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リスタート

 現在、シドンサイドではある憶測が飛び交っている。

 それはいたって馬鹿らしい事……無駄とも言っていいほどの些細な噂のようなもの。


「この世界とは別の次元が存在する」


 とある学者が言い出したこの憶測は、シドンサイドの若者たちの間で拡がり、現在ちょっとしたブームになっていた。


 少年はふと目を覚ました。

 視界に入ってきたのは見知らぬ天井。


 少年は、自分が見知らぬ場所で寝ていたことに気付き、勢いよく体を起こした。

 が、


「いってえええ!!」


 少年は突然襲ってきた痛みに悲鳴を上げた。


「おっ! 目が覚めたようだね」


 その悲鳴を聞いて少年の傍に座っていた男が笑みを見せた。


「……」


 少年は男の存在を確認するとパッと黙り込み、掛けてあった布団を手でつかんで目の下まで隠し、睨みつけた。


「その傷でもうそんなに動けるんなら大丈夫そうだね」

「……?」


 少年は、男が何もしてこないことに疑問を浮かべた。


「君は数キロ離れた荒野で腹部に穴が開いた状態で倒れてたんだが、覚えていないのかい?」

「……おっさんが助けてくれたのか?」

「見つけたときは何とか助かりそうだったからね。でも、もう少し見つけるのが遅れていたら……」


 少年はそこまで聞くと、布団を離して、自分の体に包帯が巻かれているのを見た。


「それも僕がやったんだ。そういったことには結構慣れているからね」

「……ありがとう」

「うん。どういたしまして」


 少年は改めて辺りを見回した。

 

「ここは僕の家、もとい小屋みたいなものさ」

「その小屋って響き、なんか嫌な感じがする。こう、胸の辺りに突っかかるような……どこかで見たような」

「何でだろう。僕の知っている限りはこの周辺数キロに小屋なんて建っているのは見たことも無いんだけどね」


 少年はちょっとの間うーんと唸っていたが、やがて立ち上がって窓の外を眺めた。


「ここは、一体どこだ」


 少年の独り言とも取れる言葉に、男は答えた。


「ここはムリュール森林。君がいた荒野から東に五キロほど歩いた場所だよ」

「いや、そうじゃない……」


 少年の顔には動揺が見え、額には汗が見え隠れしている。



「ムリュール森林? そんな場所俺は知らない(、、、、、、)……!」


 

 その言葉に、男は驚きを隠せなかった。


「何だって!? 知らないはずはない。ここムリュール森林はシドンサイド最大の森林地帯で――」

「そうじゃないんだ! ムリュール森林も、そのシドンサイドってのも、自分の名前すらもわからないんだよ!!」





                ☆

                  



 

 記憶喪失。

 男、もといアスランは少年に対してそう言った。

 少年はこれまでの、所謂エピソード記憶なるものが消失していたのだ。


「で、自分の名前すらもわからないのが現状、か……それはまいったなぁ」


 見た目中年ぐらいのおじさん。アスランは困ったように頭をポリポリと掻いた。


「本当に何も覚えてないの? 記憶喪失っていうのはそんな綺麗に思い出だけが消えるものなのかね?」

「キレイサッパリだ、何にも思い出せない」

「そうかい……」

「ただ……一つだけ、朧気だけど俺にもわかることがある」


 少年は、窓の外に目をやりながら、懐かしむように言った。


「俺は此処じゃない、どこか遠くへ行こうとしていた……ずっと、ずっと遠くへ」


 その言葉は、アスランの少年を見る目を変えさせる一言だった。

 

「そうか、君は冒険者だったのか」


 冒険者の総人口はここ、シドンサイドではけっこう多いほうである。多いどころか、その冒険者を頼みの綱として生計を立てている人も少なくないほどだ。

 

