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地底の町で その二

「ヒッヒッヒ。来たるべき時がついに訪れたようじゃのう」


 一度聴いたら三日は耳に残りそうな声で彼女は呟いた。

 彼女の目が見ていたのは……


「しかし、あの異世界の二人組め。あたしの仕事を増やしおって……面倒なことこの上ないわい」


 彼女は闇へと紛れ、姿を消した。

 その様はまるで魔法を使った魔女のようだった。

『普通は人間は死なない』


 ロバートは、大真面目にそう言った。

 

「い、いやいや。ちょっと待ってくれよ。人間が死なないって? 馬鹿言っちゃあいけねえ、普通人間は死ぬだろ?」

「そうだよ! ネックの言う通りだ! 急にボケないでくれ、それは僕の仕事なんだ!!」

「いやお前の仕事でもねーよ」


 だが、


「証拠ならあるよ」


 ロバートは、懐から手帳のようなものを取り出した。

 そこには『不死学専門研究センター管理人』と書いてあった。


 ネックとアスランが注目したのは不死学という言葉。

 その言葉こそ、ロバートが出した何よりの証拠となる。


「わかってくれたかな? 僕は普段から人間の体の神秘の解明を生業として生活している。そして僕の先攻は不死学……もう一度云おう。人間は死なないし、死ぬことは出来ない」

「人間が死なないなんて……そんなことが……」


 アスランが信じられない、と言ったふうに後ずさった。


「……誰か来るぞ」


 ネックは、外からこちらへ近づいてくる足音を感じとった。

 その足音は、ロバートの家の玄関の前で止まる。


 玄関の扉は、足音が止まるや否や勢いよく開かれた。


「まずいですロバートさん! 奴が現れました!!」

「…! やつが来たかッ!!」

「はい! 奴は現在17号広場で暴れまわっています!!」

「わかった! すぐ向かう」


 研究服を着た青年。

 この男の登場によってロバート宅は緊張に包まれた。


 その奴が現れた場所に赴くために支度を始めたロバートにネックは訊ねた。


「ちょっと待てって! 暴れまくってるヤツのところに行くっていうのかよ!」

「あぁ、このままだと奴は町を破壊し尽くしていくからな」

「何だよそれ……意味わかんねえよ。てか奴って誰だよ!」


「知らん!!」


 ロバートの声で、周囲の人間は凍りついたように動作を止めた。


「……」

「……」

「ロバートさん……」


「や、冗談だからね? ちゃんとわかってるからね? 奴」

「しょうがないので自分から説明させてもらいます。自分たちが言っていた奴っていうのは安国兵団のエキセント=リリック……!! 肉体に改造を重ねた鋼鉄の巨漢です!」

「あの、みんな知らないみたいだからしょうがないけど、みたいな流れじゃなかったよね? ここは実際に遭った時に、あれこそが奴だ! 的流れだったよね!?」

「もぉ~うるさいですロバートさんは黙っててください」

「……」


 ロバートはシュン、と肩を落とした。一気に博識天才っぽいキャラ崩壊である。


「アンコク? あんこくってあの暗黒か?」

「いや違うと思うよネック君。暗黒じゃなくて多分餡子食う? だよ」

「どっちでもないです」


 この集団。まるでシリアス感を見せず……



                ☆



 というわけで17号広場。

 ここはロバートとネックたちが初めて出会った広場『テレッド大広場』とは違い、広場というよりちょっと大きな公園のような規模だ。


「あれがさっき言ってたエキセント=リリックだな」

「そうです。恐らくあれは今相当の興奮状態にあると思われます」

「……よし! 君たちはここで待っててください。私が奴を止めてきます」


 ロバートがエキセント=リリックへと向かう。


「無茶だロバートさん! あんなデカブツ、ただの人間に止められるわけない!!」


 アスランが止める。その意は、魔法も使えない人間があんなやつに敵うはずがないということ。

 しかし、ロバートの表情は自信に満ち溢れていた。


「私に任せてください。アイツはいっつもこうやって暴れ回るんだ……」


 アスランにはロバートがまるで親しい人に対するときのような目をエキセント=リリックに向けているように見えた。

 この男ならあの化物を止められるかもしれない……アスランは心の底からそう思った。


「フンヌ!!」

「グハァーーッ!!」


 ロバートは住宅の壁を破壊しながら吹き飛んだ。


「ロバートさんんんんん!!!」

「あの人はいつもッ……!!」


 青年はロバートが吹き飛んでいったのを確認すると、その後を追っていった。


「身体張ったボケすりゃウケるとでも思ったのかよあのアホ学者は!!」

「少年!」


 アスランが飛び出して行こうとした彼を引き留めようと叫んだ。

 

