」


 三人の後ろには線路があった。

 発達した都市になら、どこだってある交通手段。


 アスランの機転の利いた訴えに、ロバートは頷く。


「そうか、電車なら追手を撒きながら別のゲートに行くことができるかも……」

「別のゲート……」

「そうです! ここからずっと東に行った先にある、工業地区の真ん中にある東ゲートです!」

「決まりだね。それじゃあ早く行動に移ろうか……!」


 三人は、南ゲートの人間に気付かれないように細心の注意を払って駅まで移動した。


 三人が移動を始めて、隠れていた場所から消えて少ししたとき、南ゲートの一人は携帯を手に取った。


「こちら南ゲート、ウォンテッドが行動を開始した。やつらの次の目的地は東ゲートだ。繰り返す――」



 三人は知らなかった。



「おらっ! 黙ってそこに座ってろ!!」

「ぐっ……(ロバートさん。気付いてください……状況は、貴方が思っている以上に最悪だということを……!!)

「オヤジ! こいつのケータイの暗所番号がとけましたぁ!」

「よっしゃ、貸せ。差出人はーっと……」


 やること為すことすべてが、相手に筒抜けになっていると――



                ☆



 電車に乗って落ち着きを取り戻していたとき、ロバートの携帯が振動した。


 ロバートはポケットから携帯を取り出し確認する。

 どうやらメールのようだ。


「……」


 二人はジッと携帯を見つめるロバートを見て、どんな内容かと聞こうとするのを堪えた。

 そもそも、自分たちとは全く関係のない話かもしれないし、何よりプライバシーってこともある。そういった具合だ。


「黙ってて済まなかったが、君たちに言い忘れていたことがある」

 

 ロバートが携帯を閉じ、ポケットにしまう。

 そして、二人のほうを見つめ、言った。


「君たちはどうして指名手配されてしまったかわかる?」

「…?」

「……ロバートさん………」


 ネックはわけわからぬといった風に首を傾げ、アスランはさっきのメールと関係のあることなのだと察し、ふと口から名前がこぼれた。


「君たちがここまで大きく指名手配されてしまったということは、誰かが……いや、影取りの魔女・ロイタミナス=グレゴリーが啓帝に君たちの存在を伝えたからに他ならない!」

「ロイタミナス=グレゴリー……あの影取りババアの名前か!」

「話を続けてくれ。ロバートさん」


 ロバートは頷き、続ける。


 今回の出来事の、根本にかかわる話を。


「つまり、この騒動を止めるにはこの国の最大権力者である啓帝モアグリード(・・・・・・)をどうにかするしか方法はないんだ!」



 ロバートが衝撃の事実を口にし、唖然とする二人。




 そこに更なる追撃とも呼べる破壊音が響き渡り、ネックとアスランは呆気にとられている時間すら与えられないのだった。


 電車は、揺れる。

ちょっとした予告。


「今こそ、再戦……俺が、勝つ!」

「ハッ! デカブツは所詮かませってことをその体に刻み込んでやるよ」



 次回『地底の車窓から~ぶらり途中下車の旅~』


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