「僕も昔旅をしていたんだよ。そうだね、冒険者ならあんな荒野のど真ん中で倒れていたのも案外不思議ではないかもしれない」

「冒険者……旅……」


 少年は気になった単語を独り言のように呟いていた。


「何か、思い出したかい?」

「……ダメだ! やっぱり思い出せない。なんか悔しいなぁ」


 少年はそう言うとバッと立ち上がった。


「でも、ありがとよおっさん! あんたがいなけりゃ俺は今頃死んでたよ。感謝する」

「ハッハッハ! 感謝なんてそんな、僕はただ通りかかっただけなのに」

「そういえばなんでおっさんはそんな辺境の? 荒野なんかにいたんだ?」

「あぁ、それは僕の魔法によるものなんだ」

「魔法?」

「もしかして魔法のことも覚えてないのかい!?」


 アスランは少年が首をかしげたことに驚いた。


「いやいや、おっさんもわかってんだろ? 俺の記憶喪失は思い出だけしか消えてない。だから魔法のことは知識として覚えてるよ」

「そうか……なら良かった」


 アスランはホッと胸を撫で下ろした。


「じゃあ話を戻そう、僕は異常探知の魔法を得意とする。例えば空から鳥のフンが落ちてきたとする。でも僕の異常探知の効果圏内ではフンが落ちてくることがわかるんだ。避けれるかどうかは別としてね」

「! 珍しいじゃん。その異常探知ってのは……」

「そう、僕の異常探知は常時発動型魔法だよ」


 常時発動型魔法とは、その名の通り常に発動させることができるという魔法、またはそのもの。

 自己に対する強烈な思念がイメージとして具現した、滅多にないレベルの高等魔法である。


「実はというと君の身が危険だっていうことが僕の異常探知に引っかかったんだよ」

「そうだったのか。それだったらおっさんは初めから俺が荒野にいたことがわかってたのか」

「そう……普通だったらそう思うだろう。だけどね、この話には続きがある」

「……?」


「それは、僕のこの異常探知の効果適用範囲は最大で半径数十メートルしかないということ。君の身が危険だというのが異常探知に引っかかったのが僕がこの小屋にいたときだ。つまり、本来君が僕の異常探知に引っかかることは有り得ないんだよ」


 浮かび上がった謎。

 少年はアスランの言っていることが信じられなかった。


「待てよ、じゃあなんであんたの異常探知が反応したんだ? 魔法ってやつにそんな偶然は有り得ないんだぞ!?」

「僕だってこんなことは初めてだよ。でも……本来有り得ないことが起こってしまったことが必然としたら、どうだろう」

「はぁ? 何が言いたいんだ」

「君は記憶喪失だから知らないだろうけど、巷では『異界探し』なるものが流行っていてるんだよ」

「異界探し? 何だよそれ」

「以前、といってもけっこう最近だけど、ある学者が提唱した憶測だよ。この世界……シドンサイドには別世界への扉がある、ってね」

「で、それがあんたの言う必然ってやつとどう関係があるんだ?」


「連続性だよ。君を発見した前日、つまり昨日僕は噂の異界への扉を見つけてしまったんだ、それもまた異常探知の魔法でね」


 アスランはやや興奮気味に続けた。


「僕はこの二日間の出来事がただの偶然で引き起こされたとは思えない! 異界への扉、そして君という少年に出会ったこと! 探険家としての血が告げている、僕が発見した異界への扉……あの扉の先には僕たちの知りえない何かが待っていると……!!」

久しぶりの更新になります!

今回の更新でちょっとした報告があります。

今回の『リスタート』から、次回の更新が不定期となります。

ですが一週間以内には次の話を仕上げられるようにするので、実質更新頻度は一週間以内の不定期、ということになります。


それでは次回予告!


「ここが例の異世界への入り口ってわけか」

「さあ探検だ! 胸が躍るぞ~!」


 二人は運命の歯車の上を歩き始めた。

 果たして、その先に待っていたものとは……。


 次回!『フシギアナの向こう側』

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