 が、彼は振り返って笑顔を見せた。


「ネック、だろおっさん! イイ名前……かはわからんけど、つけてくれてうれしかったぜ」

「……ああ。ネック、負けるなよ! やるからには勝ちにいこう!」

「あったりめーだ!!」



「貴様は……誰だ」

「俺か?」


 鋼鉄の巨漢、エキセント=リリックの前に一人の少年が立ちはだかる。

 その少年は、三倍近いほど身長差があるにもかかわらず、どこか余裕そうな立ち振る舞いをしていた。

 それが圧倒的な自信から来ていることには、自分自身すら気付けていなかったのだが……。


「俺の名はネック。大した思い入れも特にはないこの町だけど、お前のように好き放題暴れるのを黙って見てるわけにはいかねーからよ……」


 ネックの眼が、茜色を帯びる。


「俺の魔法の練習がてらに、ぶちのめしてやるよ!!」

「マホウ……っ!!」


 先に動いたのは、ネックだった。

 茜色に輝く眼がより一層の光を放ち、エキセント=リリックは視界を奪われる。


「この眼が放つ光をまともに受けたら、早々すぐには回復しないだろうよ。行くぜ!!」

「ググ……これが……マホウ!?」


 ネックはまず、敵の視界を奪うことにした。記憶を失う前には考えもしなかった戦法だ。


「魔法っていっても、その起源は想像によるものだ! つまり、俺の創造次第ではこんなことも出来る!!」


 次にネックのとった行動は、足元の砂を蹴りあげる行為だった。

 普通だったら舞い上がった砂はそのまま地面に落ちていくだろう。

 だが、ネックの蹴り上げた砂はピタリと空中で固定されるように浮いていた。


「おっさんのサイコキネシスで舞い上げた砂を空中に留まらせる。ままあこれだけじゃあ攻撃とはいかねえが、この砂にある特性を加える……」


 次にネックが行ったのは属性の付与だった。

 宙に浮いている砂はそのままではただの『モアグリードの砂』でしかない。

 しかし、ネックが言ったある特性を追加することによって、空中の砂塵にある属性が与えられる。


「その特性はお前の体と同じ鋼鉄だ。結果空中の砂は鋼鉄と同義の存在となる」

「何をゴチャゴチャと……マホウを使うやつ、おまえが、呪いを解くやつか?」


 エキセント=リリックはようやく回復した視界の隅で、空中を待っている砂塵とネックを確認する。

 だが、今更自分の立たされている状況を理解したところで二人の優劣は変わることはない。


「鋼鉄の粒の一つ一つが時速三百キロでお前へ向かうッ!!」

「……!!」


 ネックの合図で砂塵は一斉に発射され、エキセント=リリックの体は吹き飛び、ロバートと同じように住宅の壁を突き破っていった。


「そこまで早くないと思ったか? 違うな。この技の本質は無数に放たれる砂粒の量にこそある。ま、体感は全身に針の雨が刺さるのと同じだろうよ」


 砂塵の掃射が終了し、辺りが静けさに包まれる。

 ネックは一息つき、警戒を解く。


「さすがにあの鋼鉄の体で死ぬことはないだろうけど……懲らしめるには十分すぎたかな?」


「ネック! 君ってやつは……!」


 さっきまで隠れていたアスランがネックのもとまで走ってきた。


「余裕で勝利だぜおっさん。いい肩慣らしになったよ」

「まったく……君は底なしの魔法使いだよ。記憶を失う前はよっぽどの腕前だったに違いない」

「どーだろうな。案外ダメダメだったりして」

「まさかそんな! これほどの才能の持ち主は僕個人では君ぐらいしか知らないよ」

「はっはっは! そんなに褒めんなよ恥ずかしい」


 謎の巨漢、エキセント=リリックも再び姿を現す様子はない。


「んじゃ、休憩もそこそこに犠牲者探しに行くとしますか」

「そうだね。探すのはいいけど……」


 二人は広場に空いた二つの大穴を交互に見た。

 開いた穴の先は当然人が住んでいるので、「何事だ?」とか「よくも俺の家の壁を……」なんて目でネックたちが見られるのは当然の結果かもしれない。


「……家の中をこんにちはしながら進むのは俺嫌だぞ?」

「素直に外側から回っていこう。どっちがロバートさんの飛んで行った方向かわかるかい?」

「んー多分あっち」

「よし、早くいこう。これ以上いたら警察的な人たちを呼ばれかねない」


 ネックとアスランは早々に17号広場を後にした。

 向かうのはロバートが吹き飛んで行ったと思われる、ここより東側。



「呪いを解く、ねえ……」


 

                ☆




 パラパラと瓦礫が、吹き飛ばされて座り込む形で地面に鎮座している鋼鉄の体を持つ男に降りかかる。


 彼が倒れ込んでいるのは、とある民家の居間。

 昼間? にもかかわらず爆睡していたこの家の持ち主は、我が家の壁が破壊された音で飛び上がるように起き上がった。


「なんだぁ!? この有様は!!」


 そして男は視線を少し下げたときに、家を蹂躙した犯人に気付いた。


「げぇ!? こいつは、啓府直属の安国兵団様じゃーねえか! ってなんで俺の家が粉砕されちゃうの?」

「こ、こは……」


 鋼鉄の男が意識を取り戻し、近くにいた男をギロリと睨んだ。


「お前、何者……?」

「へ? 僕ですか? 僕はこの家のあッ……――!!?」


 鋼鉄の男は腕を振るったときに発生した風圧だけで男を、向かいの壁に激突して意識を奪うほどの威力で吹き飛ばした。


「あのマホウ使い、封魔の呪いを解くもの。次は負けない……!!」


 再戦に燃える巨漢、エキセント=リリックは、一旦退却することにした。

 彼が向かうのは、モアグリードの中枢。

 

 通称ガーデンと呼ばれる……『啓帝の檻』へ―――

次回『亡国の(みかど)

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